日本テレビ「news every.」2019年1月29日放送回の検証報告です。
今回の報告では、
・「火つけてこい」市長‘暴言’
以上、1点に関して報道された部分の検証を行います。
この日のnews every.では、「ナゼナニっ?」というコーナーにおいて、泉房穂氏(明石市長)による「暴言」問題を取り上げていました。コーナーでははじめに、泉氏による職員への暴言が録音された音声データをVTRにて放送します。VTRが流れる直前には、この発言が立ち退き交渉に遅れがあったためだという説明がなされていました。
そしてVTRでは、画面の左側に泉氏の顔写真を置き、右側には暴言のテロップが流れる
演出が行われていました。「7年前何しとってん ふざけんな」、「今日火つけて捕まってこい」など、泉氏本人もパワハラだと認める発言を10秒以上にも渡って放送しました。
VTRが終了した後は、スタジオにてキャスターらがコメントを行っています。
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藤井貴彦キャスター
「いや、あの、昔はありましたよね。こういう言葉の使い方。でも、興奮してるな、自分が悪かったんだなと、部下の方が仕事を進めていくという時代があったんですけども、そのスタンダードはもう完全に終了しましたんで。いま聞くと、もうこれはパワハラになりますね。」
小西美穂キャスター
「そうなんですよね。」
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こうしたやり取りの後、次は泉氏の経歴・人物紹介へと進んでいきます。
泉氏がNHKディレクターを務めた後に弁護士となっている件などについて触れ、鈴江奈々アナウンサーが以下のような発言をします。
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鈴江奈々アナウンサー
「その肩書見ますと、社会福祉士とか手話検定とか、弁護士なんていうと、こう弱い立場の人に寄り添う人柄なのかなと一見すると思ってしまうのですけど、なぜそうなってしまったのかと。」
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この発言ののち、番組では泉氏による記者会見の一部を放送します。
放送された泉氏の記者会見の内容は以下のようなものでした。
・発言はパワハラである
・工事完成予定を大幅に遅れていた
・問題となった場所は死亡事故も起きている
・早く交渉すべきだと思った
その後、番組では泉氏が常日頃から口調が厳しい人物であると紹介されるとともに、昨年には明石市職員がパワハラやセクハラで依願退職しているといったことが報道されます。泉氏本人がパワハラと認めていることもあり、このコーナーは、アナウンサーらによる「パワハラはやっている本人には分からないんだ」、「弱い立場は声を上げにくい」といった発言で締められました。
以上が報道内容になります。
今回の報道で、我々が問題と考えたのは次の点です。
・問題の背景について追及されていない点
まず、今回の「news every.」の報道では、どうして暴言が飛び出すような事態になったのか詳細に取り上げることがありませんでした。途中、泉氏による記者会見の映像が放送され、その中で泉氏本人が事態の説明をしておりますが、ごく一部の紹介に留まっています。また、録音データも「火つけてこい」といった過激な部分を切り取っており、そのあとに続く部分が欠如しています。
もちろん、「火つけてこい」といった発言は、泉氏本人が認めている通り、パワーハラスメントにあたる発言であり、決して許されるものではありません。しかし、問題の背景となる部分を切り取ることは、国民の知る権利を侵害し、印象操作の疑いがあります。以下が、報道では切り取られた発言部分となります。
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録音データに残る泉氏の発言
「ずっと座り込んで頭下げて1週間以内に取ってこい。おまえら全員で通って取ってこい、判子。おまえら自腹切って判子押してもらえ。とにかく判子ついてもらってこい。とにかく今月中に頭下げて説得して判付いてもうてください。あと1軒だけです。ここは人が死にました。角で女性が死んで、それがきっかけでこの事業は進んでいます。そんな中でぜひご協力いただきたい、と。ほんまに何のためにやっとる工事や、安全対策でしょ。あっこの角で人が巻き込まれて死んだわけでしょ。だから拡幅するんでしょ。(担当者)2人が行って難しければ、私が行きますけど。私が行って土下座でもしますわ。市民の安全のためやろ、腹立ってんのわ。何を仕事してんねん。しんどい仕事やから尊い、相手がややこしいから美しいんですよ。後回しにしてどないすんねん、一番しんどい仕事からせえよ。市民の安全のためやないか。言いたいのはそれや。そのためにしんどい仕事するんや、役所は」。
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工事の遅れを叱責していたという背景をきちんと報じていない当該部分は、印象操作の疑いとともに、放送法第2章第4条第2項「政治的に公平であること」に違反する恐れがあります。
また、この発言があったのは、2年前のことです。そして、録音データを公表したのは暴言を受けた職員ではないとされています。加えて、この4月には明石市長選が控えており、元職と現職による一騎打ちという噂も流れていました。
News every.ではこの点を指摘することはまったくありませんでしたが、2019年2月2日放送の読売テレビ「ウェークアップぷらす」では、スタジオでのコメントにおいて、この不自然さを追及するシーンがありました。暴言部分だけでなく、問題の裏側までもキチンと報道することこそが、国民の知る権利を守ることにつながるのではないでしょうか。
今後とも、公平公正な放送の実現のため、当会は監視を続けて参ります。