今回は特別レポートとして、7月25日に放送された『池上彰のニュースそうだったのか!!』を取り上げます。
検証する点は以下の点です。
・事実を正しく伝えた放送であったか
まずは放送内容を確認していきます。(VTRは要約)
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【VTR】(要約)
長崎県の軍艦島を始めとする明治日本の産業革命遺産に対し、先月韓国政府が取り消しを求めてきた。これについて韓国の人に聞いてみると、反対する声もあるが、この問題を知らないという声も多かった。原因と言われているのが『徴用工』である。
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【コメンテーターによる解説】
池上彰(以下池上):原因となったのは徴用工と呼ばれる人たち。須田さん、徴用工っていう名前は聞いた事ありますよね?
須田亜香里(以下須田):はい、聞いたことあります。
池上:どんな人たち?
須田:どんな人たち…。そっちじゃないか。昔の日本が働かせてしまった人たち、そっちじゃないか、すいません。
池上:いやいや…。
ナレーション(以下ナレ):戦争が終わるまで、朝鮮半島は日本が統治していました。そして朝鮮半島から多くの労働者が日本に来て。炭鉱や工場などで働いていたのです。それがいわゆる徴用工と呼ばれる人たち。今は世界遺産となった通称軍艦島にも多くの人が働きに来ていたんです。
池上:韓国は(軍艦島の)世界遺産の登録をするときに、これに反対をしたんですね。なぜか? ここに強制的に働かされた徴用工の人たちがいるじゃないかというので、そんな所を世界遺産に登録するのはけしからんと言って反対したんですね。それに対して日本側は『犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応をする』と約束をしたんですね。
ナレ:日本が約束した「適切な対応」。それがこちら。明治日本の産業革命遺産を説明する施設を先月、一般公開。その中で徴用工について、元島民などに聞き取り調査した結果、虐待や差別はなかったという内容を展示。これに対して韓国が怒った
池上:韓国では「いや 差別された」と言っている元徴用工もいる。あるいは韓国では「奴隷のように働かされたんだ」というのが一般的な見方になっているものですから、日本側の「そういう事はない」という表示に猛反発をしたという事なんですね。
ナレ:なんで こんなもめ事が起きるのかというと、強制的だったかどうか意見が分かれているから。
池上:過酷な労働だったことは間違いないんですね。ですけど、実は日本人も同じ状況で働いていた。あるいは中には自ら進んで出稼ぎに来た人も多かったとみられているので、それを奴隷的にと強制労働という言い方はできないんではないかという指摘もあるという事ですね。日本政府はですね、徴用工…「徴用」と言うと「強制された」という意味合いイメージが強いので最近は徴用工とは呼ばないですね。「旧朝鮮半島出身労働者」というこういう言い方で呼ぶようになった。一方 韓国ではですね。「強制徴用者」あるいは「強制動員被害者」。無理やり連れていかれたんだよというのが韓国の言い方になってるんですね。
ナレ:徴用工の虐待や差別はなかったと日本側が言った事についてニュースを知らなかった韓国の人に伝えると…。(世界遺産登録の取り消しに賛成する声)
宇賀なつみアナウンサー:カズレーザーさんはどう思いますか?
カズレーザー:同じように働かされてる中での、待遇の違いがどれくらいあったのかっていうのは、実際のデータは残ってないんですか?
池上:だから。いわゆる聞き書きとかですね。聞き取りをして。一緒に働いていた人たちの話を聞くとそんな事はなかったと言う人たち…。まあ日本側の調査だとそういう人たちばかりだったよというので、ここにそういう表示になったと。
ココリコ遠藤:根本的にはやっぱり、仲が良くないのかな。足の引っ張り合いというか、なんか感じますね。
【VTR】(要約)
徴用工やその遺族たちが、日本企業に強制労働させられた、賠償しろ!と訴え、おととし韓国の最高裁判所が賠償しなさいと判決。差し押さえられた日本企業の資産が売られ、現金化されようとしている。この問題については韓国でも賛否両論のようだ。
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【コメンテーターによる解説】
中山悠馬(以下中山):これって韓国の裁判では日本側は従わないといけないんですか?
池上:これね…。韓国にある日本企業なんですよ。要するに日本の企業も当然韓国に進出してますよね? 韓国の裁判所の判決には従わざるを得ないという事になってるんですね。でその損害賠償、日本側は払うつもりはありません。と言ったものですから、日本の会社と韓国の会社が合同で作っている韓国のある会社に対してですね、そこの会社の株を差し押さえたんですよ。その差し押さえた株を現金にして賠償に充てようという動きが今出ているという事ですね。
ナレ:資産を売って現金にする手続きを韓国の裁判所が進め、来月以降実際に現金化へ動くのではないかと言われています。もしそうなったら…日本企業の財産が韓国に売られてしまう!?
池上:今、日本側としては猛反発していまして、もし本当に現金化するということになると、日本企業に損害が出るわけですよね。だからそれに対しては韓国側に「報復をする」という言い方を日本の政治家たちはしています。例えば韓国から日本に入ってくる色んな商品に関税をかける。高い関税をかけてなかなか輸入できなくするとかですね。あるいはビザの発行を厳しくする。これから日本で働きたい…就労ビザというのがこれまではスムーズに出ていたのを審査を厳密にして日本でなかなか働けないようにするというそういう事も考えているよって言い方をしてるので、こうなりますともう日韓関係は決定的に決裂するという事になりますね。そこまで決裂したくないからこそ賠償金を払えばいいっていう考え方もあると思うんですけど、なぜ払わないんですか? これはねもうそもそもこれは解決済みだよというわけです。とっくの昔に日本は韓国にお金を出して解決した事。もう賠償金を請求したりしないでねと約束しているんです。
ナレ:なのになぜ韓国は約束を守らないの?
池上:国同士はもう解決しているわけですね。ところが、元徴用工個人の損害賠償請求権はまだ残っている。
中山:それはこの約1800億円の中からは支払われなかった?
池上:それなんです、それなんです、そのとおりなんです。つまり本来の請求権は残っている。だったらそれを日本政府に請求するんじゃなくてこの1800億円、5億ドルを韓国に払ってるんだから、韓国政府が元徴用工に払えばいいんだよ、韓国の問題です日本が払う必要はありませんというのが日本側の立場。ところが韓国の裁判所は日本が払えという判決を出したんだという事ですね。
ココリコ遠藤:その時に話をきっちり詰めていなかったということですか?
池上:いや、その時に徴用工の問題どうするのかっていう話が出てるんです。で日本側が徴用工についてはどうするんだと問いただしたら韓国側がいやこれはうちで解決しますからと。金を払ってくれればあとは韓国で処理をしますって言ったというこの経過が出てるんですよ。
ナレ:正式に国同士で決めた事なのに、裁判所がひっくり返していいの?
池上:韓国の中にはですね、法律よりも正義が優先されるべきだ、あるいは政府や裁判所がですね、世論に流されて判断をする場合があるんだとこういわれているわけです。日本にしては協定を守りなさい、法律を守りなさいというのが日本側。韓国はいやいや正義が優先するというこういう行き違いというのがあるというわけですね。
【検証部分】
ご覧いただければ分かる通り、「〜〜という事実があったことが指摘されている」と紹介した後に「韓国側は〜〜と受け止めている」というやりとりばかりです。
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ナレ:明治日本の産業革命遺産を説明する施設を先月、一般公開。その中で徴用工について、元島民などに聞き取り調査した結果、虐待や差別はなかったという内容を展示。これに対して韓国が怒った
池上:韓国では「いや 差別された」と言っている元徴用工もいる。あるいは韓国では「奴隷のように働かされたんだ」というのが一般的な見方になっているものですから、日本側の「そういう事はない」という表示に猛反発をしたという事なんですね。
ナレ:なんで こんなもめ事が起きるのかというと、強制的だったかどうか意見が分かれているから。
池上:過酷な労働だったことは間違いないんですね。ですけど、実は日本人も同じ状況で働いていた。あるいは中には自ら進んで出稼ぎに来た人も多かったとみられているので、それを奴隷的にと強制労働という言い方はできないんではないかという指摘もあるという事ですね。日本政府はですね、徴用工…「徴用」と言うと「強制された」という意味合いイメージが強いので最近は徴用工とは呼ばないですね。「旧朝鮮半島出身労働者」というこういう言い方で呼ぶようになった。一方 韓国ではですね。「強制徴用者」あるいは「強制動員被害者」。無理やり連れていかれたんだよというのが韓国の言い方になってるんですね。
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事実がどうだったのか、について深く言及されることはなく、日本の立場を紹介した上で韓国側の受け止め、そして出演者の感想を放送するだけの番組となっていました。
番組全体として「よくわからない」放送だったといえます。日本側の主張も一応は取り上げていたため、飛び抜けて反日的な主張がなされていたというわけでもありません。
ただ、日韓関係の歴史に詳しくない方がこの放送を見たら「良くわからないけど、韓国に対して日本が悪いことをしたのか?」と認識してしまう可能性もあります。
そのため、事実を明確にしておくことが必要なのです。
そこで、日韓関係悪化の争点となっている所謂、徴用工問題について事実を整理しておきます。
韓国は1910年日本に併合されました。
併合と植民地は違います。併合とは韓国が日本の一部となったという意味で、移動の自由もありました。
内地(日本列島)と韓国を行き来することができたのです。つまり、前提として内地で働く韓国人がいても全くおかしいことでないのです。
そして争点となる朝鮮半島から来ていた労働者は強制的に連行されたのか?という点についてです。
1939年、国民を働かせることのできる国民徴用令が制定されましたが、朝鮮半島で同法が適用されたのは1944年からです。(朝鮮半島での徴兵制も1944年)
内地では戦争初期から女性や学生を含む多くの人が戦争のために、工場で働いていましたが、朝鮮半島に同法が適用されたのは戦争末期からです。
さらに、この法律が朝鮮半島に適用された背景には朝鮮人からの要望でもあったのです。
戦争に協力させてほしいという朝鮮人も存在しました。当時の朝鮮人からしたら「同じ日本人なのだから、働かせろ」ということです。
戦時に当たって戦争に協力するかどうかは、確かに重要なことです。
国籍が同じ日本人でありながら、異なる待遇をしていてはそれこそ差別になってしまいます。
それでも国民徴用令によって朝鮮半島から日本列島へ強制的に連れこられたという朝鮮人もいたとされていますが、その数は200人〜300人程度だったとされています。
1939年に内地にいた朝鮮人がおよそ100万人。終戦の年である1945年では200万人と国民徴用令に制定から100万人程度増加していますが、強制連行された人はこれほど少なく、ほとんどの朝鮮人は自分の意思で内地へと渡ってきたのです。
違う民族同士で生活を共にすることで、差別が全くなかったとはいいません。
差別は少なからずあったことでしょう。ただ、それが国家ぐるみの差別であったと言うことはできません。同じ時代のナチスドイツがユダヤ人に対して行った差別と比べると本当の差別とは何か分かります。
当時の朝鮮人は日本国民として、選挙権も被選挙権もありました。
番組の放送のように、事実を詰めずに感想を言い合うような放送をするのであれば、こうした事実を確認する必要があるのではないでしょうか。
今回の放送は放送法に抵触しているとは言えませんが、事実を正しく伝えているとは言えないと思われます。
視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。