2020年10月7日 報道ステーション

2020年10月7日 報道ステーション

10月7日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた放送であったか

まずは放送内容を確認していきます。
——-
【スタジオ】
小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):続いては、菅政権発足後初の本格論戦となりました今日の国会です。野党が追及したのは日本学術会議の会員候補6名が菅総理に任命を拒否されたという問題です。学術会議の人事を巡ってはこれまでも国からの働きかけがあったことが明らかになっていますけれどもその経緯を知る元会長が今回の件を批判しました。

——-
【VTR】
立憲民主党 柚木道義 衆院議員(以下柚木議員)『なぜ任命拒否されたのか。理由を明確にお答えください』

内閣府 三ツ林裕巳 副大臣(以下三ツ林副大臣)『内閣総理大臣が日本学術会議法に基づいて任命を行ったと承知しています。具体的な選考過程については人事に関することでありお答えを差し控えたい』

柚木議員『人事の話だから答えられない。それじゃ逃げられませんよ』

三ツ林副大臣『選考過程については人事に関することでありお答えを差し控えたい』

柚木議員『なぜ任命拒否されたのか。理由をお伝えするべきだと思いますが。 (委員長の大塚官房長が挙手) 政治家としての副大臣の所見をお願いしているんですよ』

内閣府 大塚幸寛 官房長『総合的・俯瞰的観点に立って法律に規定された任命権者として総理大臣が今回の任命をしたというところが今回の結論です』

ナレーション(以下ナレ):なぜ6人の任命を拒否したのか。具体的な説明は今日もありませんでした。更に野党が追及したのは過去の答弁との整合性です。

立憲民主党 今井雅人 衆院議員(以下今井議員)『これは小学生でも読んだら表現は違う。明らかに違うこと言っている』

ナレ:問題としているのは37年前の政府答弁では推薦をしていただいた者は拒否しないとしていたにもかかわらず2年前に推薦のとおりに任命すべき義務があるとまではいえないとの見解をまとめていたことです。

今井議員『片方は「そのまま形式的に任命してくださいね」というふうに解釈している。もう一つは「義務ではない」と言ってます。この違いは私は解釈変更だと思うんですが、副大臣はこれ解釈変更だと思われませんか』

内閣府 大塚幸寛 官房長『任命権者たる総理大臣が推薦のとおり任命しなければならないというわけではない考えを変えてということではございません。以上でございます』

ナレ:野党は政府が勝手に解釈を変更したとして背景に官邸の関与があったのではとただしました。

今井議員『平成25年 特定秘密保護法。平成27年 安保法。平成29年 共謀罪法。この時多くの学者が反対しました。その翌年にこの(任命義務を否定する)ペーパーです。だから皆さんがこれ関係あるんじゃないのと思ってしまっている。たとえば官邸の方から「検討していただきたい」とかそういう指示はありましたか?』

日本学術会議 福井仁史 事務局長『そういうご指示に基づいて始めたものではないと承知しております』

ナレ:官邸からの指示はなかったと強調しました。審議を終えて…。

立憲民主党 枝野幸男 代表『解釈の変更についても任命をされなかった理由についても全くのゼロ回答。つまり何も説明しない、何も答えない、言い訳すらしようとしないという政府の姿勢は強い憤りをもって受け止めている』

ナレ:自民党では今日、新たな動きがありました。

自民党 下村博文 政調会長(以下下村政調会長)『これをきっかけに学術会議の形態やあるいは行革という位置づけから、今の在り方がいいのかどうか幅広に議論をしていきたい』

ナレ:今回の問題とは別に、党内で学術会議の在り方を検討するとしてプロジェクトチームを立ち上げると発表しました。

下村政調会長『(Q.学術会議の廃止に踏み込む考えは?) 今後、現場の中でどんな議論をするかは決めていただきたい』

ナレ:一昨日、菅総理はこう疑問を呈していました。

菅総理『現状では事実上、現在の下院が自分の後任を指名することも可能な仕組みとなっている』

ナレ:実際の会員選出のプロセスはこうなっています。現会員らが次の会員候補を推薦しその中から選考委員会が論文や特許など優れた業績のある科学者を選びます。学術会議の総会での承認を受けて総理はその推薦に基づいて任命する形です。これまでに、議論を経て2回変更された経緯があります。
当初は公選制がとられていましたが組織票に左右されるという問題が浮上。各学会が推薦する制度に変更されましたが出身学会の利益が優先される懸念から現在の制度に変わりました。
2011年から2017年まで学術会議の会長を務めた大西隆東京大学名誉教授に話を聞くことができました。

日本学術会議 元会長 大西隆 東大名誉教授(以下大西教授)『(現在は)複数の観点から選考を行って最終的に絞り込んでいく。自分の友達だとか大学の後継者を次に選んでくれなんてことが出来るわけじゃない。選考基準が決まっていて、優れた研究または業績のある科学者となっている』

ナレ:これまでも学術会議に対しては政府の水面下での関与がありました。
安保法制が成立した翌年には会議側が推薦した補充人事の候補者に官邸側が難色を示し2017年の交代を巡っては官邸に呼び出され定員を超える候補者のリストの提出を求められました。

大西教授『2016年の苦い経験だったという反省もある。学術会議側の意に沿わない難色が(官邸側から)示されたので、選考過程を丁寧に説明させていただく必要があると考えた。(当時は人事権が)侵されることは全く想定していませんでした』

ナレ:大西さんは今回の任命拒否については…。

大西教授『同じ専門家集団で業績が分かる人でないと選べない。(任命拒否は)非常に遺憾だと思った。特に理由が示されなかった。学術会議としてはどうやって選んでいいのか。つまり法律に定められたとおりにやってもそれが理由もなくダメだとなる。これはとんでもないことではないか』

ナレ:任命拒否から広がる波紋。それぞれの主張とは……(スタジオ解説に)。

【コメンテーターによる解説】
徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):今日の国会では日本学術会議の会員候補6人を任命しなかったことについての議論が交わされました。この問題のポイントを整理していきたいと思いますがそもそも学術会議の会員というのはどのように選ばれるかというところからですよね。

小木アナ:VTRでもお話しいただきました2011年から6年間会長を務められました大西さんにいろいろ話を聞いてその話をもとにまとめてありますけれどもまず、人数については210人で任期が6年。3年ごとに半数の105人を入れ替えるということなんですけど選び方についてはいろいろ変遷があったということなんですね。もともとは一定の研究者全国に30万票、有権者による投票があったと。そうすると、ある一定の組織票が出てきちゃって優秀な科学者というのが選ばれない可能性もあるということで、これを変えたと。学会による推薦というものに変えたんだけど、議論する時に自分の出身学会の利益を優先して議論してくるとなるとこれも問題だということで今は現会員が推薦して選考するということなんですけど、だからといって現会員が自分のお友達を推薦できるわけではないとおっしゃっていたのは重要なのは資格要件だからだということです。
優れた研究、または業績のある科学者ということでつまり研究論文だったり何かの特許を取ったりとかそういった人たちを積極的に探してきてまずはそれぞれの分科会専門分野のところでどういった人がいいのかを絞っていく。
選考委員会というのがあり幹事会というのがあり総会、どんどん絞られていって推薦して総理が任命するという形だそうなんですけども大西さんの時代には、例えば女性を30%にしましょうとかこういうような話があったりそれから地域も東京に偏るなんてこともあったそうですが偏りなくということですね。所属先も科学者であればいいわけですから必ずしも大学に所属しなくていい。企業でもいい。
こういったとこも幅を広げよう。年齢についても若い人にもなるべく入ってもらおうなどいろいろ考えて選考していっているということなんですがまた、6人がなぜ任命されなかったのかというのは今日の閉会中審査でもいろいろ議論はありましたがなかなか見えてこないんですよね。
立憲民主党の柚木議員は安保法制特定秘密保護法、共謀罪こういったものに反対したからか?と質問したんですが、答えた内閣府官房長はあくまでも推薦に基づいて総理が任命する。
この考え方は任命制になった時から一貫していると質問に対する答えというより原則論を話している感じなんですね。大西さんに改めて聞きましたけど6人が任命されなかったことについて聞きますと業績が重要だと。これが分かる専門家でないと選べない。
政治的主張はそれぞれは持っているけれども選考には関係ないとおっしゃっていました。

徳永アナ:今日の国会では梶原さん、なぜ政府が任命拒否をしたのかということに関しての具体的な理由は示されなかった、分からなかったところがあるんですけども政府の思惑はどこにあると梶原さんは思われますか?

朝日新聞国際報道部記者 梶原みずほ氏:明確な理由は分からないんですけど政府と学術会議の間にはもともと軋轢があってそれは軍事目的の県境を巡る考え方の違いなんです。というのも学術会議の成り立ち自体太平洋戦争への反省という立場でスタートしているということもあって軍事目的の研究には慎重な姿勢なわけです。一方で、政府の中には学術会議の姿勢に対して否定的、批判的な声もあるんです。現代では軍事と民政の技術の明確な線引きというのが非常に難しくなっていて例えば、携帯電話やGPS、ドローンや電子レンジとかこういったものはもともと軍事研究の中から発生して出てきた技術といわれていまして防衛に応用できる技術をちゃんと日本国内で研究開発すべきじゃないかと。そういう考え方も政府にはあるんです。

徳永アナ:いろんな意味で学術会議の在り方みたいなところまで言及がされ始めてきているんですけど政府と学術会議の距離といいますか関係というのはどういうふうなものであるべきだと考えられますか?

梶原氏:大事なのは政治に対して科学の自主性、自律性がどういうふうに担保されるかということだと思うんです。そして、政策決定においてアカデミズムの役割とは何なのかと。これは時代の変化に応じて広く社会が考えるべき課題だと思います。

小木アナ:少しは真相、背景が見えてくるんでしょうか。明日も、国会では閉会中審査が開かれます。任命拒否を巡って審議が行われます。

【検証部分】
まず検証していくのは2011年から2017年まで学術会議の会長を務めた大西隆東京大学名誉教授の以下の発言についてです。

大西教授『2016年の苦い経験だったという反省もある。学術会議側の意に沿わない難色が(官邸側から)示されたので、選考過程を丁寧に説明させていただく必要があると考えた。(当時は人事権が)侵されることは全く想定していませんでした』

安保法制後、官邸が学術会議に対して定員よりも多い推薦者を求めたことを受けての発言です。

ここで官邸が学術会議の人事に影響力を及ぼすことは良くないことだ、という前提で放送がなされていました。
しかし、学術会議は首相の下に置かれている行政機関の一つであり、国から10億円もの予算が出ています。
予算という税金を受け取っている国の機関が人事について全く監督されずに、組織の都合だけで示した人事だけで動いている組織が他にあるでしょうか。

任命拒否の理由についても示すべきだという放送でしたが、一般的に選考に落ちたら選考に落ちた理由が示されることはほとんどありません。
高校・大学などでも推薦入試がありますが、不合格だったときになぜ不合格だったのかが示されるでしょうか。
ある民間企業に就職しようとしたが、選考に落ちた、または公務員になろうとしてもなれなかった、こういった場合も選考に落ちた理由が明かされることはありません。
今回だけはそういった説明が求められている訳ですが、なぜそのような説明が必要なのかというそもそもの議論・論点設定が必要なのではないでしょうか。

また他にも学術会議の問題点はいくつも指摘されています。
その一つが学術会議と学問の自由の関係です。学術会議は研究予算の配分に関して大きな影響力を有しています。
そんな学術会議ですが、軍事研究を抑制するような声明を過去に出し、軍事研究を抑制してきたという問題があります。

(引用開始)
——————————————————————————————
学術会議が世間で話題になるのはその政治活動である。2017年には軍事的安全保障研究に関する声明を出した。これは1950年の「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」という声明と1967年の「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を継承するもので、防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」に大学が協力するなと提言している。

この影響で京大などが軍事研究を禁止したが、その範囲ははっきりしない。学術会議は「研究成果は時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用される」ため、軍事に関連する分野の研究も禁じているが、この基準でいうとコンピュータの研究は全面禁止するしかない。現代ではコンピュータを使わない兵器は存在しないからだ。

《清谷信一(軍事ジャーナリスト)日本学術会議は解散したら?https://japan-indepth.jp/?p=54181》より
——————————————————————————————
(引用終了)

以上のように、学術会議に関する問題点について十分な論点が提示されていない放送であった可能性があり、次の放送法に抵触する恐れがあります。

——————————————————————————————
放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
——————————————————————————————

視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

報道ステーションカテゴリの最新記事