2020年12月16日 報道ステーション

2020年12月16日 報道ステーション

12月16日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた放送であったか

まずは放送内容を見ていきます。

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小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):夫婦は同じ名字であるべきなのか。それとも別姓を選べるほうがいいのか。こちらは、現在の政府の男女共同参画基本計画の文言です。これを見ますと選択的夫婦別姓制度の導入について検討を進めるとこのように書かれています。この基本計画は5年ごとに改定されていまして自民党内での議論を経て新たな基本計画ではこうなるようです。
選択的夫婦別姓という言葉が消えました。そして、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方という表現になっています。導入という文言もなくなりました。一方で、夫婦同姓の歴史や
家族の一体感子供への影響といった言葉が盛り込まれています。この背景には、一体どういう声があったんでしょうか。

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【VTR】
慎重派高市早苗総務大臣:子どもの氏の安定性です。これが損なわれることは間違いない。これはいくら選択制であっても同じです。これは選択制でもそうです。これを出生届で決めるのか、婚姻届の時に決めるのか。子どもの氏をめぐって争いが起こり、整なわないと出生届が出せないことも生じます。

小木アナ:こうした自民党内の根強い反対論もある選択的夫婦別姓について街の人にも聞きました。

街の声①賛成30代主婦:カード、銀行とか全部移さないといけなくて、まだ移していないのがたくさんある。自由に選択できる方がいいとは思う。女性が仕事で前の苗字で活躍していたりすると苗字を変えにくい方が多いとは思う。

街の声②賛成50代会社員:選択肢のオプションがあってもいい。オプションを否定する必要はない。

街の声③賛成20代会社員:最近子どもが産まれたが子どもが決めれば良いのかなと。

街の声④賛成50代主婦:姓名だけで家族形態が変わるわけではない。名前は別でも家族のつながりさえしっかりしていれば関係ない。

街の声⑤制度には賛成、別姓には反対40代会社経営者:僕は妻に自分の名前に一緒に入ってほしいと思う。名前を歴代結婚したら一緒になるのが普通の考え方だったので、僕自身は選択制にされたとしても妻には自分の名前を同姓でやってほしい。(反対派議員は)男社会の考え方に近い意見を価値観で押し付けているような感じ。最後に決めるのは個人の主観なので、反対派の意見は、それはそれで一つの考え。

【スタジオ解説】
小木アナ:こちらは早稲田大学などが7000人を対象に行いました、調査の結果なんですね。選択的夫婦別姓について聞いたところ賛成と答えた人が70.6%、反対が14.4%となっていまして賛成のほうが非常に多かったということなんです。世代別では特に20代、30代の賛成の割合が高いということです。更にこういう結果も出ています。独身の方の賛成の割合が66.7%に対して既婚の方の賛成の割合が73.3%とこっちのほうが高いんです。先ほどの街の声でもありましたとおり銀行ですとか、結婚してみてからいろいろと手続きをするその煩雑さなどを経験してみて、こういう答えになったのかもしれません。

徳永有美アナウンサー(徳永アナ):梶原さん、でも世の中としては一応、賛成の方が多いという中で自民党の新たな計画案からは選択的夫婦別姓という言葉は消えましたが、自民党の中で何が起きているんでしょうか?

梶原みずほ朝日新聞国際報道部記者(以下梶原氏):自民党の中でも意見が真っ二つに分かれているんです。どちらかといえば、若手を中心に賛成する議員のほうが多いくらいなんですね。ただ、ずっと推進派として活動してきた菅総理が誕生したことでこのまま一気に流れができてしまうんじゃないかという警戒感が広がってそれが揺り戻しにつながりそして慎重派の巻き返しにつながったわけです。また、自民党の支持母体にも反対するところが多いということもあります。

徳永アナ:梶原さんご自身はどんなふうにお考えになりますか?

梶原アナ:反対派は家族の絆が壊れてしまうとか無責任な結婚・離婚が増えてしまうんじゃないかと懸念する声が多いんですが、私は現実を見るべきだと思うんです。というのも、すでに日本では生涯のうちに離婚する夫婦が3組に1組あるわけです。その3組に1組が離婚する時代に結婚の時、そして離婚の時そして再婚の時に名字が変わってしまって地域とか職場で不利益を被るというのはほとんどが女性なわけですよね。そうすると夫婦がうまくいかない時は制度がどんなことであれ離婚する時は離婚すると思うんです。大事なのは、やはりこれからの将来を担う若者の視点に立って選択肢がちゃんとあるということ、つまり、多様性を重視するというそういう制度設計があるべきだと思います。

徳永アナ:確かに今回は、あくまで選択できるかどうかということで夫婦同姓であるべきという考え方自体を否定するものではないと思うんですよね。だから、選択するということ自体社会にあるということそのものが優しい社会だと思うんですけどもね。

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【解説部分】
今回は選択的夫婦別姓の導入に関する報道を取り上げます。
選択的夫婦別姓に関しては賛成する声も多く、特段のデメリットについて触れられることはありませんでした。
確かに女性を中心に結婚して姓を変えざるを得ないために、それまでの姓を変えなければならないこと、それに伴うさまざまな手続きが煩雑になることなどを考えると導入賛成の声が多いことにも頷けます。

しかし、少子化・人口減少という観点から、選択的夫婦別姓に警鐘をならす主張もあります。
放送では賛成の声ばかりを取り上げていたため、バランスを欠く内容となっていました。

以下は明治大学教授の加藤彰彦氏による論考です。2015年とやや前のものですが、こちらを参考に制度導入反対派の意見を見てみます。

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まず、夫婦別姓制度の導入は、親子関係だけでなく、祖父母・孫関係を混乱させることによって、出生率を大きく低下させる危険性が高い。前述した社人研の出生動向基本調査によると、最初の子どもが3歳になるまでに、夫妻の母親(子にとっての祖母)から「ひんぱんに」「日常的に」子育ての支援を受けた育児期夫婦(結婚10年未満)の割合は、妻が就業を継続している夫婦では65%に達し、専業主婦ないしパート主婦(再就業型)の夫婦でも52%に及ぶ。近年では、共働きを続けるために妻方に近居して子育て支援を受けつづける傾向や、育児期には妻方近居であっても、子どもが成長して個室が必要になると、夫方から土地・家屋の提供や金銭贈与を受けて、二世帯住宅に改築のうえ共住したり、近くに持ち家を取得する傾向が強まっているが(拙著「直系家族の現在」社会学雑誌2009年)、こうした多様な三世代関係が可能になるのは、外孫(姓を異にする孫)と内孫(姓を共有する孫)の分別が存在するからである。

つまり、夫方祖父母が、かわいい盛りの孫たちを妻方祖父母に安心して託すことができるのは、孫たちと姓を共有することで最終的な所属が夫方にあることが慣習によって担保されているからである(それゆえ孫をとられる不安を感じている祖父母には「○○家の孫」であることを強調してあげるとよい)。いいかえれば、夫方祖父母が「名」をとり、妻方祖父母が「実」をとることで、両家の利害を調整している。少子化により、孫の数が減り続け、孫を持つこと自体が希少価値となって、夫方と妻方の間で孫の奪い合いが生じやすくなっている現状では、このように痛み分けによって親族関係を調整する慣習法は、ますますその重要性を高めているといってよい。

加藤彰彦 夫婦別姓導入は少子化を加速させる「社会実験」だ
『月刊正論』 2015年12月号「出生率向上に必要なのは伝統的拡大家族の再生だ」
https://ironna.jp/article/2519?p=1
》より引用
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加藤氏は安心して子どもを産め、育てる環境の一つに子どもから見て祖父母世代に注目しています。
父方の祖父母が母方の祖父母に孫を預けても安心できるのは「孫たちと姓を共有することで最終的な所属が夫方にあることが慣習によって担保されているからである」と分析しています。
さらに、「少子化により、孫の数が減り続け、孫を持つこと自体が希少価値となって、夫方と妻方の間で孫の奪い合いが生じやすくなっている現状では、このように痛み分けによって親族関係を調整する慣習法は、ますますその重要性を高めているといってよい。」と子どもが減り続ける現代において姓を通じた親族間の利害関係の調整が可能であるとしています。

では選択的夫婦別姓が導入された場合、どのような影響があるのか、加藤氏は次のように続けます。

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 ところが、夫婦別姓制度の導入は、外孫・内孫の分別を失わせて、力に訴えれば名も実も獲得できるという競争的状況をつくりだすことになる。夫方と妻方の親族関係を調整する慣習法の破壊は、祖父母という重要なサポート源を失わせることで子育て環境を悪化させて、次子を生み育てようとする意欲を低下させる可能性が高い。実際、専業主婦であっても、第1子において孫育てなどの支援がない夫婦は予定子ども数が低くなる傾向が指摘されている(出生動向基本調査)。

 選択的夫婦別姓制度の導入は、少子化を加速させるリスクの高い社会実験なのである。

 さらにいえば、両家の対立は夫婦関係をも不安定化させ離婚確率を上昇させて、母子家庭や父子家庭を増加させるだけでなく、家族・親族関係の混乱と緊張が子どもの心理的発達を阻害してDVや児童虐待など暴力の源泉となる可能性を否定できない。実験に失敗して問題が多発した場合の社会的・経済的コストは決して小さいものではなく、少なくともそれを誰がどのように負担するのかを考えておく必要がある。

加藤彰彦 夫婦別姓導入は少子化を加速させる「社会実験」だ
『月刊正論』 2015年12月号「出生率向上に必要なのは伝統的拡大家族の再生だ」
https://ironna.jp/article/2519?p=1
》より引用
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選択的夫婦別姓が導入されることで、父方・母方の両家関係が悪化する懸念があり、それによって離婚率の増加や子どもに与え得る負の影響について論じています。

さらに子どもの視点で考えてみると次のようなアンケート結果があります。

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両親が別姓となったら「嫌だと思う」(41・6%)と「変な感じがする」(24・8%)との否定的な意見が、合わせてほぼ3分の2に達している。一方、「うれしい」はわずか2・2%しかいなかった。また、20歳以上の成人を対象とする内閣府の世論調査(24年12月実施)でも、夫婦の名字が違うと「子供にとって好ましくない影響があると思う」と答えた人が67・1%に上り、「影響はないと思う」(28・4%)を大きく上回った。
 夫婦別姓というと、両性が納得すればいいと思いがちだが、夫婦が別姓を選択した場合、子供は必ず片方の親と別姓になる。ことは夫婦のあり方だけの問題ではなく、簡単に「誰かに迷惑もかけない」と言い切れるような話ではない。

《「夫婦別姓」憲法判断、家族の在り方を問う
https://ironna.jp/theme/452
》ページ中段の「論議に欠ける子供の視点」より
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子どもからしたら両親が違う姓であることに違和感を覚えるという感覚は普通と言ってよいでしょう。家族の連帯感にもたらす負の影響についても否定できません。

このように選択的夫婦別姓の導入には反対する声もあるのです。賛成・反対のどちらの意見も取り上げることが必要といえます。このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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