2020年12月1日 報道ステーション

2020年12月1日 報道ステーション

12月1日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた放送であったか

まずは放送内容を見ていきます。

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【放送内容】

小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):突然の会談で突如発表された内容でした。この東京発着のGoToTravelについて官邸側と小池都知事合意した内容がこちらです。65歳以上の高齢者の方とそれから基礎疾患のある方。今月の17日まで自粛を呼びかけるという内容なんですね。この内容について中継で聞きますけれども、現在、都庁担当の記者と官邸キャップとつながっていますけども、まず、都庁担当の鈴木記者に聞きますけども、この内容、確かに重症化リスクが高い人ということは分かります。ただ非常に限定的ですし中途半端といえなくもないです。この判断になったのはなぜなんでしょうか。

鈴木記者:運用を見直す中で都庁内ではいろんな議論が行われてきました。その中でも、東京都としてはこれまでも繰り返し発信をしてきている重症者の数をいかに抑えるかと。そこにポイントを置いたようです。やはり東京都の人数大変、多いわけですから全部止めてしまうと影響もすごく大きいと。議論の中では一定期間全てを対象に止めるという考えもあったようですが全てのバランスを考えた中でやっぱり医療崩壊を防ぐためにそこに直結する重症者の数をいかに抑えるかということに軸足を置いた結果今回、条件をつけたうえでの要請になったようです。

小木アナ:なるほど。小池都知事としてもバランスを考えたというところが判断の内容にはあったみたいですね。会談後の言葉を聞くと総理は小池知事から自粛の要請があった。
東京都の対応として理解できるという言葉がありました。その15分後、小池知事は都庁で取材に応じまして国に停止、もしくは自粛を要請したと。並列で要請したという話になっています。今、言葉では停止だけになってますけども。いろいろ考えて自粛という結論になったという話だったんですけれども双方、こう発言してますがなぜ、停止ではなくて結局、自粛ということになったのか、鈴木さん、都知事自身はどうしたかったんでしょうか。

鈴木記者:東京都としては自粛ではなくて停止にこだわっていたようです。関係者によりますと今日の朝から菅総理と小池知事は何度も何度も話し合いを重ねてきたようです。
その中で、小池知事としては出発と到着、そして更にはどちらも停止とすることを求めていたようですが話し合いの中では大阪とか札幌こちらは到着は除外ですが、出発は自粛としていますので、そことは矛盾が生じることになるといったことですとかキャンセル料のような実務的なことはどうするのかという時になかなか国としてもそこまで管理しきれないのではないかという声が上がったようです。ですので、国と東京都話し合いを重ねた結果知事としては効果を得るためには出発と到着どちらも入れなければ意味がないと。国としては停止ではなく自粛してほしいと今回、このような形にまとまったようです。

小木アナ:国としては停止ではなくて自粛としてほしいということですね。

鈴木記者:そうですね。東京都としては停止にこだわっていたようですが話し合いを重ねる中でそのようなところでまとまったということです。

小木アナ:そして、官邸側については官邸キャップの吉野記者に聞きます。この総理サイドの受け止めというのは両方出されたわけですよね。これどうだったんでしょうか。

吉野記者:官邸側も小池さんが停止という言葉を使ったことは分かっているんです。
ただ、都庁からもありましたようにできることとできないことがあって、停止というとすぐに制度としてストップできるのか。また、例えば旅行サイトのシステムですよね。そういったものの変更が直ちにできるのかという問題も生じてくるんですよね。そうしたことから政府からのお願いという形式に落ち着いたんです。都庁からも、国と都でやり取りしていたというリポートがありましたけども、私もこれまで取材していまして、どうしても国側と東京都側あるいは菅さんと小池さんという対立軸がずっとあったんですけどもここにきて、呉越同舟の機運が見えてきたようにも見えますね。仮にGoToで東京を除外するということになれば経済の観点から考えて国にとっても東京都にとっても苦しい決断だから踏み込めない。まずは高齢者そして基礎疾患を持っている人から重症者を出さないようにすることを優先しようとこういったラインで一致したということですね。

小木アナ:話し合っている中でこのように収斂してきたということで、これは双方納得のうえで自粛となったということです。ここで感染者の推移全国の感染者の推移とこのGoToTravelの経緯というのは、併せて見ていきたいと思いますが、GoToTravelが始まったのは7月ですね。この時は東京発着は除外でした。大きな第2波がありましてそれが収まってきた10月に東京がGoToTravelに追加されたわけです。そして、そのあと第3波、今の状態ですね。いわゆる第3波がどんどん増加している中で札幌市、大阪市この到着分を除外。それから出発分についても自粛ということを要請している状態でそして、今日東京発着、一部の高齢者そして基礎疾患を持っている方に対する自粛要請というのがあったわけですけれども、もう一度、都庁担当の鈴木記者に聞きますけども、鈴木さん営業時間の短縮要請についてはもうすでに行っているわけでその会見も行われました。こういうことを考えるとタイミングとしてはもっと早くてもおかしくないかなと思うんですがなぜ今だったんでしょうか。

鈴木記者:ポイントとしては2つあるかと思います。今、スタジオでもご説明がありましたように東京都の中でも感染状況が急速に悪化している。中でも、重症者の数が急増しているという状況でした。ですので、先週水曜日に飲食店などへの時短要請を打ち出したわけですが、さまざまな事業者にとって書き入れ時になる年末年始までにどうしても抑えたいという考えはありました。そしてもう1つは3日前の土曜日政府としてはこれまで大阪と札幌は到着のみを除外としていましたが、その2つについても自粛ではありますが、出発についても対象にするとかじを切ったわけです。ですので、やはり東京都としてどうするのかと、検討を進めている中で一番、この運用の見直しが、行われたら影響が出るのが事業者の人たちなんですね。キャンセル料をどうするのかですとか、じゃあ、再開はどうするのかとか
さまざまな課題がありました。ですので、そういったこともまだまだ不透明な中で簡単に打ち出すことはできないよねと東京都の責任としてなかなかそれは難しいという中で、土曜日から東京都のほうから観光庁に対していろんな問い合わせを行っていたわけですが、その返答があったりでしたとか、こちらの考えを伝えてみたりですとか、そのやり取りがあった中で検討を進めて今日、判断に至ったということです。

小木アナ:それなりの検討する時間があったということなんですけども、官邸の吉野記者に聞きますけども、東京と、先ほど呉越同舟という話がありましたが、ただ、東京だけじゃなくて全国的に広がりを見せているこの感染があります。官邸としてはGo To Travelを最終的にどうしたいんでしょうか。

吉野記者:最終的というのはなかなか見えないんですけども、少なくとも官邸側はGo Toすること自体が感染を拡大させるとは考えていないんですね。アクセルとブレーキを同時に踏むなという議論もありますがアクセルとブレーキを同時に踏みながら感染の拡大防止と経済を止めない。この両立を目指していくことになります。現に、1週間前までは官邸内でも東京の除外といった議論は全くないんだといわれてましたが、このように連日、重症者の数が増えてきたことで今はこのとおり自粛要請という形になりました。この間、勝負の3週間という言葉もあってそういうふうに言われていますけども、その割には対策は小出しだなという印象はありますが、更なる対策が必要だ政府としてメッセージを出さなきゃいけないということになれば今はGoToTravelがやり玉に挙がっていますが、そもそも人の往来をそのままにしておいていいのかといった議論も今後、出てくるかもしれません。

徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):今、この一報を聞いて65歳以上の方でGoToTravelで予約している方もたくさんいらっしゃると思うんですね。キャンセル料などをどうしたらいいのか、その辺りのことをGoToの実務を担っている観光庁の前にいる延増記者に聞きたいと思います。キャンセル料などその辺り詳しいことはどうなっているんでしょうか。

延増記者:最新の情報なんですが、政府はキャンセル料はとらない方針を固めたようです。ただ、今回の東京都の動きに関しては私の後ろにある観光庁からは全く予想がつかなかったというような声が上がるぐらい水面下での調整はなかったようなんですね。
10時を過ぎても部屋の明かりがこうこうとしていまして観光庁は、今夜も徹夜でキャンセル料などの制度設計に追われるようです。関係者を取材しますと制度設計とひと言で言ってもこれはかなり大変なようでして65歳以上の高齢者や基礎疾患を持っている方がキャンセルをする場合それをどうやって証明するのか。宿泊施設や代理店などの事業者側に本当に65歳以上なのか基礎疾患が本当にあるのか、証明してもらう必要がありますよね。ある大手旅行代理店の幹部はお客さんに診断書を見せてもらうのかお薬手帳のようなものを見せてもらうのかいずれにしても相当、デリケートなことを利用客に求めることになるのでトラブルのもとになってしまうのではないかと、懸念を示しています。

徳永アナ:旅行会社の方も相当これから大変だということですね。

延増記者:そうですね。今、まさにその辺り、何ができるのかやはりなるべく事業者への負担を軽減したいという思いはもちろん観光庁としても、事業者といろいろやり取りをしていく中で負担を軽減したいという思いはあるようですので、今夜、徹夜で制度設計に当たるんですけども、ある観光庁の幹部はこうやって中途半端に除外を繰り返していくことによって、一番困ってしまうのは事業者なんだというふうに嘆いています。

徳永アナ:中継でした。ありがとうございました。さて、太田さん、今日夕方になって事態が、急に動いたみたいなんですけどこの背景、どういうふうにご覧になりますか。

太田昌克共同通信編集委員(以下太田氏):急転直下の感がありますが、何となく大きなことを議論しないで、菅総理と小池知事国と都ですよね。何か建前論がぶつかり合っているような気がしてなりません。やってる措置は極めて不十分だと私は思うんですね。ちょっと取材した政府関係者の中にも東京都全てをGo Toから除外することは無理だけどもね。例えば23区の一部であったり、一部エリアを除外することは十分あり得るんだ、という議論をされる方がいたんです。官邸サイドにしますと早く都から何らかのアイデア。例えばエリアを除外するとか、今日のようなアイデアとか何かを待ち望んでいたんだけども、なかなか、待てど暮らせど都から打診がこないわけなんですね。国は都が先に動いてほしい。官邸の建前ですよね。これに対して小池さんはいやいや、違うでしょ。東京都だけでなくて全国的な視点から判断するのが、国の役目じゃないですか。それが筋でしょと。そういう建前論が、ずっとぶつかり合ってたような気がするんですよね。

徳永アナ:今、延増記者からのリポートもありましたが、もともと事業者を助けるためにというところがあったのにここにきて混乱をきたしている。その辺りは難しいですよね。

太田氏:おっしゃるとおりですね。今日、ここへきて動き出したというのはますますコロナ患者さんが急増している都は重症者の病床を増やすといっているわけですよね。そういういわば切羽詰まった状態の中で国も動かざるを得ないわけです。何もしないわけにはいかない。それでお互い東京都と国のほうで自粛要請という妥協点に折り合ったわけですが、別に旅行をするなと言っているわけじゃなくて税金まで使ってアクセル踏むような時かどうかっていうね。そもそも、この事業は感染が収束したらということで、お金がついているわけですからこういった根本の議論をもっとやるべきだと思うんですけどね。

小木アナ:何か、勝負の3週間というこの勝負を強いられている人たちが、事業者だったり医療従事者だったり大変な人たちほど勝負を強いられているようなそんな感じさえしちゃいますよ。

徳永アナ:いろんな人が迷ってしまいそうな感じはありますけどね。

太田氏:現場が一番大変です。

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【検証部分】

都からの要請で東京都発着のGO TO TRAVELに関して65歳以上の高齢者の方と基礎疾患のある方の利用を自粛するよう呼びかけたという報道です。
放送では一連の動きについて「都と国での食い違い」や「混乱を招いた」などの指摘がなされています。
また感染が拡大している中であるため、停止という措置に踏み切るべきだという意見も放送されていました。

これらの放送では以下の2点が触れられていませんでした。
1点目はGO TO TRAVELが新型コロナウイルスの感染拡大にどれほど影響しているかという点。
2点目は経済政策の重要性についてです。

以上2点は非常に重要な論点と言えますが、放送ではほとんど触れられていませんでした。

まず1点目、GO TO TRAVELの利用によって新型コロナウイルスは拡大したのか、という点についてです。
結論から述べると新型コロナウイルスの感染拡大にGO TO TRAVELは大して影響していないといえます。

GO TO TRAVELは7月から始まり、延べ4000万人以上が利用していますが、利用者のうち感染者は176人にとどまっています。
分科会も11月20日のレポートで「Go To Travel事業が感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは現在のところ存在しない」としています。
【《私たちの考えー分科会から政府への提言ー令和2年11月20日(金)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/seifu_teigen_16.pdf
》より引用】

さらに新型コロナウイルスの感染者がさらなる感染者を産むかどうかについてみていきます。

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今年3月1日に加藤勝信厚生労働相(当時)が記者会見で「感染者の8割が他者に感染をさせていない」とする見解を公表していたことを思い出してほしてほしい。

このときの発表によれば、政府の専門家会議が国内で発生した事例を詳しく分析した結果、大半の感染者の基本再生産数は「0」か「1未満」だった。換気が悪いなどの3密の環境下(たとえばスポーツジム、屋形船、密閉の仮設テントなど)で一気に感染が拡大し、その結果、「2前後」の基本再生産数になるケースがあった。

感染力は1人の感染者が何人に感染させるかを示す基本再生産数で示される。この数値が1未満だと感染は自然に終息する。厚労省のこの感染力についての見解は、3月1日時点と変わっていない。3密を避けることで感染の拡大は大幅に抑え込むことができる。

《沙鴎 一歩 「GoToが感染拡大の元凶」という誤解は、なぜ一人歩きしたのか そんなエビデンスは存在しない 
https://president.jp/articles/-/40791?page=1
より引用
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以上のようにGO TO TRAVELは感染拡大に寄与していません。
こういった点についても報道で触れる必要があるといえます。

次に経済対策の重要性です。
GO TO TRAVELはコロナウイルスで落ち込んだ観光の需要を喚起するための経済政策です。

大和総研のレポートでは
「Go To トラベルキャンペーンの経済効果を試算すると、直接効果で3.0兆円、間接効果で1.9兆円と見込まれる。また、経常利益を3.4兆円押し上げ、46万人の就業誘発効果があるという結果が得られた。」
とされています。
《緊急事態宣言解除後の地域別観光動向/Go To トラベルキャンペーンのインパクト試算
https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/regionalecnmy/20201015_021832.html#:~:text=Go%20To%20%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%82%92%E8%A9%A6%E7%AE%97%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8,%E6%8F%A1%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8D%E3%81%86%E3%80%82
》より

さらに経済苦は人を死に追い込んでしまいます。
2019年10月と比べて2020年10月は自殺者が600人以上増加しています。
そして自殺の増加は経済環境と大きな関係があります。以下に引用する記事をご覧ください。

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「自殺率は失業率と密接な関係がある。仕事は生活の糧であり、社会との接点でもありますが、失業すると収入が途絶え、社会とのつながりも失われて孤立が深まる。先行きに絶望し、自ら命を絶つ人が出てきてしまうのです」

 と説明するのは、中部圏社会経済研究所の島澤諭研究部長である。

「リーマンショック時は失業率が5・1%程度にまで上がりました。今回は雇用調整助成金や無利子融資等が功を奏し、思いのほか倒産は増えていませんが、それでも現在2・9%の失業率は5%を超え、年間2万人前後で推移していた自殺者が、3万人程度にまで増えることが懸念されます。そうなれば、新型コロナ対策として経済活動を抑制した結果ですから、言葉は悪いですが、増えた自殺者は“政策によって殺された人”になると思います」

《コロナで自殺が増える理由 女性へのダメージが深刻で…
https://news.yahoo.co.jp/articles/874250edbf95559ff384ae6939cd2836a943d76e?page=2
》より引用
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太田氏は「この事業は感染が収束したらということで、お金がついているわけですからこういった根本の議論をもっとやるべきだと思うんですけどね。」などと述べていますが、GO TO TRAVELのような経済対策をしていくことで救われる命もあると考えるべきなのです。
経済対策の重要性を見落としては、違った意味で新型コロナの犠牲となる命があることを念頭において報道すべきでしょう。

以上のような論点を欠いた放送は次の放送法に抵触するおそれがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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