2020年12月21日 報道ステーション

2020年12月21日 報道ステーション

12月21日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・事実に基づいた放送であったか
・さまざまな論点を取り上げた放送であったか

まずは放送内容を見ていきます。
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【放送内容】

徳永有美アナウンサー(徳永アナ):続いて長引く新型コロナの感染拡大で仕事やマイホームを失う人々が増えています。今日、閣議決定した来年度の予算案はそうしたコロナにあえぐ人々を救う中身になっているんでしょうか。このあと菅内閣の経済政策のブレーンにお話を伺っていきます。

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【VTR】

ナレーター:政府が今日、閣議決定した来年度予算案。

麻生太郎財務大臣:感染拡大の防止と経済の再生とそして財政健全化のバランスを取らなければならないところが最も難しい予算編成の過程だった。

ナレーター:来年度予算案は一般会計の総額が106兆6097億円に膨らみました。社会保障費や防衛費も過去最大となりコロナ対策の予備費として5兆円が計上されました。一方の歳入では企業の業績悪化を見込んで税収は57兆4480億円に。この結果、国の新しい借金となる新規国債の発行額は43兆5970億円と財政は一段と悪化しました。
この週末に「報道ステーション」が行った世論調査では、菅内閣の支持率は前回の55.9%から38.4%に急落した一方支持しないとした人は17.1ポイント増えて39.6%でした。コロナ対策の経済支援を十分だと思うとした人は19%にとどまりました。経済支援を求める声は切実さを増しています。建設業を営む、この男性はコロナの影響で業績が悪化し家族5人で暮らしていた自宅を手放すことになりました。

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【以下VTR内容を要約。】
ローンが払えなくなった50代の男性を取り上げ、ローンが払えなくなっている人が多い様子を紹介。
また新型コロナウイルスの影響により仕事や家庭・家を失った30代の男性を取り上げながら、日比谷公園にて生活困窮者向けの相談会の様子を紹介するVTRが流れる。

【スタジオ解説】
徳永アナ:コロナの影響が1年も続いて、限界が来ているという方々たくさんいます。日本の経済はどうすれば回復するのでしょうか。ここからは大和総研のチーフエコノミスト熊谷亮丸さんにお話を聞いていきます。どうぞよろしくお願い致します。熊谷さんは経済、金融について助言を行う内閣官房参与でいらっしゃるということで、菅総理には、月に1回ほど会われているということですが、どのようなやりとりがあるんでしょうか?

熊谷亮丸内閣官房参与(以下熊谷氏):大体50分から1時間ぐらい主に私のほうから足元の経済状況だとか、こういう政策を打ったらいいんじゃないかとか、そういうことをご進講させていただくと。最後は、総理がご判断されるという形です。

小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):まずは短期的といいますか今の経済状況をどうしていくかというところからお話を伺っていきたいと思うんですけれども。今日、閣議決定されました来年度予算案というのは今年度の第3次補正予算案と合わせて、政府は15か月予算と位置付けてコロナ対策を強化しています。こちら、ご覧のとおりですね。すでにGo To トラベルそれから雇用調整助成金の特例措置に関しては延長。そして、持続化給付金そして家賃支援給付金については1月までで申請期間が終了します。熊谷さんはGoToトラベルですとかそれから支援策ですけども、これでいいのか。どうお考えでしょうか。

熊谷氏:かなり手厚いというか経済効果はあってですね。例えばGo To トラベルは1.4兆ぐらいのお金を入れてるんですが、これが、大体3.6倍ぐらいの効果があってですね、効果としては4.9兆円ぐらい。それから雇用では46万人ぐらいを作っている。
それから、雇用調整助成金。これは毎月大体33万円ぐらいをサポートするということで従来は派遣の週20時間未満の労働の方は入っていなかったんですけれどもそこについても同じく33万円をやっていくと。そして、緊急小口資金はこれは最大20万円ということで年度末まで延長するということですから、総じてみればかなり手厚く手を打っているというこういう形だと思います。

小木アナ:Go To トラベルに関しては経済効果が非常に高いというお話はありましたけども、感染が拡大している中ですのでとりあえず1月11日まで一斉に停止となりますけど、今の医療状況なども考えるとゼロコロナとまではいかないまでも、かなり減ってから一気に再開すると。そういう方法でもいいのではないかなという考えもあると思うんですが、熊谷さん、どうですか?

熊谷氏:今、政権がやろうとしているのは社会経済活動の持続性とコロナの感染防止ですね。これを両立しようとしてやってきているわけですが、今、相当感染は拡大しているので
どちらかといえば感染を防止する方向にウェートを置くということが必要である。ただ、ずっとそれをやり続けるかといえば恐らく、いろんな議論があるとは思いますけれども、Go To トラベルそれによって感染が拡大したというエビデンスが私は必ずしもないと思っていて例えば日本のデータと韓国のデータとドイツのデータレベル感は違いますが、3つを重ねるとほとんど同じ動きをしているんですね。ほかの国はGo To トラベルやってないわけですからその意味でいえば今回、止めたのは基本は国民に対するアナウンスメント効果。政府の姿勢国民へのメッセージを示すということ。また、予防的な観点から止めたということで今後は感染の状況を見極めながら、いつGo To トラベルを再開するかということをこれを慎重に探っていくという状況です。

小木アナ:なるほど。非常に菅総理も恐らく、こだわりのあるGo To トラベルですが、「報道ステーション」の世論調査をご覧いただきますと、政府がコロナ対策として行っている経済支援について聞きましたところ十分だと思うかという質問に対して、思わないが64%。そして、来年の景気は今年よりも良くなると思うかという質問に対しましては悪くなるが40%、変わらないが39%とご覧のような結果になりました。Go To トラベル確かに恩恵はある人にはあるんですけども、限定的だというところも指摘する話があります。プランBですとか、プランCとかほかのもっと大きな経済対策にかじを切るこういうようなアイデアは何かないんでしょうか。

熊谷氏:今はやっぱり医療を支える。これが最大の経済対策であってですね、今回、5兆円ぐらい予算で手当をするということで、例えば、病床の確保だとかもしくは、医療従事者に対する慰労金だとか、そういうところを徹底的に手厚くやるということがやはり、喫緊の課題であって他方で、例えばGo Toに関していえば、デリバリーは感染のリスクがないわけですからそこに、Go Toのようなポイントをつけていくことも考えらえると思いますし、トラベルについてももうちょっと感染が落ち着いて再開する時には例えば、PCR検査とセットにするとかですね、従来以上に感染防止対策を強化をして、そして安全なトラベルをやっていく。それらのことが考えられると思いますね。

徳永アナ:熊谷さんお給料が減ったり、仕事を失ったりという人もたくさんいらっしゃるんですが、そういう方々への支援スピード感が遅いんじゃないかという声も上がってるんですけども、その辺りの支援はどんなふうにお考えでしょうか?

熊谷氏:ここが非常に心苦しいところで本当はもっとIT化が進んでいれば、スピーディーにできるわけですが、日本は諸外国の中でも圧倒的に給付金のスピードが遅いんですね。なぜかといえば、やっぱり、IT化が進んでいなくて国民の所得をリアルタイムで捕捉できないわけですから。

徳永アナ:IT化が進んでいないということは把握が仕切れていないと?

熊谷氏:ええ。だから本当に困っている人を特定できないという問題があるのでここは将来の課題として解決していく。他方で例えば住宅ローンで問題が生じた方は金融庁に相談窓口があったり、派遣切りにあった方々は厚労省に窓口がありますから、その辺りをもうちょっと周知徹底して実は、自分がいろんなサポートを受けられても、それに気づかない方が結構いらっしゃるんですね。そこを徹底することが課題だと思います。

小木アナ:窓口を一元化するなんてことももしかしたらあってもいいかもしれませんね。

熊谷氏:今度デジタル庁を作る中で各国のサイトを一元化する方向に今、動いていますね。従来は縦割りがあったと。

小木アナ:このあとなんですけども日本経済が来年復活するためには何が必要なのかコマーシャルの後、3つのシナリオから紐解いていきます。

【CM】

小木アナ:大和総研ではワクチンが来年後半に普及したらという仮定で日本の実質GDPの見通しとしてかなり回復していくというシナリオも描いているわけですが、そのほかのパターンもあるということで3つのシナリオが想定されていますけど、熊谷さん、来年以降の日本経済何がポイントになってきますか?

熊谷氏:結局は、ワクチンだったり、感染症の状況次第ということで、赤い線のシナリオだと2022年は4%を超える成長になるんですね。他方で、緑の線の時は来年マイナス成長になってしまうということでまずはワクチンだとか感染症のところがポイントだと。加えて、中長期で見ると今、菅政権はグリーンとデジタルを2本柱に据えて成長戦略を打っているわけですが、このグリーンというのはグリーンな社会をどんどん作っていけば、私どもの計算だと2040年にかけて240兆円の環境投資が出てくるということですね。これは、毎年日本の国内総生産・GDPを1.2%ずつ押し上げる。ですから例えば1人当たりのGDPというのは今、420万円ぐらいですが、これが毎年5万円近く上がるぐらいの効果が
そのグリーン化によって期待できる。もう1つは、デジタル化でこれをしっかりやって効率が良くなると、毎年GDPが1.1%ぐらい伸びるということですから、やはり、グリーンとデジタルを2本柱にしてしっかりと成長戦略を打つということです。

小木アナ:ワクチンの状況によってそれがエンジンとなってV字回復という路線に乗れば一番いいなということですね。

熊谷氏:中長期のシナリオですね。

徳永アナ:ただ、太田さん今を見てみるとコロナに見舞われている中で株価は高い状態が
続いている。お金がうまく回っているのかなという印象もあるんですけれどもその辺りはいかがですか?

太田昌克共同通信編集委員:今日は106兆という大きな来年度予算案ですけど、気になるのは5兆円という巨額の予備費なんですよね。従来ですと、3500億円とか5000億円というのが当初予算の予備費なんですけど、2つ問題がある。1つは、財政民主主義ですよね。国の歳出入というのは国民の代表である国会がきちっとチェックしなきゃいけない。予備費というのは、政府が自由にある程度使えますから、裁量権があるわけですね。それから、先ほどからビデオで出てまいりました、本当に今、生活に困窮されている皆さんですよ。持続化給付金とか家賃支援給付金がなくなると、もう来年度以降にっちもさっちもいかないという方が現にいらっしゃるわけでして。確かにIT化が進んでいないから把握は難しいですが、この5兆円をもっとあらかじめそういった生活困窮者の皆さん本当に苦しんでおられる方に給付するっていうそういう術はないものですかね先生。

熊谷氏:それは気持ちとしてはやりたいところなんですが、ただ、例えばコロナ対応の医師の方には1時間で1万5000円の上乗せがあるし、また、看護師の方は550円の上乗せがある。加えて、今回のコロナは人類が初めて経験することなので何が起こるか分からない。ですから、その時少しフレキシブルに使えるお金は残しておきたいと。そこのバランスになると思いますね。

徳永アナ:熊谷さんに伺いました。ありがとうございました。

【検証部分】

放送前半では2021年度予算案について借金が多いなどと放送した一方で経済対策が不十分という世論調査を取り上げています。

そして放送後半で太田氏が「今日は106兆という大きな来年度予算案ですけど、気になるのは5兆円という巨額の予備費なんですよね。従来ですと、3500億円とか5000億円というのが当初予算の予備費なんですけど、2つ問題がある。1つは、財政民主主義ですよね。国の歳出入というのは国民の代表である国会がきちっとチェックしなきゃいけない。予備費というのは、政府が自由にある程度使えますから、裁量権があるわけですね。」と問題点を指摘しています。

太田氏がここで指摘したかったことは何であるのか、いまいち分からないところがありますが、当初予算案が巨額となり日本の借金が増えている、財政状況が悪化しているという点ばかりが取り上げられています。
まず報道前半のコロナ禍により財政状況が悪化した、将来へのツケが残るなどといった報道について高橋洋一氏の論考を参考にしながら見ていきます。
日本では政府が出した国債を日銀が買い入れるというやり方で資金調達をしており、この方法について高橋洋一氏は以下のように述べています。

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政府と日銀との連合軍では、政府が大量の国債発行によって財源調達を行うが、その一方で、日銀がその国債の買い入れを行う。これによって政府が巨額の有効需要を創出でき、不況の下支えをする。まさに大恐慌スタイルの経済政策だ。

この政策のリスクは、インフレ率が高まることだ。しかし、コロナショックは基本的に需要蒸発した需要ショックなので、その心配は当面不要だ。

この5月22日の財務大臣と日銀総裁の共同声明を注意深く読めばわかるように、国債発行額はほぼ日銀が買い取るので、その国債の償還・利払い負担は実質的にない。どういうことかというと、国債負担は通貨発行益で賄われるからだ。

とうわけで、第1次から3次補正まで、大量の国債発行になっているが、その将来世代への負担はない。筆者は、菅首相にもこの話をしているのはいうまでもない。

《高橋洋一 経済政策、コロナ対策、総選挙…激動の年を越え、2021年の菅政権はこう動く
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/78834?imp
》より引用
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以上のように日本の借金がさらに増え、財政状況が悪化するなどといった報道は正確でない可能性があり、次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(3)報道は事実をまげないですること
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次に放送で取り上げられていた経済政策についてさまざまな論点が取り上げられていたかを見ていきます。
熊谷氏は放送で経済政策について次のことが挙げられていました。

・医療従事者に対する慰労金
・飲食のデリバリーサービスにGO TOキャンペーンのようなポイントを作る
・各種相談窓口、支援窓口の周知徹底
・中長期的に「グリーン」「デジタル」へ投資を行う

一方で高橋洋一氏は2021年までに3月までに9.3兆円が使えるため、経済を下支えすることが可能であるとしています。

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12月15日に閣議決定された第三次補正予算をみれば、コロナ拡大防止策4.3兆円、予備費5.0兆円の合計9.3兆円は、1~3月までに使える。

今回の緊急事態宣言により、経済活動の縮小は最大で毎月4兆円弱であると見込まれている。となると、1~3月でみると、使える予算をうまく執行すれば、かなりの程度、医療や経済体制を支えられる。

1~3月までに、経済苦境に陥りそうなら、4次補正も躊躇してはいけない。4月からの新年度予算では、予備費は5兆円計上している。そのため、4月当初から困ることはないはずだが、その後でも必要なら補正予算を打つことも視野にいれておくべきだ。

《高橋洋一 医療崩壊を防ぐために…3月までに使える「9.3兆円」活用が日本を救う
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79182?imp
》より
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経済対策が不十分であるという世論調査まで紹介しているのですから、もっとお金を配るといったような経済下支えも可能であるはずですが、そうした論点にはなかなか触れられませんでした。
それもそのはずで放送で解説にあたっていた熊谷亮丸氏は『世界インフレ襲来』(東洋経済新報社2011年)、『日経プレミアシリーズ:消費税が日本を救う』(日本経済新聞出版社2012年)といった本を書いているような財政タカ派です。

もちろん熊谷氏が意見を述べたりすることは自由ですが、番組としてはよりさまざまな論点を取り上げることが求められています。
つまり財政ハト派からの意見も必要と言えますが、そうした意見は取り入れられていなかったため、次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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