2020年12月9日 報道ステーション

2020年12月9日 報道ステーション

12月9日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは次の点です。

・事実に基づいた放送であったか

まずは放送内容を見ていきます。

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【放送内容】

徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):こちらは地上配備型迎撃ミサイルイージス・アショアです。今年の6月に、突如配備計画が中止されました。その代わりとして今日、政府は新型のイージス艦2隻を新たに造り、更に、射程を大幅に伸ばしたミサイルを開発する方針を明らかにしました。しかし、このミサイル事実上、敵基地攻撃能力の保有につながるという指摘もあります。国民への説明は尽くされているのでしょうか。

岸信夫防衛大臣:海上自衛隊が保持するイージスシステム搭載艦を二隻整備する方向で防衛省においてさらに検討を進めたい。

ナレーター:迷走した議論の着地点は新たなイージス艦の建造でした。日本は現在、北朝鮮などからの弾道ミサイルによる攻撃を防ぐためにイージス艦を配備し撃ち落とす体制をとっています。しかし、イージス艦だけでは日本を守り切れないとして地上にも同様の機能を持った設備を2か所に設置することを計画していました。それがイージス・アショアです。
ところが…。

河野太郎防衛大臣(2020年6月当時):コストと時期に鑑みて、イージスアショアの配備のプロセスを停止します。

ナレーター:迎撃時にミサイルの部品の一部が市街地に落ちる可能性が発覚し計画は中止に。ただ、イージス・アショアのシステムの一部はすでにアメリカ側と購入の契約を交わしていたためそれらを活用した新たなイージス艦の建造に行き着いたのです。陸上用の装備を海上用に転用するというのは前例のない試み。防衛省は、船にすることで柔軟な配備が可能になると説明しています。しかし、この船の導入にはこれまでのイージス艦を大きく上回る費用が見積もられているうえに、その後の維持や管理に必要なコストは示されておらず総額でどれだけかかるのかは明らかにされていません。更に、去年まで自衛隊の制服組トップだった河野克俊前統合幕僚長はこれだけの費用を使っても対応力が落ちると指摘します。

河野克俊前統合幕僚長:イージス艦を365日ずっと置くということはできないので、今回の体制変換については即応性の観点からは落ちると思う。
海上自衛隊にさらにイージス艦2隻となると、単純計算で700〜800名の人員確保また交代要員もいれると、相当人的負担がかかるので、今後その辺の検討は詰めていく必要がある。

ナレーター:今日、政府は新たなミサイル開発の方針も併せて打ち出しました。

加藤勝信官房長官:国産の12式地対艦誘導弾を長射程化し、スタンドオフミサイルとして開発する方向で進められている。

ナレーター:スタンド・オフ・ミサイルとは敵のミサイルの射程圏外から攻撃できる長射程の巡航ミサイルのことです。自衛隊がすでに保有しているミサイルに改良を加えて飛距離を大幅に伸ばすといいます。野党からは専守防衛に反するといった指摘が出ています。

安住淳立憲民主党国対委員長:射程が長くて事実上、敵基地攻撃ができることになる。それは専守防衛とこれまで戦後歩んできた日本の防衛政策から逸脱する恐れがある。

加藤官房長官:防衛能力を強化するためのものであり、いわゆる敵基地攻撃を目的としたものでもなく、ミサイル阻止に関する新たな方針として開発するものでもない。

ナレーター:今後の敵基地攻撃能力の保有の是非について菅政権は、今のところ考えを明らかにしていません。河野前統合幕僚長は…。

河野前統合幕僚長:ディフェンスも大事ですけどやはり攻撃力を持つことによって、さらに抑止力が高まるのは事実だと思います。ただこれをやるには政治の相当なエネルギーとリーダーシップがいる。なかなか日本の国民を説得するということについて、非常に難しい問題を抱えているんじゃないか。

【スタジオ解説】
徳永アナ:梶原さんそもそも、イージス・アショアの代替案が、新たな長距離ミサイルの開発という話にまで及んでいると見えるんですが、これはどういうふうに考えたらいいんでしょうか。

梶原みずほ朝日新聞国際報道部記者:やっぱり付け焼き刃的な印象はありますよね。
もともと、陸上配備というのは中国の海洋進出などで負荷がかかっている海上自衛隊を補完するという意味で陸上自衛隊が陸で補完しようということで始まったわけなんですが、そのうえにイージス艦2隻といっても年間の半分以下しか、ミサイル防衛の任務に当たれないという見積もりもあるんです。現場からは、結果的に海上自衛隊の負担が増える可能性が高い。そしてミサイル防衛システムにも穴ができてしまうのでは、と指摘する声もあるんです。このミサイル開発のほうなんですが、装備の能力としては敵基地攻撃にも転用できるわけですから、これまでの日本の防衛政策を実質的に転換するという、そういう見方もできる非常に大きな、重い重要な話なんです。ただ、日本を取り巻く安全保障の環境というのは日々、厳しくなっている。これも事実です。どのように国を守っていくのかという国民全体の議論が必要だと思います。

【検証部分】
今回はイージスアショアからイージス艦2隻の新造計画、そしてスタンドオフミサイルの整備についての放送を取り上げます。

放送をまとめるとイージス艦の新造は自衛隊の負担となる可能性があることが指摘されています。
さらにスタンドオフミサイルを持つことは敵基地攻撃能力を持つことになり、防衛政策の大転換となるため国民を説得することは難しいと結ばれています。

ここで2点報じられていない点があります。
1点目はイージス艦の新造がなされずとも、自衛隊の人手不足・装備不足は恒常的であること、2点目が敵基地攻撃能力を日本が持つことは可能であるということです。

1点目の自衛隊の装備や人手の不足についてはさまざまなところで指摘されています。
ただ、自衛隊の充足率を見てみると2020年3月の段階で92%程度となっています。
「意外と充足率は高いのでは?」と思われた方もいるかもしれませんが、ここに数字のからくりがあります。
ここで『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社 2019年)の作者であるジャーナリストの小笠原理恵氏の記事を見ていきます。

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防衛省は深刻な人材不足に陥っています。平成30年10月から、自衛官の採用年齢の上限を現行の26歳から32歳に引き上げ対象者を増やすことで、充足率を上げようと考えました。さらに定年を延長する方針も固め、潜水艦などこれまで女性に解放されていなかった職域を拡大しました。女性を積極的に登用することで穴を埋める手をなりふり構わず始めました。どれも付け焼刃の処置ですが、一時的には充足率は上がります。

(略)

 さて、募集年齢延長と女性への職域拡大はある一定の成果がありましたが、定年延長はどうでしょう。こちらはすでに様々な問題が出てきています。定年を延長すれば、何もしなくても隊員数が減らないため数字上は自衛官の充足率が上がります。

 でも、考えてください。その人数は高齢でしかも階級が高い自衛官なのです。足らないのは若い曹士クラスの隊員ですが、そんな数字マジックでいいのでしょうか?

 まず、始まっていることは「昇任」ができないという問題です。自衛官には階級定年がありません。不祥事でも起こさない限り階級が降格されることはありません。階級は上からパーセンテージが決まっていて、その階級の人が退職しなければ下位の階級の人が昇任(昇進のこと)できません。定年延長で若い人たちが昇任できなくなっちゃうのです。

《小笠原理恵 自衛隊に若者が来ない。人手不足で「定年延長」することの大問題
https://nikkan-spa.jp/1588394/2
》より

定年延長や採用年齢の引き上げ、女性の職域拡大によって充足率を補った結果、充足率は高くなっているかもしれません。
しかし、若年層の隊員の人手不足状態は全く解消されていません。さらに定年延長で席が空かたいため、若い隊員は昇任もできません。その上、自衛隊員の賃金や待遇は良いとはいえません。これでは隊員のモチベーションを保つことも難しいことが記事で指摘されています。

自衛隊の人手不足は恒常的なものであることに目を向ける必要があるでしょう。

次に日本が敵基地攻撃能力を保持することは可能であるかどうかについて放送では取り上げられていませんでした。
結論から述べると政府公式見解にて敵基地攻撃能力を保持することは可能であることが確認されています。
元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏の記事を見てみます。
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 敵の攻撃に対する反撃能力を保有することは独立国家として当然の権利であり、日本の憲法でも許されています。

 政府は敵基地攻撃能力の保持は憲法上可能であると答弁しています。

 昭和31(1956)年2月29日の衆議院内閣委員会において、当時の船田中防衛庁長官が「我が国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、他の手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」という政府答弁を行っています。

 ただ、敵基地攻撃能力の保持は憲法上認められていますが、自衛隊は現在、敵基地攻撃能力を保有していません。

《渡部悦和 日本は韓国の二の舞か、敵基地攻撃能力保有の先送り
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63353》より
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このように敵基地攻撃能力の保持は可能なのですが、放送ではこういった事実が取り上げられることはありませんでした。

以上のような事実を取り上げずに放送を行うことは次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(3)報道は事実をまげないですること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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