2018年11月12日 報道ステーション

2018年11月12日 報道ステーション

テレビ朝日「報道ステーション」2018年11月12日(月)放送回の検証報告です

 この日の報道ステーションでは、番組後半から国会で審議中となっている入管法について取り上げていました。
 入管法をめぐっては、現状の技能実習制度の問題点や改正案の検討不足を指摘する野党と、外国人労働者の受け入れの拡大を目指す与党が対立しており、連日多くのテレビ局がこの問題を報道しています。

 報道ステーションでは、この日の放送の翌日にも入管法改正案について取り上げていましたが、週初めの月曜日にはどのような報道をしていたのでしょうか?

 詳しく見ていきます。

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【スタジオ】
徳永有美アナ:続いて、国会です。外国人労働者の受け入れを拡大するための入管法の改正案なんですが、明日、衆議院で審議入りします。

富川悠太アナ:その審議入りを前にですね、今日、自民党は外国人労働者の多い自治体に、野党は外国人技能実習生にそれぞれ話を聞きました。

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【VTR】
VTRは、「自民党法務部会の現地視察の様子」→「技能実習制度についての説明」→「野党合同ヒアリングの様子」の順番で、入管法改正案に関わる問題を取り上げていました。

それぞれ以下のような内容で説明をしていました。

・自民党法務部会の現地視察の様子
外国人労働者が多く住む群馬県を自民党議員が訪問する様子が流される。入管法改正案は明日から審議が始まるが、自民党法務部会が現地視察するのは初めてであるとナレーション。長谷川法務部会長は「地方の自治体の皆さんとしっかりお話をすることができたのはとても良かった」と話した。

・技能実習制度についての説明
野党が農家を訪れる映像が流される。インドネシアからの技能実習生がほうれん草を収穫する様子とともに、外国人技能実習制度をナレーションで説明。技能実習制度制度は、日本で技能を学び母国に持ち帰ってもらうというのが制度の建前だが、様々な問題が指摘されていると問題提起。

・野党合同ヒアリングの様子
野党合同ヒアリングの様子が流され、「長時間労働でも給料が少ない」と技能実習生の女性が涙を流しながら低賃金・長時間労働を訴える映像が流された。

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続いて、スタジオでのコメントです。

【スタジオ】
徳永アナ:本当にあの、切実な声、切実な涙という感じがしますが、明日から審議入りということですけれども、今頃視察?という感じですかね。

後藤謙次氏:まさに、政治的アリバイ作りと言われても仕方がないですね。

徳永アナ:やってる感ってことですか?

後藤氏:そうですね。この技能実習生の問題というのは、ずいぶん前からですね、技能を身につけそれを本国に持ち帰るという制度だったんですが、実体としては低賃金で劣悪な条件で働かされられる。それで失踪者が多い。ずいぶん前から指摘をされてるんですね。そして何をいまさら、という感じがしますよね。

徳永アナ:これだけの声があがって、この現状の上に新たな制度を作り上げようとしてるわけですよね。

後藤氏:はい。相当無理がありますね。家で言えば腐った土台の上に、新しい家を建てるわけですから、崩れ去っていくというのは当然目に見えてるわけですね。この問題、27万人今いると言われてますが、まず技能実習生の問題をきちっとした上で次にいくと。そしていつまでもですね、日本が選ばれる国だと思い込んでるところに、この問題の出発点の誤りがあるんだと思うんですね。

徳永アナ:それは、政府が選ばれる国だというふうに思ってるという・・・

後藤氏:まさに高度成長期もですね、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代っていうことが頭から離れない。そういう発想があるんですが、今やですね、SNSが発達して、外国人労働者の間でいろんな情報が飛び交ってるわけですね。きちっとした制度を作り上げなければ、結局絵に描いた餅に終わってしまうと。そういうことをきちっと反省の上に、議論してもらいたいと思いますね。

徳永アナ:これから共存を絶対していくわけですから、土台をしっかりと作ってほしいなと思います。

後藤氏:そうですね。

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【検証部分】
 今回の放送には、大きく分けて3点の問題があります。

①入管法改正案についての説明がないまま、入管法改正案の批評を行っている。
②外国人技能実習制度の現状の問題点は取り上げているが、政府の対応案については触れていない。
③後藤氏の発言に、根拠のない後藤氏自身の主張が入っている。

 詳しく説明します。

 まず、1点目「入管法改正案についての説明がないまま、入管法改正案の批評を行っている。」についてですが、グラフで分かるように、今回の放送では入管法改正案に関する説明は一切ありませんでした。現状の技能実習生制度に関する説明はあったものの、その内容は、野党が視察した農家で働く技能実習生の様子を映像で流しながら「外国人技能実習制度とは、日本で技能を学び母国に持ち帰ってもらうというのが制度の建前ですが・・・」と説明を入れただけのごくわずかなものだけでした。

 この日の報道ステーションでは、入管法改正案について取り上げていたにもかかわらず、入管法改正案について内容を説明せず、入管法改正案に関する与野党の様子を流し、さらに新制度の批評をしていたのです。

 報道ステーションがさまざまな有識者の考えを放映するだけの番組であれば問題はありません。しかし、報道ステーションが報道番組である以上、改正案の「内容」についても説明するべきであったと考えます。改正案の内容がわからないまま、批判だけ聞いてしまえば、視聴者には改正案が”なんとなく”悪い制度であるかのように見えてしまいます。
 視聴者が入管法改正案の内容について多角的な視点から理解を深めた結果、賛否のどちらかを選択できるような材料を与えるのが報道の役割ですが、報道番組として賛否判断の材料を十分に提供せずに改正案の批評だけを放映し、視聴者の印象を左右するのは問題ではないでしょうか?
 この点で、今回の放送は、放送法4条4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」に抵触している可能性があります。

 次に、2点目「外国人技能実習制度の現状の問題点は取り上げているが、政府の対応案については触れていない。」についてですが、今回の放送では評価できる点もありました。それは、外国人技能実習制度の現状の問題点について、短い時間の中で視聴者に分かりやすく伝えられていた点です。
 野党の合同ヒアリングの様子をまとめたVTRのなかで、技能実習生の現状を視聴者が理解できるようにうまく編集されていたと思います。

 しかし、その一方で、VTRの中で取り上げられていた外国人技能実習制度の問題点を、政府がどのように解決しようとしているのかについては、触れられていませんでした。
 本来であれば、外国人技能実習制度の現状の問題点が存在しているのであれば、その対応策について政府が政策を出し、その政策について国民が検討するべきです。そして、この、問題点を取り上げて対応策について国民に検討材料を与えるのがマスメディアの役割です。
 政府側でも入国管理庁の設置などにより外国人技能実習制度の問題点を解決しようとしている中で、現状の問題点だけを取り上げ、現在検討されている対応策については触れず、視聴者に問題解決の検討材料を与えないのはマスメディアの役割を果たしていると言えるのでしょうか?

次に、3点目「後藤氏の発言に、根拠のない後藤氏自身の主張が入っている。」についてですが、今回の放送で後藤氏は「そしていつまでもですね、日本が選ばれる国だと思い込んでるところに、この問題の出発点の誤りがあるんだと思うんですね。」と発言し、そのあとに「まさに高度成長期もですね、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代っていうことが頭から離れない。そういう発想があるんですが、」と続けています。

 何回か放送を見直しましたが、「日本が選ばれる国だと思い込んでる」は結局何を根拠に発言しているのか分かりませんでした。国の根拠のない思い込みがあって、その思い込みのうえで制度が策定・運用されていれば後藤氏の発言の通り大きな問題ですが、今回のこの制度が「日本が選ばれる国だと思い込んでる」政府関係者によって策定・運用されているかは分かりません。根拠のないこの発言は、放送法4条3項「報道は事実をまげないですること。」に抵触している可能性があります。

 今回の放送では上記3点の問題が見つかりました。今後も監視を続けます。

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