2018年11月26日 報道ステーション

2018年11月26日 報道ステーション

2018年11月26日の報道ステーションの報告です。
この日、入管法や北方領土をめぐる国会論戦が取り上げられました。
今回取り上げるのはその国会に関する報道のうち半分程度の時間が割かれた水道法改正に関するコーナーです。
では詳しく見ていきます。

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【スタジオ】
徳永有美アナ:さあ、実はこの改正案に注目が集まるなか、与党が来週成立を目指す法案というのがもう一つあるんですよね。

富川悠太アナ:そうなんです。こちらも走り続けていたら、いつの間にか目の前にゴールが迫っているというような状況なんですけれども。こちら、私たちの生活に欠かせない水道に関わる法案のことなんですね。その法案というのは、水道事業を民間に運営を委ねるというものなんですが、じゃあその法案が成立したら、私たちの生活にどんな影響があるんでしょうか。詳しく見ていきます。

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【VTR】
社民党 福島みずほ参院議員:諸外国でさんざん問題になっているのに、総理、なぜ日本で水の民営化なのでしょうか。

安倍晋三総理大臣:公の関与を強化した仕組みとするものであり、民営化ではないということはまずはっきり申し上げておきたい。

ナレーション:衆議院を通過した水道法改正案の議論は、参議院で始まっています。ポイントは、自治体が最終的な責任を負うものの、初めて運営を民間に委ねるというものです。なぜ、いま民間の力が必要なのでしょうか。

加藤勝信厚労大臣(当時):水道施設の老朽化が今後ますます進むと見込まれる一方で、人口減少にともない料金収入が減少するとともに、事業を担う人材も不足するなど、水道事業は深刻な課題に直面しています。

ナレーション:全国で、耐用年数を超えた水道管が、年々増えています。自然災害も多発していて、自治体が抱えるコストは膨らむ一方です。さらに政府には、空港のように水道という公共インフラを民間企業に解放し、投資を促す狙いもあります。

福島氏:麻生財務大臣はアメリカのシンクタンクの講演で、日本の水道はすべて民営化すると発言しました。

アメリカでの麻生財務大臣による講演の様子が挿入。
麻生太郎財務大臣:水道はすべて国営・市営・町営でできていて、こういったものをすべて民営化します。

福島氏:日本の水道はすべて民営化するんですか? なぜですか?

麻生氏:質問に答えた際の発言を、たぶんそこだけパクっておられるんだろうと思いますけれども、まあ「パクっている」は品がないですね。あくまで例示として紹介したものであって、私自身の見解を述べたものではありません。よく知ってるでしょう、それ全部。

ナレーション:運営を民間に委ねて、問題はないのでしょうか。

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【パネルを使った説明の要約】
富川アナ:水道法が改正されたら私たちの生活はどうなるのか。私たちの水の安全と料金がどうなっていくのか。こちらで詳しく見ていきます。

現状についての説明。「家庭用平均水道料金の推移」(1979年/約1500円~2015年/約3000円)のグラフが示され、右肩上がりが続いている。試算では30年後に6割値上げする(現状を約3000円だとすると約4800円になる)可能性もあるという。
値上げの原因には①人口減少などで料金収入減、②水道管の老朽化で更新にコスト、などが挙げられ、こうした問題を打破するために水道法改正案が提出された。
改正案の効果としては、①広域連携の推進(過疎地の水道局が地域を越えて統合し、効率的に管理)、②官民連携の推進などが挙げられる。官民連携の推進においてはコンセッション方式を取り入れようとしており、コンセッション(=権利を譲渡する)という言葉の通り、水道の施設自体は自治体が保有したままで、運営権だけを企業が買い取り運営するという方式。それによって期待されるメリットとしては、民間企業のノウハウによるコスト削減、民間の雇用創出などといった点がある。それに加えて、民間企業が自由に料金をつり上げられないように自治体が料金の上限を条例で決定できるなど、自治体が事業を管理することができるといったメリットを強調。

一方で懸念も。海外の例を見ると、過去15年で37カ国が公営化している。パリでは80年代に民営化したものの30年で料金が5倍になり、再び公営化。また同フランスの都市ニームでは老朽化放置により漏水率37%、同レンヌでは2011年には鉛が溶け出す水道水汚染事故が発生。健康被害を起こしかねない水質になっている。
海外でのこうした例を受け、「需要予測と収支予測を実施し、料金やサービスを「見える化」して住民の合意を得るべき」(東洋大学石井晴夫教授)、「水道管の補修は売り上げにならず民間企業がないがしろにする可能性も」(水道民営化研究者 椿本祐弘氏)といった意見も。

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【コメンテーターの発言】

徳永アナ:後藤さん、このように専門家の方々による懸念もある一方で、そのインフラが老朽化していくという直面する危機・事実もあると。これをどういうふうに考えればいいでしょうか。

ジャーナリスト 後藤謙次氏:そうなんですよ。自民党内でもコンセッション方式反対派は多いんです。といいますのは、やはり水道というのは「日本人の魂の結晶だ」という人がいるんです。つまり水質がいい、おいしい、さらに水漏れが少ない、料金体系が明確である。こういうことはまさに日本文化の結晶なんだと。ですからこのコンセッション方式はですね、水道というのは非常に効率が悪いけれども、日本は横綱なんだと、その横綱が三週遅れで新しいことをやろうとしている。つまりもう一回元に戻るべきだという意見もあるんですが、与党の幹部は「妥協の産物なんだ」と。とりわけ今年の西日本豪雨や北海道地震で、ずいぶん断水が続きましたよね。それにインフラが追いついていかないと。やはりこういう方式でやらないとお金が足らないんだと、財務省がお金を出してくれないんだと、そこでこういう方式を入れるということなんですが。もう一度立ち止まって考える。水道はやはり文化ですから、それを守るという意識は非常に大切だと思いますね。

徳永アナ:問題はあると思うんですけれども、実際こうして上手くいっていないという例はあるわけですから、そこも難しいですよね。

後藤氏:是非もう一度ですね、そのへん議論し直すということも一つの道だと思いますね。

徳永アナ:本当にこれしか道がないのかというところを議論していただきたいと思います。

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【検証部分】
今回の放送の問題点は大きく2点あります。
1点目は番組の切り口やコメンテーターの発言に印象操作と、とられかねない部分があったこと。
2点目は放送法に抵触しかねない、発言や説明があったこと。

まず1点目についてです。
今回の水道法改正は水道に関する運営権の権利を一部民間に委ねる、というものです。
これはパネルの説明にあったように水道の老朽化などを国がすべて行うのは莫大な費用がかかり結局は利用者に負担がかかってしまう。それを避けるために民間に一部運営権を委ねコストを削減するということが目的です。したがって我々の負担を軽減、あるいは負担を抑えるためのものなのです。運営権を一部民間に委任しても料金は各自治体などに委ねられるため、今回の改正によって水道料金が大きく跳ね上がることは考えにくく、完全な民営化ではありません。安倍総理も明確に以下のように答弁しています。

安倍晋三総理大臣:公の関与を強化した仕組みとするものであり、民営化ではないということはまずはっきり申し上げておきたい。

国会のVTRなどの放送はわずか2分程度で残りの主な解説はスタジオでのパネルなどを使った説明で7分以上あり、スタジオでの解説が重視されていたため本来ここでの公平な議論、解説が必要であるはずです。
しかし、今回の報道では水道が完全に民営化され、利用料金があがるといった報道や発言がありました。
パネルを使った説明では今回の水道法改正の内容とは異なるにもかかわらず、完全に民営化して水道料金が跳ね上がった海外の例をパネルにして報道していました。このような改正法の中身とは異なったパネルを用いて水道が完全に民営化される、などと印象をもたせてしまいます。

また冒頭冨川アナウンサーは入管法が以外にも注目法案があると続いて以下のような発言をしています。

富川悠太アナ:「そうなんです。こちらも走り続けていたら、いつの間にか目の前にゴールが迫っているというような状況なんですけれども。こちら、私たちの生活に欠かせない水道に関わる法案のことなんですね。その法案というのは、水道事業を民間に運営を委ねるというものなんですが、じゃあその法案が成立したら、私たちの生活にどんな影響があるんでしょうか。詳しく見ていきます。」

水道事業の一部の運営権を委ね、最終的な責任は自治体にあるものだがこの発言では完全に民営化されるように聞こえます。

ここは2点目の問題点である放送法4条に抵触する恐れがあります。
実際の運営責任は自治体に残るため、単に「民間に運営を委ねる」わけではありません。これは放送法四条三項「報道は事実をまげないですること」に違反する可能性があります。

また、以下のコーナー後半での発言も放送法に抵触する可能性があります

徳永アナ:問題はあると思うんですけれども、実際こうして上手くいっていないという例はあるわけですから、そこも難しいですよね。

「上手くいっていないという例」と言いますが、報道ステーションが持ち出した例海外の完全に民間に水道を委任した例であり、今回の改正とは異なります。
このような印象操作ととらえかねない、事実は異なる発言では視聴者は水道が民営化されるという印象をもってしまいます。

公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。

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