7月1日報道ステーションのレポートです。
今回は後編パートとして香港に関する報道を取り上げます。
検証するのは以下の点です。
・さまざまな論点を取り上げた放送であったか
まずは放送内容を確認していきます。
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【スタジオ】
徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):香港が返還されたのがちょうど23年前の今日です。一国二制度が保証され中国本土では厳しく制限されている表現の自由が認められるなど高度な自治が行われてきました。そんな香港に中国政府の介入がより強まったのは去年のことです。市民は逮捕者を出しながらも抗議活動を続けてきましたが今後は香港国家安全維持法によって大きく変わることになりそうです。
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【VTR】
ナレーション(以下ナレ):香港警察がデモ隊に対して掲げる旗には今日、紫色が新たに加わりました。香港国家安全維持法による逮捕を警告するものですが、すでに適用され複数の逮捕者も出ています。行政府の幹部が勢ぞろいした今朝の香港。香港返還23年を祝う式典です。
(式典の映像)
ナレ:リンテイ・ゲツガ行政長官はこの場で香港国家安全維持法施行の意義をこのように話しました。
香港特別行政区・林鄭月娥長官『香港特別行政区が国家主権を維持し、国土の完全性、安全な制度を保護するため歴史的な一歩を踏み出しました』
ナレ:香港国家安全維持法の柱は国家分裂、政権転覆、テロ活動海外勢力との結託に対する取り締まりです。一部の裁判は非公開で有罪になれば最低3年の懲役最高刑は終身刑となります。
香港・マカオ事務弁公室・張暁明副主任『鄧小平同志は当時このように話しました。「返還後の香港で共産党を口で批判してもいいが、行動を起こしていけない。民主化の看板を掲げて大陸に反対する基地になってはいけない」』
ナレ:これは警察が発表した香港国家安全維持法で逮捕された人たちの情報です。最初に逮捕された人の容疑はフリー香港のTシャツを着て香港独立と書かれた旗を掲げたこと。この法律による逮捕者は今日少なくとも9人で最年少は15歳でした。
デモ参加者『自由は行動で示すものです。政府や人から与えられるものではありません。私たちは自分たちの自由のために行動するんです』
ナレ:ただ、法律の施行前に香港の民主化運動を先導してきた複数のグループが解散しました。身の危険を感じている主要メンバーも姿を隠さなければいけない状態に陥っています。できる抵抗運動はSNSが精いっぱいです。
ジョシュア・ウォン氏ツイッター『我々はこうやってきょうも通りにいる。我々は決して屈しない』
ナレ:ただ、こうした運動ができなくなるのも時間の問題かもしれません。
南出拓平記者:今、香港の市民の間ではあらゆる政治的発言が罪に問われるかもしれないという不安が広がっているんです。
香港市民の王喜さん『僕は身の安全のため弁護士や友人のアドバイスを参考にして自分のフェイスブックのアカウントを削除しました』
ナレ:香港国家安全維持法の法解釈は全て、中国政府次第です。海外に住む外国人も対象になっているためBBCはこのように警告をしています。
英BBC『国家安全法は世界のあらゆる所まで適用される。海外で香港の民主活動を支持している人は特に警戒してほしい。中国と引き渡し条約を結んでいる国では避けるべきだ』
【コメンテーターによる解説】
徳永アナ:VTRにもありましたジョシュアさんとともに民主化運動をしてきたシュウ・テイさんがツイッター上に昨日生きてさえいれば希望はありますという言葉を残されているんですけれども本当に生きること以外何もかも奪われたかのような言葉だなと、大変重い言葉だなと思ったんですけれども梶原さんは、この動きどのようにご覧になりますか。
朝日新聞国際報道部記者・梶原みずほ氏(以下梶原氏):本当に無力感のひと言に尽きると思うんですね。G7・主要7か国が先月に重大な懸念ということを表明する声明を出したわけですけど効果はなかったし遅すぎたのかなと感じますね。不幸にも私は2つの要因が重なったと思うんです。1つはコロナですね。各国とも自国のコロナ対策で忙しくてなかなか首脳同士も直接会って話をすることもままならない状況で国際社会が一丸となってプレッシャーをかけることがまずできなかったと思うんですね。もう1つは、アメリカですね。この前大統領補佐官だったボルトン氏の本にも書いてありましたけれどもトランプ大統領は再選を強く意識するためになかなか中国に圧力をかけてアメリカ経済へのダメージを恐れて、香港問題に対しては非常に消極的だったと書かれていますよね。9月の香港の立法会選挙を中止するというふうにアメリカが今、言っているわけですが恐らく、これは大統領選が終わるまではなかなかアメリカも積極的には動かないんじゃないかなとは思うんですね。言論活動もしにくくなり集会もできなくなりそして先ほどあったように民主化運動の先頭に立っていた若者たちが運動を撤退していくという表明しています。今日に至っては逮捕者も出てきているわけですよね。この先、どういう社会が訪れるかというと人々はものを言わなくなりそしてお互いのことを監視し合って反体制的なことを言ったら密告し合うという委縮した社会だと思うんですね。私たちが、じゃあ無力感を感じてる中で何ができるかということなんですけれども無力だから何もしないで見過ごしていくことはできないと思うので無力な中でも粘り強く懸念というのを言い続けていくしかないとそう思います。
徳永アナ:自由がいかに尊いものなのかということを
本当に考えさせられますよね。
梶原氏:改めて感じますね。
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【検証部分】
6月30日、香港国家安全維持法が施行されました。
番組でも報道がある通り、7月1日には逮捕者が出ています。
香港独立と書かれた旗を所持していただけで逮捕されたという衝撃的な法律です。
しかし、報道ではどのような法律なのか今ひとつわかりません。
中国情勢に詳しいジャーナリストの福島香織氏の記事には以下の記事を参照に見ていきます。
福島香織 香港を殺す国家安全法、明らかになった非道な全文
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61142
下記で引用しているのは全てこの記事からのものです。
まず法律で裁かれる法律について以下のように紹介しています。
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国安法で裁かれる犯罪は4種類。「国家分裂」「国家政権転覆」「テロ行為」「外国または域外勢力との結託による国家安全危害」(の組織、計画、実施、参与、ほう助、出資など)である。いずれも主犯や重大な罪については最高無期懲役から10年以上の懲役。軽くても3年以下の懲役か刑事拘留、管制とよばれる、青少年に対する感化院入りやボランティアや社会労働を通じての更生が行われる。
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「国家分裂」の罪にはウイグル、チベット、台湾の諸問題に言及することも含まれるといいます。
さらに恐ろしいことにこの法律は外国でも適用されます。
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またこの法律の適用範囲は非常に広く、第38条「香港特別行政区の永住者の資格を有しない者が、香港特別行政区の外で香港特別行政区に対してこの法律に基づく罪を犯した場合に適用される」とある。つまり外国人が外国で、香港住民に中国や香港政府への憎悪を募らせる言動をした場合もこの法律が適用されうる、ということになる。しかも適用場所は、香港に登録されている飛行機、船舶上にも及ぶ。
法を制定し、適用し、執行する権限のことを管轄権といいます。
この管轄権を行使する基礎となる考え方を属地主義(領域主義)といいます。
属地主義とは、自国領域内の範囲でのみ管轄権を行使するという考え方です。
刑法第1条では「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」と規定しており、国籍を問わず日本国内で日本の法律を犯した者に適用することが明記されています。
車で考えてみると、例えばアメリカに行ったら車は右側通行です。日本では左側通行だからと言ってアメリカで左側を通行したら違反行為です。
その国の法律はその国の領域内のみで適用されるというのが、基本的な管轄権の考え方です。
確かに国内の法律が自国領域を超えて適用されることもあります。これを域外適用といいますが、域外適用の代表的な考え方は属人主義(国籍主義)です。
これは管轄権の行使する対象を領域ではなく、人を対象とする考え方であり、日本でも刑法第3条には「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。」と規定されています。
罪を限定し、国外でその罪を犯した日本国民に対して管轄権が及ぶことが明記されています。
他には受動的属人主義というものがあります。
これは自国領域外で、自国民が甚大な被害を被ったときに自国民を守るために管轄権を行使するものです。
日本では刑法第3条の2で「この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。」と規定されています。
次に揚げる罪とは、殺人・強姦・傷害・強盗などの凶悪犯罪です。
受動的属人主義は国際法上、重大な人権侵害など一定の行為ついて条約を結んだ国家間で限定的に認められるものです。
7月3日にはカナダが、9日にはオーストラリアが香港との犯罪人引き渡し条約を停止させましたが、この条約を結んでいる国で中国を批判するような言論を行った場合、本当に逮捕される可能性があります。
幸い日本は中国・香港とこの条約を結んでいませんが、フランス、スペイン、イタリア、韓国などの国では中国とこの条約を結んでいます。
そういった国々での中国を批判するような言論がどのように扱われるのか、確かなことはわかりませんが、言論が取り締まられる可能性があるのです。
この日放送では香港国家安全維持法が上記のような法であることが十分に報道されていないため、下記の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。