2020年8月20日 報道ステーション

2020年8月20日 報道ステーション

8月20日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・様々な論点を取り上げた放送だったか
・政治的に公平な放送だったか

まずは放送内容を確認していきます。
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【スタジオ】
小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):黒人女性の副大統領候補。主要政党としては初めてです。

森川夕貴アナウンサー(以下森川アナ):アメリカ大統領選挙の投票まで残り2か月半となりました。政権奪還を目指している民主党は19日オンラインで開催されている党大会でカマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に指名しました。そして、その党大会ではこちらの方(オバマ前大統領の写真)。トランプ大統領を痛烈批判です。

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【VTR】
ナレーション(以下ナレ):民主党大会3日目。

高羽佑輔記者:こちら、ハリス氏の演説の会場なんですが無観客で行われるため支持者の姿はまばらで出入りする多くはメディアやその関係者です。

ナレ:それでも会場の外には…。

女性『非常に歴史的な瞬間をこの子に見せたかった』

ナレ:この日もオンラインでの開催です。その様子は各地でパブリックビューイングでも伝えられました。カマラ・ハリス上院議員が民主党副大統領候補に指名されその受諾演説が行われたからです。

民主党副大統領候補 カマラ・ハリス氏(以下ハリス氏)『私がこの場にいられるのは先人たちの地道な努力の証しです』

ナレ:まずは女手ひとつで自分を育てた母親のことから語り始めました。

ハリス氏『母からは公職につくことは偉大であり、正義のために戦うことはみんなの責務だと教えられました。その言葉を胸に私は弁護士、地方検事司法長官、上院議員になりました。母は私に人に尽くすことで人生の目的と意味が得られると教えてくれました。今この場に母がいなくて残念ですが空からきっと私を見守っているはずです』

ナレ:インド出身の母親からパイオニア・先駆者になれと育てられたハリス上院議員。副大統領候補としての警備上のコードネームをパイオニアにするほどその言葉にはこだわりを持ち、これまでにも実行してきました。例えば、カリフォルニア州の司法長官を女性が務めたのもハリス上院議員が初めて。ボディーカメラの着用を州の特別捜査官に義務付けたのもハリス上院議員が初めてでした。当時をよく知る仲間は…。

メリーランド州元司法長官 ダグラス・ガンスラー氏『女性が公職を全うするのはとても難しいことです。女性の司法長官は難しいかじ取りが求められていた。緩すぎても厳しすぎてもダメだったが彼女は完璧に職をこなしたのです』

ナレ:野心的すぎると揶揄されることもありますが身近な人はそれを長所とします。

大学時代の友人 ゲイル・ダンリー氏『若い頃から自分の力強さを自覚している女性でした。その力強さに加えて才能があり、恐れを知らない。それがカマラであり「上院議員」や「司法長官」――そして副大統領に求められる資質を持っているのです』

ナレ:民主党が一番期待しているのはマイノリティー票と女性票を取りまとめトランプ大統領再選阻止の原動力になることです。それを理解しているのか演説では…。

ハリス氏『ドナルド・トランプの失政によって命と生活が失われています。新型コロナウイルスは私たちみんなに街を及ぼすもの。決して平等ではありません。苦しみ亡くなるのは黒人、ヒスパニック、先住民の方々です。これは単なる偶然ではなく構造的な人種差別の影響なのです。はっきりと言いましょう。人種差別にワクチンは存在しません。私たちの手で撲滅するしかないのです。』

ナレ:そして、この日は今でも絶大な人気があるオバマ前大統領も演説をしました。

オバマ前大統領『大統領職をリアリティショーにして目立ちたいだけなんだ。ドナルド・トランプは大統領の器として成長できなかった』

ナレ:言わずにはいられない。そんな危機感がにじみ出る演説でした。

オバマ前大統領『パンデミックのような大きな問題を協力して解決するには“でっちあげ”ではなく、事実、科学、ロジックに忠実であるべきだ。これに議論の余地はないはずだ。共和党、民主党の主義主張ではなくアメリカの基本理念だ。人として最低の衝動がむき出しとなり、アメリカの評判は地に落ちた。民主主義制度は危機にある。我々の民主主義に新しい意味を持たせるのはみなさんだ。より良い世界へ導くのもみなさんだ』

ナレ:トランプか、アメリカかを有権者に問うのは民主党の戦略の1つです。そのためか政策より理念に偏っていた印象は否めません。

ハリス氏『これから何年も先、子どもや孫たちが皆さんの目を見てこう質問するでしょう。「国が危機だったころパパやママはどうしたの?」「どんな様子だった?」その子たちにこう言いましょう。「その時に自分がどう感じたか」ではなく「その時自分が何をしたか」を』

ナレ:ハリス上院議員の受諾演説を聞いた人たちの感想は…。

ミシガン州の有権者『彼女の演説には感動したが反論に時間をかけすぎだ』

CNNのコメンテーター『また涙が出そう。化粧を直したばかりなのに。黒人女性の意見をくみ上げて共感してくれる人が副大統領になれば黒人女性の歴史は永久に変わることになる』

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【コメンテーターによる解説】
森川アナ:多くの女性の心に響くような演説だったようにも見えるんですけれども梶原さん、いかがですか?

朝日新聞国際報道部記者 梶原みずほ氏:非常に印象的だったのはスピーチの冒頭です。実は、アメリカでは女性が参政権を獲得してから今月でちょうど100周年なんですね。そこからスピーチが始まったということです。そこで思い出したのは4年前の大統領選挙。ヒラリー・クリントンさんがトランプ氏に負けた時のスピーチでガラスの天井を打ち破ることができなかったと言いました。このガラスの天井つまり、社会の中に女性を阻む壁があったということなんです。今回のハリスさんどうでしょうか。輝かしいキャリアを持っていて実績があって能力のある女性政治家が男性たちからどこまで共感し支持を得られるのか。これが大統領選を見るポイントの1つだと思います。

小木アナ:こうやって見ていくとバイデンさんが主役なのかハリスさんが主役なのかちょっと分からなくなってきましたけど確かにハリスさんの人気が左右するっていう可能性は十分ありますよね。

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【検証部分】

ハリス氏、ヒラリークリントン氏など、米民主党女性大統領候補の話題が中心でした。
共和党やトランプ大統領の主張などが紹介されることなく、CNNなどアメリカの左派メディアの放送をそのまま流していたかのような放送でした。

さて、今回検証したいのはハリス氏の人物像についてとクリントン氏が当選できなかった背景についてです。

ハリス氏の人物像については8月12日の報道ステーションレポートでも取り上げましたが、ハリス氏は左派からカリスマ的支持があるわけでもなく、副大統領としての能力についても疑問符がつきます。

米国政治に詳しいアナリストの渡瀬氏は次のように述べています。

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カマラ・ハリス自体は前述の通り黒人ではあるものの、父は大学の経済学者、母はがんの研究者であり、エスタブリッシュメントの家庭の生まれだ。そして、その夫もユダヤ系の裕福な弁護士である。投票履歴などは民主党リベラルに忠実な履歴は持つものの、左派系からのカリスマ的な支持を集められる人物ではない。

上院議員経験はあるものの、任期1期目の途上に過ぎず、外交・安全保障に関する知見が十分にあるわけでもない。仮にバイデンが何らかの形で大統領職を退く場合になった際、その職務を代行できる能力が十分にあると証明できておらず、副大統領の職を任せるのは明らかに過剰評価だろう。その明快なキャラクターは切れ味はあるかもしれないが、見方によってはヒラリーと同じ嫌味が漂うところもある。

渡瀬裕哉《バイデンの副大統領候補者「カマラ・ハリス」選択の死角
https://www.newsweekjapan.jp/watase/2020/08/post-7.php
》より抜粋
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この日の放送はハリス氏の人物像について多面的に報じている放送ではない可能性があり、次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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また2016年の大統領選でヒラリークリントン氏が当選できなかった理由については放送では「社会の中に女性を阻む壁があった」と紹介しています。

しかし、実際はクリントン候補の政策上の問題も敗因の一つでした。

オバマ民主党政権からアメリカでは行きすぎたリベラル政策が取られていくようになりましたが、福井県立大学教授の島田洋一氏はクリントン候補が大統領となった場合予想されることとして次のように紹介しています。
(指摘されている内容は江崎道朗氏の『知りたくないではすまされない ニュースの裏側を見抜くためにこれだけは学んでおきたいこと』 (KADOKAWA 2018年)に記載されいる内容です。)

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・シェールガスなどの新エネルギー開発によって富を生み出すよりも、環境規制を強化することでエネルギー開発を阻止する(したがって、景気はよくならない)
・犯罪の被害者と同等以上に、加害者の人権を擁護する。
・男女平等のもと、大学での入学者は男女同数になるよう、成績と関係なく調整される。民間会社でも、女性幹部の数を法律で増やすように強制される。よって、昇進できなかった男性社員と女性幹部との軋轢が増していく。
・犯罪歴のある移民たちを逮捕することも強制送還することもできなくなり、都市部の治安がさらに悪化する

江崎道朗『知りたくないではすまされない ニュースの裏側を見抜くためにこれだけは学んでおきたいこと』 (KADOKAWA 2018年)
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人権を保護するあまりにそれまでのアメリカの価値観や常識を無視した政治をしようとしたため、アメリカ世論はトランプ候補を大統領に選びました。
女性差別が全くなかったと断言することはできませんが、決して女性差別一点のみがクリントン候補の敗因ではないといえます。

このような点を取り上げずに、民主党の女性候補ばかりを評価する放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(2)政治的に公平であること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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