2020年10月11日 サンデーモーニング(中編)

2020年10月11日 サンデーモーニング(中編)

10月11日のサンデーモーニングのレポート中編、日本学術会議の任命問題について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた報道であったか

まずは放送内容を確認していきます。

【VTR全文】
学術会議の拒否問題。いまだに拒否の理由は明らかにされていません。

8日・首相官邸前 
デモ参加者「勝手に決めるな、本当のこと言え」

木曜日、官邸前で行われた抗議デモに集まったのは大学生などの若者。日本学術会議が推薦した6人を菅総理が会員に任命しなかった問題はさらに大きな広がりを見せています。
月曜日、菅総理は「総合的・俯瞰的活動を確保する観点から今回の任命について判断した。」
この説明に任命されなかった1人、立命館大学の松宮教授は「なぜ名簿から落ちたのか 任命されていないのかについては理由は聞かされていない。人に言えない理由でしかない感じがした。」

政府と日本学術会議が真っ向から対立する会員の任命拒否問題。菅総理の会見の翌日、野党が問題にしたのは政府の2年前の法解釈でした。内閣総理大臣に推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない。しかし、1983年の政府答弁では推薦をしていただいた者は拒否しないと明言していたのです。

7日・衆院内閣委
立憲民主党・今井議員「これは小学生でも呼んだら表現は違いますね。解釈変更だと思われませんか。」
内閣府・大塚官房長「考え方を変えたということではありません。」

政府側はあくまで法解釈は変えていないと主張しました。実は、2016年と2018年、会議側が推薦した候補者に官邸側が難色を示し、補充できなかったことがありました。また、文部科学省で事務次官を務めた前川氏も2016年、文化功労者などを選ぶ審議会の委員選定でこんなことがあったと証言します。
元文科事務次官・前川氏「10人程度の候補者のうち2人差し替えろと言われた。これは任命するなと。学術分野の人の場合は’’安保法制に反対する学者の会’’に入っていた。安倍政権を批判するようなことをメディアで発言していたことがあった。」

疑問の声は与党内からも上がっています。
自民党・船田衆議院議員「解釈の変更をしたにもかかわらず、変更した事実を何も公表しないで任命するときに初めて’’任命しない’’と言葉悪いですけど闇討ちみたいな。」
政府への批判が高まる中、政府・与党は学術会議の在り方を見直す動きを見せています。

9日・内閣府
河野行革担当相「年度末に向けて予算あるいは機構 定員については、聖域なく例外なく見ることとしております。」

7日・自民党本部
自民党・下村政調会長「政府に対する’’答申’’は2007年以降出されていない。学術会議としての活動が見えていない。」

これに対し、元学術会議会長の広渡氏は強く反論。

9日・野党合同ヒアリング
元学術会議会長・広瀬東大名誉教授「’’答申’’がないというのはあなた方(政府)が諮問しなかったからですよということだけなんですよ。喜んで喜んで活動するわけですから、どうぞ諮問していください。」

野党側は論点のすり替えだと批判。
任命拒否の理由を明らかにするよう強く求めましたが菅総理は…
9日・首相官邸
菅首相「総合的俯瞰的活動を確保する観点からふさわしいと判断される方を任命してきた。今回の任命について変更することは考えておりません。」

かつて学術会議の会員を務め、2年前にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶氏は危機感を抱いています。
ノーベル医学生理学賞・本庶京大特別教授「理由が明確にできないということは都合が悪いんじゃないかと 理由自身が。もし理由を開示せずにこういうことが行われれば極めて危険なことです。」

政府と日本学術会議の関係はどうあるべきか。改めて問い直す必要がありそうです。

スタジオでの水野アナの説明
会員候補6人が任命されなかった問題なんですが総理や政府は、総合的・俯瞰的活動を確保する観点から判断したと依然、具体的な理由は明らかにせずここにきて自民党や政府からは、学術会議の在り方を見直す方針が示されました。野党は、論点のすり替えだと批判しています。そもそも会員の選考というのは政府が関わりながら法律を変えて決めてきました。設立当初は全国の科学者による公選制だったんですが組織票に左右される問題が浮上。そこで各学会が推薦するという制度に選考にしたんですが、出身学会の利益が優先されるという懸念から今の学術会議が推薦する制度に変わってきたという背景があります。日本学術会議の大西隆元会長は、違う基準で拒否したとなれば法律違反になると強調しています。この問題は日本だけにとどまらず、世界的に権威のある科学誌「ネイチャー」までもが取り上げ政治家が学問の自律性や自由を守るという原則をないがしろにしていると問題視しているのです。

【コメンテーター発言内容】
関口氏(全文):早くも学術会議の改革論なんていうのが出てきちゃうんだけどいやいや、その前にちょっと待ってください、この問題、片付けてからにしてくださいと僕なんて思うんですが。田中秀征さんはどういうふうに?

田中氏(全文):そもそも学術会議というのは、戦前・戦中に違う意見を封じ込めてきた、その反省のうえに立っているわけですよね。ですから違う言葉で言うと、学術会議というのは政府と違う意見、見識がそこから提言されることを期待して存在している。だから距離を置いてそういう意見を期待している。政府と同じ意見であれば、それは政府内に審議会を設けてやればいいだけの話、学者を集めて。だから、学術会議というのは政府と違う意見がなかったら、存在意味もないですよ、私から言わせれば。見失っている所、見落としている所を学術会議が学問的立場からきちっと提言していくというところにあるわけですよね。今回、おととい、菅総理が名簿を見てないということをおっしゃったですよね。僕はそれで声を出すくらいびっくりして、名簿を見ていないで99人を任命したと。あとの6人は見てないってことなんですよね。だったら、これは逆に言うといい機会だから、6人も含めて任命し直してもらいたいというふうに思いますね。だからもう1つは6人は誰が任命しない、除外したのかということも明らかにしないといけない、なおかつ処分しなきゃいけないですよね、そうした人間をね。勝手にやったんだから。そのうえで僕、70年たったからそろそろ検証する必要があると思うんですよ。学術会議の意義までね。もっと強く憲法23条との学問の自由というのを強く打ち出す、それから中立性とか独立性というものを書き込むという形でもう一度改正するなら、それは賛成ですよね。ただ、自民党の中でやるような話じゃなくて、自民党や政府と離れたところに第三者委員会を作って検証するというのは、そういう機会が訪れたんだろうと思いますね。

元村氏(全文):秀征さんがおっしゃった99名の名簿しか見ていないという発言、これ、重大です。法に基づいて総理が任命すると明記されているのに、総理が知らなかったということであれば、誰が削ったのということになりますし、もしかして口を滑らせたということであれば今、湧き上がっている在り方問題、聖域なく見直すということこの状況が何となく総理の失敗を隠すような作戦に見えてしまうんですね。「総理のご意向」という一言でいろんなことが起きた、加計学園の構図にも似てきますね。在り方を見直すという議論は、この問題が片付いてから見直すかどうかも議論すべきだと思います。

関口氏(全文):青木さん、元へ戻すわけにもいかんでしょう、ここまできたら。

青木氏(全文):6人別に任命すればいいと思いますよ、僕は。会議の在り方なんていくらでも見直すんだったら見直せばいいんですよ。ただ、6人の方を何で排除したのかをせめて説明してもらわないと、ちまたでは政権の意向に反するようなことを言っていたからじゃないかというふうに思われちゃってるわけですよね。この議論をしてるときに、ネットなんかもそうだし政権も言っているんですけど、国費を投入しているから、税金を投入してるから当たり前だみたいなことを言うんだけれども別に税金って、国費って、時の政権のものじゃなくて納税者全員のものなわけですよね。基本的には多数決でそれを運営していくんだけれども、一方で少数者、時の政権に疑問を呈する人とか批判をする人の意見も大切にして運営していかないと、それがある意味で差別とかヘイトは論外なんだけれども、多様性とか社会の進歩ということを担保するわけですよ。だからこれ、6人がなぜ排除されたのかをせめて最低限説明して先に行かないと学術会議の在り方を見直すとかは別の話ですよね、おっしゃるようにね。

関口氏(全文):今週はノーベル賞の話題がたくさんあったんですよね。こういうところがちゃんとしてないと、ゆくゆく日本人からノーベル賞がどんどんでなくなっちゃうような、何かつまんない心配を僕はしているのかもしれないけど。

田中氏(全文):非常に自由な空気があったから自由な研究が成り立ったわけだから。

【検証部分】
今回検証するのは、田中氏の発言「6人は誰が任命しない、除外したのかということも明らかにしないといけない、なおかつ処分しなきゃいけないですよね、そうした人間をね。勝手にやったんだから」、青木氏の発言「税金って、国費って、時の政権のものじゃなくて納税者全員のものなわけですよね」に関してです。両氏の発言を順に検証します。

まず田中氏は、今回の任命拒否問題における任命者について言及しています。任命者が総理以外の人であると断定したうえで、その任命者を処分しなければならないとしています。しかし、任命者が菅総理でないという内容は、菅総理自身の発言や官邸の説明と完全に矛盾しています。
今回の学術会議の会員の任命は、学術会議の推薦にもとづいて、政府の事務方がリストをチェックし、菅総理が最終決定を下すという流れでした。つまり、最終決定を下したのは菅総理であり、任命権を総理以外が行使したという事実はありません。
田中氏が問題としているのは、6人の除外は、誰の意向が反映された結果なのか、総理の意向がすべてではないのではないかという指摘であると考えられます。しかし、仮にそうであったとしても、任命権を菅総理が行使している以上は違法にはなりません。もっとも、菅総理も6人が事前の選考に漏れていたことは認識しており、勝手にやったという指摘も当たりません。
そもそも、首相に任命権があるからといって、首相自身が単独ですべてを決めねばならないということではありません。あくまで首相の役割は最終的な決裁を下すことであり、任命までのプロセスに総理以外の人が関わっていることには何ら問題はありません。首相は行政府の長として、ある程度官邸など周囲の人に裁量を与えつつ、最終的な決定権を持ちそれに責任を負うというのがまっとうな形ではないでしょうか。全てを菅総理自身が行い、他の人が関わってはいけないという仕組みでは、膨大な業務を抱える行政府は機能不全に陥ってしまいます。

次に青木氏の発言に関してです。青木氏は政府と学術会議の関係のあり方ついて、学術会議は納税者全員のものであり、政権は介入してはならないとしています。しかし、納税者全員のものである学術会議として、従来の任命方法は適切なのでしょうか。
従来は、学術会議の推薦名簿の記載通りに会員が任命されてきました。つまり、実質的な決定権は推薦名簿を作成する学術会議の関係者が握っていたことになります。これは納税者全員のものであるという立場を反映していません。一方で総理大臣は、国民の選挙で選ばれた国会議員の中から、国会の議決によって指名されます。つまり、総理大臣は間接的に国民の意思によって選ばれた代表といえます。
たしかに、青木氏の指摘するように少数者の意見も尊重されなければなりません。その意味では総理大臣1人が任命者であるというのは制度として不十分であるかもしれません。しかし、少なくとも学術会議が実質的な決定権を握っているよりは民主的な制度であるといえます。加えて、総理大臣はある程度自由に権力を行使することができますが、それは常に国民から監視されていることも考えなければなりません。少数者の意見を排除するような政治を行うことは可能ですが、それによって国民からの支持を失えば、次の選挙で信任を得られなくなってしまいます。ですから総理大臣は、少数者の意見をないがしろにした行政は行えません。一方で会員の任命を内部の一部の人で行う場合には、そのような仕組みはなく、さまざまな意見を取り入れられない恐れがあります。

田中氏、青木氏ともに、政府の行為を批判するばかりで、現在の制度や学術会議のあり方に十分に言及していません。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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