2020年12月27日 サンデーモーニング(後編)

2020年12月27日 サンデーモーニング(後編)

12月27日のサンデーモーニングのレポート後編、イギリスのEU離脱における基本合意の成立について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた報道であったか

まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR】(要約)
12月24日の木曜日。今年1月にEUから離脱、将来の関係について交渉を続けていたイギリスが、EUとの間で自由貿易協定などを巡り基本合意した。この交渉が決裂すれば移行期間が終わる年末年始に大混乱が起きるのではないかと懸念されていたが、協定の締結期限が1週間後に迫る土壇場で決着。混乱は回避された。今回の合意で年末以降もEUへの輸出品には引き続き関税がかからないが、これまで求められていなかった手続きが必要になるなど、さまざまな分野でEUとの関係にハードルが生まれる恐れがある。

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【コメンテーターによる解説】
寺島実郎 氏(以下寺島氏):何とかギリギリ、自由貿易協定という形で関税ゼロで大陸側の欧州とイギリス側の妥協ができたというふうに見えるんですね。だけど、イギリスが静かなる衰亡に向かってヒト、モノの移動の自由を失っていくのは間違いないんですね。そこでちょっとこのブレグジット、EUからイギリスが離脱する、特に来年2021年に向けてユーラシアの地政学の中でということでちょっと考えるヒントとしてこういうものを作ってみたんですね。(表)

(放送では以下の内容が書かれた表が出されました)
<BREEXITの地政学>
【GDP比重(%)】【2000年】【2020年】
【米国】【30.3】【24.8】
【英国】【4.6】【3.2】
【日本】【14.4】【6.0】
【計】【49.3】【34.0】

要するに我々は今、世界の大きな流れの中でアメリカがリーダーとしての役割を次第に失っていっている。アメリカの衰亡が問題なんだと思いがちなんですが、実はアメリカにとってユーラシア大陸の西端の同盟国である英国と東端の同盟国である日本の衰亡がアメリカの衰亡に拍車をかけているんだという見方が、ワシントンのある筋から強く出てくるんです、我々からするとびっくりするんですけれども。どういうことというと、2000年21世紀が始まる前の年、これ2020年となっていますが、19年の数字なんですけれども、アメリカの世界GDPに占める割合は30.3%から24.8まで静かに落ちたんですね。これはコロナ以前に落ちてたんです。英国は4.6から3.2に落ちました。日本は21世紀を迎えるころ、世界GDPの14.4%を占めていたのが去年6.0まで落ちちゃったんですね。ここで考えておかなきゃいけないのは3つの、アメリカを中核にしたユーラシアの同盟国が世界GDPの約5割を持ってたんです、21世紀を迎えるころには。それが僅か34%にまで落ちてきた。コロナのトンネルを抜けた先の2025年には3割を割っているだろうと言われている。それが何の意味があるのっていうと、アメリカという国が大陸側の欧州とつながりを持つうえで英国が果たしてた役割って、ものすごく大きいんですよ。つまり、イラク戦争のときを思い出していただいても分かるとおり、アングロサクソン同盟っていう言い方がありますけど、アメリカの欧州に対するリンクというところで英国が果たした役割がすごく大きいんです。ブリグジットはそれを失ってしまうというか、アメリカが欧州からどんどん隔絶されていくという、NATOとアメリカとの今の関係を注目していれば一目瞭然ですけどつまりブレグジットはアメリカを欧州から孤立させていく流れに拍車をかけるんじゃないか、更に日本がアジアの中でアメリカを孤立させてはいけないという役割なんですけれども、今、米中対立が激しくなっていく中で、アメリカと連携して中国と向き合おうという形で日本は選択をとっているんだけれども、それは中国以外のアジアの国々との間をどうするんだという大きな問題を抱え込むことになるんですよ。我々今日、考えておかなければならないのは来年に向けてブレグジットの話って人ごとじゃないんですよねと。アメリカを中軸にした同盟関係にある国々が世界史の中でこの先、どういう役割を果たしていくんだということに対して、大変考えるヒントを提供しているということを確認しておきたいですね。

関口宏 氏:この三国でもって減った分は中国ということを考えると?

寺島氏:それだけじゃなく、インドとかASEANの国が、つまりこのトンネルを抜けた先にはアジアダイナミズムなんです。アジアのダイナミズムと日本がどう向き合うかがですね、ものすごく大きな課題になってきます。

【検証部分】
今回は、イギリスのEU離脱に関する報道を取り上げました。また寺島氏からは、「BREXITの地政学」というタイトルの解説がなされました。
今回問題となるのは、寺島氏の指摘が、一面的な視点から行われていたという点です。

該当するのは、「アングロサクソン同盟っていう言い方がありますけど、アメリカの欧州に対するリンクというところで英国が果たした役割がすごく大きいんです。ブリグジットはそれを失ってしまうというか、アメリカが欧州からどんどん隔絶されていくという、NATOとアメリカとの今の関係を注目していれば一目瞭然ですけどつまりブレグジットはアメリカを欧州から孤立させていく流れに拍車をかけるんじゃないか」、「今、米中対立が激しくなっていく中で、アメリカと連携して中国と向き合おうという形で日本は選択をとっているんだけれども、それは中国以外のアジアの国々との間をどうするんだという大きな問題を抱え込むことになるんですよ」の2箇所です。順に確認します。

1箇所目では、寺島氏はイギリスのEU離脱によりアメリカが欧州から孤立していくと指摘しています。
たしかに、イギリスのEU離脱によりアメリカはヨーロッパ諸国とのパイプを1つ失うことになります。しかし、それは必ずしも「隔絶」や「孤立」を意味するものではありません。

冷戦期にアメリカは、イギリスを中心としたヨーロッパ諸国に安全保障、経済などの面で絶大な影響力を持っていました。冷戦後も、西欧諸国と協力しながら東欧や中東への関与や介入を行ってきました。ここではイギリスはアメリカとヨーロッパを繋ぐ役割を果たしてきましたが、アメリカがイギリスを通して一方的に影響力を行使するというのは、アメリカが絶対的な覇権を持った状況で起きうるものでした。
しかし冷戦後30年ほどが経過した現在、アメリカの絶対的な立場は失われつつあります。それに伴い、アメリカと欧州の関係は、冷戦期の覇権国と周辺国というものではなく、対等に近い大国同士の関係となりつつあります。
また、アメリカは他地域への関与を減らしており、イラク戦争の時のようなヨーロッパ諸国を巻き込んで介入を行うということも考えにくい状況にあります。
ですから、かつての米英同盟が果たしていたような、イギリスを通して覇権国であるアメリカがヨーロッパに対して影響力を行使し、追随させるという役割は、BREXIT以前に失われていたといえます。

アメリカが一方的に影響力を行使し、諸国を従わせる状況で第3国は重要な役割を果たしますが、対等な外交関係においては、両国間での対話が一番に重要視されます。既にそのような関係が構築されつつある中で、イギリスがEUを離脱することによって、アメリカがヨーロッパから「隔絶」、「孤立」していくというのは考えにくい、言い過ぎであるという意見もあります。

2箇所目では寺島氏は、日本はアメリカと連携して中国に対峙しようとすると、アジアの国々との関係が問題になると指摘しています。

しかし実際には、日本は「自由で開かれたインド太平洋構想」などの、アジア諸国との関係の緊密化を図っています。寺島氏はアメリカを中心とした同盟関係を前提に話をしていますが、実際に日本が推し進めているのは、アメリカを軸とした同盟というよりむしろ、アメリカを一構成員とする多国間の連携です。中国に向き合うという点から見たときにも、日本はアメリカばかりと関係を深めるのではなく、アジア諸国との関係を深めているといえます。オーストラリアやインドは通商問題や領土問題などで中国と激しく対立しており、東南アジア諸国などは中国からの経済的な恩恵を受けつつも、領土紛争や軍事面などでの対立を深めている国が多くあります。つまり対中国という点で、日本とアジアの国々とは利害を共有している面が大きいといえます。

このような事実を踏まえると、日本がアメリカと協力し中国と向き合うと他のアジア諸国との関係が問題となるという寺島氏の指摘は、当てはまらない可能性が高いとも考えられます。

今回の報道では、寺島氏のアメリカを中心とした同盟に関する考察に関して、一面的な分析による指摘が2点見られました。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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