サンデーモーニング、2019年1月20日分の検証報告(前編)です。
今回の報告では、
厚労省の統計問題について報道された部分
沖縄県民投票における自民党議員の指南書配布について報道された部分
以上2点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを2つに分け、前後編でお送りいたします。
前編で検証するのは、
厚労省の統計問題について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
【VTR要約】
ハローワークで雇用保険給付の手続をする人の姿が流され、安倍首相が「万全を期して必要な対策を講じてまいります」と質問に答える映像へと切り替わる。本来給付されるべきだったお金は総額564億円にのぼるとアナウンサー説明。続けて不適切な勤労統計調査によって給付額が減ったことをアニメーションとともに簡単に解説し、急遽、政府は来年度予算案を修正したことをアナウンス。既に閣議決定された予算案の修正は極めて異例だと述べた後、不正を指摘した西村氏へのインタビュー映像に切り替わる。西村氏が「危機的な状況だ」と一言話してCMへ。
CM後、不適切手法発覚の経緯をCGで再現。厚労省との打ち合わせで、西村氏が抽出調査で行うことは法令違反だと詰め寄ると、厚労省担当者は無表情のまま無言だったと説明して再びインタビュー映像へ。西村氏は電話でのインタビューで、特段まずいことをやっていたという意識がなく唖然としたと語り、これが根本厚労相に報告されたのは1週間後(12月20日)で、調査結果が公表されたのは年明け後の1月11日だったとアナウンス。
立憲民政党ヒアリングでの質疑応答映像に切り替わり、厚労省担当者が質問に答えるなか「すり合わせして口裏合わせるようなことやっちゃいけませんよ」と逢坂議員が声を上げる様子が流される。歴代の厚労相は報告や相談はなかったとしているが、厚労省は抽出調査を容認するマニュアルを作成しており組織的関与が疑われていると説明。さらに、厚労相は抽出調査を全数調査に近づけるデータ補正を始めていたと説明した。その後、野党合同ヒアリングの映像に切り替わり、野党と総務省担当者が厚労省側を批判する様子が流される。今後、政府は追加給付を行うとしているが、調査データの一部は廃棄されていることが述べられた後、“実態解明は進むのでしょうか?”と疑問を呈してVTRは締めくくられる。
【アナウンサーによるパネル説明】
不適切な調査の経緯をパネル説明
・東京都での抽出調査を開始したのは2004年坂口大臣のときだった
・当時厚労省は、抽出調査を容認するマニュアルを作成し2015年に削除されていた
・15年間にわたり不適切な調査は続き、2016年には総務省に「全数調査」との文書を提出していた
・2018年1月にデータ補正を開始した後、現金給与総額が3.3%増加という異例の伸び率になった
・これに対し2018年12月に総務省から「この統計は不自然」と指摘されていた
・野党側は、アベノミクスによる賃上げアピールではないかと追及を強めている
・統計不正の影響は延べ2015万人、総額564億円にのぼり、GDPの計算や景気判断にも及ぶとされている
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【コメンテーターの発言】
姜尚中氏(要約):国家の土台になるデータがあやふやだいうことは、国家の信用がないということ。企業であれば背任行為になる。ただ吊し上げるだけではなく、いま包括的で独立した統計局が日本にはないので、全体から独立した包括的な統計局を作るべき。吊し上げもいいが、どうしたらいいのかを少し考えたほうがいい。
幸田真音氏(要約):一回閣議決定した国家予算を変えるなんて聞いたことがないのでこれは由々しきこと。統計は国のインフラだと思うが、ただ責めるのではなく何故こういうことが起きたか(を考えるべき)。調べてみると、ここ15~16年で統計局の職員も予算も6割カットされているという。統計的にサンプリングの方がよい場合もあるので、変えるなら堂々とやればいいと思う。コッソリやったということが大きな問題。国の信用にも関わるのできちっとやり直してほしい。
中西哲生氏(要約):効率的な調査をするためなのか、景気判断の結果を裏付ける内容にするためなのか、両方からの判断が必要だと思う。そちら(景気判断)の方から導き出してるような調査であれば、それはすごく問題。
涌井雅之氏(全文):これはあの、実質的に厚労省が調査してるかというとですね、多分この統計は都道府県へ委任するんだろうと思うんですよ。都道府県に委任する。したがって調査をやるのは自治体なはずなんですよね。ですから、一片の通知で全数調査だろうがサンプリングだろうがですね、どっちだってできるはずなんですよ。私、一番今大きい問題は何かというと、最近の行政はですね、最も国家の中庸でなきゃならない行政が、政治的指示があるのではないかと疑われるような、そういう対応をやるっていうものがものすごく続出してますよね。財務省にしても何にしても。やっぱりここはですね、行政官がですね、如何に中庸であるべきなのか、ましてや国家の羅針盤である統計について、そうした恣意を働かせるようなことがないということをできるだけ自覚するってことがすごく大事だと思います。
青木理氏(全文):さっき姜さんからね、統一した統計局、統計みたいなものを作る必要があるって、まったく賛成なんですけど、実は戦前、統計院ってのを最初に作ったのは早稲田の創始者の大隈重信なんですよね。大隈重信は要するにこう言ってるんですね。「国の現状を正確に知らないと政治はできない」と。それから、「過去の政策の結果と比較しなければ政策の良し悪しも判断できない」と。つまり、まさにおっしゃったように、本当にこれ国家の土台なんですよね。だから料理でいったら、和食にするか洋食にするかは政治の判断だけれども、材料が、量が違うとうまいものができるはずがないんですよね。だから、本当非常に重大な事態で、今回に関していうと、確かにこれは安倍政権の前からやってたんですよ。だからこの原因は何なのかっていうね、中西さんがおっしゃったことを追記するのと、でもやっぱり、今回その入管法改正とかね、あるいは働き方改革なんかで、どうもずさんなデータとかデタラメなデータとかデータが隠されたりってのがいっぱい出てきてるのは、やっぱり政治にこういう官僚の統計までがついに引っ張られ始めてるんじゃないかっていうあたりの重大性ってのは、本当に深刻な問題だと思いますよ。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の2点です。
1、涌井氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
3、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
それぞれ順を追って解説します。
1、涌井氏の発言に、視聴者に誤った印象を与えかねない内容が含まれている
涌井氏は今回の報道で、以下のように述べています。
涌井氏(抜粋):(前略)私、一番今大きい問題は何かというと、最近の行政はですね、最も国家の中庸でなきゃならない行政が、政治的指示があるのではないかと疑われるような、そういう対応をやるっていうものがものすごく続出してますよね。財務省にしても何にしても。やっぱりここはですね、行政官がですね、如何に中庸であるべきなのか、ましてや国家の羅針盤である統計について、そうした恣意を働かせるようなことがないということをできるだけ自覚するってことがすごく大事だと思います。
要旨をまとめると、
・行政は政治の中庸になければならない
・最近は政治的指示があるのではと思われる対応が続出している
・統計が政権の恣意によって左右されてはならない
というものです。
しかしながら、
・政治的指示に関する確たる証拠はない
・統計は手続き上のミスで、かつ2004年から存在しており、安倍政権の政治的意図などがあるとは言えない
などという、発言の趣旨とは異なる事実や見解が存在します。
以上のことから、今回の報道での涌井氏の発言は事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「今回の統計ミスは安倍政権の影響が大きい」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「2004年から行われてきた統計手法が不適切だったという問題であり、安倍政権の意向はまったく関係ない」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の前編となります。前編では、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
この続きの
厚労省の統計問題について報道された部分における
検証3「青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている」
ならびに、
沖縄県民投票における自民党議員の指南書配布について報道された部分
については、後編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。