2020年10月28日 サンデーモーニング(前編)

2020年10月28日 サンデーモーニング(前編)

10月18日放送のサンデーモーニングのレポート前編、日本学術会議の任命拒否問題について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた放送であったか

まずは放送内容を確認していきます。


【VTR要約】
日本学術会議任命拒否問題で、菅氏は6人が除外される前の推薦リストを見ていないと話したことで野党が追及を強めました。13日、除外される過程に事務方が関わっていることが明らかになりました。加藤官房長官は「一人一人総理が任命を一つ一つチェックしていくわけではなくて、事務方にそうしたものはいわば任せていて処理していく。」と述べました。
その事務方とは内閣官房副長官の杉田和博氏で、第2次安倍政権発足以来官僚のトップにおり2017年からは内閣人事局の局長も務めています。杉田氏は菅総理に「今回任命できない人が複数いる」と事前に説明していました。
立憲民主党・枝野代表「報道では官房副長官の名前が出ていますが、総理がご判断しないで他の人が判断したということであればそのこと自体の適法性が疑われます」と述べました。
14日、民主党は学術会議の在り方を検討するプロジェクトチームを発足。出席した議員からは、「10億円の国費が投じられているにもかかわらず、政府に提言が生かされていない」などの声が上がりました。学術会議は、戦前・戦中に学問や思想が抑圧された反省に立ち政府からの独立性を重んじてきました。
神戸女学院大学・内田名誉教授は「学問的な発信力・生産力というのは、政権に対するイエスマンを集めたことによって向上するということは絶対ありません。」と話しました。
京都大学・益川敏英名誉教授は「菅首相がこんな乱暴なことをしたということは歴史上、長く糾弾されるだろう。戦争の反省の上に作られた日本学術会議に汚点を残すものである。」とコメントしました。
16日、学術会議の梶田会長が菅総理との会談に臨み要望書を手渡しました。
総理から具体的な説明はあったかと問う記者に対し、梶田会長は「今日はそこの点について特にご回答を求めるという趣旨ではないので、明確なことがどうこうということはないです。」「要望書はお渡ししたけどそれについてはお答えがなかった。」などと話しました。
菅総理は「梶田会長とコミュニケーションをとりながらお互いに進めていこう そういうことで合意を致しました」と述べました。

スタジオでの説明。
105人のリストは見ていないという菅総理の発言は波紋が広がっています。日本学術会議は内閣府に105人を推薦するも、杉田官房副長官が事前に任命できない人が複数いると菅総理に説明し、菅総理が目にしたのは99人のリストでした。加藤官房長官は「105人の名簿は参考資料として添付されていた」と説明しましたが、結局誰がいつなぜ99人にしたのかは不明です。野党は関与が濃厚な杉田官房副長官の国会招致を与党に求めています。自民党は学術会議について議論するプロジェクトチームの初会合を開きましたが、議題は予算や組織の在り方で、野党からは論点のすり替えだと批判が出ています。学術会議の在り方を巡っては政府自らが設けた有識者会議で5年前に「国の機関でありつつ法律上独立性が担保され政府に勧告を行う権限を有している制度は日本学術会議に期待される機能に照らして相応しいものである」と結論付けています。

【コメンテーター発言内容】
目加田氏(要約):梶田会長と菅氏の会合で、お互いに協議していきましょうと和やかな雰囲気が演出されていて私は残念に思った。今回の任命拒否は学問の自由の侵害であり、政治が介入することは抑制的であるべき。民主主義では政府が必ず正しい判断を下すという前提ではない。独立した機関にアドバイスを求めて、より優れた民主的な意思決定ができるようにする制度が担保されている。公金が投入されているからといって政府の意のままに動かなければいけないとか、白紙委任を得たように独自に判断できるというのは非常に危険な発想だと思いますし、やはり菅さんはどうして6人を任命拒否したのかきちんと説明する責任があると思います。

寺島氏(要約):権力がすべてなんだ、権力の下に言うことを聞くべきだという時代を作ってしまったら必ず道に迷う。優秀な人材が行政官僚になるのが日本の強みだった。しかし忖度官僚の束を見ていますから、学生が官僚になりたくないとなっており日本の劣化に繋がる。

松原氏(要約):会合の会見で会長が未来志向の話をしたのが違和感で、過去の任命したことの説明の理由を一番求められているときになぜ未来なんだ。任命拒否の説明がないままに、学術会議のありようのプロジェクトチームができたり、河野大臣が行革の対象にすると言ってみたり菅総理自身も税金を投入している機関としてふさわしいかどうかみたいなことを繰り返し言っている。税金使ってるのにとにかくたてつくなとか聞こえてくる。このままでは学問だけに限らず、文化芸術、公的資金が投入されているところに萎縮効果は拡大するんじゃないかという気がしますね。

【検証部分】
今回の報道では、コメンテーターからそれぞれ以下のような発言がありました。目加田氏からは、政府は必ずしも正しい判断をするとは限らないので、独立した機関からの監視によって民主的な意思決定が可能になると、寺島氏からは民主主義の価値が揺らいでいると、松原氏からはなぜ過去の任命についてではなく未来の学術会議のあり方に論点が移っているのかというものです。これらの発言内容について検証します。

まず、目加田氏と寺島氏の発言について検証します。2人の主張は、このままでは日本の民主主義が崩されかねないというものでした。
ここで、そもそも民主主義とは何かについて考える必要があります。民主主義の原則は、国民の政治参加、国民自身による政治です。つまり、政府の間違った意思決定を監視し、正す主体は国民であるのが民主主義国家のあるべき姿です。
目加田氏の言うように独立した機関による監視にも一定の合理性はあります。しかし、従来の学術会議にその機能が期待できるでしょうか。従来の学術会議は、一部の人々の間で推薦リストが作成され、そのリスト通りに任命が行われてきました。つまり、実質的な決定権は一部の有識者が握っており、国民がそのプロセスに関与することができない状況です。これでは国民の意思を反映させることは難しく、民主主義とはかけ離れたものとなってしまいます。
日本では、国民が国会議員を選び、その国会議員の中から総理大臣が選出され、行政府の長となります。そのため、内閣総理大臣が学術会議の人事に関して決定権を持つことは、民主主義的な観点からいえば全く問題はなく、むしろ望ましいあり方だといえます。そして今回の任命拒否について、6名が学術会議の会員にふさわしいかどうかを国民が判断し意思表示する場は、選挙という形で確保されています。これまで一部の有識者が決定し、国民が関与することが難しかったのに比べ、選挙という形ではっきりと意思表示することが可能となり、国民の意思に基づいてあるべき方向に軌道修正することも可能になったということは、より民主的になったということができます。

次に松原氏の、未来のあり方ではなく過去の任命に目を向けるべきであるという指摘について検証します。
そもそも学術会議は、以前から公的資金が投入されている組織としてふさわしいか、権威主義的ではないかという疑問がありました。そしてそのような学術会議のあり方を検証し、改善することを目的として今回のプロジェクトチームは設立されました。
学術会議は行政府の一部であるため、公的機関としてのありかた、税金の使われ方を総理大臣や内閣がチェックし、正していくのは健全な政府のあり方ではないでしょうか。もしも文化芸術への萎縮効果を理由に政府のチェックが妨げられてしまうのであれば、一体誰が組織の間違いを指摘し改善することができるのでしょうか。実際に松原氏は、10月4日のサンデーモーニングで、以下のように発言をしています。
「日本学術会議については、学者たちの中でも例えば権威主義的だという批判も実際あったんですね。しかも、今回の問題が明らかになって以降、ネット上なんかでものすごく補助金がつぎ込まれてるじゃないか、特権階級じゃないかという批判も相当、意図的じゃないかと思われるぐらい流されているんですがこれはこれでもし問題があれば解決すればいいのであって今回の問題とは全く違うレベルの話だと思うんですね。」
つまり4日の放送で松原氏は、学術会議のあり方に問題があるのであれば解決すればよく、任命拒否とは別の問題だとしています。にもかかわらず、そのような学術会議のあり方に問題があるかどうか、どのように改善するべきかという議論が実際に行われると手のひらを返して批判をしています。
松原氏が4日に指摘したように、学術会議に関する問題は一つ一つ検討し解決していく必要があります。さまざまある問題をまとめて、政府は介入するべきではないという論調で批判することは、学術会議が行政府の一組織であることによって担保されてきた民主性を損ない、健全な組織のあり方から遠ざけてしまう恐れがあります。

このような論点が提示せずに、なされた放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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