2020年10月25日 サンデーモーニング(前編)

2020年10月25日 サンデーモーニング(前編)

10月25日のサンデーモーニングのレポート前編、アメリカ大統領選挙について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・政治的に公平な報道であったか
・さまざまな論点を取り上げた報道であったか

まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR】(要約)
 トランプ大統領とバイデン候補の最期のテレビ討論会では、前回トランプ大統領が討論中にヤジを発したことを踏まえ、各テーマの冒頭2分間で、片方のマイクの音声を切るという異例の対応がとられた。
 視聴者への調査では半数以上がバイデン氏勝利と判定しており、一方で6つの激戦州ではトランプ氏が激しく追い上げ、その差3.8ポイントに迫っている。両陣営が火花を散らすペンシルベニア州でトランプ大統領は2週連続の大規模集会を開いた。一方フィラルディフィア州ではオバマ前大統領が登壇し、トランプ大統領を名指しで批判しながらバイデン候補の応援演説を行った。
 また、SNSでも両陣営は相手方のネガティブキャンペーンを展開。相手候補を痛烈に批判する動画をアップしている。
 選挙戦終盤、トランプ大統領はアラブ首長国連邦、バーレーンに続きイスラエルとスーダンの国交正常化を発表。外交成果をアピールした。

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【パネル解説】(要約)
 24日に行われた期日前投票の票数は5200万人以上にのぼった。11月3日が開票日だが、郵便投票が増えたことで結果の判明が遅れる可能性は高い。集計が始まると、最初はトランプが優勢に見えるが、郵便の開票が進むにつれてバイデン候補の票が増えていくだろう。それを見越し、トランプ大統領が郵便票分を待たず勝利宣言をするというシナリオもある。12月14日に選挙人の投票が行われるが、そこでも決まらない場合には来年1月6日、下院の投票で決定する可能性も出てきている。

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【コメンテーターによる解説】(一部要約)
姜尚中 氏:幸運に政権交代が起きたとしても、トランプ氏は在任中に次政権が後戻りできないようなサプライズをやる可能性がある。それは10月にあると言われていた。スーダンとイスラエルが国交を結んだが、あれはそこまで大きなサプライズではない。これからもっと衝撃的なことを行う可能性はある。(要約)

法政大学総長 田中優子 氏:とにかく世界に影響を与える国ですから、何が私たちにとっても、問題なのかを見てるんですね。一つは気候変動への取り組みです。トランプさんは中国やロシアやインドのせいだと言っているだけでみずからの責任についてはパリ協定にも復帰しないつもりですよね。それに対してバイデンさんは、まずパリ協定に復帰することとそれから気候変動への取り組みを雇用につなげていこうとかなりはっきりした説をお持ちです。どちらがわれわれにとっていいかというのは明らかな気がします。それからもう1つは移民政策なんですけど、これも世界中の問題だと思うんですよね。トランプさんは、ただ不法だと言っているだけなんですけどバイデンさんの政策ってまず市民権獲得への道を開こうと500人の子どもたちが親から離されている状態です。これは人権が優先されるということを言っているわけですからこれも世界にとっては大きなメッセージだと思います。これもどちらがわれわれにとって、世界にとっていいかは明らかだと思います。そういう意味で、望ましいほうに行っていただきたいなと思います。

朝日新聞編集委員 高橋純子 氏:討論中にマイクを切るという事態は嘆かわしいとも思うが、オープンに政策を語り合う場があるというのは日本から見ればうらやましい。討論会の最期に、当選した場合の自分に投票しなかった人への対応について、トランプさんは、バイデンさんはみんなの税金を上げようとしているといったんですが、バイデン候補は投票先に関わらず、私は全員を代表する大統領であると答えた。自分に反対する人の代表も務めるという自覚が、民主主義のリーダーにとって一番求められることだと私は思う。(要約)

立命館大客員教授 薮中三十二 氏(以下薮中氏):皆さんおっしゃってるの、そのとおりだと思うんですね。私から見れば、日本にとって非常に大事なことですけど、国際政治というんですかね、今まで戦後75年間のシステム、それはアメリカを中心とした国際協調のシステムであったんですね。それがまさにこの4年間で崩壊しつつある。あと4年間、トランプさんだと完全に崩壊してしまうと、こういう状況だと思うんですね。だから、個人的には私自身はそうあってほしくないと思うんですがなかなか接戦です、最後まで。特にフロリダとかペンシルベニア、ミシガンとか言ってますけど、2016年にクリントンが勝つと言われていたのが逆転した。そのときちょうど1つの世論機関だけがあったんですね、トラファルガーというのが、それがすでに今回、トランプが取るとか言い始めました。この間の選挙の討論会でいえば、一言、クラッキングという言葉を使ったんですけれども、バイデンさんが石油産業に対して攻撃したと。シェルガス、水を大量に入れるのはだめだとあれをずっと使っているんてすね、反撃としてトランプさん。結局はそれがペンシルベニア、非常に大きなところですからどっちになるか、これは分かりませんね。もう一つは、大統領選挙について11月3日以降のことですけれども、今まで140年間ずっとアメリカで行われてきたことは誰が決めるか、誰が勝ったかというと敗北宣言をしたときに決まるんですね。ところがトランプさん、絶対、敗北宣言をしませんから。先ほどの郵便投票から言うと、あんなのは不正がいっぱいあったということを言い出してそれでギリギリ最後までいくと、そういうもつれた状況が本当に懸念されるというか予見されると思います。

ジャーナリスト 青木理氏:アメリカの新聞社の調査では、トランプ大統領は4年間で2万回うそをついたという結果が出た。学術会議の件でもそうだが、こういうデマを大手メディアや政治家がつくのはため息が出る。人のことばかり言っていられないんじゃないかという感じがする。(要約)

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【検証部分】
今回取り上げたのは、アメリカ大統領選挙に関する報道です。
この報道は全体を通して政治的な偏りがみられます。VTR、パネル解説の後に5人のコメンテーターからのコメントがありますが、ここでは5人全員がトランプ氏を批判する内容の発言をしています。
今回の報道の主題は大統領選挙であり、両候補の主張、実績を総合的に判断する必要があります。両候補の政策やこれまでの実績に対して、一面的な情報ばかり取り上げられてしまっては、各候補のよい面、悪い面を比較考量することができず、公平な視点から見ることができなくなってしまいます。

さらに今回の報道では、取り上げられる情報に偏りがあっただけでなく、その情報に対するコメンテーターの分析にも視点の偏りが見られました。該当する箇所を順に確認します。

まず、田中氏の発言に関してです。田中氏は今回の大統領選挙が与える、「われわれ」や世界への影響という点から、環境対策、移民対策を取り上げて発言しています。そもそもこの「われわれ」という言葉が具体的に誰を示しているのか明らかではありませんが、ここでは文脈を踏まえて「日本人」を指すものであると考えます。

環境問題に関しては、トランプ氏の行ったパリ協定からの離脱は世界にとってよくない、バイデン氏の主張するパリ協定への復帰が世界にとってよいことだと田中氏は評価しています。
しかしトランプ氏は、環境問題に取り組みたくないという自分勝手な都合でパリ協定を離脱したわけではありません。パリ協定では各国の環境問題に対する責任が規定されていますが、それは全ての国に平等に定められていません。加盟国は大まかに先進国、発展途上国の2つのグループに分けられており、先進国のグループに属する国々に、より重い責任が課せられているのです。これは産業革命以来、温室効果ガスの大部分を排出してきたのは先進国であるという歴史的経緯を踏まえ定められたものです。しかし現在は、発展途上国と位置付けられている国々の温室効果ガス排出量が増加傾向にあり、問題視されています。特に中国、インドなどは今や経済的に、技術的に先進国に分類されてもおかしくない国々でありながら、先進国のような厳しい規定がない状態にあります。トランプ氏はこの現状を批判し、不公平が是正されないためにパリ協定を離脱しました。
これを踏まえてこのトランプ氏の行動が日本や世界にとってどのような意味を持つのかを考えます。たしかに世界全体として、環境対策の取り組みが後退することはいいことではありません。しかし一部の国々が不公平な負担を強いられ、一部の国が十分な責任を負っていない状況は正されるべきです。そして日本も先進国として大きな責任を負っており、この不公平によって損をしている国の一つです。これらのことを踏まえると、トランプ氏の行動は、日本や世界にとって必ずしも悪いものとはいえないことが分かります。

また、田中氏は大統領選挙が日本や世界にどのような影響を与えるかということを分析していますが、そのような視点に立ったとき、第一に見るべきは国内政治ではなく外交、安全保障なのではないでしょうか。その中でも日本が属しており、世界中の関心の高い東アジア地域について考えます。
トランプ政権下でのアメリカは、中国の拡張主義的な行動を強くけん制してきました。しかしバイデン氏は副大統領時代の行動などから親中派であることが知られています。もしもバイデン氏が大統領になったら、アメリカは中国の行動を容認する方向に傾く可能性があります。アメリカによる歯止めがなくなれば、中国が拡張主義的な行動を加速させることは十分に考えられます。中国が一方的に尖閣諸島や南シナ海、東シナ海を実効支配することは、日本や東アジアの国々、ひいては世界にとって望ましいことなのでしょうか。日本にとってはそのような中国の行動を抑える必要があり、アメリカにもそれと同様の姿勢を求めているのではないでしょうか。このことを考えると、日本や世界にとって望ましいのはトランプ氏の掲げる政策だといえます。

田中氏の発言に関しての問題点を総括すると、日本、世界にとって何が望ましいかという分析にもかかわらず、日本や世界に直接の影響を与える外交、安全保障に言及していない点、環境問題に関しても一面的な見方しかしていない点が問題といえます。

次に藪中氏の発言に関してです。藪中氏はここ4年間でアメリカ中心の国際協調体制が崩壊しつつあり、トランプ氏が続投したら完全に崩壊すると、あたかもトランプ氏が国際協調体制を崩壊させているかのような発言をしています。たしかにここ数年、アメリカを中心とした国際協調体制は不安定さを増していますが、この変化にはトランプ氏が大統領である以外の原因があります。
一つにはアメリカの国力がかつてのような圧倒的なものでなくなったことです。かつてはアメリカが政治、経済において他の諸国を圧倒していましたが、近年は他の国々の経済発展などもあり、相対的に力が弱まっています。それによって、世界を安定化させるだけの軍事的能力も失い、結果的に国際協調の中心という立場からの後退を余儀なくされているのです。そしてこのような経済、軍事の変化はトランプ政権以前からの問題であり、トランプ氏が加速させたとはいえません。
もう一つの理由として、中国など現在の国際協調体制に挑戦する国家が現れたことも挙げられます。アメリカの国力が後退しても、アメリカ一国に頼るのではない形で国際協調体制を維持してゆけば問題はないのですが、それが阻まれていることも事実です。中国は軍事力を増強させ、それを利用して周辺国への介入や威圧を繰り返しています。このようにして現在の協調体制を壊し、平和的でない方法で覇権を奪おうとしているのです。
このようなアメリカの長期的な衰退やアメリカ以外の国の行動といった要因を見たときに、国際協調体制の不安定化をトランプ氏一人の責任とすることは適切ではありません。

今回の報道全体をまとめると、問題として挙げられるのが、全体としてトランプ氏の批判ばかりに論調が偏っていること、そして田中氏、藪中氏の発言は一面的な視点からしか分析がなされていないことです。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(2)政治的に公平であること
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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