2018年8月14日 報道ステーション

2018年8月14日 報道ステーション

※自民党総裁選期間に限り、報道監視レポートを全ての会員の皆様に公開しております。

2018年8月14日、報道ステーションの報告です。
この日、最も多くの放送時間を割かれたのは、ゲリラ雷雨に関しての部分でした。
今回報告するのは、今後導入が予定されている陸上イージスシステム関連の部分です。
では、詳しく見ていきましょう。

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富川悠太アナウンサー(以下、富川):続いては、こちらをご覧ください。日本の防衛費の推移を示したグラフです。ご覧のようにですね、安倍政権が発足して以降、年々増え続けていまして、今年度は過去最高額を更新したんですね。では、来年度はどうなるのか。今日ですね、概算要求の額が判明しました。それによりますと、およそ5.4兆円と、これも過去最大の予算を要求することが分かったんですね。何が全体を押し上げたのかといいますと、地上配備型迎撃ミサイルシステム、イージス・アショアの導入などです。その、イージス・アショアの導入をめぐって、配備の候補地の住民たちは、不安を口にしています。

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【VTR】
ナレーター:白松博之さんは、ここ、山口県の阿武町で、白菜や、レタスを育てている農家です。

白松博之さん(71)(以下、白松さん):森のすぐ向こうが自衛隊の演習地なんですね。そこに今、計画がされてます。(演習場まで)200mあまりでしょうか。

ナレーター:身近だったこの演習場が、今、イージス・アショア配備の候補地に挙がっています。

白松さん:射撃音から皆さんが突撃するときに「わー」って言ってるとか、こうやって訓練して、日本を守ってくれているという思いはあったんですけど、イージス・アショアが出た途端に、これはちょっと、住民をないがしろにしているというか・・・

ナレーター:イージス・アショアとは、日本が新たに導入しようとしている、弾道ミサイル防衛システムです。これまでは、海の上のイージス艦から、強力なレーダーを使い、迎撃ミサイルを発射。向かってくる弾道ミサイルを撃ち落とす計画でした。これに加えて、陸上にも、イージス艦の迎撃システムを設置するのが、イージス・アショアです。防衛省は、秋田市にある陸上自衛隊の新屋演習場と、山口県の萩市、阿武町にまたがる、むつみ演習場に配備する計画です。この2基で、日本全土をミサイルから防衛できるとしています。しかし、住民からは、不安の声も。白松さんは、レーダーから出る強力な電磁波を心配しています。

白松さん:イージス艦の上で、この電波を照射するときには、できるだけ甲板に出ないようにというふうなことが言われているのを見るとですね、私どもは、生活のための野菜作りをずっと続けていくわけですから、ただ、イージス艦の上で甲板にちょっとしか出ないっていうふうな場合とは、もうわけが違う。

ナレーター:住民の不安に対して、防衛省側は。

住民:イージスの出力を教えてください。

防衛省の担当者:イージス・アショアのですね、電波の出力につきましては、特定特別防衛秘密に指定されているために、お答えすることはできません。申し訳ありません。

住民:どのくらいのサイドローブ(周囲に広がる電磁波)が出るのかをお聞きしたい。

防衛省の担当者:そちらにつきまして、特定特別防衛秘密に該当するものでございますので、大変申し訳ございませんが、お答えできません。

野次:なんで、それじゃあ説明じゃないよ!

ナレーター:地元と自衛隊が交わした、演習場に関する覚書には、こうもあります。“実弾射撃をする場合は、10日前までに、関係各市町長あてに通報する”。

住民:これは実弾射撃どころの話じゃないと思うんです。イージス・アショアの迎撃ミサイルが発射されるっていうのは、これは10日前までに通報することもできませんし・・・

防衛省の担当者:皆さま方の生活に、また健康に、被害があるということがないように、当然、このイージス・アショアについては、設計もしますし、運用すると・・・。

ナレーター:イージス・アショア配備のもう一つの候補地は、秋田市です。

佐々木 勇進さん(73)(以下、佐々木さん):この、フェンスの向こうが演習地として利用されている防衛省の土地ですね。

ナレーター:佐々木勇進さんは、息子夫婦と4歳の孫の3世代で暮らしています。自宅は、新屋演習場から300mしか離れていません。

佐々木さん:こんな密集してる住宅地のすぐ隣り合わせに、“えっ あり得ない”と最初は思いました。

周辺を衛生地図で見てみると、近くには、小学校や中学校などがあり、住宅街が広がっています。およそ2.7キロ先には、秋田県庁も。

佐々木さん:有事の際、万が一の場合は確実に攻撃されるのは、はっきりしているわけですね。このすぐ隣の住民は、必ず影響を受けるわけですから・・・

ナレーター:さらに、防衛省内では、こんな話も出てきているそうです。

政府関係者(ナレーター):最初の第1弾ロケットは、早い段階で落ちて、そのままバラバラになって落ちることもある。
この発言の後、いったんCMに入ります。
(CM)

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CM終了後
ナレーター:イージス・アショアをめぐって、防衛省内では、こんな話も。

政府関係者(ナレーター):衛星打ち上げロケットと同じだが、第2段ロケットとか、第3段ロケットは焼け落ちるが、最初の第1段ロケットは、早い段階で落ちて、そのままバラバラになって落ちることもある。角度をつけて、それを海に落とすことができないか、対策を検討中だと聞いている。

ナレーター:阿武町は、安倍総理のお膝元とも言える、山口県の農村部です。保守色の強い土地柄ですが、国への不信感は高まっています。

白松さん:私も自民党員でした。けれども、もう自民党員は辞めました。やはり、是は是、非は非として、次の世代、またあるいは、その次の世代のここで生活する人のために、今私どもは何ができるのか、何をしなければいけないかっていうことをですね、しっかり、やっていきたい。
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【スタジオ】
富川:改めまして、イージス・アショアが配備される候補地は、山口県萩市の陸上自衛隊むつみ演習場、そして、秋田市の新屋演習場です。この演習場付近の住民の皆さんは、電磁波は大丈夫なのか、標的になってしまわないか、そして破片などが落ちてこないか、などといった不安を抱えてらっしゃるということですね。

ジャーナリスト後藤謙次(以下、後藤):そうですね。特に秋田なんですが、これは極めて我々のメディア界でも異例なんですが、秋田には秋田魁新報という創刊が明治7年っていう非常に有名な新聞があるんですが、そこの小笠原社長がですね、自ら筆を執って、このイージス・アショア、地上型イージスのですね、導入について、ペンを振るってるんですね。で、最後の部分、ちょっと富川さん読んでいただけますか。

富川:ここの赤線が引いてあるところでいいですね。地上イージスを配備する明確な理由、必要性が私には見えない。

後藤:そうなんですね。これ今、我々もそういうふうに、強く感じてるわけですね。このイージス・アショアの導入については、去年11月まで北朝鮮が、連射をしてましたね、ミサイルを。それ受けて、トランプ大統領の11月の来日で、アメリカの兵器を買ってもらいたいと。こう発言があってですね、12月にバタバタと購入が決まったんですね。しかもそれはまあ、言い値であって、値段もあんまりはっきりしないまま決まってしまった。ところが6月12日の米朝首脳会談以降、東アジア情勢がガラッと変わりましたよね。となると、防衛省は非常にちぐはぐな対応を取るんですね。1つは、日本海に展開してたイージス艦。この常備配備を止めたんですね。それからPAC3。これの配備も中止、中四国と北海道にありましたけども、これも撤去した。その一方で、ミサイルを打つですね、破壊措置命令は維持すると。こういうちぐはぐな対応を。これつまり全部止めてしまうと、イージス・アショアの購入の根拠がなくなってしまうんではないかと、そういう見方も成立するんですね。

富川:そして、今日の概算要求を見ていますと、米朝対話の如何に関わらず、政権の姿勢は変えないよってメッセージにも見えますね。

後藤:そうですね。つまり切迫感があまりないにも関わらず、従来通りの方針を推し進めようとしている。しかもこれ、防衛省の中にも、異論があるんですね。今回このイージス・アショアは陸上自衛隊が運用するということになってますから、海上自衛隊、あるいは航空自衛隊。自分たちが欲しい装備品ってのが、買えなくなってしまうんではないかと。そういう、しかも、地元住民に十分な理解も得ないまま、推し進めるということになればですね、さらにさまざまな軋轢を日本国内で生んでしまうと。いかにも説明不足という中でですね、あえて、強行するんですかと、こう言いたいですね。
この後藤氏の発言を最後にこのコーナーが終了しました。

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【検証部分】
今回の放送の問題点は大きく分けて3点あります。
1点目は日本の防衛費について一面的な部分しか触れられていないこと。
2点目はVTRに登場した方の経歴について、番組が触れていない重要な情報があったこと。
以上の2点です。

まず1点目についてですが、コーナーの冒頭で富川アナは、安倍政権になって以降防衛費が年々増加していることを伝えていました。その指摘自体は正しいもので、防衛費は過去最高を記録しました。問題は、その扱い方です。
防衛費が過去最高の水準に達していることは事実ですが、それはやみくもに金額を増やしただけというわけではありません。北朝鮮の核・ミサイル開発の進展や、隣国中国の軍備拡張路線によって日本周辺の安全保障環境は非常に厳しいものとなっています。その中で防衛費が増額されるのはある意味自然なことと感じる視聴者も少なくは無いと思いますが、その立場に立った発言は番組中には確認できませんでした。
また、防衛費単独で見れば増加は間違いありませんが、GDP比という面からみると別の側面が浮かび上がってきます。自民党政権になって以降の2013年から2016年の防衛費は、GDP比でみるとむしろその割合は低下しています。かつて防衛費のガイドライン的な役割を果たしていたのは、1976年の三木内閣で閣議決定された「GNP1%枠」でした。今回はGDP比で比較したため、性質がいくぶん異なりますが、日本の防衛費がその枠内を超えたことはありません。多少の上下を見せながらも、おおよそ今1%内外で推移しています。中国が約2%、アメリカは約3%であることを考えれば、決して大きな数字ではありません。このような事実を報道することも番組の役割の一つと言えるのではないでしょうか。

次に2点目についてですが、番組内のVTRに登場した佐々木勇進さんですが、この方はその後、元共産党の市議だったことが明らかになりました。共産党は一貫してイージスアショアなどの配備に反対しています。そのような組織に属していたことを紹介せずに声だけを取り上げるというのは、果たしてしっかりと事実を公開していると言えるのでしょうか。
確かに、佐々木さんは市議を辞めており、今も共産党の党員として活動しているかは定かではありません。しかし、その方がどんな団体に属しているのか。また、いないのかで視聴者の印象は変わると思われます。その後VTRに登場した方がもともと自民党員だったことを発言していることから見ても、そのとりあげ方には疑問符を抱かざるを得ません。

したがって、今回の放送は今回の放送は放送法第4条2項「政治的に公平であること」、第3項「事実は曲げないで報道すること」、第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に抵触している可能性があります。

今後も監視を続けます。

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