サンデーモーニング、2018年11月11日放送回の検証報告です。
今回の報告では、
・風を読むにてアメリカの中間選挙について報道された部分
以上1点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
では、さっそく放送内容を見ていきましょう。
——-
【スタジオ】
橋谷能理子アナ:6日に行われたアメリカ中間選挙。そこから見えてきたのは、アメリカが大切にしてきたある価値観が、崖っぷちに立たされている状況でした。
——–
【VTR】
・共和党はキャンペーン動画で、不法入国した移民が警官を殺害した事件を引き合いに民主党を批判
・民主党は、トランプ大統領とヒトラーの共通点を並べ、共和党を批判する動画を公開
・アメリカでベストセラーとなった本“民主主義の死に方”を紹介し、両党の中傷合戦はアメリカは民主主義を崩壊させる危険性があると指摘
・現在のアメリカにおける民主主義について、慶応大学教授は「民主主義の実現は、今、危機的な状況がある」と語った
・トランプ大統領の熱狂的な支持者が、民主党関係者に爆発物を送りつける事件が発生
・ユダヤ教の礼拝所で男が銃を乱射し、ユダヤ人に対するヘイトクライムと見られている
・今のアメリカでは、対話ではなく暴力に訴える行為が横行している
・トランプ大統領は、自身に批判的な記者を激しく非難し、ホワイトハウスへの出入りを禁止した
・CNNは、「民主主義を脅かす前代未聞の決定」と憤りの姿勢を見せた
・ネット上では、相手を徹底的に否定する罵詈雑言がエスカレートしている
・慶応大学教授は「トランプ大統領が出現したことによって、国民の間の分断状況や憎悪感情が深まってしまい、民意の合意形成が難しくなる」と語った
——-
【スタジオ】
関口宏氏:民主主義。基本はやはり対話だよね。
橋谷アナ:そうですね。
関口氏:これを忘れちゃいけないんですが、どうもアメリカが、対立から暴力的になってきてる。さあ皆さんどうでしょうか。
寺島実郎氏:これ、アメリカだけじゃなくてですね、民主主義の旗色が悪いといっていいと思うんです。世界中でですね、混乱してるっていうかですね。しかも、民主主義ってまどろっこしいっていうかですね。で、そういうなんか苛立ちの中で、世界の傾向が傾き始めてるんだけども、ただね、長い歴史をしっかり見ると歴史に進歩があるかどうかは別にして、誰かが誰かを支配するっていうような構図からですね、全員参加型の秩序によっても、世界史は確実に動いてるってのが僕の見方なんでうすけども。ようするにですね、民主主義の対極にあるものってなんだっていうと、全体主義だとか、国家主義だって言葉が浮かぶんだけども、やはり我々、かつて日本が体験したですね、国家のために戦争で死ぬっていう価値観がですね、やっぱり一人ひとりの価値を大事にしようって戦後生きてきたわけですよ。で、そのことをしっかり踏み固めないと、また世界の苛立ちの中で、日本人も迷走してしまうっていうことを、しっかり腹にくくるべきだと思います。
関口氏:そうですね。日本に限らずヨーロッパだってちょっと、なんかおかしな雰囲気になってきてますが。西崎さん。
西崎文子氏:あの、まあ民主主義っていうのは、最終的には多数決って考えがちなんですけれども、やはりその少数派。少数者をどう守るか。少数意見をどのように大切にするか。そこが、実は非常に重要で、それがなくなってしまうと、ようするに自由がなくなっていくってことですけれども、民主主義が脅かされるってことだと思うんですね。で、私今、寺島さんのご意見に賛成で、民主主義は広まってるっていうのは、これは確実にそうだと思うんです。で、逆に言えば、アメリカといえば本当に民主主義国だったのか、今まで。というのは非常に疑問で、黒人の人たちの投票権は1950年代、60年代ぐらいまでかなり制限されてましたし、今もその傾向があると。女性もそうですよね。で、ですので、確実に有権者が広まって、増えてきて、それで今回の中間選挙のような、いろいろなマイノリティーの人たちの躍進もあって。ですから産みの苦しみだと思うんです。アメリカにとって民主主義がもう一つ、一皮向けていく、その過程だと思うんです。ですからここで、トランプ大統領に、自由を消してしまうようなところに負けなければ、アメリカがもう少し強くなるんじゃないかっていうふうに思います。
関口氏:谷口さん。
西崎文子氏:かつて、ヨーロッパからネイティブアメリカンが住むアメリカという土地にですね、方法はなかったかもしれませんけど、不当に入っていったのは誰だったのかって考えると、彼らのその、不法な人たちが移民が来てるって言ってる人たちの先祖ですよね。で、その人たちが入って作った民主主義国アメリカって国が、独立宣言から250年が経ってるわけですけども、西崎さんが今おっしゃったみたいに、私はいま、民主主義というものをアメリカ自身も問い直してるときだと思うんですね。翻って我々も考えなきゃいけないのは、なんかその二項対立でこう、片を付けがちになってきてると思うんです。黒か白かって言われたときに、世の中の大半を私はグレーで動いてると思っていて、そんな中で敵か味方か、そんな簡単な問題ではないだろう。そしたら、さっき竹下さんがストレートな言葉で、世の中が対立してるっておっしゃいましたけど、分かりやすさを追求してることの裏っていうものに、そういうものがあるんじゃないかと思ってるんです。難しいことは難しいこととして理解していくっていう努力も必要なんじゃないかという気がします。
関口氏:はいはいはい。竹下さん。
竹下降一郎氏:私いま、インターネット業界にいますので、インターネットと民主主義の関係をよく考えるんですが、今はやすぎる民主主義になってるなってよく思いますね。誰もが声をあげて、トランプさんも声をあげることができますし、国民も声を上げることができると。それが瞬時にパソコンやスマートフォンで広まると。で、そこの中には嘘も入ってますし、憎しみ。あるいは罵詈雑言も入ってる。それがぱっと広がってしまうと。しかも、昔だったら、権力者も、トランプさんとか国民の間にメディアとか専門家とか、間に入ってる人たちが言葉をスローダウンさせてたと思うんです。ゆっくりにしようと。そこは冷静にいこう。言葉を整理してたのが、瞬時に伝わることによって、民主主義に必要な言論というのがスピードアップしすぎちゃってるんですね。で、民主主義ってのは早すぎてしまうと、やはり、対立とか憎悪とか、ばかりだけが増幅してしまうと。もう一度民主主義を、スローダウン。遅くしていくっていうのが、今後のインターネット時代の私たち、有権者、国民の務めかなと思います。
関口氏:ある意味じゃあ、メディアがろ過してましたか。
竹下氏:そうですね。
関口氏:直接じゃなくて。
竹下氏:ろ過してると同時に少し冷静になろうと。ゆっくり議論をしようという役割をメディアが担ったと思います。
関口氏:かもしれませんよね。
竹下氏:今は直接繋がってしまってると。
関口氏:その装置が外れて直接だから、余計対立関係も激しくなってしまっちゃう。
(CM)
関口氏:アメリカの民主主義について話してますが。
青木理氏:VTRの一番最後に、自由の女神が映ったじゃないですか。その自由の女神の台座の所にね、行ったことある人は分かると思うんですけど、女性詩人のエマ・ラザラスの詩が載ってるんですよ。その詩がどういう詩かっていうと、一部だけ言うと、“疲れ、貧しく自由の息吹に焦がれる群衆を、私に与えなさい。家を失い、逆境に打たれている者たちを私の元に送りなさい。私は松明を掲げよう。黄金の扉の横で。”って。こういう意味ですよね。ところがトランプさんは、その、なんていうか移民キャラバンの人たちを、犯罪者だって言って、軍を送って、扉を閉めるって言ってるんですよね。これ、まったくアメリカの理想と違う。それに対して、今回ムスリムとか女性、ヒスパニックとかLGBTが当選したっていうのは、これ、分断っていうよりも、僕は繰り返すけれども、一種の抵抗運動がアメリカで起きているっていうふうにとらえるべきじゃないなっていうふうに考えてます。
関口氏:そういう見方もできるかもしれません。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは次の2点です。
1、関口氏の発言に、視聴者に誤った認識を与える恐れのある内容が含まれている
2、竹下氏の発言に、事実と異なる認識を与える恐れのある内容が含まれている
3、青木氏の発言に、事実と異なる認識を与える恐れのある内容が含まれている
4、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
それぞれ順を追って解説します。
1、関口氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
関口氏は今回の報道で、以下のように述べています。
関口氏(抜粋): そうですね。日本に限らずヨーロッパだってちょっと、なんかおかしな雰囲気になってきてますが。
要旨をまとめると、
・(寺島氏の発言に答える形で)日本だけでなくヨーロッパでも民主主義の旗色が悪い
というものです。
ですが、この発言は事実に基づかないものです。
まず、ヨーロッパにおける保守勢力の台頭やアメリカにおけるトランプ大統領の支持拡大は、選挙という正当な民主主義プロセスに基づくものです。民主主義の旗色が悪いわけではなく、人々の要請が現在の状況を生んでいる、という点で寺島氏の認識は誤りです。むしろそうした要請を顧みず「保守勢力やトランプ大統領の台頭は民主主義の敗北だ」などと主張することのほうがよほど民主主義を顧みない見解であるといえます。
また、人々の要請に基づく選挙で選ばれ、現在も支持を得ている以上、日本において民主主義が衰退しているという主張も同様に事実に基づかないことが言えます。
にもかかわらず、日本と同様にヨーロッパ(そしておそらくアメリカも)にて民主主義が衰退しているかのような発言をした関口氏は、視聴者に事実と異なる認識を与え、誤った印象に誘導しようとしている恐れがあります。
以上より、今回の関口氏の発言は放送法第2章第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、竹下氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
竹下氏は今回の報道で、以下のように述べています。
竹下氏(抜粋):で、そこ(パソコンやスマートフォンでアクセスできるSNSなどのインターネット空間)の中には嘘も入ってますし、憎しみ。あるいは罵詈雑言も入ってる。それがぱっと広がってしまうと。しかも、昔だったら、権力者も、トランプさんとか国民の間にメディアとか専門家とか、間に入ってる人たちが言葉をスローダウンさせてたと思うんです。ゆっくりにしようと。そこは冷静にいこう。言葉を整理してたのが、瞬時に伝わることによって、民主主義に必要な言論というのがスピードアップしすぎちゃってるんですね。(中略)ろ過してると同時に少し冷静になろうと。ゆっくり議論をしようという役割をメディアが担った
要旨をまとめると、
・インターネットには嘘や憎しみ、罵詈雑言がある。
・インターネットは情報の伝搬速度が速すぎる。そのため民主主義に必要なゆっくり議論するプロセスがない
・昔は権力者と国民の間にメディアや専門家が入り、言葉をスローダウンさせゆっくり議論することができた
・インターネット時代の今こそ、こうしたゆっくり議論することが求められる
というものです。
ですが、これは非常に傲慢かつ事実と異なる恐れがある主張です。
なぜなら、メディア自体が権力のひとつであるということに言及していないからです。
人々に伝わる情報を報道という形で独占してきたメディアは、立法・行政・司法に次ぐ「第四の権力」と言われてきました。そしてそうした力を持ったメディアは、竹下氏が言うような「情報のスローダウン」をするどころか人々を煽り、ひとつの方向へ動かそうとすることを繰り返してきました。
開戦をあおった戦前日本の新聞社や、桶川ストーカー殺人事件の際の被害者にバッシングが集中するような誹謗中傷の混じった報道、そして現在にも続く根拠のない安倍首相への個人攻撃などを見れば明らかです。
まとめると、
・インターネットの時代だけでなく、メディアの報道が中心だった時代から、嘘や憎しみ、誹謗中傷はメディアによって人々に行き渡っていた。
・よって、情報の伝播速度が速いことと、嘘や憎しみ、誹謗中傷を選別できないことに因果関係はない。
・したがって、竹下氏が言うようにメディアが「言葉をスローダウン」させたり、フィルターの役割を果たすことはない
ということが言えます。
以上より、今回の竹下氏の発言は放送法第2章第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
3、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
青木氏は今回の報道で、以下のように述べています。
青木氏(抜粋): ところがトランプさんは、その、なんていうか移民キャラバンの人たちを、犯罪者だって言って、軍を送って、扉を閉めるって言ってるんですよね。これ、まったくアメリカの理想と違う。
要旨をまとめると、
・トランプ大統領は移民キャラバンを犯罪者扱いし、国境に軍を送っている
・これはアメリカの理想と違う
というものです。
ですが、アメリカは合法的に入ってくる移民自体を制限したわけではありません。あくまで今回取り締まっているのは「不法移民」であり、法治国家においてこれはまったく通常の対応です。よって、今回のトランプ氏の施策がアメリカの基本理念に反したわけではありません。
以上より、今回の青木氏の発言は放送法第2章第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
4、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「アメリカで民主主義が衰退している」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「あくまで選挙というプロセスを経ているから民主主義が機能しなくなったわけではない」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした立場を全く取り上げず、あくまでメディアは正しいという立場にのみ立った形で放送がされていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が今回の報告となります。今回の放送では、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。