2019年2月10日 サンデーモーニング(前編)

2019年2月10日 サンデーモーニング(前編)

サンデーモーニング、2019年2月10日分の検証報告(前編)です。

今回の報告では、
「風を読む」にて日本の外交について報道された部分
官邸が特定記者の質問に注意し、新聞労連が抗議した件について報道された部分
以上2点について検証し、その問題点を探りたいと思います。

検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。

今回はレポートを2つに分け、前後編でお送りいたします。

前編で検証するのは、
① 「風を読む」にて日本の外交について報道された部分
となります。

では、さっそく放送内容をみてみましょう。

【VTR要約】
(北方領土に関する部分)
北方領土の日に行われた根室管内住民大会の様子が映し出され、大会の参加者が身に着けるハチマキに書かれた文字が“返せ!北方領土”からソフトな表現に変わったことが伝えられる。続けて参院予算委の映像に切り替わり、安倍総理が「固有の領土」という言葉を使わなかったことに対し、「使えなくなったのでしょうか?」「言えないんだな」と野党議員らが指摘する映像が流される。国際ジャーナリスト・春名幹男氏のインタビュー映像に切り替わり、春名氏は「ロシア側の態度軟化」と「参院選前の合意」を期待したものであると語った。さらに日露首脳会談で安倍首相が握手を交わす様子が映し出され、後援会の会合で安倍総理が「必ず終止符を打つ」と北方領土問題解決に意欲を示したことが伝えられる。しかし、「領土問題解決への具体的道筋は見えない」「手詰まり感が色濃く漂う」と批判的なアナウンスがされた。

(日韓関係に関する部分)
防衛省の提供映像に切り替わり、レーダー照射問題で日韓双方の主張が対立したままであると伝えられる。韓国の裁判所の映像とともに、日韓関係は悪化の一途をたどっているとアナウンス。文大統領の演説映像に切り替わる。「日本政府はもう少し謙虚な立場をとるべきだ」と記者の質問に答える文大統領の姿が映し出され、続けて菅官房長官が記者会見で「極めて遺憾」と反発する映像が流される。

(北朝鮮の核開発に関する部分)
北朝鮮の党大会で金正恩党委員長が手を振る姿が映し出され、すぐにトランプ大統領の演説映像に切り替わる。米朝首脳会談に意欲を示すトランプ大統領の姿を背景に、今月下旬に2度目の米朝首脳会談の開催が発表されたことが伝えられる。「一方、日本は・・・」という言葉とともに、参院予算委で安倍総理が質問に答える映像に切り替わり、「トランプ大統領と電話会談を行う」と述べる映像が流される。「アメリカ頼みとも見える姿勢の一方で、北朝鮮に対する日本の独自外交の姿は見えません」と伝えられ、再び春名氏のインタビュー映像に切り替わる。春名氏は「日本が独自の考え方に基いてしっかりした外交をしているのであれば(北朝鮮は)ちゃんと反応するはずだが、それがないのは非常に残念だ」と述べた。

(海外から批判を受けた日本の外交に関する部分)
反捕鯨団体のデモ映像とともに、「日本外交をめぐりここ最近海外から厳しい批判を集めるケースが相次いでいる」と伝えられ、CMへ。CM後、核兵器禁止条約が採択される様子が映し出される。会場が拍手喝采となる中、唯一の被爆国である日本が不参加であると伝えられる。外国人の女性が「日本は核兵器禁止を最も強力に推進する国であるべき」とインタビューに答える映像とともに、海外から批判を受けているとアナウンス。さらにIWCを脱退し商業捕鯨の再開を決定したことに対して抗議デモが行われたことが伝えられ、デモに参加する女性が「何とか考え直してほしいです」とインタビューに答える映像が流される。G8拡大会合の様子が映し出され、海洋プラスチック憲章に日本とアメリカが署名せず批判を浴びたと伝えられる。「こうした日本外交を世界はどう見ているのでしょうか?」と疑問を投げかける言葉の後、再び春名氏のインタビュー映像に切り替わる。春名氏は「世界からアメリカ追随と見られてしまう」と語り、「日本外交の手詰まり感が目立っています」という言葉を最後に、VTRは終了した。

【コメンテーターの発言】
寺島実郎氏(全文):官邸主導外交というのが際立ってるんですね。一言でいうと極端なトランプとプーチンに対する傾斜なんですね。ところが、まさに描き出されている国家ビジョンの混乱というのがですね。例えば安倍外交を評価する人ってのは、それでも自由貿易を目指してTPP7だとか欧州とかEPAに踏み込んでるんじゃないかって言う人がいるんですね。一方で新自由主義的な路線に踏み込みながら、この政権が抱えてるのは国家主義の誘惑っていうかですね。国権主義、国家主義を安保法制等を思い出してみても急速に回帰していく。で、新自由主義と国家主義の複雑骨折みたいになってるんですね。日本の外交がね。で、実はその背景にある構図ってのが、やはり戦後日本の工業生産モデルからそろそろ我々も視界を転じなきゃいけない。つまりね、今でもEPAをやろうとしてるのが、自動車の関税を安くしてもらって代わりに農産物を日本に入れやすくするって方向をたどるのが日本にとって利益だと考えてるんです。我々もとかくね。ところがもう次のステージに入ってきてるっていうかですね。いわゆる工業生産力モデルだけではね、21世紀の日本は進まないっていうところにきてるなかで、本当に日本自身の国家ビジョンを我々も含めてね、しっかり考え直さなきゃいけないところにきてるなと思います。

田中優子氏(要約):アメリカがよく「自国ファースト」だと揶揄われているが、日本はここ150年間ずっと自国フアーストだったと思う。明治維新では列強入りだけを、戦後は経済成長だけを目的に外交をしてきた。一貫性はない。国の理想がないままその場限りにやってきた。外交が国内政治・国内経済に利用するだけの道具になってしまっている。領域主権の問題や捕鯨を含めた環境問題に、国としてどう対応するのか真摯に向き合わなきゃいけない。だけどアメリカに追従すればいいと未だに考えてる。そこを変えないと誰からも信用されなくなると思う。

谷口真由美氏(全文):今あの、先生がおっしゃった自国のことのみに専念してきたという反省があってだと思うんです。日本国憲法前文に、“自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって”って一文があるんですね。だからアメリカがアメリカファーストって言ったときは日本はそういうスタンスを取らなきゃいけない。「お宅、ファーストしたらダメですよ」っていうことを言わなきゃいけない立場にあったんじゃないかと私はずっと思ってて、日本というのは確かに島国で、日本のことを日本語で日本の人にしか日本のニュースを伝えないという状況なので、アメリカしかニュースのことも伝わってこないという状況がありますけど、世界っていうのはアメリカだけでもロシアだけでも中国だけでもないわけで。そこは考えなきゃいけないと思うんですね。外務省のホームページを見ると人権外交っていうページがあるんです。じゃあ日本は人権外交を何をしてきたんだ。人権条約には確かに入ったけれども、委員会からの勧告、今日の児童相談所でもありましたけど、ああいうものを無視してきてるっていうような状況もありますので、やっぱり見直さなきゃいけない点はちゃんと見直して、人権外交を私はもっとすべきだと思います。

涌雅之氏(要約):これからはどのような哲学をもって国際政治をリードしていくのかが問われる。それがSociety 5.0にも産業にも外交にもつながっていく。日本独自の平和・非核化・再生循環・自然共生をしっかり考えていくという哲学を発信するのが日本外交のこれからの方向だと思う。

松原耕二氏(全文):外交官として拉致被害者を帰国させた、実現させた田中均さん、均さんはこうおっしゃったんですね。「外交は結果だ」と。「国内に向けて威勢のいいことをいうことではないんだ」と。かつての、少し前までの北朝鮮外交、あるいは韓国に対しても政治家からは威勢のいい言葉が聞こえてくる。逆にブッシュに対しては少し配慮しすぎてるんだ、足元を見られてるんじゃないかとも思われてる。実際に絵を描いて、そして違いを埋めていって自己主張しながら関係を築いていくという、結果を出せる外交を本当にしてるのか。結果をちゃんと見ていくということが必要だと思うんです。

以上が放送内容となります。

では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の2点です。

1、寺島氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、谷口氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
4、松原氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている

それぞれ順を追って解説します。

1、寺島氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
寺島氏は今回の報道で、以下のように述べています。

寺島氏(抜粋):官邸主導外交というのが際立ってるんですね。一言でいうと極端なトランプとプーチンに対する傾斜なんですね。ところが、まさに描き出されている国家ビジョンの混乱というのがですね。例えば安倍外交を評価する人ってのは、それでも自由貿易を目指してTPP7だとか欧州とかEPAに踏み込んでるんじゃないかって言う人がいるんですね。一方で新自由主義的な路線に踏み込みながら、この政権が抱えてるのは国家主義の誘惑っていうかですね。国権主義、国家主義を安保法制等を思い出してみても急速に回帰していく。で、新自由主義と国家主義の複雑骨折みたいになってるんですね。日本の外交がね。(以下略)

要旨をまとめると、
・現在の安倍政権の外交は「官邸主導外交」で、トランプやプーチンに対する傾斜がある
・自由貿易を目指しており自由主義的だという声もあるが、一方で新自由主義的路線や安保法制などの国家主義的路線に回帰する動きもあり、国家ビジョンが混乱している
というものです。

しかしながら、
・安倍首相が確かにプーチン露大統領やトランプ米大統領と良好な外交を築いているのは事実だが、それを以てして「官邸主導外交」と銘打つのは非常に乱暴な主張である
・安倍首相はアメリカやロシアだけでなく、EU諸国、インドやASEANなどの新興国など様々な国と良好な関係にある。また、現在の国際社会で非常に影響力のある立場にあり、米露だけに過度に傾斜しているわけではない
・日本の政策は国際的には非常にリベラルなものだと指摘されている。また、安保法制や特定機密保護法は現在の日本が置かれている情勢を鑑みれば当然必要なものであるうえ、同盟国や友好国との協働のための法整備という側面があり。国家主義的な暴走とは決して言えない
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。

以上のことから、今回の報道での寺島氏の発言は事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。

2、谷口氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
谷口氏は今回の報道で、以下のように述べています。

谷口氏(抜粋):日本国憲法前文に、“自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって”って一文があるんですね。だからアメリカがアメリカファーストって言ったときは日本はそういうスタンスを取らなきゃいけない。「お宅、ファーストしたらダメですよ」っていうことを言わなきゃいけない立場にあったんじゃないかと(中略)日本というのは確かに島国で、日本のことを日本語で日本の人にしか日本のニュースを伝えないという状況なので、アメリカしかニュースのことも伝わってこないという状況がありますけど、世界っていうのはアメリカだけでもロシアだけでも中国だけでもないわけで。そこは考えなきゃいけないと思うんですね。外務省のホームページを見ると人権外交っていうページがあるんです。じゃあ日本は人権外交を何をしてきたんだ。人権条約には確かに入ったけれども、委員会からの勧告、今日の児童相談所でもありましたけど、ああいうものを無視してきてるっていうような状況もありますので、やっぱり見直さなきゃいけない点はちゃんと見直して、人権外交を私はもっとすべきだと思います。

要旨をまとめると、
・日本は日本国憲法で「自国のことのみに専念してはならない」という趣旨の条文があるため、アメリカがアメリカファーストなどと自国第一主義を示したときには止めるべき
・日本は情報が閉鎖的だが、世界はアメリカ、中国、ロシアだけではないことも留意すべき
・日本は人権条約にこそ入っているが、児童相談所などを見ても委員会からの勧告を無視しているので、もっと人権外交をすべき
というものです。

しかしながら、
・アメリカの施策方針は日本国憲法の影響を受けないので、日本が日本国憲法を根拠に動かなければいけないという主張は誤りである
・日本国内には様々な国外メディアが存在するため、決して閉鎖的ではないし、またそれを以て世界がアメリカ、中国、ロシアだけだと日本が考えているという主張の論拠にはならない
・日本はODAや対外援助など様々な形で世界の人権環境の向上に寄与しており、決して人権を無視した外交をしているとは言えない
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。

以上のことから、今回の報道での谷口氏の発言は事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。

3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「北方領土問題や韓国との問題など、日本の外交はうまくいっていない」「核兵器禁止条約やIWC、海洋プラスチック憲章へ参加しないなど、最近の日本外交はおおいに問題がある」という立場に立った意見のみが出てきました。

ですがこの問題に関しては「北方領土問題は妥協が必要かもしれない」「韓国の問題は毅然として対応すべき」「安倍政権以降外交における日本のプレセンスは向上している」「核兵器禁止条約やIWC、海洋プラスチック憲章は日本が入るには不適な理由があっただけだ」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。

以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。

以上が報告の前編となります。前編では、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。

この続きの
「風を読む」にて日本の外交について報道された部分
における、
検証4「松原氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている」

ならびに、
官邸が特定記者の質問に注意し、新聞労連が抗議した件について報道された部分
については、後編の報告をご覧ください。

公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。

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