TBS「サンデーモーニング」、2019年8月11日放送回の検証報告(中編)です。
今回の報告では、
① 南北朝鮮の経済協力で日本に追いつくという文大統領の発言について報道された部分
② あいちトリエンナーレの展示中止について報道された部分
③ 森友問題における佐川氏の不起訴について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。
中編で検証するのは、
② あいちトリエンナーレの展示中止について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
【VTR要約】
あいちトリエンナーレの会場に脅迫文をFAXで送ったトラック運転手の男が威力業務妨害の疑いで逮捕された。名古屋市・河村市長は「即刻展示の中止を申し入れる」と発言した翌日、表現の不自由展の展示中止が決定した。これに対し愛知県・大村秀章知事は「憲法違反の疑いが極めて濃厚」と反論。大阪府・吉村洋文知事は「反日プロパガンダだと僕は評価している」とコメントし、騒動は大阪府にも飛び火した。——-
【コメンテーターの発言】
谷口真由美氏(全文):そもそも人権とは何か、表現の自由とは何かというものを憲法のお話しからしたいと思います。そもそもですね、人権っていうのは憲法上なんて書いてるかっていうと、11条とか、えっと97条に侵すことのできない永久の権利というふうに書いてます。これは法律によっても憲法改正によっても侵してはならない権利として絶対的な価値を置いてるものです。えっとこれ、そもそも何のために人権って出てきたかとっていうと、対国家権力に対する概念として人権っていうのは生まれてきました。で、それでいうと、憲法99条には憲法尊重擁護の義務というのが書いてますが、これは誰にかかってるかというと、天皇又は摂政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員はこの憲法を尊重し擁護する義務を負うって書いてあるので、まあ政治家ないし、その国家権力って言われる人達にはこれを守る義務があると。人権を守る義務があるがこちらにかかってるものです。で、人権に大別してまあ自由権、参政権、社会権というものがあるんですが、自由権は国家からの自由と言われまして、国家への自由が参政権。で、国家による自由が社会権と言います。これ何かというと、国家から離れれば離れれるほど良いものが自由権です。だから距離があればあるほど良いんです。で、参政権っていうのは自由権を確保するために政治に参加する権利。社会権っていうのはどっちかっていうと国家が積極的に関与されないと実現されない権利のことを言います。それでいうと自由権というのは大別してこれがまた精神的自由権、経済的自由権、人身の自由っていうふうに分かれるんですが、精神的自由の中に表現の自由というものが含まれます。これが憲法21条の話ですね。で、あのまあ、これはすごく確保されなきゃいけないというのは、民主主義を完遂するためには、政府を批判したりすることっていうのを認めてないと、民主主義ってのは完成しないということから、先ほど申しましたように、自由権っていうのを表現の自由なんてもの、それから思想良心の自由、信仰の自由というのは国家権力から遠ければ遠い方がいいというふうにされてるんですね。ただし、今回も公共の福祉って出てくるんですけど、公共の福祉が規定されている12条というのは確かに人権というのは社会的なもので、一定の限界はあります。で、何故書いてるかって言うと、この憲法が国民に保障する自由の権利は国民の不断の努力によってこれを固辞しなければならない。その後段に、または国民はこれを乱用してはならないのであって、常に公共の福祉のために利用する責任を負うってあるんで、前段が大事です。不断の努力によって自由と権利は保持しなければならないというふうに書いてあるので、それは、人権と人権が衝突した時に行うものであって、国家権力が公共の福祉持ち出すっていうのはそもそもおかしな話なんですね。人権の理論としてはおかしな話です。で、最後に、フランスのヴォルテールという思想家が言ったとされる、18世紀の言葉ですが、私はあなたの意見には賛同しないけれども、私があなたがそれを主張する権利を命を懸けて守ると。ここがすごく大事だと思います。だから私たちはテロとか、そういう言論に対する脅迫っていうものに対しては、毅然として対応しなきゃいけないですけど、まあこういうことを考えていただくと、ちょっと今回の構造の一つ、見えてくるんじゃないかなというふうに考えます。
涌井雅之氏(全文):非常に分かりやすい説明していただいたと思うんですけどね、あの、まあ公共の福祉と表現の自由で一番分かりやすい例で言えばですね、満員の劇場で、火事だって声を出すのは表現の自由なのか。公共の福祉に当たるのか。こう考えてるんだよね。それは表現の自由とは言えないよってことはですね。(谷口氏の「実際に火事が起こってないのに」という発言に対し)実際に火事が起こってないのに。それを火事だって言って騒ぐと。一番ここで肝心なことはですね、やっぱり権力とその表現というものの距離感だと思うんですよ。で、これからの世界っていうのはですね、なんて言っても多様性を尊重する寛容度をどのぐらい持てるのかということにかかってるんです。寛容度をどれだけ持てるのかっていうのは自分の心の中だから戦えばいいんですよ。例えば、日韓問題にしても、それから全てのことについてもすごいそうなんですけど、こんちくしょーという気持ちが自分の中にあったとしても、それをどのぐらい、結果として寛容性の中で希釈していくのかということが非常に重要なんですね。例えば人種差別の問題もそう。男女の同権の問題もそう。この辺のことをですね、しっかりその、要するに政治家が自覚してるかしてないかっていうのがですね、非常に重要だと。したがって、公権力がこの問題、特に政治が表現の自由に介在していくっていうことについては、非常に危険だと思います。
浜田敬子氏(全文):あの、河村市長がおっしゃった言葉の中で、その表現の自由ってのは、まあ、あるときその一定規制されるときがあるっていうふうにおっしゃったんですけど、でもそれ、例えば特定の誰かの人権を著しく、まあその侵害したりとかいう場合に限りますよね。今回はそのケースに当たったんだろうかということを考えるときに、これは、例えば歴史認識問題に対しての考え方の違いとか、そういう範疇なんではないかと。要は誰かの人権を侵害したのではなく、これは考え方の違いで、いろんな考え方を知った上での議論としての表現の不自由展だったと思うですよね。なので、しかも公金を支出している側の官房長官やその市長がこのことに対して介入してくるっていうのは、今度はその思想信条の自由というものを侵すのではないかというふうに感じました。
寺島実郎氏(要約):表現者にとって息苦しい時代になっているのは確か。ネット時代の情報環境の変化によって、感情に任せてどんどん議論がエスカレートしていっている。発信する側も考える側も自制することが非常に重要となる時代になっている。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の4点です。
1、涌井氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、浜田氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
4、谷口氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
それぞれ順を追って解説します。
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1、涌井氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
涌井氏は今回の報道で、以下のように述べています。
涌井氏(抜粋):一番ここで肝心なことはですね、やっぱり権力とその表現というものの距離感だと思うんですよ。で、これからの世界っていうのはですね、なんて言っても多様性を尊重する寛容度をどのぐらい持てるのかということにかかってるんです。寛容度をどれだけ持てるのかっていうのは自分の心の中だから戦えばいいんですよ。例えば、日韓問題にしても、それから全てのことについてもすごいそうなんですけど、こんちくしょーという気持ちが自分の中にあったとしても、それをどのぐらい、結果として寛容性の中で希釈していくのかということが非常に重要なんですね。例えば人種差別の問題もそう。男女の同権の問題もそう。この辺のことをですね、しっかりその、要するに政治家が自覚してるかしてないかっていうのがですね、非常に重要だと。したがって、公権力がこの問題、特に政治が表現の自由に介在していくっていうことについては、非常に危険だと思います。
要旨をまとめると、
・これからの時代は多様性を尊重する寛容度をどれだけ持てるかにかかっている。日韓関係や人種差別、男女平等などの問題について、自分の中に納得できない気持ちがあったとしても寛容性のなかで希釈することが重要である。
・肝心なのは権力と表現の距離感だ。政治家が寛容性をどれだけ持っているかが重要で、公権力があいちトリエンナーレの問題に介入することは政治が表現の自由に介在することで極めて危険である。
というものです。
しかしながら、
・寛容性は意見の多様性を排除するものではない。日韓関係や人種差別、男女平等といった問題には様々な立場や主張、議論が存在する。にもかかわらず「納得できなくても寛容性が最重要だから多様性を受け入れろ」とする涌井氏の主張は特定の立場に一方的に肩入れするもので政治的に公平とは言えない。
・「あいちトリエンナーレ」は愛知県や名古屋市などで作る実行委員会が主催し、愛知県の公共施設を利用して開催され、公的資金が10億円以上投入されているイベントである。その企画の一部である「表現の不自由展・その後」について河村たかし名古屋市長が公共事業として適切でないと抗議することは行政の問題であって表現の自由の侵害とは言えない。
など、発言内容とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での涌井氏の発言は政治的に公平でなく、また事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
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2、浜田氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
浜田氏は今回の報道で、以下のように述べています。
浜田氏(抜粋):あの、河村市長がおっしゃった言葉の中で、その表現の自由ってのは、まあ、あるときその一定規制されるときがあるっていうふうにおっしゃったんですけど、でもそれ、例えば特定の誰かの人権を著しく、まあその侵害したりとかいう場合に限りますよね。今回はそのケースに当たったんだろうかということを考えるときに、これは、例えば歴史認識問題に対しての考え方の違いとか、そういう範疇なんではないかと。要は誰かの人権を侵害したのではなく、これは考え方の違いで、いろんな考え方を知った上での議論としての表現の不自由展だったと思うですよね。なので、しかも公金を支出している側の官房長官やその市長がこのことに対して介入してくるっていうのは、今度はその思想信条の自由というものを侵すのではないかというふうに感じました。
要旨をまとめると、
・河村市長は表現の自由は公共の福祉に反するとき規制されると言うが、それは特定の誰かの人権を侵害した時に限る。今回の場合、歴史認識問題に対する考え方の違いという問題で誰かの人権を侵害したわけではないので、公共の福祉を侵害したものではない。
・いろんな考え方を知ったうえでの議論としての表現の不自由展だったはずが、公金を支出する側の菅官房長官や河村市長が介入してしまった。これは思想信条の自由の侵害である。
というものです。
しかしながら、
・「公共の福祉」の意味については様々な学説が存在し、争いがある。また、現在の憲法学者の間では特定個人の人権侵害だけではなく、社会全体の利益なども公共の福祉と認める見解が一般的である。以上より、「特定の誰かの人権を侵害した場合のみが公共の福祉である」とする浜田氏の主張は事実に即しているとは言えない。
・表現の不自由展は行政により運営され、公共施設を利用し、公的資金が投入されているあいちトリエンナーレの展示の一部であるため、行政が便益供与することが適切かどうかという議論が行政から出ることは自然なことである。また、作品を世に出すこと自体を禁止されたわけではないため、表現の自由・思想信条の自由の侵害には当たらない。
など、発言内容とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での浜田氏の発言は事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
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3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「『表現の不自由展・その後』の中止は表現の自由の侵害だ」「河村市長らが口出しすることは政治による表現への介入だ」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「公的事業の一部である以上特定の政治的主張に立つもの、中立性がないものを展示すべきでない」「行政としてふさわしいかどうかという議論であって、表現そのものを帰省しろという話ではない」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第3号「政治的に公平であること」、同第4号「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の中編となります。中編では政治的に公平でなかったり、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
この続きの
② あいちトリエンナーレの展示中止について報道された部分における
検証4「谷口氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている」
ならびに
③ 森友問題における佐川氏の不起訴について報道された部分
については、後編の報告をご覧ください。
① 南北朝鮮の経済協力で日本に追いつくという文大統領の発言について報道された部分
については前編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。