2019年5月2日 報道ステーション

2019年5月2日 報道ステーション

5月2日の報道ステーションのレポートです。
この日の放送では、マレーシアのマハティール首相のインタビューを取り上げて憲法9条を礼賛するような報道がなされていました。

今回検証する点は、以下の2点です。
1.政治的に公平な報道がなされていたか
2.多くの論点をとりあげた報道がなされていたか

この2点について取り上げます。
まずは放送内容を確認していきます。

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【スタジオ】
徳永有美アナ:明日は憲法記念日です。戦争放棄を定めた日本の憲法9条について、変えるべきではないとするアジアの大物政治家がいます。それがこちら、マレーシアのマハティール首相です。リアリストとして知られるマハティール首相が、なぜ憲法9条が大切だと考えるのか、聞いてきました。

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【VTR】
ナレーション:マレーシアのマハティール首相です。現在93歳です。

マハティール首相:日本は問題解決のために戦争をしないと決めた国です。戦争をすれば得をする国も損をする国もありますが、戦争による破壊はひどいものです。世界のすべての国の憲法に“9条”があるべきだと私は願います。

ナレーション:先の大戦では、イギリスや日本の占領も経験し、国が破壊されるのを目の当たりにしてきました。最近では隣国でイスラム過激派のテロが頻発し、その脅威と向き合っています。“戦争こそがテロの報復を生む”と批判してきました。

徳永有美アナ:マレーシアでも憲法9条に似せたような形のものを作っていきたいと以前おっしゃっていたと思うんですけれども、やはりそれだけマハティール首相のなかでそういう考え方は大事だと思っていらっしゃるんでしょうか。

マハティール首相:マレーシアに“9条”はありませんが、“9条”を実践しています。私たちは交渉します。私たちは隣国と問題を抱えてきましたが、戦争になったことは一度もありません。すべての問題は交渉やギブ&テイクで解決できると信じています。

ナレーション:交渉を武器にしてきたマハティール首相。去年、92歳にしてトップに返り咲きました。初めて首相となった時、日本を模範とする「ルック・イースト」を掲げました。知日派として知られ、去年秋、勲章を受章しました。また、石原慎太郎元東京都知事とも旧知の仲です。そして去年注目されたのが、中国との交渉です。

マハティール首相:“新植民地主義”は望みません。

ナレーション:一帯一路構想のもと、マレーシアでも鉄道建設を進めようとした中国に対して、一旦計画を白紙に。一年近い交渉を続け、建設費の大幅カットなどを勝ち取ったのです。

徳永有美アナ:これまでのマハティール首相は、とてもリアリスト、とてもリアリティに即した考えをお持ちの方というイメージがあったんですけれども、憲法9条というのは理想であると思うんですけれども。

マハティール首相:戦争がとても破壊的であることは日本が一番よく知っているはずです。核兵器が使われた唯一の国です。これは忘れてはなりません。交渉で損失が出るかもしれませんが、国が破壊されるような損失は出ません。戦争を解決の方法にしてはいけないのです。

徳永有美アナ:日本人は憲法9条の貴重さや価値というものを、なにかちょっともしかしたら薄まりつつあるのかもしれないなというような状況なんですけども、その今日本国民に対して伝えたいことはありますか。

マハティール首相:すべての国には歴史があります。その歴史には争いがあり、戦争がありました。過去にとらわれず現在や未来に目を向けなければいけません。戦争はあなたの国を破壊し、相手の国も破壊します。誰もそこから得をしません。過去を振り返ったとしても、過ちを繰り返してはいけません。

ナレーション:マレーシアが面する南シナ海では、アメリカと中国が覇権を争い、緊張が高まっています。アメリカから防衛協力を求められるかもしれない日本に、何を期待しているのでしょうか。

マハティール首相:国際的な話し合いの場で平和のために交渉や協議を重ね、軍事力を減らすべきなのです。自国の防衛を強化しなくてはいけないという思い込みは、相手を敵国とみなしているのと同じです。そうした態度を取れば相手も防衛を強化し、それを脅威だと感じるようになります。軍拡競争になってしまい、世界にとって良くありません。

徳永アナ:今日本というのは、憲法9条を変えようという動きが出てきているんですね。マハティール首相はその憲法9条をどのように評価されますか。

マハティール首相:殺し合いで問題を解決すべきではありません。私たちは争いを交渉や仲裁、裁判所で解決するべきです。私から見れば憲法9条は素晴らしいものです。

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【スタジオ】
徳永アナ:私たち日本人が守ってきた、ある意味当たり前のように存在していた憲法9条が、外から見た一国の首相、それから戦争を知る世代のマハティール首相にああいうふうに言われることによって、憲法9条が改めてすごく尊いもので価値あるものなんだなということを、改めて考えさせられた気がしました。

後藤謙次氏:そうですね。僕は今インタビューを見ていてですね、私は2007年の2月にソウルで、もう亡くなりましたけど、金大中元韓国大統領にインタビューをしたんですが、そのときのことを思い出したんですね。金大中氏も日本にとって憲法9条が非常に大切だと。我々にとっても世界の宝とも言える憲法9条を、なぜ日本は変えようとしているのか。それがよく分からない、とおっしゃってたんですね。マハティールさんもそうなんですが、憲法9条というのは普遍的な世界の理想とする価値も共通するところがあるし、と同時に第二次世界大戦で被害を受けたリーダーの一人として、日本に対するある種の警戒感が属している。そういうなかで安倍総理は2020年、東京オリンピックが終わったあとの改正憲法の施行というものを目指しているわけですが、まず国内の大きな量の合意が形成される必要がある、これはもちろんなんですが、と同時に、この憲法9条というのが第二次世界大戦が終わったあとの国際公約なんですね。天皇制を残すかどうか、これに反対する国があったんですが、象徴天皇制を残す代わりに再軍備はしませんよと、武装解除しますよと、それが憲法9条なんですね。憲法1条と9条はワンセットなんですね。そこが国際的な公約でもあるわけですから、ただたんに国内の合意が良ければ良いという問題でもない。非常に大きな問題を孕んでる。その意味では慎重に慎重に国内議論を重ねていくということが必要だと思いますね。

徳永アナ:マハティール首相と話してて、憲法9条というのは理想とか観念というだけでなく外交手段の大事な一つとして憲法9条というのが本当にあるんだということを、すごく考えさせられるようなインタビューでしたね。

後藤氏:私もそう思いますね。

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まずは今回の放送で取り上げられている憲法9条の確認をします。

憲法9条の条文は以下の通りです。

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1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
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憲法9条の第一項は「戦争放棄」についての条文であると言われています。
第二項は、「前項の目的を達するために」戦力不保持、「交戦権」を否認しています。

日本国憲法に関しては多くの政治的な意見が飛び交っています。
9条に関しては、なおのこと様々な意見があります。

日本国憲法の改正を望むいわゆる改憲派と、憲法の文言を一字一句変えたくないとする護憲派の2つに大きく別れ、言論空間では様々な議論がなされています。

護憲派としては、憲法9条が謳う「平和主義」をなんとしても死守したいというのが主な主張です。
こういった主張はこの日の放送でも何度か取り上げられています。

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徳永有美アナ:日本人は憲法9条の貴重さや価値というものを、なにかちょっともしかしたら薄まりつつあるのかもしれないなというような状況なんです

マハティール首相:殺し合いで問題を解決すべきではありません。私たちは争いを交渉や仲裁、裁判所で解決するべきです。私から見れば憲法9条は素晴らしいものです。

後藤謙次氏:金大中元韓国大統領にインタビューをしたんですが、そのときのことを思い出したんですね。金大中氏も日本にとって憲法9条が非常に大切だと。我々にとっても世界の宝とも言える憲法9条を、なぜ日本は変えようとしているのか。それがよく分からない、とおっしゃってたんですね。マハティールさんもそうなんですが、憲法9条というのは普遍的な世界の理想とする価値も共通するところがある
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こういった主張があること自体は問題ではありません。
ただし、テレビ放送として放送法を遵守する必要があります。
つまり護憲派だけでなく、憲法改正派の主張も取り上げていなければ公正な放送とは言えません。

改正派の主張とはつまり、日本国憲法は敗戦後、アメリカに押し付けられたものであるから、日本独自の憲法が必要であるとする主張です。

特に憲法9条に関しては、第2の検証点でも取り上げますが、国際的に普遍的なものとは言えません。

国が国民を守るという、国としてやらなければいけないことが今の日本国憲法ではできておらず、現に拉致被害者を奪還することはできていません。

平和を守るために憲法をこのままにしようという主張と、国が国民のことを守ることのできるよう、憲法を改正しようという主張のどちらも取り上げて放送するべきですが、この日の放送では憲法改正派の主張は取り上げられていませんでした。

このことは以下の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(2)政治的に公平であること
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続いての検証点に移ります。
検証点の2つ目として多くの論点を取り上げて放送がなされていたか、という点について検証していきます。

憲法改正については、検証点1でも取り上げてきたように、多くの意見や論点があります。

護憲派が憲法を守りたいとする根拠として、憲法9条があったからこそ、日本が戦後戦争に巻き込まれることはなかったという主張があります。

しかし、ここで朝鮮戦争やベトナム戦争などの戦後に起きた紛争で日本はどういったポジションどうだったかということを考えてみたいと思います。

日本はアメリカの同盟国であるため、アメリカをはじめ西側諸国側として紛争に参加していたと言えます。実際、在日米軍基地から飛び立った軍用機が戦場に向かっているのです。
アメリカと戦っている国から見れば、日本は敵国に見えるでしょう。

湾岸戦争の際にも似たような状況でした。時の海部政権は、アメリカに経済的援助を行っています。小泉政権の時のアフガン・イラク戦争でも同様に経済支援を行なっています。
こういった支援も戦争に参加しているとみなすのが、国際社会では一般的です。

日本はアメリカに守ってもらっているのが現状です。
しかし、そうした体制のままでよいのかは議論が尽くされなければなりません。
その議論の一環に憲法改正も含まれてきます。

しかしながら、この日の報道ステーションでは憲法9条を金科玉条するが如き護憲派の主張ばかりをとりあげていました。これは以下の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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公正なテレビ放送を実現するべく、視聴者の会は今後とも監視を続けて参ります。

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