サンデーモーニング、2019年6月9日分の検証報告(後編)です。
今回の報告では、
① トランプ米大統領の訪英とノルマンディー上陸作戦記念式典参加について報道された部分
② スーパーシティ法案の提出と同日選について報道された部分
③ 「風を読む」にて天安門事件について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。
後編で検証するのは、
③ 「風を読む」にて天安門事件について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
【VTR要約】
天安門事件から30年経ち、香港記者協会は当時取材した画像をインターネット上に公開し、事件の悲惨さを訴えた、とナレーション。現場で取材にあたった元記者のインタビュー映像に切り替わり、「多くの市民が次々に撃たれて倒れていた。」と語る映像が流される。
(天安門事件の概要)
・改革派の胡耀邦元総書記が死去し、学生らを中心とする追悼の動きは民主化運動へ発展
・この動きに危機感を抱いた政府は対応策として戒厳令をとり、実力行使による鎮圧に踏み切った
・中国政府の公式発表では、死者は319人とされたが、実際は数千人との推計もある
・この事件は学生らの動乱で解決済みとして、体制批判や民主化の声を徹底して抑え込んできた
・現在でも、中国政府は海外メディアによる天安門事件に関するニュースを遮断している
アメリカ議会の公聴会に出席する天安門事件の元学生リーダー、ウーアルカイシ氏の姿が映し出され、「世界の指導者は中国市場にアクセスしようと北京に足を運ぶようになった。天安門事件に言及するのは彼らにとって不都合なことになった。若者に寄り添うべきか、戦車に寄り添うべきか皆さんに問いたい」と語る映像が流される。アメリカのポンペオ国務長官が「中国の一党体制は異論を認めず、党の利益になるとみればいつでも人権を侵害する」という声明を出したことに対し、中国政府は「内政干渉し中国の安定を壊そうといういかなる企みも必ず失敗する」と批判した伝えられる。中国の強気な姿勢の背景には、世界第2位の経済力にあるとナレーション。
中国事情に詳しい興梠一郎教授のインタビュー映像に切り替わり、「(中国企業はみな)共産党の党有企業。共産党の権力者が資本主義を支配している」と語る映像が流される。本来の資本主義とは矛盾する中国体制の歪みは既に様々な形で表れており、少数民族への抑圧・反腐敗運動の粛清・一帯一路政策・強引な海洋進出など拡大主義的な動きがあると伝えられる。再びインタビュー映像に切り替わり、「中国は政権の維持が最優先で、経済などの問題は二の次」と語る映像が流され、VTRは終了した。
【コメンテーターの発言】
田中秀征氏(要約):当時は中国も民主化するのかという期待感があってテレビにかじりついて見ていた。人民解放軍が人民弾圧軍になっていく様が目に焼き付いている。経済が発展すれば民主化するだろうと甘く考えていたことを反省している。逆に監視社会化が強められて共産党の体制がどんどん強化されていってしまった。妥協せず中国に対し厳しく対応していくべき。
田中優子氏(全文):私もそう思いますね。中国と中国人ってのは区別していつも考えているんですね。で、非常に長い歴史の中で中国の方たちって、大変革新的で、常に革命を起こしながら新しい皇帝が生まれてくる。それから多民族国家ですよね。そういうところで、一人ひとりの活力とか高い能力を持っている。そういう人たちを抑え込んで、報道規制をやったり管理経済をするというのは、そういう人たちの能力を育てないことになりますから、非常にその、世界的にいっても大変もったいないことをしてるっていう気がするんですね。で、しかも世界的に様々な流動化の中で私たちが生きていくときに大事なのが信頼関係です。国への信頼というのはやっぱり、人権を大切にしてるかどうか。大切にしてなかったら、外国人にそこに行かれませんから危険で。ですから、人権ということを世界を共通軸にして、やはりきちっとそういう国家を作ってくれって常に周辺諸国が言うべきことだと思っています。
中西哲生氏(要約):中国は既に技術的にも発展していて、中国を抜きにしてテクノロジーの活用を考えることは難しい。世界が中国をどう取り込んでいくのかを考えていかないといけない。もう阻害するのは不可能。
涌井雅之氏(全文):中国という国はですね、中国という国がまずありきじゃなくて、中国共産党がまずありきで。その中に中国という国家像が描かれてると。で、それを実現するための飴はですね、歴史に対する誇りですね。つまり、中華帝国。これを再現する。同時に、経済で潤わせる。で、鞭は統制ですね。そういう二重構造になってる中でなぜ成功したかといえば、完全に国家資本総動員。そして、国家統制の経済。これで成功してると。これにね、皮肉なことにね、一番、要するにブレーキをかけてるのはトランプなんですよ。トランプが叩いてるのは非常に良いことじゃないかと言う世論がですね、アメリカの中で出てきてる。これも非常にね、ジレンマになるところですね。
青木理氏(全文): 皆さんおっしゃるように大問題ですよね。人権とか少数民族とか一党独裁とか。その中国が、経済成長しちゃって、どう向き合うのかっていうのは今後、10年度どころか、多分50年、数十年単位で、世界中が頭を悩ませると思うし、もしかすれば変わるんじゃないかっていう期待もすると思うんですけど、しかしね、これ、ふと考えてみると、自分達の足元はどうなのかっていうのを考えてみたら、先ほどトランプのことを皮肉とおっしゃいましたけど、涌井さんが。アメリカ、ヨーロッパそうだけど、日本だってね、例えば人権。多様性。今日も言葉が出ましたよね。ダイバーシティとか言論とか報道の自由とか。あるいは少数民族、マイノリティーの尊重とかね。あるいは、思想の自由とか集会とか結社とかデモの自由っていうのは、これはおそらく、中国の日とも世界中の人も人類普遍の価値ですよねっていうふうに思ってるものっていうものが、自分達の足元は大丈夫なのかと。むしろ、僕らは自分たちの足元をそれを守りつつ、中国と向き合っていけば、いずれその、中国が変わっていくってことを期待するしか、僕らはないのではないかなと。もちろん、アドバイスするときはすべきなんですけれどもね。そんな気がしましたね。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の2点です。
1、涌井氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
それぞれ順を追って解説します。
1、涌井氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
涌井氏は今回の報道で、以下のように述べています。
涌井氏(抜粋):中国という国はですね、中国という国がまずありきじゃなくて、中国共産党がまずありきで。その中に中国という国家像が描かれてると。で、それを実現するための飴はですね、歴史に対する誇りですね。つまり、中華帝国。これを再現する。同時に、経済で潤わせる。で、鞭は統制ですね。そういう二重構造になってる中でなぜ成功したかといえば、完全に国家資本総動員。そして、国家統制の経済。これで成功してると。これにね、皮肉なことにね、一番、要するにブレーキをかけてるのはトランプなんですよ。トランプが叩いてるのは非常に良いことじゃないかと言う世論がですね、アメリカの中で出てきてる。これも非常にね、ジレンマになるところですね。
要旨をまとめると、
・中国という国は中国共産党ありきの国である
・中華帝国を再現するという野望や経済の発展という飴と、全体主義的統制という鞭とが成功を導いた。なぜなら中国の国家資本を総動員でき、国家が経済を統制したからである。
・これにブレーキをかけているのは皮肉なことにトランプである。トランプが中国をたたくことがよいことであるという世論がアメリカに存在し、これは非常にジレンマになるといえる
というものです。
しかしながら、
・中国共産党の支配を一方的に支持する言説であり、政治的に公平とは言えない。
・また思想犯の取締や少数民族弾圧などの全体主義的施策を肯定する言説であり、極めて危険と言わざるを得ない。
・トランプ米大統領の中国に対する姿勢は「皮肉」という語義には当てはまらない。また、アメリカの世論が中国の経済にブレーキをかけているという主張に根拠がない。
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での涌井氏の発言は政治的公平性を欠き、事実に基づかないだけでなく、視聴者に対し権力による全体主義的統制を容認するような認識を与えかねない、公安を害する危険なものである恐れがあります。したがって放送法第2章第4条第1号「公安及び善良な風俗を害しないこと」、同第2号「政治的に公平であること」ならびに同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
青木氏は今回の報道で、以下のように述べています。
青木氏(抜粋):人権とか少数民族とか一党独裁とか。その中国が、経済成長しちゃって、どう向き合うのかっていうのは今後、10年度どころか、多分50年、数十年単位で、世界中が頭を悩ませると思うし、もしかすれば変わるんじゃないかっていう期待もすると思うんですけど、
しかしね、これ、ふと考えてみると、自分達の足元はどうなのかっていうのを考えてみたら、先ほどトランプのことを皮肉とおっしゃいましたけど、涌井さんが。アメリカ、ヨーロッパそうだけど、日本だってね、例えば人権。多様性。今日も言葉が出ましたよね。ダイバーシティとか言論とか報道の自由とか。あるいは少数民族、マイノリティーの尊重とかね。あるいは、思想の自由とか集会とか結社とかデモの自由っていうのは、
これはおそらく、中国の日とも世界中の人も人類普遍の価値ですよねっていうふうに思ってるものっていうものが、自分達の足元は大丈夫なのかと。むしろ、僕らは自分たちの足元をそれを守りつつ、中国と向き合っていけば、いずれその、中国が変わっていくってことを期待するしか、僕らはないのではないかなと。もちろん、アドバイスするときはすべきなんですけれどもね。そんな気がしましたね。
要旨をまとめると、
・人権や少数民族弾圧、一党独裁などを行う中国は批判されがちだが、アメリカやヨーロッパ、日本でもダイバーシティやマイノリティーの尊重、言論の自由や思想の自由、集会・結社・デモの自由が大丈夫だとは言えない
・だから我々は自分たちの足元にまず気を配り、中国と向き合っていくことで、やがて中国が変わっていくことを期待するしかない
というものです。
しかしながら、
・当然ながら、国家として「人権侵害や少数民族弾圧、一党独裁」を行う独裁国家である中国と欧米諸国や日本とは全く状況が違う。日本や欧米諸国では「ダイバーシティやマイノリティーの尊重、言論の自由や思想の自由、集会・結社・デモの自由」は当然の権利として人々に保障されており、中国と同列に扱うことは明らかに事実に反している。
・日本や欧米諸国の状況は、中国の一党独裁や人権侵害を容認する根拠には全くならない。
・「自分たちのことに気を配り中国を黙認しろ」という主張は中国側に立った主張であり、したがって明らかに政治的公平性を欠く
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での西崎氏の発言は事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の後編となります。後編では事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
① トランプ米大統領の訪英とノルマンディー上陸作戦記念式典参加について報道された部分
については前編の報告を、
② スーパーシティ法案の提出と同日選について報道された部分
については中編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。