1月10日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。
・自衛隊の中東派遣の必要性について十分な論点を放送していない
まずは放送内容を確認していきます。
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【スタジオ】
森川夕貴アナウンサー(以下森川アナ):今日政府は、その中東に自衛隊のP3C哨戒機と護衛艦を派遣する命令を出しました。名目は、調査と研究ということなんですけれども派遣にあたって議論は尽くされたんでしょうか。
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【VTR】
河野太郎防衛大臣『主要なエネルギーの供給源である中東地域において、日本関係船舶の航行の安全を確保することは非常に重要です。安全確保に必要な情報収集活動の実施を命じたところであります。
ナレーション(以下ナレ):緊張が続く中東に向け自衛隊の派遣が命じられました。明日はまず、那覇基地からP3C哨戒機2機が出発します。後を追う形で、来月2日には護衛艦「たかなみ」も中東に向かい総勢260人の隊員が派遣されます。その目的は日本に関係する船舶の安全を確保するための情報収集だとしています。活動地域はイランに接するオマーン湾にアラビア海北部そして、アデン湾。日本に原油などを運ぶエネルギー供給の生命線で年間およそ5700隻が航行します。ただ、そのうち7割が通るホルムズ海峡やペルシャ湾は活動範囲に含まれません。
Q.危険性はどう認識
河野太郎防衛大臣(以下河野大臣)『中東の緊迫が高まっている状況にはあると思います。だからこそ、日本関係船舶の航行の安全に必要な情報収集活動をしっかりと強化していかなければならない』
ナレ:派遣が決まったのは年の瀬の閣議でした。国会の承認を必要としない防衛省設置法の調査・研究に基づく派遣です。2001年、同時多発テロのあとアメリカの空母を事実上、護衛したときの名目も最初は調査・研究でした。その後、活動をインド洋まで広げるため国会でテロ特措法が成立し米軍への後方支援を行いました。イラク復興支援のための自衛隊派遣ではイラク特措法が作られました。今回は、新たな法律が作られることなく調査・研究名目のまま1年にわたって中東派遣が続くことになります。
Q.(調査・研究という)軽い規定で極めて危険な地域に自衛隊を派遣することに問題があると思わないか。
河野太大臣『思っておりません』
ナレ:野党は…。
安住淳国対委員長『調査目的のために出すというのは非常に危険性が高いし仲介役を自任してきた国がそうした行動をとるのは国際社会からどう思われるのかなと』
ナレ:第1次安倍政権などで安全保障を担当した柳澤協二氏はこう指摘します。
柳沢協二氏(以下柳沢氏)『与えられた任務、予想された任務があるからそのための「調査・研究」ということになるが、どういう任務が予想されるのか、そして相手が何なのかということも分からない。これは現場にとって大変なこと。自衛隊の出し方としては政治がもっと明確な任務・権限を本来与えなければいけない』
ナレ:派遣中、仮に日本船籍の船が攻撃を受けた場合自衛隊がとるのは海上警備行動です。正当防衛や緊急避難にあたる場合は武器の使用も認められます。ただ…。
柳沢氏『会場警備行動であれば日本の警察権ですから、日本の警察権が及ぶのは日本船籍の船なんですね。他の日本船籍以外のものに対しては海上警備行動では対応できない。日本の警察権でできることは非常に限られている。外交に覚悟を持って本腰を入れるしかないんだろうと思う』
ナレ:安倍総理は一時延期を検討したサウジアラビアなど中東3か国の歴訪に明日、出発します。
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【コメンテーターによる解説】
森川アナ:国会で十分な議論がなされないまま本当に自衛隊をこのまま派遣してしまっていいんですかね。
野村修也氏:今回は調査・研究という名目で情報収集をしてそれを外交努力によってこの地域の武力衝突を回避するそういうために使おうという前提になっていると思うんですがそうはいってもやはり、なんといっても日本の船舶が攻撃されることはあり得るわけです。そうなったときには今出てきた海上警備行動に直ちに切り替えるといっているんですね。この海上警備行動今、VTRにあったように警察権の行使で通常は海上保安庁がやっていることなんですね。ですから、それについては過去にも例があるということで今回は出すことにしたとこういうことになっているんですね。
小木≫何か突発的なことが起きてより現場が緊迫しまして海上警備行動では対応しきれないということも否定しきれないと思うんですが。
野村氏:やはり一番気になるのはアメリカとイランとの間でまさに武力衝突が怒ってしまったときですね。このときに例えば日本の自衛隊がアメリカの民間船舶を護衛するのかどうか。あるいは、機雷をまかれたときに機雷を戦闘中に除去するかどうかですね。こういったものは実は集団的自衛権に関わる論点なんですが集団的自衛権については憲法との絡みで非常に限定的な要件の中でしかやらないということになっているわけです。ですから、今回は派遣したあとに万が一、そういうことが起きたらどういうことができて何ができないのかこれをもうちょっと明確に議論をして、国際社会に対してできないことはできないと言えるような態勢を整えることが大事だと思います。
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【検証部分】
緊迫する中東情勢の中、自衛隊の中東派遣が決まりました。
この日の放送では自衛隊の中東派遣について、自衛隊の危険性や自衛隊がどこまでのことをできるのか、といった論点が中心となって報道がなされていました。
もちろんこういった議論は必要でしょう。
確かに自衛隊が戦闘に巻き込まれた時、できることは限られていますし、集団的自衛権の行使についても限定的です。
こういった議論は必要ですが、今回の中東派遣の必要性という論点が欠けた放送でありました。
年明けから緊迫した中東情勢でも日本の民間船は中東の海へ出ています。
この民間船の安全確保のために中東派遣を行っているわけですが、やはり一国の軍艦が派遣されるだけでも十分な抑止力となり得ます。
例えばソマリアでの海賊の活動を哨戒機などで監視するようになってから、海賊の問題行動は起きていません。
放送の中で安住淳国対委員長は自衛隊に危険が及ぶことに言及していますが、民間の日本船がなんの援護もなしに中東海域へ行くことの方が危険性は高いのです。
実際に2019年6月に日本のタンカー船がオマーン湾で攻撃されています。
こういった攻撃を抑止するために自衛隊が中東に派遣されるのです。
放送でアメリカ国籍の船を防衛することができない、ということを問題視するような発言がありましたが、まずは自分の国の船を守れるようにすることが大前提です。
そのための中東派遣であることが放送ではほとんど触れられていませんでした。
このような放送は以下の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して今後も監視を続けて参ります。