2020年2月16日 サンデーモーニング(前編)

2020年2月16日 サンデーモーニング(前編)

TBS「サンデーモーニング」、2020年2月16日放送回の検証報告(前編)です。

今回の報告では、
① 「風を読む」にて感染症から見えた中国について報道された部分
② 安倍首相の野次による国会紛糾について報道された部分
③ 検事長の定年延長について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。

検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。

今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。

前編で検証するのは、
① 「風を読む」にて感染症から見えた中国について報道された部分
となります。

では、さっそく放送内容をみてみましょう。

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【VTR要約】
新型コロナウイルスに揺れる中国。習近平指導部の対応から何が読み取れるんでしょうか。市民ジャーナリストを名乗り武漢の実情を伝える動画を撮影し、SNSで発信を続けてきた男性。当局の規制をかいくぐり、感染患者であふれ返る病院内部の様子などを伝えてきましたが、6日から行方不明となりました。男性は当局に拘束されたか、強制的に隔離されたと伝えられています。 感染拡大を続ける新型コロナウイルス。こうした事態に中国政府は当初から厳しい情報統制を行ってきました。早くから新型肺炎の発生に警鐘を鳴らし、みずからも感染して、7日亡くなった武漢市の李文亮医師。彼は12月末、SNSの投稿でデマの情報を流したとして警察から訓戒処分を受けていました。情報統制が強まる中、日増しに事態は深刻化。10日、習近平国家主席はマスク姿で北京市内を視察しました。しかし、市民との握手は行いませんでした。また、治療を行う病院も視察し、テレビ会議で武漢市の医療関係者を激励しました。増え続ける患者への対応のため当局は武漢市内に2つの病院を建設。1つ目の病院は着工から僅か1週間、2つ目もおよそ2週間という突貫工事で診察を行っています。ほかにも体育館などを活用し、人民解放軍の野戦病院方式の診療も続けています。中国事情に詳しい神田外国語大学の興梠教授は、「病院の建設は、政治的な力を見せつけるという意図もある。SARSの際も同様だった。国民を安心させる目的がある。加えて、中国がちゃんとやっていることを世界に発信する狙いもある。ただ実際にそれが効果があるかは別の問題。」とコメント。さらに習近平指導部は中国社会に広がる不安の鎮静化に躍起となって取り組んでいます。10日、武漢市トップの馬国強書記は市の検査態勢は万全であり、市民の99%に検査を行ったと発言しました。ところがこの発言に対し、SNS上でうちには調査は来ていないから自分は残りの1%なのか、信じられないといった批判的な市民の書き込みが相次ぎます。すると中央政府は13日、批判を浴びた武漢市トップの馬国強書記、さらに湖北省トップを相次いで更迭しました。興梠教授は、この人事に習指導部の焦りがみられると指摘します。「湖北省と武漢市のトップに公安歴の長い人を連れてきた。習近平氏は治安維持、社会不安の問題を怖がっている。失業者が大量に発生したり、民衆の抗議運動が起きたり。ウイルスの対策も先が見えない状態で社会の状況を一番に優先している。」とコメント。さらに感染拡大の影響は今や世界経済のエンジンともなった中国経済に及んでいます。国営中央テレビによれば、習近平主席は経済への影響を極力、小さくしなければならないと危機感を示し大規模なリストラを防ぐ必要があると対策に乗り出す姿勢を強調。経済の落ち込みをどうにか防ごうと苦慮しています。こうした中国政府の対応について興梠教授は、「経済がもの凄くダメージを受けるので、とにかく生産活動は開始するという方針を打ち出している。経済の回復が先にあって、感染症の問題が二の次になってくる。そうすると、経済活動と連なる形でウイルスが拡がる。北京と上海に大規模感染が起きると大変なことになる。経済とウイルスの封じ込め、同時に行わなければならない。」と指摘。4月にも習近平国家主席の来日が予定される中、今後の中国政府の対応に注目が集まっています。

【コメンテーターの発言】
姜尚中氏(全文):あの今回の問題見るとき私は2つの視点が重要だと思うんですね。その1つは、独裁と民主主義、あるいは情報統制と公開性。あるいは不透明性と透明性。で結局、これまで独裁のほうが効率的ではないかと、民主主義より。今回のようなことが起きると揣摩憶測がワッと広がって逆にダメージが大きいっていうのが分かったんですね。ただ、まあ今、中国はそれは置いておいて、とにかくもう何が何でも秩序を維持して治安をというふうに考えているんだと思います。ただ、今ね、中国特殊論、あるいは中国異質論がワッと出てくるのもどうかなと私自身は思っているんです。つまり中国はほかの国と違うというこの異質論だけでねいいのかという。もう1つは、あの欧米を見渡すと中国、韓国、日本も含めていわゆる黄色人種イコールウイルスと、こんな形でたたかれてる部分があるんですね。でこれはもう、欧米の中にあるその黄色人種が災いをもたらすというこのイエローペリルという黄禍論があるんですけど今ねあの、欧米では特にそれが広がっていて、中国の人や韓国の人、あるいは日本の人もいろんな被害を受けている。ですから大切なことは中国異質論で済ましちゃだめだと、同時にこの問題がやっぱ終息しないとこれ日本にとってもだめなんだというこう2つの視点をねやっぱり私自身は持つべきではないかと思いますね。そうしないとバランスが取れないというか、まあそんなふうに考えます。

元村有希子氏(要約):中国がSARSを経験していますよね。そのときに何が起きたかというのを関西福祉大学の勝田吉彰教授が分析して5つのPと言ってるんです。SARSフォービア、まず恐れる。それからSARSパニック、社会が混乱する。それからSARSパラノイア、風評が広がって大変なことになる。そのあとにSARSポリティクスという政治的な動きが出てきて終息に向かい、最後はPTSD、患者さんや被害を受けた方が体験を語りだすという過程にまとめているんですけど。今のこの状態はたぶんSARSパラノイアですね。いろんな動きがあって、それが不安を増幅させるということだと思うんですけど。これから起きてくるSARSポリティックス、政治の動きというのが中国を見る限りちょっと誤った方向にいっているようで心配です。ただ、習近平さん、災難続きですよね。まず貿易戦争があった、それから香港の混乱があった、そしてアフリカ豚熱の被害にも遭っていますよね。内憂外患の中で、2012年からの政権をどう維持するかということに、ちょっと傾きがちなんですけどあまりやりすぎると後悔を残すのではないでしょうか。

岡本行夫氏(要約):私も黄禍論というのは結構深刻な問題だと思います。だから「ダイヤモンド・プリンセス」号の処理なんか非常に大事だと思いますね。一方、中国は去年末にウイルスが発見されて公開されたのは1月20日じゃないですか。そういう意味では異質な国なんですよね。習近平という人は毛沢東以来の強権の指導者だと言われていますけども。中国、責任があるんですよね。SARSのときには世界経済全体で0.3%ぐらいの落ち込みだったけど、あのときは中国は確か、まだGDPは世界の4%だったんですが今はもう17%ですからね。これはもう今までのような中国のやり方はだめだということを早く習近平さんに気がついてもらわないとね。

鎌田實氏(要約):言論統制だけじゃなくて、例えば中国、1月18日に春節の大食事会というのを武漢で4万人が参加して。感染していた人が作ったものをみんなで分け合って食べるような、最もいけないことをしてあそこでかなりのことが起きてしまったんじゃないかと思うんですね。今日前半でかなり日本も厳しいというお話をしました。新型コロナウイルスの致死率が2.3%という数字が出ていましたけどちょっと安心してもらったほうがいいような数字も別にあって、中国の湖北省を除いて中国を中心にした致死率をみると0.23%というデータもあるのでインフルエンザの致死率が0.1%ですのでやはりそんなに、怖い怖い怖いって思い過ぎないこと、やるべきことを僕たちは落ち着いてやって、今日お話ししたように日本の中の医療崩壊を、武漢のようにしてはいけないというふうに頭の中をもう一回整理していただければと思いました。

青木理氏(全文):姜さんが少しおっしゃいましたけど、一党独裁とか強権政治、中央政権って強いのかなと思ったらどうもそうでもない。現地で取材してる記者に聞くと、忖度とか事なかれとか指示待ちとか柔軟性の欠如とか、あるいはその情報統制するもんだから情報が滞留しちゃったりとか。むしろその一党独裁中央政権の弱さみたいなものが今度、どうも被害を広げてしまったんじゃないかというんですね。これ、他人事じゃなくて、日本でもそのいわゆる一強政権とか官邸主導っていうもののせいなのかわかんないけど今回ちょっとどうも後手後手。対策本部の設置なんかもかなり遅れていますよね。まああの皮肉っていうか嫌みを言えば、ふだん、緊急事態条項をを欲しいって言ってるのはどなたですかって言いたくなるんだけど、むしろこういう時ってどうも中央に一括的対応も必要なんだけれどもその権限の委譲とかねあるいは分散とかその柔軟性。地方とかそれぞれに司々に色々分権していくほうが強いんじゃないかなっていうようなことってのちょっと僕は今回感じましたけどね。

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以上が放送内容となります。

では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で我々が問題だと考えたのは、以下の3点です。

1、姜尚中氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている

それぞれ順を追って解説します。

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1、姜尚中氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
姜尚中氏は今回の報道で、以下のように述べています。

姜尚中氏(抜粋):結局、これまで独裁のほうが効率的ではないかと、民主主義より。今回のようなことが起きると揣摩憶測がワッと広がって逆にダメージが大きいっていうのが分かったんですね。(中略)ただ、今ね、中国特殊論、あるいは中国異質論がワッと出てくるのもどうかなと私自身は思っているんです。つまり中国はほかの国と違うというこの異質論だけでねいいのかという。もう1つは、あの欧米を見渡すと中国、韓国、日本も含めていわゆる黄色人種イコールウイルスと、こんな形でたたかれてる部分があるんですね。でこれはもう、欧米の中にあるその黄色人種が災いをもたらすというこのイエローペリルという黄禍論があるんですけど今ねあの、欧米では特にそれが広がっていて、中国の人や韓国の人、あるいは日本の人もいろんな被害を受けている。ですから大切なことは中国異質論で済ましちゃだめだと、同時にこの問題がやっぱ終息しないとこれ日本にとってもだめなんだというこう2つの視点をねやっぱり私自身は持つべきではないかと思いますね。そうしないとバランスが取れないというか、まあそんなふうに考えます。

要旨をまとめると、
・独裁の方が民主主義よりこうした事態において効率的だと言われていたが、推測憶測が広がって逆にダメージが大きいことが分かった。
・中国は他の国と違うという中国特殊論・中国異質論が広がっているが、欧米で黄色人種を一緒くたに扱う黄禍論が広がっており、異質論だけではダメだ。

というものです。

しかしながら、
・こうした事態において推測憶測が広がるのは政治体制にかかわらず起きることであり、独裁(権力集中)と民主主義の良し悪しを決めるものではないため姜尚中氏の主張は事実に即しているとは言えない。
・黄色人種を一緒くたにする黄禍論の存在は、中国の政治体制の特殊性、異質性を否定する根拠にはならない。

など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。

以上のことから、今回の報道での姜尚中氏の発言は政治的に公平でなく、また事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。

2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
青木氏は今回の報道で、以下のように述べています。

青木氏(抜粋):姜さんが少しおっしゃいましたけど、一党独裁とか強権政治、中央政権って強いのかなと思ったらどうもそうでもない。現地で取材してる記者に聞くと、忖度とか事なかれとか指示待ちとか柔軟性の欠如とか、あるいはその情報統制するもんだから情報が滞留しちゃったりとか。むしろその一党独裁中央政権の弱さみたいなものが今度、どうも被害を広げてしまったんじゃないかというんですね。これ、他人事じゃなくて、日本でもそのいわゆる一強政権とか官邸主導っていうもののせいなのかわかんないけど今回ちょっとどうも後手後手。対策本部の設置なんかもかなり遅れていますよね。まああの皮肉っていうか嫌みを言えば、ふだん、緊急事態条項をを欲しいって言ってるのはどなたですかって言いたくなるんだけど、むしろこういう時ってどうも中央に一括的対応も必要なんだけれどもその権限の委譲とかねあるいは分散とかその柔軟性。地方とかそれぞれに司々に色々分権していくほうが強いんじゃないかなっていうようなことってのちょっと僕は今回感じましたけどね。

要旨をまとめると、
・中国を取材する記者曰く、忖度や事なかれ主義、指示待ち、柔軟性欠如などが横行し、中央集権の弱さが被害を広げている側面がある。日本でも一強政権や官邸主導で後手後手だ。
・政府の対応を見ると緊急事態条項を設置したいと言っているのは誰だと皮肉りたくなるが、こういう時は中央一括的な対応だけでなく権限の委譲や地方への分散といった柔軟性が必要だ。

というものです。

しかしながら、
・中国で起きている問題の多くは「独裁体制」に起因するものであり、政治体制の全く違う日本に当てはまるものではない。これらを「中央集権」として一緒くたに扱う主張は事実に即しているとは言えない。
・また、日本の対応が後手に回る理由として一強政権や官邸主導を挙げる主張には何ら客観的根拠がなく、政治的に公平とも言えない。
・今回の新型コロナウイルスへの対処は緊急事態条項の議論の必要性を十分に示すものであり、緊急事態条項がない以上対応が制限される側面が存在する。したがって「緊急事態条項を設置したい政府の対応ではない」とする青木氏の主張は事実に即しておらず政治的に公平とは言えないうえ、そもそも皮肉として成立していない。
・災害などの緊急事態の現場において最優先されるべきは統一化された指揮系統の確立であり、権限の委譲や地方への分散が必要という青木氏の主張は明らかに事実に反している。

など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。

以上のことから、今回の報道での青木氏の発言は政治的に公平でなく、また事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。

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3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「中国の集権体制が事態の収拾を困難にしたので日本は緊急事態条項のような集権化はやめるべきだ」という立場に立った意見ばかりが出てきました。

ですがこの問題に関しては「今回の事態は中国の特異性を明らかにしたもので、日本とはまったく事情が違う」「日本はこうした事態に対処するために緊急事態条項が必要だ」といった反対の意見があります。

にもかかわらず、今回の報道におけるVTRやパネル説明ではそうした意見をほとんど取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。

以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。

以上が報告の前編となります。前編では事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。

この続きの
② 安倍首相の野次による国会紛糾について報道された部分
については中編の報告をご覧ください。
③ 検事長の定年延長について報道された部分
については後編の報告をご覧ください。

公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。

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