5月22日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。
・政治的に公平な放送であったか
・様々な論点を取り上げた放送であったか
まずは放送内容を確認していきます。
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【スタジオ】
小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):黒川検事長の辞職が承認された今日、国会で問われたのは黒川氏の定年延長を決めた安倍政権の責任でした。
【VTR】
共産党・宮本徹衆院議員(以下宮本議員)『黒川さんは「余人に代えがたい」と言い、法律の解釈まで180度変えて定年延長してこのざまですよ。そのことへの責任をどう感じて、どう取られるんですか』
安倍晋三総理大臣(以下安倍総理)『検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものでありました。その責任は私にあるわけでご批判は真摯に受け止めたい』
宮本議員『行動が伴ってないじゃないですか。責任があるのならどう取られるんですか』
安倍総理『国民の皆様の信頼を回復するために全力を尽くしていきたい』
ナレーション(以下ナレ):ただ、黒川氏の定年延長を認めた異例の閣議決定については…。
安倍総理『適正なプロセスを経たものであります』
ナレ:撤回しない考えを改めて示しました。野党の追及は森大臣にも…。
無所属・階猛衆院議員『大臣自ら責任をとって辞任する考えはありませんか』
森雅子法務大臣(以下森大臣)『昨晩総理に“進退伺”を提出したところでございます。総理からは強く慰留されました。つらい道ではございますが、検察の信頼回復のためにできることをまずしてまいりたい』
ナレ:辞表ではなく進退伺を提出したところ慰留されたそうです。批判が集中したのは黒川氏の処分内容についてです。人事院の指針では賭博をした職員への処分は軽くても戒告となるはずですが黒川氏は訓告にとどまりました。
無所属・山尾志桜里衆院議員(以下山尾議員)『なぜ懲戒ではなく訓告なんですか』
森大臣『事案の内容と諸般の事情を総合的に考慮し適正な処分を行った』
山尾議員『説明する意欲を突然なくした答弁ですけれども、(黒川氏は)戦後初めて定年延長されて「余人をもって代えがたい」と評価された検察。その人が3年前からの賭け賭博を認めている状況が明らかになっていて、どうして国家公務員法にも当たらない訓告で足りると考えたのか』
森大臣『“レート”とか本人の態度を総合的に考慮し処分したもの』
ナレ:賭けマージャンのレートが判断材料になったといいます。
法務省・川原隆司刑事局長『レートはいわゆる「点ピン」。具体的に申し上げると麻雀1000点を100円と換算。社会の実情を見ましたところ、必ずしも高額とまではいえないレートでやったということで考えた』
ナレ:黒川氏に支払われる見通しの退職金についても…。
無所属・小川淳也衆院議員『退職金も6000万円とも7000万円ともいわれますが、これがいまの国民感情に照らして適切だとはとても思いません。撤回して重い処分を求めます』
安倍総理『検事総長が事案の内容等、諸般の事情を考慮し、処分を行ったものと承知しているところです』
ナレ:そして、焦点となっていた検察庁法改正案に新たな展開が。
安倍総理『公務員の定年延長について議論を進めていることに批判もあるという指摘もございまして』
ナレ:安倍総理がこう語るのは国家公務員法改正案についてです。政府は、秋の国会での成立を目指していましたが…。
自民党中堅議員『もう廃案っていう空気だよね。総理も含めて』
ナレ:一転して廃案にする案が浮上しています。法案は、公務員の定年を65歳に引き上げる内容で批判を集めてきた検察庁法改正案と束ね法案として一本化されています。廃案になれば、検察官だけでなく一般の公務員の定年延長についても白紙に戻ることになります。この法案については…。
安倍総理『目的は高齢期の職員の豊富な知識・経験等を最大限に活用する点などにある』
ナレ:こう述べて必要性を強調してきましたが今日の国会では…。
安倍総理『コロナショックの中、民間の給与水準の先行きが心配される中で、役所先行の定年延長が理解を得ることができるのかどうかという議論もあるのも事実。もう一度ここで検討すべきではないかと』
ナレ:菅官房長官の説明は…。
菅義偉官房長官『新型コロナウイルスの影響で、この法案を作った時とは状況が違っているのではないかという中で検討が必要だと思います』
ナレ:廃案の動きに、野党は…。
立憲民主党・逢坂誠二政調会長『特段の理由もないのに取り下げるということになるならば、今まで政府が訴えてきたことは一体なんだったのかということになる』
【コメンテーターによる解説】
森川夕貴アナウンサー:黒川検事長の今回の処分なんですが野村さんはどうご覧になりますか?
野村修也弁護士:ひと言で言えば甘かったと思います。検事総長が法務省の内部の調査だけをしまして訓告という、これは法務省内部の処分なんですがこれにとどめたのを受けまして内閣もそれに従う形で辞表を受理してしまったということはやっぱり、国民の納得を得られないと思うんですね。
人事院が示しています基準によりますとこれは額にかかわらず金銭授受していますと賭博にあたりますので、賭博については減給とかあるいは戒告という懲戒処分をすべきことになっていまして常習性があれば停職という処分も考えられるということになっているわけなんです。
それにもかかわらずこの検事長は内閣が任命しますから、本来ならば懲戒処分というのも閣議決定でできたんですが、森法務大臣はたとえ検事総長の判断と異なるとしても、より詳細な事実調査を行ったうえで主体性をもって厳しい処分をすることができたんですね。
それをすべきだったと私は思います。更にいいますと検察庁法の中には検察官適格審査会というのがあるんですけども、こちらは国会議員とか最高裁の判事あるいは弁護士、学者などで構成されていまして、検察官が職務を行うのに適しているかどうかを審査するものなんですね。
森大臣は黒川氏の提出した辞表を受理せずにいったん法務省の官房付に異動させたうえで検察官適格審査会というものの審査に服させるということもあくまで制度上ですが可能だったということはいえるんですね。
もしこれを利用していれば場合によっては審査会が不適格であると判断した場合には大臣は黒川氏を罷免することもできたということなんです。
結局のところ検事総長の判断を内閣が受け入れてしまいまして検察内部の処分で終わったということは今後に大きな問題を残したと思うんです。
今回、実は検察庁法の改正との関連で検察官は独立性が大事で検察官の人事は検察庁が決めるべきだといった議論がまさに、検察内部からは強調されてきたんですがその検察がこんな甘い処分しかできないのであればこうした検察側の主張自体が信頼を失ってしまうんじゃないかと感じました。
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【検証部分】
今回は検察庁法案改正が世間を賑わせている中で、不祥事を起こした黒川氏に関する報道です。
黒川氏は朝日新聞、産経新聞の記者とともに賭け麻雀を行い、検察を辞職することとなりました。
今回の放送の主な論点は以下の2点といえます。
1 黒川氏に対する処罰の是非
2 検察庁法改正の今後
まず1についてですが、黒川氏の処罰が重いのかどうなのか、基準を見るために最近の官僚の不祥事について振り返ってみます。
官僚の不祥事ということで思い出されるのは、加計学園の時に話題となった前川喜平元文科省事務次官です。
前川氏は文科省の天下り斡旋という違法行為について、事務次官として責任を負うべきだった人物です。
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官僚の再就職について、国家公務員法は省庁の斡旋や在職中の求職活動を禁じている。ところが、文科省はそんな法律などお構いなしに、組織的に官僚の天下り先を用意していた。
その仕組みを文科省関係者が明かす。
「人事課のOBが、文科省の退職予定者の求職情報と、学校法人や民間会社からの求人情報を人事課から入手し、そのOBが『マッチング』を行って、再就職先を斡旋していたのです。これらは明らかな法律違反です」
《週刊現代 文科省「天下り斡旋」の責任者に退職金5610万円って…
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50904
》より抜粋
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このような違法行為を文科省は組織的に行なっていました。
そして天下り斡旋をしていた時の文科省のトップが前川氏です。
彼は5000万円以上の退職金を受け取っています。(一説には8000万円とも。)
官僚の不祥事という点で同様の問題であるはずですが、前川氏の問題を取り上げないことに、違和感があります。
前川氏のことは終わったということなのでしょうか。
それとも前川氏は反安倍政権の立場をとっているからなのでしょうか?
いずれにせよ、公平性に欠ける放送であった可能性があり、以下の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(2)政治的に公平であること
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続いて論点の2つ目ですが、検察庁法案改正の議論は黒川氏と分けて議論する必要があるといえます。
世論が黒川氏の不祥事によって、今回の改正案に対して反対の声が出てくるのはおかしいことではありません。
しかし、賭け麻雀と今回の改正案は関係ありませんから、そこは分けて議論すべきなのです。
検察の行政組織としての面と司法の面のバランスをどのように考えていくかという論点については議論が必要だと言えます。
これまでのレポートでも取り上げてきたように、検察が起こした不祥事は少なくありません。
2009年の郵便不正事件では証拠物件のフロッピーディスクが書き換えられ、当事者の特捜部主任検事と上司の副部長、部長が逮捕されています。
小沢一郎氏の政治資金規正法違反事件では虚偽捜査報告書問題が発覚し、刑事告発を受けています。
このような経緯があるため、検察をきちんと管理監督していく必要があるのではないかという意見もあります。
原則的には官僚の管理監督は政治がするしかありません。
検察への政治介入がどこまで認められるべきでどこまで中立性が求められるのか、非常に難しい問題なのです。
このような論点をしっかりと提示することが必要であると言えます。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けて参ります。