2020年6月23日 報道ステーション

2020年6月23日 報道ステーション

6月23日の報道ステーションのレポートです。
1945年6月23日は沖縄での組織的な抵抗が終了した日であり、今回は沖縄に関する報道を取り上げます。
今回検証するのは以下の点です。

・政治的に公平な放送であったか

まずは放送内容をみていきます。
——-
【スタジオ】
小木逸平アナウンサー:忘れてはいけない記憶があります。20万人を超える人が命を落とした沖縄戦から75年。今日は、沖縄慰霊の日です。新型コロナウイルスの影響で規模が縮小される中17歳の少女が平和の詩を詠みました。

——-
【VTR】
ナレーション(以下ナレ):沖縄戦から75年の節目となる慰霊の日。最後の激戦地となった糸満市にある平和祈念公園朝の様子です。まだ幼い子供の姿もありました。犠牲者の名前が刻まれた平和の礎では人々が祈りを捧げます。

祖母をなくした男性『何の罪もないのに命奪われて…ここに来るだけで涙が出る。いまだにその苦しみから逃れられない沖縄の厳しさですね』

ナレ:追悼式は新型コロナの影響で参列者は200人規模と大幅に縮小した形となりました。

玉城デニー沖縄県知事(以下玉城知事)『忌まわしい戦争の記憶を風化させない。再び同じ過ちを繰り返さない、繰り返させないために、沖縄戦で得た教訓を正しく次世代に伝え、平和を希求する「沖縄のこころ・チムグクル」を世界に発信し、共有することを呼びかけます』

ナレ:20万人を超える人が命を落とした沖縄戦。沖縄県民の4人に1人が亡くなったといわれています。組織的な戦闘が終わったとされるのが今日6月23日です。歳月が過ぎ年々困難になる記憶の継承。それでもバトンはつながれています。17歳の高校生高良朱香音さんが自ら作った平和の詩「あなたがあの時」を詠みました。

朱里高校3年・高良朱香音さん『少し湿った空気を感じながら私はあの時を想像する』

ナレ:思いをはせるのは、地下壕に逃げ込んだ人たちのこと。高良さんは、実際に壕に入り戦争体験者の声に耳を傾けてきました。捕虜になるなら死を選べという教えさえ広がっていた沖縄戦。
そんな過酷な状況を生き延びたあなたへの思いです。

朱里高校3年・高良朱香音さん『あなたが声を上げて泣かなかったあの時 あなたの母はあなたを殺さずに済んだ あなたは生き延びた あなたが少女に白旗を持たせたあの時 彼女はまっすぐに白旗を掲げた 少女は助かった ありがとう あなたがあの時 あの人を助けてくれたおかげで 私はいま ここにいる』

ナレ:今日、平和の礎には実際に地下壕を生き抜いた人が孫を連れて来ていました。

兄が戦死した男性『自分で死んだ方がいいと最後にナイフも持っていたんだけど、オヤジに止められて、「死ぬのはいつでもできる 待て」と。親父の意向を聞いて助かったような』

孫(高校生)『だからな(私)がいるんだよ』

兄が戦死した男性『あのとき親父が何も言わなかったらこの世にいないですよね』

ナレ:式典の規模縮小で、安倍総理はビデオメッセージのみとなりました。

安倍晋三総理大臣『政府として基地負担の軽減に向け一つ一つ確実に結果を出していく決意だ』

ナレ:アメリカ軍普天間基地の移設先として名護市辺野古に建設中の新たな基地。新型コロナの影響で中断していた工事が今月12日2か月ぶりに再開しました。7日の沖縄県議選では反対する勢力が過半数を維持する結果が出たばかりです。

玉城知事『工事の再開については大変遺憾であると私は受け止めています』

ナレ:ただ、基地建設は政府の思うとおりには進んでいません。大浦湾側の地盤が軟弱なことが判明し7万本以上の杭を打ち込む改良工事が必要となったのです。そのため、国の当初の想定より工期は1.5倍の12年に延び費用は2.7倍の9300億円に跳ね上がっています。

【コメンテーターによる解説】
徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):私たち戦争を知らない世代にとって高良朱香音さんのあなたが生き延びてくれたからこそ私たちは今ここにいるんだというその命の言葉を感じさせてくれる言葉というのを今日、慰霊の日に聞かせてもらったということはとても意味のあることだなと思いました。太田さん、一方で辺野古の新基地ですが工事が続いています。この現状をどのようにご覧になりますか?

共同通信社編集委員・太田昌克氏(以下太田氏):先週末私は沖縄に行きまして玉城知事にお会いしたんです。彼の言葉の中で印象に残りましたのがあの戦争を風化させない。それは戦争をしないさせないためなんだというふうにおっしゃっていたんですね。平和の礎にも行ってまいったらおじさんを亡くした70代の4姉妹に会ったんです。4歳、2歳の赤ちゃんだった。戦火を逃れて、昼は隠れて夜中歩いてずっと北部まで何十キロ逃げたというんです。捕虜生活になって米軍の残飯をあさりながら生き延びたというおばあちゃんの声を聞いたんです。姉妹のメッセージは戦争は絶対にしてはいけないし辺野古は絶対に埋め立ててはいけないというメッセージだったんですね。7割が反対した昨年2月の住民投票、沖縄の。それから、国政選挙県議会選。中止を求める民意は明らかなんです。知事がおっしゃっていたんですがなぜ、日米同盟大切なのは分かるんだけども日本は民主主義国家じゃないんですか?沖縄には国民主権ないんですか。本当に辺野古が唯一の解決策ですかとおっしゃっていましたね。

徳永アナ:その米軍基地を巡ってはトランプ政権で補佐官を務めましたボルトン氏が回顧録を出版しまして日本に駐留するアメリカ軍の経費について現状の4倍に当たる年間およそ8600億円の負担を求めていたということを明らかにしました。更に、トランプ大統領は全てのアメリカ軍を撤退させるよう脅せば非常に強い交渉の立場を得られると話したということなんです。太田さん、もしこの話が本当だとすると沖縄の基地負担の軽減というのは今後、どう考えていけばいいんでしょうか。

太田氏:今日、このボルトンさんと日本側の会談内容を知り得る、日本側の関係者に取材したんですが一応、否定をされていました。完全に否定されていました。ただ私、ボルトンさんには10回近く直接インタビューしてるんです。彼は自分の政策闘争として少し誇張表現を使うんです。大げさに言う時があるんですがだけど、根も葉もない嘘をあからさまに言う非合理的な人間かというとどうだろうなと思わざるを得ないですね。いずれにせよ真偽は検証されるべきなんですが1つ言えることは、同盟国の価値日米同盟の値打ちというのを金勘定で図ろうとする人がホワイトハウスのトップにいるわけなんですね。いつ、この人がどこで手の平を返すか分からない。一方で日本政府は辺野古で埋め立てをずっとやっている。9300億円の税金が使われるわけです。沖縄だけに痛みを強いてこのまま続けていいのか。いったん、立ち止まってみてはどうかと思うんです。大統領選もあるしイージス・アショアの問題もあるわけですよね。抑止力っていって、沖縄に犠牲を与え続けていいのか。何が最も効果的で信頼のできる抑止力か。日本とアメリカ、それから沖縄も加えてぜひ議論をもう一度包括的にやり直してもいいんじゃないかと思いますね。

【検証部分】

75年前日本本土で唯一戦場となった沖縄での出来事を風化させてはならない。
普天間基地移設問題を含む、戦後も沖縄が負担し続けている在日米軍基地の問題。
アメリカにおける沖縄の扱い。

このようなトピックが放送されていました。
これらのトピックは考えなければならない問題であることは間違いないですが、在日米軍に関する問題については、一面的な捉え方しかしていないと言わざるを得ない箇所がありました。

放送では太田氏が「同盟国の価値日米同盟の値打ちというのを金勘定で図ろうとする人がホワイトハウスのトップにいるわけなんですね。」と発言していました。
太田氏のこの発言はトランプ大統領への批判と受け止められる発言ですが、太田氏は日米同盟と同等の戦力を整えた時にどれだけの防衛費が必要になるのか、を示した上でこの発言をすべきでした。
実際には在日米軍にどれだけの予算が投じられているのを把握することは難しいのですが、第7航空団司令、幹部候補生学校長などを歴任した林吉永氏は以下のような論考を記しています。

——————————————————————————————————————
(前略)
 仮に航空自衛隊がF16の2個飛行隊50機を新たに配備する場合、保有そのものに必要な経費は5000億円である。1機あたり100億円相当となる。

 戦闘機は「置き物」ではない。運用するためにはさらに、パイロットや整備員、基地業務を含む各種支援要員の確保、航空機燃料、空対空ミサイルなどの搭載弾薬、地上支援資器材、整備補給用部品の取得、格納庫・駐機場・誘導路・滑走路・オペレーションルーム・宿舎/隊舎などの施設設備の建設維持、教育訓練などの経費が必須だ。

 その総額は、「トランプ大統領の請求書8600億円」を遥かに超える1兆5000億円に達する。戦闘機購入価格の3倍になるのだ。

 在日米軍の戦闘機は、山口県岩国米海兵隊、沖縄県嘉手納米空軍に配備されている。加えて、在日米海軍には航空母艦搭載戦闘機もある。在日米軍はほかにも巨大な戦力を保有しているから、日本がこれと同等の防衛力を整備するには、莫大な投資が必要だ。

(後略)

《林吉永「思いやり予算」は「傭兵予算」:「米軍駐留費日本負担」思考の転換を
https://www.fsight.jp/articles/-/47053
》より抜粋
——————————————————————————————————————

在日米軍基地を金勘定で考えたとしたら日本は得をしていると言えるでしょう。
在日米軍と同等の戦力を備えるとしたら現在の思いやり予算の比ではない予算になるでしょう。
逆に考えるとアメリカはそれほど予算を在日米軍に投じていることになりますから、アメリカの世界戦略にとって日本は重要な場所なのです。

評論家の江崎道朗氏は一連の著書でこういった在日米軍とアメリカの戦略の関係について記されていますので深く知りたい方はそちらを参照してみてください。

太田氏は続いて「抑止力っていって、沖縄に犠牲を与え続けていいのか。何が最も効果的で信頼のできる抑止力か。日本とアメリカ、それから沖縄も加えてぜひ議論をもう一度包括的にやり直してもいいんじゃないかと思いますね。」と発言していますが、沖縄の基地負担を本当に軽減したいと考えているならば、日本を取り巻く安全保障上の脅威と日本の防衛費増額にも言及すべきです。

中国は尖閣諸島周辺に80日以上連続で現れるなど、日本に対して明らかな挑発行為を続けています。
北朝鮮も日本国民を拉致し、日本海に向けてミサイル実験を繰り返しています。
太田氏はこれらの脅威について米軍なしで対応する方策があるのか、特に沖縄の米軍基地は地理的に重要な基地です。
もし沖縄を含む在日米軍に日本が払っている負担を軽減するのであれば、防衛費増額の必要性にも言及すべきではないでしょうか。

このような論点を取り上げない放送は以下の放送法に抵触する恐れがあります。

——————————————————————————————————————
放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
——————————————————————————————————————

視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

報道ステーションカテゴリの最新記事