2020年6月24日 報道ステーション

2020年6月24日 報道ステーション

6月24日の報道ステーションのレポートです。
今回取り上げるのはボルトン前大統領補佐官が出版した暴露本に関する放送です。
検証するのは以下の点です。

・様々な論点を取り上げた放送であったか

まずは放送内容を見ていきます。
——-
【スタジオ】
小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):トランプ大統領の懐刀としてイランや北朝鮮への強硬姿勢で知られましたボルトン前大統領補佐官ですがその出版した回顧録が早くも波紋を広げています。政権内部の内幕を一方的に暴露していますが11月の大統領選挙への影響は?

——-
【VTR】
高羽佑輔記者:「それが起きた部屋」というボルトン氏の著書。こちらの書店では入り口を入ってすぐのところに陳列されていてこの本への関心の高さがうかがえます。

ナレーション(以下ナレ):アメリカで発売されたボルトン前大統領補佐官の暴露本。契約金は200万ドルともいわれ発売前から何かと話題になっていた1冊です。

ボルトン氏回顧録から『ポンペオ長官は私に「トランプがまたたわ言をほざいている」と書いたメモを滑らせてきた。私も同感だった』

ナレ:著書に書かれているのは朝鮮半島分断の歴史を知らないフィンランドはロシアの一部だと思い込んこでいたウクライナ疑惑は事実などなど。

ボルトン氏回顧録から『トランプ大統領は政権運営や安全保障政策を直感で行う。頭の中に常にあるのはいかにテレビ受けを狙うかだ』

本を買った人『購入はうさん臭い大統領の真実を知るためです』

ナレ:ただ、書かれているのはあくまでボルトン前補佐官の主張です。当の本人はというと…。

トランプ大統領『機密情報を漏洩したボルトンは困ったことになるだろう』

ナレ:政権中枢にいた人間からの数々の暴露ですが…。大統領選への影響はどうでしょうか。

布施哲ワシントン支局長(以下布施支局長)『今回の暴露本による大統領選への影響はほとんどなさそうです。ウクライナ疑惑で弾劾されてもトランプ氏を支え続けたコアな支持層はビクともしませんし、選挙のある11月時点では有権者の関心も別のテーマに移っているからです』

ナレ:ただ、トランプ大統領の再選がすんなりいくかというとそうでもなさそうです。現に、支持率で見ると優勢なのはバイデン候補です。そのバイデン候補これを機にと攻めています。

民主党・バイデン候補『自分やお子さんに問いかけてほしい。今の状況のまま子供たちを育てたいか。ドナルド・トランプと同じ価値観の大人に育ってほしいか』

ナレ:投票日まで4か月余り。バイデン候補の人気はイコールオバマ人気ともいわれています。そのオバマ前大統領がオンラインの選挙資金集会に。

オバマ前大統領『やるべきことをやれば助けが来る。この国を癒し、軌道に戻せるのは私の友人であるジョー・バイデンしかいないと信じている』

ナレ:オバマ効果もあってかこの日だけで760万ドルの献金が集まりました。一方のトランプ大統領。

トランプ大統領『南部国境での新型コロナによる壊滅的な被害を未然に防いだ』

ナレ:頼みの綱は、壁と経済です。

トランプ大統領『ナスダックをはじめどんどん新記録が出るぞ。来年は…11月3日(大統領選)に馬鹿げたことをしなければ史上最高の好景気を迎えるだろう』

ナレ:とはいえ、アメリカ経済はある意味最悪です。失業率が過去最高を記録するなどしたため大統領選びで経済を重視する人は少なくありません。

布施支局長『大統領選挙を左右するのは景気の動向だと言われている。感染拡大の第2波を抑え込みながら経済の急回復を演出できるかがポイント』

ナレ:経済が再選の鍵。それは習近平国家主席との会談でも自ら認めていたそうです。ボルトン前補佐官の暴露本によると…。

ボルトン前大統領補佐官『トランプはアメリカン産の大豆と小麦を中国が購入することが、いかに大統領選の票に重要かを強調した。彼の基本理念は自分の再選に有利か否かだけだ。一期だけの大統領としてアメリカを取り返しのつかない悪循環に陥らせないでほしい。一期だけならまだ乗り越えられるが二期は不安だ』

【コメンテーターによる解説】
徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):梶原さんはこのボルトン氏の回顧録を読み終えたそうですね。

朝日新聞国際報道部記者・梶原みずほ氏(以下梶原氏):昨日から読み始めて読み終えて、気がついたら今朝8時だったんですけど。すごく面白かったんですね。というのも、普通は回顧録というのは政権を去って何年かしてから歴史的な検証に耐え得る内容を書くのが一般的なんですがまさにホワイトハウスの今の内情ですとかいろんな国が関わっている外交案件を描写しているということで非常に興味深い内容になっているんですね。ただ、布施支局長が言っていたようにこの本自体がトランプ氏の再選を阻むようなインパクトがあるかというとそういうことはないと思うんです。というのも、この本を通して書かれているものはトランプ大統領が適性に欠いている資質がないということを書いているので。それって、今までも割と言われてきて新しいことではないということといわゆるトランプ氏を支持している岩盤支持層という人たちはこういった出版で動くことというのはあまりないと思うんですね。そして、ボルトン氏が書いているのは外交がメインですので今、アメリカ国民が最も関心があることはまさにコロナ危機の対応をどうするのか。そして、例えば人種差別のような混乱とか社会秩序という内政問題に関心があると思うんです。

徳永アナ:それから、本の中では日本のこともかなり言及されているようですね。

梶原氏:今後の日米関係に非常にヒントになることがいろいろ書かれていると思うんですが1つは、「Abe」という記載が160か所近くありまして。安倍総理の考え方ですとか言葉というのを多く触れているんですね。この本に書かれているのが事実であるという大前提なんですが、トランプ大統領はすごく安倍総理に重きを置いて信頼していたことがよく分かります。こういう築いた信頼関係というものをベースにして安倍総理には残りの任期で例えば拉致問題などアメリカを巻き込んで日本の国益にかなうような外交を展開してもらいたいと思います。そして、次の日本のトップの顔はポストコロナでの国際社会で積極的に発言をして主張をしてそして各国のリーダーたちが耳を傾けるようなそういう人物を選ばないといけないと思います。

小木アナ:しかし、今更何を暴露されても資質は問われないというところもすごい話ですね。

【検証部分】
ボルトン氏が出版したトランプ政権内部の暴露本が話題を集めています。
この日の放送ではこの本の性質やボルトン氏がどういう人物か、については十分な解説がなされていなかったといえます。

重要な点はボルトン氏の著書の性質です。放送では否定的な見解はほとんど述べられていませんでした。

強いて取り上げると
「ただ、書かれているのはあくまでボルトン前補佐官の主張です。」
とナレーターが一言述べたぐらいです。

ところが実際にはこの本の内容について批判する声も多いのです。

ニューヨーク在住のジャーナリスト、安部かすみ氏はこの本について以下のように紹介しています。

——————————————————————————————————
本に対する批判派も多い。ニューヨークの地元メディア『Vox Media』のアレックス・ワード記者は、実際に本を読んだ上でこのように非難した。

「トランプの外交政策は周知の通り危険で最悪だが、本を通してわかった結論は、そんな大統領を凌駕するほど最悪で悪党なのがボルトンということだ」

※「Vox」の記事「The real villain of John Bolton’s Trump book is John Bolton」より

例えば、昨年イランの革命防衛隊がアメリカの無人偵察機(ドローン)を撃墜した件について。もし攻撃をしていたら、一般市民を巻き込み最大数百万人もの犠牲者が出たであろうとされる報復措置について、ボルトン氏が本の中に書いた内容はこうだった。

「アメリカがあの後、イランへの報復攻撃をしかけなかったのは馬鹿げたことである」

このような一節を引用し、「もしトランプがボルトンの意見をもっと取り入れていたら、アメリカは今よりも大変な事態を招いていただろう」と、同記者は批評した。(トランプ氏も今年1月、「もしボルトンの言うことを聞いていたら、今ごろ第6次世界大戦が起こっていただろう」とツイートしている)

《安部かすみ アメリカで意見が真っ二つに分かれる「ボルトン暴露本」本当の評価
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73715
》より抜粋
——————————————————————————————————

ボルトン氏がどれほど極端な考え方をしている人物だったかを物語っています。

他には国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏はこの本についてかなり厳しい批判をしています。

——————————————————————————————————
同書の内容は、ボルトンの、ボルトンによる、ボルトンのための「ボルトン史観」に過ぎず、トランプ大統領に同情することはなくとも、同書内容を好意的に受け止める米国の政界関係者は皆無だろう。

同書は外国のメディアが内容を騒ぎ立てる以外は、米国の敵対者にとって同政権の主要メンバーの性格を知り得る手がかりを提供した以外には何ら価値がないものだと言える。ボルトンの外交安全保障の専門家としての名声は彼が手にした報酬とともに終わったと言える。
《渡瀬裕哉 なぜ「ボルトン回顧録」は好意的に評価されないのか 
https://www.newsweekjapan.jp/watase/2020/06/post-5_1.php
》より抜粋
——————————————————————————————————

ボルトン氏はかなり極端なイデオロギーを持っており、自身の方針通りに物事が進まないと自分以外の者を強く批判する傾向にあります。

ボルトン氏は文在寅韓国大統領と安倍晋三首相をスキゾフレニク(schizophrenic)と評しています。
スキゾフレニクは統合失調的という意味です。
ボルトン氏と安倍首相の個人的な関係は良かったにもかかわらず、ボルトン氏は安部首相をなぜこのように形容したのか、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏は以下の論考を記しています。

——————————————————————————————————
 ボルトン氏がこれほど親しい安倍首相をスキゾフレニクだと記述したのは、2019年6月、トランプ大統領の要請を受け安倍首相がテヘランを訪問する際のことだ。日本が当時、イランに対して取った姿勢が、ドイツやフランスのそれとほとんど変わらないことを批判した。要するに「北朝鮮に厳しく、イランに優しい日本はスキゾフレニク」ということ。ボルトン氏は、「北朝鮮にもイランにも厳しくて当然」という思いが強いのだろう。

《宮家邦彦 ボルトン「暴露本」が示した、想像を超える日本への関心と信頼
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/062900181/?P=3&mds
》より抜粋
——————————————————————————————————

この本は以上で紹介したような賛否がある本です。
ボルトン氏の著書から放送を組み立てている以上、その著書の性質について言及がもう少し必要でしょう。

このような放送は下記の放送法に抵触する恐れがあります。

——————————————————————————————————
放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
——————————————————————————————————

視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

報道ステーションカテゴリの最新記事