2020年7月27日 報道ステーション

2020年7月27日 報道ステーション

7月27日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・事実と異なる発言があった可能性がある

まずは放送内容を確認します。
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【スタジオ】
徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):(映像)こちらは、今朝早く成都のアメリカ総領事館で星条旗が降ろされている様子です。このあと、日本時間の午前11時アメリカ総領事館は閉鎖されました。お互いの総領事館を閉鎖するという異例の事態に発展したアメリカと中国。緊張が更に高まっています。

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【VTR】
ナレーション(以下ナレ):四川省成都にあるアメリカ総領事館前は撮影スポットになっていました。

成都市民『閉鎖されるって言うから見に来ちゃった』

森林華子記者(以下森林記者):書類ですね。大量の書類が領事館の車に積み込まれていきます。あわただしく荷物が運び出され…。外交官ナンバーの車が次々に建物を後にし、星条旗が下ろされました。

海兵隊員『成都総領事館の正式な閉鎖に伴い星条旗を降納します』

ナレ:アメリカにとってはチベット自治区や重慶といった地域の情報収集を行う拠点でしたが今日、中国側に接収されました。

中国外務省・汪文斌副報道局長(以下汪副報道局長)『現在の中米関係はわれわれが望んだものではない。責任はすべてアメリカにある。アメリカ自身のスパイ行為から目をそらせるためにスパイを口実に中国に汚名を着せている』

ナレ:そもそものきっかけはアメリカがヒューストンにある中国総領事館を閉鎖させたことです。

アメリカ・ポンペオ国務長官(以下ポンペオ国務長官)『ヒューストンの総領事館はスパイや知的財産を盗む拠点だ』

ナレ:アメリカは、中国は近年ハイテク、医療、バイオエネルギー、AI、ミサイルなどあらゆる分野でのスパイ活動を繰り広げているとしています。ヒューストンの総領事館はその拠点とされてきました。

米司法省高官『ヒューストン中国領事館の活動は我々が容認できる限度をはるかに超えていた』

ナレ:ヒューストンにある世界最大級の医療研究の集積地テキサス医療センター。新型コロナウイルスのワクチン開発における中心地でもあります。中国によるスパイ活動はこうした施設も狙っていたとアメリカ政府はみています。

米国務省高官『ヒューストンの領事館の活動はワクチン研究にも関連してきた』

ナレ:双方が公館を閉鎖させるというステージに突入した米中の覇権争い。関係改善につながる話はありません。

ポンペオ国務長官『ニクソン元大統領は危惧していた。「世界を中国共産党に開いたため、フランケンシュタインが生まれた」と。今それが現実になっている』

汪副報道部長『“中国共産党は覇権のために生きている”とポンペオは中傷している。それは無知なだけでなくただの偏見だ』

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【レポーターの中継】
徳永アナ:先ほど中国・成都と言うべきところを東京・成都と言い間違えてしまいました。失礼しました。中国の成都です。

小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):成都にありますアメリカ総領事館が閉鎖されてから10時間以上が経ちました。現地には中国総局の森林記者がいます。森林さん、元総領事館は今、どういう状況なんでしょうか?

森林記者:閉鎖された総領事館の前にはこの時間でもまだ多くの見物人がいましてあたかも観光地のようになっています。こちらが正面の入り口なんですけどその隣には総領事館の表示があったんですが今は白いカバーで覆われています。中を見てみると電気がついています。中国の当局者が中にいるものとみられます。あちらには赤い印のある扉があるんですが閉鎖後に中国の当局者はわざわざ車を降りてあの入り口から中に入りました。国営のメディアにのみ撮影を許して非常に儀式的でした。国際世論を意識して中国は、整然と接収したということをアピールしたかった可能性もあります。閉鎖後に市民に話を聞くとやるべきことだという声が多く帰ってきました。ここには中国の国旗を持って訪れる人も多くいて反米感情の高まりを強く感じます。

【コメンテーターによる解説】
徳永アナ:中国からの中継でしたが太田さん。一方のアメリカも強硬姿勢を崩していません。このままエスカレートしていくんでしょうか。

共同通信社編集委員・太田昌克氏:非常に不信と対立の連鎖が悪循環に陥って危険な状態にありますよね。背景なんですがやっぱりアメリカとしてはトランプ大統領の再選戦略ですよね。中国に対して強く出ることによって強い指導者像をアピールする。コロナで起きた内政の失敗を何とか埋め戻したい思惑や打算があると思うんです。政治的な。ただ、問題の根っこはもう少し深いんじゃないかなという気が私はしているんです。この2~3年で深まった共和党、民主党両方です。野党も与党も超党派で対中不信を強めている。南シナ海での埋め立てやサイバー攻撃それから知的財産など接収があった。こういった材料があってどんどん対中不信が増幅していった。それで今年に入ってコロナ、香港問題で一気に先鋭化しているといってもいいと思うんですね。民主党の大統領候補のバイデンさんも今年1月に出した外交論文に中国に対してはタフに関わるべきだと話しています。民主党も対中姿勢で弱腰だというイメージを、世論に与えたくないですからトランプ政権に同調せざるを得ない空気があると思うんです。ただ、より核心的な問題はこの不信と対立の連鎖が行きつく先なんですね。貿易やITを巡る争いが本格的な軍拡競争に発展している。そして南シナ海で米中ともに軍事演習をやっていますから偶発的な衝突も十分懸念しなくてはならないんです。普段、取材していますとトランプ政権の対中政策、これは十分に同盟国とすり合わせているかと言ったらどうもそうではない。日本も十分な事前の政策調整の相談を受けていない感じがするんです。ここはぜひ、日本が冷静に双方に対して働きかけを行っていくそういう静かな外交を展開していただきたいと思います。

小木アナ:こういうときだからこそアメリカが言うようなことを中国がやったのかどうかも含めて事実をちゃんと見つめたいですよね。

【検証部分】

今回は互いの総領事館を閉鎖し合うなど、対立を深めている米中関係についての放送部分を取り上げます。

放送では
「そもそものきっかけはアメリカがヒューストンにある中国総領事館を閉鎖させたことです。」
などと、アメリカに米中対立の原因があるかのような報道がなされていました。

確かに、アメリカがヒューストンの中国総領事館を閉鎖させたことで対立が深まったことは間違いありません。
しかし、アメリカが中国総領事館を閉鎖させた理由から言えば、対立のきっかけは中国にあると言えます。

中国はアメリカだけでなく、様々な国の知的財産権を侵犯し、情報活動を行っています。
こういった中国の動きは自由経済を阻害するだけでなく、安全保障上の脅威でもあります。

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FBIのレイ長官は7月7日、中国の活動をアメリカにとって最大の脅威と位置付け、FBIは中国絡みの新たな対スパイ活動を「10時間ごとに」開始していると証言した。2000年以降、公表された中国の情報活動は少なくとも137件。兵器関連または機密扱いの技術の窃盗が絡んだ事例は少なくとも50件ある。
《米中スパイ戦争──在ヒューストン中国総領事館の煙は「21世紀新冷戦の象徴」
https://www.newsweekjapan.jp/glenn/2020/07/post-47.php
》より抜粋
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こうした中国の動きを警戒し、中国を牽制するために行われたのがヒューストンの中国総領事館の閉鎖です。

以上のような事実関係からいえば、そもそもの問題の所在は中国にあると言うことができます。
この日の放送で述べられていた「米中対立の原因はアメリカにある」という報道は事実と異なる可能性があります。

次に検証しておきたいのが、太田氏の次の発言です。

「普段、取材していますとトランプ政権の対中政策、これは十分に同盟国とすり合わせているかと言ったらどうもそうではない。日本も十分な事前の政策調整の相談を受けていない感じがするんです。」

アメリカの対中政策は同盟国と協調することができていないと解説しています。

しかし、アメリカの対中戦略の基本は自由主義国と協調して中国を封じ込めることです。

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包囲網形成へ向け、米国が期待を寄せるのは、米豪と日本とインドの4か国の枠組みだ。昨年9月には4か国の初の外相会談も開かれた。米豪は今回の共同声明で、2回目の4か国閣僚会合の早期開催に期待感を示した。

 「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる日本も、米豪協力を歓迎する。菅官房長官は29日の記者会見で、米豪の共同声明について「地域の平和と安定に向けた両国の揺るぎないコミットメント(関与)を歓迎し、支持している」と述べた。
《読売新聞 2020/07/30朝刊 対中包囲網 米豪主導 2プラス2…日印と4か国連携狙う》より抜粋
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このようなアメリカの同盟国と協調した対中戦略はトランプ政権特有の方針というわけではありません。オバマ政権の時にも、中国の脅威に対抗するために海兵隊のオーストラリア駐留が決定しています。
2018年11月にはインド太平洋地域に関する日米豪印4か国協議も実施されています。

このようにアメリカを中心とした同盟国が協調して中国封じ込めに当たっている状況から考えると太田氏の発言は事実と異なる可能性があります。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(3)報道は事実をまげないですること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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