2020年8月5日 報道ステーション

2020年8月5日 報道ステーション

8月5日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた放送であったか。

まずは放送内容を確認していきます。
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【スタジオ】
小木逸平アナウンサー:自民党は昨日ミサイル防衛体制の在り方をめぐって総理に提言を提出しました。相手の領域内でも攻撃を阻止するとした内容です。これまで専守防衛に徹してきた日本ですが、イージス・アショア計画撤回を受けましてこれまでの方針を大きく変えることになりかねない。そういった議論が始まってきています。背景には一体何があるんでしょうか。

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【VTR】
ナレーション(以下ナレ):昨日、自民党から提言を受け取った安倍総理はすぐに国家安全保障会議を開催しました。

安倍晋三総理大臣『今回の提言を受け止め、そしてしっかりと新しい方向性を打ち出し、すみやかに実行していく考えであります』

ナレ:河野大臣がイージス・アショアを断念したのは6月。それに代わり、突然始まったのがこれまでの防衛政策を根底から転換する議論です。

自民党・小野寺五典元防衛大臣『今まで政府は一貫して相手領土内での打撃力について踏み込んだ考え方を示してきませんでした。やむを得ない場合にはこのような能力をもってミサイルを阻止する。そのことが必要』

ナレ:提言に盛り込まれた相手領域内での弾道ミサイル等を阻止する能力の保有という言葉。敵基地攻撃能力という表現は避けたものの事実上、それを持つことを求める内容です。つまり、日本に飛来するミサイルを迎え撃つ防御から先制攻撃と紙一重の敵のミサイル発射拠点などを直接たたく打撃への大きな転換を意味します。

河野克俊前統合幕僚長(以下河野前統合幕僚長)『今までの一般的な専守防衛の考え方に比べると一歩踏み出すかもしれません』

ナレ:こう語るのは去年4月まで自衛隊制服組のトップを務めた河野克俊前統合幕僚長です。

河野前統合幕僚長『敵基地攻撃能力を持つことによって専守防衛を逸脱すると反論する方が出てくると思います。でもこういう時代になった。一刻を争うような戦闘場面になったということを考えていただいて、今までのがちがちの専守防衛の考え方ではやっぱり駄目なんじゃないでしょうかというのは正面切って言うべきだと私は思います』

ナレ:敵基地攻撃能力は自衛隊の在り方にどんな変化をもたらすのでしょうか。例えば、今や北朝鮮のミサイルは移動できる車両や潜水艦からも発射されています。燃料も液体から固体に変わり短時間で発射する奇襲が可能となっていて事前に発射の兆候をつかむのは簡単ではありません。

河野前統合幕僚長『まず(敵が)どこにいるのかということから始めないといけない。ヒューミント(諜報活動)と言われる人からの情報も含めて必要になる。本当にがらりと変えなくてはいけないというくらいの話』

ナレ:敵基地攻撃を行うということは相手国まで届くミサイルなどを配備し更に、諜報活動まで行うことになりこれまでの自衛隊の領域をはるかに超えるのです。これまで政府は鳩山一郎内閣による座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられないという見解に基づき攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の措置は自衛の範囲だと解釈してきました。しかし、実際には相手が先に攻撃に着手したことを見極めるのは至難の業です。判断を誤れば国際法で禁じられた先制攻撃になりかねずその能力を保有することは否定してきました。敵基地攻撃能力を巡ってはこれまでも自民党が提言を行ってきましたが政権内での議論は本格化してきませんでした。それが今回、安倍総理が自ら検討への強い意欲を突然表明した背景には一体何があるのでしょうか。

ジャーナリスト・後藤謙次氏(以下後藤氏)『短期的には8月の末に開かれるかどうか分かりませんが、サミットの席でトランプ大統領と日米首脳会談が行われる。「イージス・アショアの代わりついてはこういうことを考えています」ということを材料として持っていくこれが短期的な狙いじゃないかと。長期的には戦後、誰も踏み込んでこなかった領域、その一線を越えるということが安倍政治の象徴としての位置づけがあるのでないかという見方も存在しています』

ナレ:更に、こう指摘します。

後藤氏『丁寧に70年間、自衛隊ができてから“安全保障政策の大転換”という認識が欠けたまま一歩前へ出てしまった 本来ならイージス・アショアに代わる代替措置をどうするかという議論からしっかりやっていくんです、いきなりとびこえて 敵基地攻撃能力と一足飛びにその上の議論まで進めてしまったのは、便乗と言わずして何というのかなと思います』

【コメンテーターによる解説】
森川夕貴アナウンサー:安全保障政策の大転換ということでしたが敵基地攻撃能力、どこまで現実味があるお話なんでしょうか。

朝日新聞国際報道部記者・梶原みずほ氏:緊張がこれほど高まっているアジア太平洋においては私は、選択肢の1つとして検討に値する議論だと思うんです。ただ実現には非常にハードルが高くて国の在り方を根底から変えてしまうかもしれないという相当な覚悟が求められていると思うんです。具体的な課題を言いますと1つは装備そして2つ目はコストそして3つ目は人材の確保と養成だと思うんです。まず、先ほどVTRにもありましたが戦闘機での攻撃にはまず、敵が攻撃してくるという予兆を把握しなければならないんです。そのためには、相当に精度の高い情報が必要です。それは24時間365日体制で例えば、宇宙からの通信などを傍受するあるいは写真、画像を撮ったりする軍事衛星ですとかスパイまで使って敵の動きをリアルタイムに知る必要があるんです。更に、相手のミサイルが移動式の可能性がありますから動いている正確な位置情報をつかむためには無人偵察機のようなこういったものを相手の国の上空近くで偵察できないといけないわけです。そしていざ、攻撃となると相手の防空システムを突破する能力がないといけません。それは、相手のシステムを熟知したうえでその脆弱性を狙ったサイバー攻撃だったりあるいは電磁波を妨害して相手の能力を無力化する電子戦を展開することになるんです。そのうえで精密誘導爆弾ですとか長距離ミサイルなどの攻撃のための装備が必要になってくるんですね。つまりイージス・アショアの計画とは比較にならないほど莫大なコストがかかってそして、これまでGDP比の1%程度に抑えられていた防衛予算というのでは足りなくなってくるわけです。そして、人員確保そして、養成ですね。今、自衛隊の体制は24万人ですがこれは専守防衛のための体制なわけです。自衛官に聞きますと敵基地攻撃能力というのは未知の領域であって明らかに自衛官の数は足りなくなってくるとそういった不安の声が聞かれています。こうした課題について政府は何が必要なのかどういうものが必要なのかをきちっと正確な情報を提示することが必要でそして国民もこの議論の推移というものは注意深く見守る必要があると思います。

【検証部分】
今回は敵基地攻撃能力についての放送を取り上げました。

安全保障に関連する話になるとマスメディアは、「慎重に議論せよ」「それは拙速だ」などといいます。
安保関連法案の時もそうでしたし、今回の敵基地攻撃能力に関しても同じです。

放送で指摘されていた課題は「国の根幹を変えてしまいかねないから」「防衛費や人材が足りないから」、といった点です。
確かにこれらの点については引き続き議論すべきですが、今回の放送ではこれまでの日本の安全保障体制の問題点については何ら指摘されることがされませんでした。

今回はこの点について見ていきます。

第二次世界大戦を最後に、宣戦布告で始まり、和平を結んで終了する「戦争」はなくなりました。
戦争は違法化されたのです。

しかし、全世界が平和を享受しているとはいえません。

日本も決して平和ではありません。北朝鮮により日本国民が拉致され、帰国したのはわずか5名です。
北朝鮮のミサイルや中国の度重なる挑発に日本は抗議するだけであり、その挑発を止めさせることはできていません。

放送では敵基地攻撃能力を保持することは国の根幹を変えてしまう可能性があると指摘されていますが、今の日本は国民を守ることができていない国なのです。
これは装備だけでなく、法体系の問題でもあります。

軍の権限はネガティブリスト方式で決められることが一般的です。ネガティブリストとは「やってはいけないこと」を列挙し、それ以外は何をしても良いというルール体系のことです。
軍は戦場などで予測不能の事態に遭遇することが普通ですから、瞬時の判断で行動できるようにこのような体系でルールが定められているのです。

一方自衛隊は警察と同じく、ポジティブリスト方式です。
ネガティブリストと反対に「やっていいこと」が列挙され、それ以外のことをしてはなりません。
警察は国民の権利を制限することがあります。どういう時に国民の権利を制限して良いのかを明確にしなければならないため、ポジティブリスト方式なのです。
自衛隊はこのようなポジティブリスト方式で行動が決められていますから、法体系上、自衛隊は凄い武器を持った警察なのです。

また梶原氏は敵基地攻撃能力を保持すると防衛費や人材が足りなくなると指摘していますが、防衛費は既に足りません。

この点については様々な方が指摘していますが、ジャーナリストの小笠原理恵氏は以下のように指摘しています。

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装備が増えたにもかかわらず、自衛隊の人員や整備や消耗品関係の予算はほとんど増えていません。大型化すれば燃料費や必要な乗組員数も増え、最新装備を導入すれば新たにそれらを運用する人員もプラスで必要となるはずです。PKFやテロ対策、災害派遣など対応すべき任務は増えているのに、実質的な人員も予算も増えていません。やるべき仕事が増え、装備品が大型化し、新装備を導入すれば、整備や補給や輸送など兵站にかかる費用は増えるはずなのに不思議ですよね。

《小笠原理恵 自衛隊の貧乏な日常生活「駐屯地のトイレットペーパーは隊員が自腹で購入している」
https://nikkan-spa.jp/1258701
》より抜粋
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記事では自費でトイレットペーパーを購入している自衛隊員の実情も描かれています。
装備が充実しても、その分兵站を切り詰めているのです。

さらに自衛隊員は命をも軽視されていると指摘されています。
平成28年度防衛省行政事業レビュー外部有識者会合では自衛隊員の1人1人が個人携行救急品を全隊員分確保した場合、約13億円が必要となり、限られた予算での確保は現実的ではないとされています。

このような現在おかれている日本の安全保障体制の問題点を取り上げた上で、敵基地攻撃能力を議論、評価することが求められていると言えるのではないでしょうか。

このような放送は下記の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して今後も監視を続けてまいります。

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