2020年7月26日 サンデーモーニング(後編)

2020年7月26日 サンデーモーニング(後編)

TBS「サンデーモーニング」、2020年7月26日放送回の検証報告(後編)です。

今回の報告では、
① 新型コロナウイルスに関してGo Toキャンペーンと医療体制について報道された部分
② 東京オリンピックの記念イベントについて報道された部分
③ 「風をよむ」にて基礎研究と資金について報道された部分

 以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。

検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。

今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。

後編で検証するのは、
③ 「風をよむ」にて基礎研究と資金について報道された部分
となります。

では、さっそく放送内容をみてみましょう。

【VTR要約】
新型コロナワクチンの開発は世界で待ち望まれています。イギリスのオックスフォード大学と製薬大手、アストラゼネカが共同開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて初期の臨床試験で強い免疫反応が確認されたことを公表しました。
オックスフォード大学ジェンナー研究所・サンディダグラス氏は「ワクチンは年内にイギリスの高リスクグループの人々に使用できると思うが、すぐに国民全員が対象になるわけではありません。」と話します。
イギリスは1億回分、アメリカは3億回分、包括的ワクチン同盟が4億回分を確保しています。日本も供給するよう申し入れています。有望なワクチンを巡る大国の争奪戦は、ワクチン・ナショナリズムとさえ呼ばれ危惧されています。
EU・フォンデアライエン委員長は「自国民だけワクチンを接種すればいいと考える大国を説得している。この試練は我々が連帯できるかどうかが試されている。」と述べました。
ノーベル医学・生理学賞の受賞者大隈良典さんはこの状況を「過去に感染症に対して共通の人類の問題として解決しようと試みがなされて、いくつかの成功例もある中で今回みんなが自国を優先するような雰囲気になっている。いろんな国が疑心暗鬼になって一刻を争う開発競争みたいなことになっている。大変憂うべきことだと思います。」と話します。
さらにこの背景には世界的な科学に対する考え方の変化があると言います。
大隈氏「(科学は)答えが見えるもの答えがわかっていることにチャレンジして答えを出すという作業ではなく、何が問題かという問題自身を発掘してチャレンジするというのが科学的な精神。一年二年で必ず成果を上げなさいという精神とは随分違う。基礎研究というのは科学そのもの、自分が知りたいことやりたいと思うことが追求できるというのが基礎研究の大事なポイント。」

地道な基礎的研究よりも現実的な成果を追求し始めた科学。この変化を考えるヒントが哺乳類の中の異色の存在であるアルマジロです。
1970年代、世界中の科学者が壁に突き当たった難病ハンセン病がありました。ワクチンや薬剤の生産につながる医学的な研究には菌やウイルスを増殖させるための培地、つまりマットが必要です。病気を引き起こす、らい菌はすでに発見されていましたが適当な培地が見つからないため培養が困難で研究が行き詰まったのです。手がかりは、この菌が低体温の人に増えやすいという傾向でした。1930年代の基礎研究から平熱が低い動物がいるというデータが見つかりました。その動物こそがアルマジロでした。ネズミやサルなどの体温は37〜38度ですがアルマジロの体温は34〜35度と低体温。植え付けられた菌は期待どおりに増殖。これによりハンセン病研究は劇的に進み治療法が確立しました。差別など悲劇を生んだハンセン病は、動物学の基礎研究により克服されました。地道に積み上げられた基礎研究の礎ですが今異変が起きているといいます。
大隈氏「残念なことに日本でウィルスの研究者は実はどんどん減っている状況。そういう基礎的なことに関しては国から研究費が下りてこない。感染症だったらお金が出るけど、(基礎的な)ウィルス自身の研究にはなかなか研究費が下りてこない状況がある。憂慮する事態。」と話します。
国から大学に支払われる運営費交付金は、この16年間で1600億円以上も減少。その一方で存在感を増しているのが競争的資金です。世界最高水準の研究成果を目指し研究者の実績などを評価して選択・集中的に資金を配分するというこの成果重視の仕組みが短期間では成果が出しにくい基礎研究への逆風となっています。
大隅氏は「この問題はコロナが解決すれば終わるというような問題ではない。対策ができてワクチンができたらおしまいというような問題ではないと思う。これから人類が何度も直面する課題だと思う。地球の成り立ち 地球上の生命のあり方というようなことをきちんと知らないことには本当の意味での解決はないと思う。」と話します。

【コメンテーター発言内容】
関口氏(要約):一時、費用対効果というようなことを盛んに言った時代があるよね。それの延長線上なのか。基礎研究に費用が出てこない、すぐもうからないことにはお金をかけない。

田中秀征氏(全文):ノーベル賞を受賞した人が記者会見すると必ず基礎研究が大事だということを言いますよね。ほとんど必ず言うんですけれども、われわれの時代というのは基礎研究を一生懸命みんなやってて、僕ら文科系はみんなばかにしていた。そういう時代だった。だけど、その中からかなりのノーベル賞受賞者がわれわれの世代から出ている。成果が出るというのは本当に珍しいことなんだけれどもむだなことも多いんだけれども、そういう中からしか大きな成果が出ないということなんでしょうね。だからそういうところにどんどん予算をつぎ込むという方向というのはやっぱり基礎研究は大事だとノーベル賞を受賞した人が言うのは基礎研究にもっと国が面倒を見ろということだと僕は聞きましたね。改めてそう思いますよ、今回のことでね。

田中優子氏(全文):私立大学の場合は経常費補助金と言うんですけれどもこれがどんどん減っていきまして、今10%以下です。やはり競争的資金というものが増えていっているんですがその中には例えば軍事研究があるわけですよね。こういうようなものは防衛省からばく大なお金が下りてくるわけなんですね。そういうように、国がこっちの方向に研究を持っていきなさいというような基礎研究ではない、すぐに何かに使える研究、そういうような資金というのはあります。ソサエティー5.0だとか。ところが、ソサエティー5.0のさまざまな研究というのが社会がこれからどうあるべきかということなしには作れないんですね。そういう人文社会系の研究との協力関係がとても大事です。単に基礎研究を閉じこもってやっていればいいということではなくて常にオープンになっていて、世界に対してオープンになっていてしかも協力関係が結べて、そして分野を越えた発見がある、このアルマジロの例もそうなんですけど、こういうことも必要なんですね。単に研究が進めばいいということではなく本当に協力ということがこれから大事になってくると思います。

浜田氏(要約):国産ワクチンを開発している中に、大阪大学で基礎研究をしていた森下先生がやっている、バイオベンチャーのアンジェスという企業がある。1990年代からの長い基礎研究が今ワクチンに活かされようとしています。研究の具体的な成果が出るには時間がかかることを改めて感じますし、今気になるのはポスドク問題と言われる、博士課程を終えて正式なポジションにつけない人たちが1万人位いる。この人たちの研究にはお金が出ないわけですね。手厚くすることで将来生きていくる研究が花開くのかなと思います。

竹下氏(要約):動物の研究がハンセン病の研究に役立つということで、基礎研究も大事なんですが、異なる分野の研究同士をつなげるというのも大事だなと思いました。日本の新型コロナ対策も感染症研究者だけではなくて例えば行動経済学、人の行動を分析する経済学の研究が役立ったということも聞いていますので、国はこの研究がいい、この研究はだめだとメリハリをつけるのも分からなくもないんですが、異なる研究同士を結びつけるネットワークづくりもこの国には求められているのかなと思いました。

松原氏(全文):しばらく前ですけれども、自民党の教育に関する提言書の中でこんな文字があったんですね。成長戦略を実現するために投資効率が最も高いのは教育であると。つまり、役に立つかどうかというのをすぐ求められているのは基礎研究だけではないんですね。公共性の高いところに、医療とか教育とか、最近議論になった水道事業の民営化なんかもそうだと思うんです。だからその物差しが入ってきているという中で、例えば国立大学の文系がもういらないんじゃないかという議論もありましたよね。考えてみると哲学とか歴史とか文学というのは、そういう役に立ちそうにないものこそ、いざ国が本当に大変な時に道を誤らない道標になるんじゃないかと思います。そういう意味では、今の考え方をやはり改めないと国が先細っていくような気がしますね。

以上が放送内容となります。

では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の2点です。

1、 松原氏の発言に政治的に公平でない恐れのある内容が含まれている
2、 この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている

解説します。

1、松原氏の発言に政治的に公平でない恐れのある内容が含まれている
松原氏は今回の報道で、以下のように述べています。

松原氏(全文):しばらく前ですけれども、自民党の教育に関する提言書の中でこんな文字があったんですね。成長戦略を実現するために投資効率が最も高いのは教育であると。つまり、役に立つかどうかというのをすぐ求められているのは基礎研究だけではないんですね。公共性の高いところに、医療とか教育とか、最近議論になった水道事業の民営化なんかもそうだと思うんです。だからその物差しが入ってきているという中で、例えば国立大学の文系がもういらないんじゃないかという議論もありましたよね。考えてみると哲学とか歴史とか文学というのは、そういう役に立ちそうにないものこそ、いざ国が本当に大変な時に道を誤らない道標になるんじゃないかと思います。そういう意味では、今の考え方をやはり改めないと国が先細っていくような気がしますね。

要旨をまとめると、
・以前自民党の教育に関する提言書の中で「成長戦略を実現するために投資効率が最も高いのは教育である」といった文言があった。
・すぐに役に立つかどうかということを求められているのは基礎研究だけでなく、医療や教育、水道事業の民営化など公共性の高い分野にも効率の物差しが入ってきている。
・国立大学文系不要論があったが、哲学や歴史、文学などといった役に立ちそうにないものこそ、いざ国が本当に大変な時に道を誤らない道標になると思う。
・今の考え方を改めないと国が先細っていくような気がする。

というものです。

しかしながら、
・松原氏の「医療や教育、水道事業など公共性の高い分野にも効率性などを求める考え方では国が先細る」という主張には、「限られた資源を効率重視で配分することは合理的である」といった意見や、「効率に縛られない教育の形であるゆとり教育の結果、学力が停滞した」などといった反対意見が存在する。
にもかかわらず、そのような意見を一切取り上げず「公共性の高い分野などに効率性を求めるやり方では国が先細る」といった意見のみを主張する同氏の発言は政治的に公平でない。

以上のことから、今回の報道での松原氏の発言は政治的に公平でない恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第4号「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。

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2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して、「基礎研究ではなく効率性の高い分野のみを支援する国のやり方はふさわしくない」という立場に立った意見のみが出てきました。

ですがこの問題に関しては「基礎研究全てに予算を配分していては予算がいくらあっても足りず、やはり効率性を重視せざるを得ない」や「むしろ基礎研究の重要性を前面に出せない基礎研究側にも問題がある」などといった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。

以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4号「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。

以上が報告の後編となります。後編では事実と異なる内容を放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。

① 新型コロナウイルスに関してGo Toキャンペーンと医療体制について報道された部分
については、前編の報告をご覧ください。

② 東京オリンピックの記念イベントについて報道された部分
については、中編の報告をご覧ください。

公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。

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