2020年8月28日 報道ステーション

2020年8月28日 報道ステーション

8月28日の報道ステーションのレポートです。
この日は安倍首相が辞任を表明した日です。辞任の経緯やポスト安倍など様々な観点で安倍政権について取り上げられていました。
今回取り上げるのは安倍政権を総括した部分の報道です。
検証するのは以下の点です。

・政治的に公平な放送だったか
・さまざまな論点を取り上げた放送だったか

まずは放送内容からみていきます。
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【スタジオ】
森川夕貴アナウンサー:第2次安倍政権が発足してから7年と8か月。憲政史上最長の政権は何を残したんでしょうか。

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【VTR】
衆参両院の本会議『内閣総理大臣に指名することに決まりました』

ナレーション(以下ナレ):2012年再び政権に返り咲いた安倍総理。その後の国政選挙でも5連勝し安倍一強と呼ばれる時代を築きました。その原動力となったのは経済に強いというイメージです。

2013年の安倍晋三総理大臣(以下安倍総理)『Buy my abenomics』

ナレ:アベノミクスを看板に異次元の金融緩和を推し進めた結果、株価は上昇。2018年には、バブル崩壊後最高値をつけました。

今年1月の安倍総理『日本経済はこの7年間で13%成長し来年度予算の税収は過去最高となりました』

ナレ:戦後最長といわれていた景気回復。しかしそれは、幻でした。景気回復は、2018年の段階で途絶えていたと先月、内閣府が認定したのです。消費税を2度の増税によって5%から10%に引き上げたのも安倍政権でした。政権発足以降実質賃金は4.4%減少。景気回復が実感できない国民が多いのも事実です。安倍政権のもう1つの売りは地球儀を俯瞰する外交。大国の首脳との蜜月ぶりをアピールしてきました。

安倍総理『ドナルド』

トランプ大統領『シンゾー』

ナレ:ロシアのプーチン大統領とは27回もの会談を重ね地元・山口県長門市の老舗旅館にも招いたほどです。狙ったのは北方領土問題の進展。これまでの4島一括から2島先行での返還にかじを切ることで活路を見いだしました。

去年の安倍総理『ウラジーミル。君と僕は同じ未来を見ている。ゴールまでウラジーミル』

ナレ:しかし、ロシア側に譲る姿勢は見られず進展はありませんでした。多くの反対の声があった集団的自衛権の行使容認。憲法の解釈を変えることまでして実現させましたが、それでもこだわり続けたのが憲法改正でした。

2017年の安倍総理『2020年を新たな憲法が施行される年にしたい』

ナレ:祖父・岸信介元総理の悲願でもあった憲法改正。9条に自衛隊を明記することを目指していましたが、これには、自民党内にも慎重論が。レガシーを作ることはできませんでした。

2017年の安倍総理『私や妻が関係していたことになれば、間違いなく総理大臣も国会議員も辞める』

ナレ:安倍一強はひずみも生み出しました。8億円も値引きされて国有地が売却された森友問題。

財務省 佐川宣寿 理財局長(当時)『近畿財務局と森友学園の交渉記録はございませんでした』

ナレ:森友問題では、財務省が公文書を改ざんするという、あってはならない事態が発覚しました。更に、長年の友人に便宜を図ったのではないかと問われた、加計問題。そして、安倍総理が主催した桜を見る会。権力の私物化とともに公文書管理の在り方が問われました。これらの問題について今日、安倍総理は…。

安倍総理『説明ぶりなどについては反省すべき点もあるかもしれないし、そういう誤解を受けたのであれば反省しなければいけないと思いますが、“私物化”したことはないと申し上げたいと思います』

【コメンテーターによる解説】
富川悠太アナウンサー(以下富川アナ):先ほど、中継でアメリカも中国も次は安定した政権を望んでいるとありましたがそれだけ安倍政権という7年8か月長かったということでもあります。後藤さん。安倍政権を振り返っていかがですか?

ジャーナリスト 後藤謙次氏(以下後藤氏):功罪当然あるわけですが功の部分でいうとやはり長期安定ということだと思うんですね。全てこれまで日本は1年ごとに総理大臣が代わってきたという不安定さを安定に変えたと。経済も安定したということがあるんですが、結果として安倍一強が生まれるということによって何が生まれたかというと国会審議の形骸化とかあるいは公文書がないがしろにされてしまったと。こういう民主主義の基本が逆に揺らいでしまったと。つまり政治改革による小選挙区比例代表並立制の負の部分が安倍政権で表面化したと。あとは外交についても安定化したからこそ世界に認知にされたんですが、安倍政権発足と同時に中国の台頭が始まって安倍さんが目指していた外交とずれが生じてきてしまった。そういう現象が起きていると思いますね。トランプさんに一方的に寄り添いましたがトランプ大統領というのはアメリカの政治の中でも非常に特殊な人だったわけですね。ですから、このあと日米関係をどう維持していくのか。トランプさんが続いても違う人になってもそこは非常にあとの人が大変なそういう時代を迎えると思いますね。

富川アナ:更に厳しい要求を突き付けてくるという可能性もあるわけですね。

後藤氏:十分あると思います。富川:足立さんはいかがですか?

政治部長 足立直紀氏:今あった安倍一強ですが確かにスピーディーな政策決定ができる組織ができたんですけれども、結局、霞が関の役所がみんな官邸の顔色をうかがいながら、官僚が…官僚が自分たちの役所では何も決めない、全部官邸に投げてくるという政策だったんですね。ですから新しい総理は本当に大変だと思うんですよ。チームをしっかりと作って判断できるような組織にしていかないと何も決められない日本になってしまう恐れがありますのでここはしっかり見ていかないといけないですね。

富川アナ:確かに安倍総理も会見で言っていたように次の方は後藤さん、チーム力が必要だと。

後藤氏:絶対そうだと思いますね。ワンチームになれるかどうか、そこだと思います。

【検証部分】
安倍政権を総括する一連の放送でしたが、全体として安倍政権に対して批判的な論調でした。

今回、検証するのは次の発言です。

「戦後最長といわれていた景気回復。しかしそれは、幻でした。」
「政権発足以降実質賃金は4.4%減少。景気回復が実感できない国民が多いのも事実です。」
「多くの反対の声があった集団的自衛権の行使容認。憲法の解釈を変えることまでして実現させました」
「森友問題では、財務省が公文書を改ざんするという、あってはならない事態が発覚しました。更に、長年の友人に便宜を図ったのではないかと問われた、加計問題。そして、安倍総理が主催した桜を見る会。」
「安倍一強が生まれるということによって何が生まれたかというと国会審議の形骸化とかあるいは公文書がないがしろにされてしまったと。こういう民主主義の基本が逆に揺らいでしまったと。」

まず、経済・景気に関してです。
「景気回復が幻だった、国民に景気実感はない」など、否定的な論調で放送されていました。
しかし、安倍政権で最も評価されるべきことの一つが経済を立て直したことです。それまで続いていたデフレを止めようと黒川日銀総裁を送り込み、金融緩和を行いました。

結果、雇用は回復し、リーマンショック後に5%まで達した完全失業率はアベノミクス開始後、2017年に20年ぶりの2%台まで完全失業率は下がりました。
さらに専修大学教授の野口旭氏は民主党政権の時と比較した時、アベノミクスによる雇用回復の特徴について次のように述べています。

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要するに、民主党政権期の失業率低下は「労働供給が労働需要以上に縮小した」ことによっていたのに対して、アベノミクス期のそれは「労働需要が労働供給以上に拡大した」ことによるものであった。したがって、「失業率の低下は労働人口の減少によるものであって、需要の回復によるものではない」といった仮説は、民主党政権期の状況に対しては当てはまる可能性があったとしても、少なくともアベノミクス期に対してはまったく当てはまらないのである。

《野口旭 アベノミクスが雇用改善に寄与した根拠
https://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2017/10/post-14_3.php
》より抜粋
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アベノミクスは労働力人口の拡大、つまり新しく働き始める人が増加したという点に特徴があります。
新しい働き手が出てきたのにも関わらず失業率は大きく下がり、100万人以上の新規就業者が生まれました。
雇用が戻ってきたのですから、国民、特に若年者層に大きな恩恵があったといえます。

しかし、放送ではこういった点について触れられることはありませんでした。

次に「多くの反対の声があった集団的自衛権の行使容認。憲法の解釈を変えることまでして実現させました」という発言です。

多くの反対があがったとだけ言い、意義や賛成意見について報じられることはありませんでしたが、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は次のように語っています。

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世界の多くの国がどこかと何らかの同盟関係をなぜ結ぶかといえば、そのほうが戦争のリスクを減らせるからである。加えて、同盟なしの場合より、防衛費が安上がりにできるからである。ちなみに、日米安保なしで防衛しようとすれば、今の防衛予算は4倍以上の20兆円以上になるという試算もある。

集団的自衛権の行使は、(1)戦争のリスクを減少させること、(2)防衛費が安上がりになること、から望ましいのだ。さらに、国際政治・関係論では、集団的自衛権のほうが、集団のチェックがあるので、(3)個別的自衛権の行使より抑制的になること、とのメリットも知られている。

《高橋洋一 高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ「集団的自衛権」には合理性がある 戦争リスク減らし、防衛費が安上がり
https://www.j-cast.com/2015/07/23240941.html?p=all
》より抜粋
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当時、戦争法案などと呼ばれ、メディアは反安倍キャンペーンを張っていましたが、むしろ集団的自衛権を認めることで戦争リスクを下げることができるという見方もあるのです。
こうした論点についても紹介されることはありません。

最後に
「森友問題では、財務省が公文書を改ざんするという、あってはならない事態が発覚しました。更に、長年の友人に便宜を図ったのではないかと問われた、加計問題。そして、安倍総理が主催した桜を見る会。」
「安倍一強が生まれるということによって何が生まれたかというと国会審議の形骸化とかあるいは公文書がないがしろにされてしまったと。こういう民主主義の基本が逆に揺らいでしまったと。」

「安倍一強によって政治腐敗が進んだ」と言いたいようです。
確かに安倍政権が長続きしたせいで腐敗が起こっているという印象を抱いている方は少なくないのかもしれません。
しかし、メディアが正しい情報を発信してこなかったがために、そういう印象を抱かせてしまった可能性は高いといえます。

例えば森友問題の財務省の公文書改竄は安倍政権の問題といえるかは怪しいところがあります。
確かに行政の長は安倍首相ですが、財務省という役所が強大な力を持ち、役所の論理で動くものであるということを報じたメディアは多くありません。
文書改竄も安倍首相のために行われたのではなく、財務省の役所の論理で行われた可能性が極めて高いのです。

加計学園では、今年3月にご逝去された加戸前愛媛県知事の重要な発言について取り上げられることはほとんどありませんでした。
産経新聞では加戸氏の発言について次のように取り上げていました。

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国家戦略特区として獣医学部設置が認められたことに関し「ゆがめられた行政が正された」などと文部科学省の過去の対応を批判した加戸守行前愛媛県知事の発言については記事で取り上げないところもあり、報道の“印象操作”が浮き彫りとなった。

《産経新聞 2017.10.8 朝日と毎日は「ゆがめられた行政が正された」との加戸守行前愛媛県知事発言取り上げず
https://www.sankei.com/politics/news/171008/plt1710080094-n1.html
》より抜粋
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このように報道しない自由が横行した結果、安倍政権の腐敗という印象が持った方が多くなってしまった可能性が高いといえます。

検証した部分それぞれで一面的な報道しかなされていなかった可能性があり、次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(2)政治的に公平であること
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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