2020年9月1日 報道ステーション

2020年9月1日 報道ステーション

9月1日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは次の点です。

・事実を曲げた発言がなかったか

まずは放送内容を確認していきます。

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【VTR】
ナレーター(以下ナレ)総裁選挙の構図がほぼ固まる一方で、永田町の関心は早くも、その先に向いています。

下村博文選対委員長:新内閣・新総理の下で信を問うということはできるだけ早く国民の賛同を得るためにも、安定した政権を維持するためにも必要なことだと思う。

ナレ:衆議院議員の任期が残り1年ほどとなる中、早期の衆院解散・総選挙の観測が上がっています。

枝野幸男立憲民主党代表:遠からず、早ければ10月25日と言われている総選挙で、しっかりと政治状況を大きく転換させる。そこに向かってともに頑張っていきたい。

ナレ:解散も視野に政権運営を行うことになる次の総理大臣。候補者争いは激しさを増しています。

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【スタジオ解説】

徳永アナ:事態は一気に進んでいます。ここからは政治部の足立直紀部長にお話を聞いていきます。よろしくお願い致します。菅官房長官はまだ、出馬のこと明言はしていないんですけど、総裁選の候補を見てみますと各派閥の支持はこのようになっています。

小木アナ:こうやって見ていくと過半数を派閥だけですでに超えているという状態でまさに雪崩を打っているような感じですよね。

足立氏:議員だけで過半数を超えてしまったので、更に地方票も上乗せされるでしょうからもう、圧勝の勢いといっていいですね。

小木アナなぜ、こういったことになったのかをこれから詳しく聞いていきます。
もともとは安倍総理意中の人というのは岸田さんだってずっと言われてきましたし、安倍さんも、麻生副総理も岸田さんが後継だと考えていた。それに疑問符がついた。違うぞってなったきっかけは何なんですか?

足立氏:これは、新型コロナの給付金の問題ですね。当初は世帯当たり30万円という案を
官邸と財務省を中心にまとめたんですけれども、安倍さんと麻生さんはポスト安倍としてなかなか人気が上がらない岸田さんに手柄を与えようということで岸田さんに、その発表の場を与えたんですね。
しかし、そのあと二階幹事長と公明党にひっくり返されて1人、10万円の給付になりましたよね。これで自民党内では調整力がないというふうにレッテルを貼られてしまったんです。そこで、安倍さんと麻生さんは名誉挽回の機会を与えようということで今度は事業者の家賃補助というのがありましたよね。
これで、もう一度、岸田さんにアピールの場を作ったんですが今となっては誰が発表したっけ?という感じで全く目立たなかった。なので、発信力にまで疑問符がついてしまったんです。

小木アナ:そこで支持といいますか意中の人だったという支持の方向がなくなったということですか。

足立氏:そうですね。こうしたことが続いたので選挙の顔として、岸田さん大丈夫なのかという声が自民党内で高まって安倍さんも麻生さんも諦めざるを得なくなったと。

徳永アナ:これは、足立さん二階さんはなぜ反対といいますか、給付金30万円を10万円にしようとなったんですか?

足立氏:これは自民党の政務調査会があるんですけれどもそこ中心に決まっちゃったのでちょっと幹事長のラインは蚊帳の外だったんです。
ただ、一応党全体で決めているんで本当は二階さんも、そのラインに入っているんですけれども。
二階さん、そこはちょっと度外視してですね国民の声が全員に給付しろという声が高まっているのを反映してやっぱりこれは一律がいいんじゃないかというふうに言ったのがきっかけですね。

小木アナ:一方で、石破元幹事長。石破さんも自らの派閥の会合で講師を頼むなど関係を深めていったわけなんですが、二階幹事長が、石破さんを支持するという方向にはいかなかったのはなぜなんでしょうか?

足立氏:二階派には、自前の総裁候補がいないんですね。ですから、二階さんとしては勝ち馬に乗って幹事長ポストを守りたいというのがあるんです。今回、石破さんには勝ち目がないなって、見たんでしょうね。

小木アナ:勝ち馬に乗りたいから違うというところと石破さんの力であるはずの党員票も
なくなるというところも含めてこういう流れになったんですが。それで、白羽の矢が立ったのが菅さんということになりますけど二階さんと菅さんはたびたび会食なんかしてますけど、馬が合うところとかがあるんでしょうか。

足立氏:二階さんも菅さんも2人とも地方出身ですし秘書経験があって地方議員出身ということで共通点が多いんですね。
そのお二人が一連のコロナの対応の中で更に接近していったわけです。ですから、二階さんが今回、菅さん支持をいち早く打ち出したことで党内で、雪崩を打って菅さん支持に各派が走ったことになりました。

小木アナ:もうこうなっていってしまったという。こういうシナリオは、二階さんが全部、自分で考えているんでしょうか?

足立氏:これは、二階さんだけのシナリオではないですね。もともと永田町では安倍総理が万が一辞任するようなことになったら緊急の両院議員総会による総裁選になって石破さんが不利になるよねということは安倍さんの病気が出てくるよりもっと前、春先ぐらいから頭の体操レベルなんですけど、永田町ではささやかれていたんですよ。
総裁選を両院議員総会方式で今回、行うことは、確かに二階幹事長主導で行ったんですけども当然そこは、安倍総理や麻生副総理の意向も入っているとみられます。

小木アナ:ちょっと、菅官房長官に私、21日直接、聞いたんですよ。機が熟したら陣頭指揮を執るつもりはありますか?って。
全く考えていませんって2回、否定したんですよ。 いつからか、ムクムクとやるつもりになったのか もともと秘めていたものがあるのか。これは、どうでしょうか?

足立氏:それは、政治家たるもの当然、国会議員になった時から総理大臣の座を目指していると思います。ただ、具体的に今回の総裁選に立候補することを決めたのは安倍総理の辞任を受けて政策の継続性負わなければならないという責任がありますよね。
同じ内閣の一員ですから。それと、構図としては各派閥が乗る。そして、地方票が少ない両院議員総会方式で総裁選が行われるといういわば、勝てる構図ができたというところで
判断したと思います。

小木アナ:それにしても菅さん自身は菅グループは30人程度ですしもともと、派閥政治というのには否定的な人ですよね。
党内でこれだけ派閥のみこしに乗るわけですから自分自身の力っていうのは発揮できるんでしょうか。総理になったとしても。

足立氏:菅さんはこれまでも官房長官として与党の調整を含めてかなり剛腕を発揮してきましたよね。そういう点では、派閥というのは関係ないと思います。課題は、今度菅さんがトップになったとしたら、菅さんがこれまでやってきた官房長官は誰がやるのかと。調整役ですね。それが、例えば調整役といえば官房長官もですし、党幹事長もですし、そこに剛腕を振るえるポストを置けるかが課題になりますね。

小木アナ:参謀の参謀はなかなかいないってよくいわれますね。

徳永アナ:あとは、やはりこの先菅総理が誕生した場合解散・総選挙もあるんじゃないかと言われていますがその可能性とタイミングそして、菅総理というのは選挙の顔になるんでしょうか?

足立氏:これは2パターンありますね。菅さんが総理大臣指名選挙で総理になって
まず最初に選挙が3日間だけあるんですが、そこは短すぎて解散するタイミングがないんですけれども。9月の末か、10月の頭にはもう1回臨時国会を開き直してそこでは、演説をしてそのあと、代表質問をしてというような段取りになってくるんですけども。ひょっとしたら、その国会で解散を打ってくるという可能性はあり得ます。
ただ、その時にコロナがねまた広がっていたらそこは躊躇すると思います。そこを逃してしまうと年内はずっと可能性が残っていますけどそれはずっとコロナとの兼ね合いで年内にできなかったら来年春というか予算が成立したあとに1回チャンスがありますしそこも逃してしまうと、ほぼ任期満了のところまでいきますね。
その時は、もう1回総裁選があるんです、9月に。そうすると新しい総理を選び直して、その流れで解散・総選挙という形になります。

徳永アナ:そういう意味では可能性はあるけども読めないところもまだまだあるという。

足立氏:まだいろんなパターンがありますね。

徳永アナ:足立さん、今日はどうもありがとうございました。太田さん。結局、総裁選なんですが、党員投票はなしで派閥の力学でといいますか、そういう形で選ばれることになりそうですね。

太田昌克共同通信社編集委員:私も今、部長からご解説がありましたが、二階派閥の閣僚経験者を週末に取材してみたんです。その方はこうはっきりおっしゃっていた。『本当は党員投票が必要なんだよ。だけど、それをやっちゃうと、菅さんが勝てなくなっちゃうからさ』と、おっしゃっていたんです。
私はそれを聞きまして派閥の論理、優先のまさにオールド自民党。
これを彷彿とさせるんですけれども、こういうことをやっているとマイナス効果が、どこかで自民党に跳ね返ってくると心配するんですね。
国難における権力移行ですよ、今はね。最も重要なのは新しいリーダーを選ぶ正当性なんです。その正統性は何で裏打ちされているかといいますと、パブリック・トラスト市民の政治に対する信頼。これが正当性を裏打ちするんです。出来レースだ、密室政治だといわれだすと、民意は当然離れていくんですね。今、コロナがある。それから河井前法務大臣の政治とカネの問題ですよね。自民党、危機なんです。明日、菅長官が会見されるということですが、その正統性と信頼を、どこまで回復する言葉を紡がれるのか。ぜひ注目したいと思いますね。

【検証部分】

今回検証したいのは太田氏の次の発言です。

(二階派所属議院への取材を受けて)「その方はこうはっきりおっしゃっていた。『本当は党員投票が必要なんだよ。だけど、それをやっちゃうと、菅さんが勝てなくなっちゃうからさ』と、おっしゃっていたんです。私はそれを聞きまして派閥の論理、優先のまさにオールド自民党。これを彷彿とさせる」

「最も重要なのは新しいリーダーを選ぶ正当性なんです。その正当性は何で裏打ちされているかといいますと、パブリック・トラスト市民の政治に対する信頼。これが正当性を裏打ちするんです。出来レースだ、密室政治だといわれだすと、民意は当然離れていくんですね。」

一つ目の発言から検証していきます。
二階派議員への取材で、党員票があると菅候補が勝てなくなるなどという発言をしていますが、40以上の都道府県で党員票が反映される形(ドント方式)で予備選挙が行われることとなりました。

それが報じられた後も菅氏優位であることは変わりません。このことから太田氏の党員票が行われない場合、菅氏が総裁選で勝利できないという発言は事実ではない可能性があります。
また総裁選を両院議員総会によって決めることはこれまでにもありました。森喜朗氏、福田康夫氏、麻生太郎氏です。今回もコロナ禍という事態での総裁選であり、早期に総裁を選出するためにこのような方法がとられるのです。
しかし、この点についても触れられることはありませんでした。

次の発言では、
「(リーダーの正統性は)パブリック・トラスト市民の政治に対する信頼」によるものである。
「(両院議員総会による総裁選出を念頭に)出来レースだ、密室政治だといわれだすと、民意は当然離れていくんですね。」と述べています。

太田氏は両院議員総会による総裁選びは不適当であると言いたいようです。
では、両院議員総会によって選ばれた森喜朗氏、福田康夫氏、麻生太郎氏の3名の正当性を否定するというのでしょうか。

そもそも民意は選挙によって示されます。
アメリカのような大統領制をとっている国では議会と大統領に対して二元的に民意が示されますが、日本のとっている議院内閣制では国民が議員を選挙で選ぶことが正当性の源です。ここに民意が一元的に示されるのです。
その議員によって構成される議会の信任によって成立するのが内閣です。これは19世紀後半、イギリスの著名な思想家ウォルター・バジョットが示した『イギリス憲政論』で初めて論理的説明がなされた、今日まで議院内閣制の核となっている理論です。

つまり今後、菅氏が総裁選で選ばれ、菅内閣が成立すれば、それは民意の結果なのです。
従ってリーダーの正当性を「パブリック・トラスト市民の政治に対する信頼」と曖昧に表現することはやや不正確です。
リーダーの正統性の源は選挙で示された民意です。菅内閣が誕生した時、それは民意の結果と言わざるを得ないのです。

このように事実に正確性を欠く報道は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(2)政治的に公平であること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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