2020年9月3日 報道ステーション

2020年9月3日 報道ステーション

9月3日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・様々な論点を取り上げた放送だったか

まずは放送内容を確認していきます。

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【スタジオ】
富川悠太アナウンサー(以下富川アナ):続いては自民党総裁選です。アベノミクスを疑問視する声も。

森川夕貴アナウンサー(以下森川アナ):新型コロナウイルスの影響で、日本の経済が深刻な打撃を受ける中次の政権ではどのような経済政策をとっていくんでしょうか。
安倍政権が進めてきたアベノミクスについて、菅官房長官は継続。岸田政調会長は修正。そして、石破元幹事長は転換。三者三様です。

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【VTR】

岸田文雄候補:所得の格差が、教育の格差をうみ、教育の格差が所得の格差を再生産する。負のスパイラルも日本の社会において始まっている。

ナレーター(以下ナレ):アベノミクスの負の側面を指摘したのは、かつて外務大臣を務め安倍政権の中枢にいた岸田氏。安倍路線を継続するかについては…。

岸田候補:ひとつの政策で10年、20年同じ政策で通用するほど世の中は甘くはない。政策を発展させる。補足をする。充実させる。こういった姿勢は絶えず、重要なのではないか。

ナレ:安倍総理とは距離を置いてきた石破氏は…。

石破茂候補:経済的に株も上がった、企業の利益もあがった。しかし、国民の所得は豊かになっただろうか。地方は豊かになっただろうか。中小企業は豊かになっただろうか。変えるべきものは変える。当然のことではないか。

ナレ:一方、菅氏は…。

菅義偉候補:私自身はアベノミクスというものをしっかり責任をもって引き継いで、さらに前に進めていきたい。

ナレ:3陣営が本格始動した今日。経済政策を巡る対立軸が見えてきました。最有力候補菅氏のアベノミクスの継続に、安心感を得たのは、投資家です。今日の日経平均株価はおよそ6か月半ぶりに新型コロナウイルスによる急落前の水準を回復しました。

投資家:菅官房長官が規定路線で行きそう。安心材料で上がってきている。そんなに崩れずにこのまま順調に経済が発展していくのかな。

ナレ:アベノミクスの果実といえば株価の上昇です。2012年に8000円台にまで落ちていた株価は第2次安倍政権の発足後に上昇基調となり、2018年10月にはバブル崩壊後の最高値を付けました。株価を上昇させたのは黒田総裁率いる日銀による大規模な金融緩和。これで円安が進み企業の業績は回復しました。

安倍首相:全国津々浦々。1人でも多くの皆さんに、アベノミクスの果実の味を味わっていただきたいと考えてます。

ナレ:ところが、株価上昇とは裏腹に実質賃金は減少。政権発足後の7年間で雇用は465万人増えたものの、75%が非正規です。恩恵が届かなかった人もいます。自動車用バッテリーの部品を作るこちらの工場。従業員およそ30人の中小企業です。

ヤシマ箕浦裕社長:我々中小企業にまで、恩恵がしみてきたかなというと実感するところはない。円安で大手の輸出は良いかもしれないが、中小企業にとっては関係のない世界だ。

ナレ:アベノミクスの継続と修正。次の総理に求められるものとは…。

第一生命経済研究所 熊野英生首席エコノミスト:菅さんはアベノミクスを継承して、プラスアルファ何をするのかが問われている。岸田さんは中間層を豊かにするということだが、今まで賃上げされてきても中間層は豊かにならなかった。それではプラスアルファで何をするのか。石破さんは地方経済を活性化するというのはその通りだが、地方は人口減少で疲弊している。そういう中でそれを逆転させることを描けるか、そこが課題ではないか。

【スタジオ解説】

森川アナ:経済に関してそれぞれの主張が何となくは見えてきたんですけれども、梶原さんは今後、どんな論争に期待をしていますか?

梶原みずほ朝日新聞国際報道部記者:何よりも一番先に示してもらうことは大きな国家ビジョンを語ってもらうことだと思うんですね。というのも、抜本的な改革が必要な課題ですとか日本社会の弱点など今回のコロナでいろんなたくさんのことが浮き彫りになったと思うんです。
具体的には医療ですとか、教育仕事のリモート化オンライン化ですとか、一極集中の是正ですとか、部品供給が断たれた、サプライチェーンの問題などいろいろあるわけです。
こうした問題を含めてコロナ後にどのような社会を目指すのか。大きな国家ビジョンを示していただくことが必要だと思います。

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【検証部分】
総裁選に関する報道を取り上げました。
今回は経済の観点から取り上げていましたが、アベノミクスの効果についてかなり否定的に取り上げていたと言えます。

例えば、
「株価上昇とは裏腹に実質賃金は減少。政権発足後の7年間で雇用は465万人増えたものの、75%が非正規です。恩恵が届かなかった人もいます。」

また、「我々中小企業にまで、恩恵がしみてきたかなというと実感するところはない。円安で大手の輸出は良いかもしれないが、中小企業にとっては関係のない世界だ。」というコメントを取り上げていました。

実質賃金が減少しているためアベノミクスは失敗だとしていますが、実質賃金が経済政策の効果を示す指標としては適当である、とはなかなか言えません。
実質賃金とは、平均賃金を物価の影響を加味して実際にどれだけの購買力があるかを示す指数です。つまり実際にもらう賃金が増えても、実質賃金は減少するということが起こるのです。
では実際に支払われる賃金はどう推移しているか、というと2014年から増加し続けています。

このように実質賃金とはどういった指標なのかを説明せずに、アベノミクスが失敗したかのような印象操作を行っていると言われても致し方ありません。

次に「政権発足後の7年間で雇用は465万人増えたものの、75%が非正規です。恩恵が届かなかった人もいます。」という部分について検証していきます。
これについては飯田泰之明治大学准教授が次のような記事を書いています。

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非正規雇用の増加と正規雇用の減少は2009年から2013年にかけては観察されるものの、2014年以降は正社員の増加の方が多い。
正規雇用の数が最も少なくなった2014年はじめから2019年末にかけて正規雇用者数は250万人増加している。なお、非正規雇用の増加は高齢者と35歳以上の女性が中心であるため、必ずしも不本意な就労であるとは限らない点も注意が必要である。

《飯田泰之 アベノミクスで「雇用と賃金」は結局どうなったのか、数字で徹底検証する
雇用は500万増、じつは実質賃金も…
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75451?imp=0
》より抜粋
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このように正社員もかなりの人数が増加していますが、それについて触れられることはありませんでした。

以上のようにアベノミクスの効果について様々な論点から報道したとは言えず、次の放送法に抵触するおそれがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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