2020年10月5日 報道ステーション

2020年10月5日 報道ステーション

10月5日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・事実を曲げない放送だったか
・様々な論点を取り上げた放送だったか

まずは放送内容を確認していきます。
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【スタジオ】
小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):問題が明らかになって以降初めてのインタビューです。 (CM) 日本学術会議が推薦した新しい会員候補6名を菅総理大臣が任命しなかった問題。なぜ、その候補者を任命しなかったのか。今日、記者クラブのインタビューに応じました菅総理。
どう答えたんでしょうか。

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【VTR】
菅義偉総理大臣(以下菅総理)『日本学術会議は政府の機関であり、年間約10億円の予算を使って活動しているということ。任命される会員は公務員の立場になること。こうしたことを考えて、推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲して良いのか考えてきた』

ナレーション(以下ナレ):かねてから、任命拒否について検討を進めてきたと明かした菅総理。外された学者たちは危機感をあらわにしました。

(任命を拒否された)立命館大学 松宮孝明教授『理由は説明できないけど法律に基づいてやっていると。法律を理解しているとはとても思えない』

(任命を拒否された)早稲田大学 岡田正則教授『ともかく理由を示さないことによって選ばれない人が“こんな理由で選ばれなかったんじゃないか。政府を批判すると何かの機会に不利益な扱いを受けるんじゃないか。”それは6人だけじゃなくて、全国のあらゆる人に対して疑心暗鬼を持たせることになると』

ナレ:なぜ6人の任命を拒否したのか。日本学術会議は理由を明らかにするよう求めてきましたが…。

菅総理『個別の人事に関することについてコメントは控えたい。 ( Q.独立の機関であって、「学問の自由」の侵害ではないかとの指摘が―) 学問の自由とは全く関係ないということです。どう考えてもそうじゃないでしょうか』

ナレ:外された6人が政府の法案に異論を唱えたことが理由ではないかとの問いには…。

菅総理『日本学術会議というのは省庁再編の中で大議論を行ったところです。その結果として総合的・俯瞰的活動を求めることになってますから、まさに総合的・俯瞰的活動を確保する観点から判断をした。これに尽きます。(Q.法案は関係ない?) 全く関係ありません』

ナレ:具体的な理由は説明しませんでした。今回の人事を巡っては、政府が行うのは形式的任命に過ぎないとの、これまでの答弁との矛盾も指摘されています。

(任命を拒否された)東京慈恵会医科大学 小澤隆一教授『東京政府が任命しない権限があるんだという判断に、どこでどう変わったのか。(国会で)徹底的に検証していただきたい』

ナレ:菅総理は…。

菅総理『過去の答弁は承知していますが、そもそも当時の学会の推薦に基づく方式から、現在は個々の会員の指名に基づく方式に変わっており、それぞれの時代の制度の中で法律に基づいた任命を行う考え方は変わっていません』

【コメンテーターによる解説】
徳永有美アナウンサー(以下徳永アナ):菅総理の説明を太田さんはどのようにご覧になりましたか?

共同通信社編集者委員 太田昌克氏(以下太田氏):私は残念なことに今日は国民の疑念を解消する説明、言葉が聞けなかったなというのが私の率直な印象ですね。総理は、総合的俯瞰的活動を確保する観点から今回の判断をしたとか前例踏襲でいいのかという疑問点があったから今回の判断になったとおっしゃっているんですけどもじゃあ、何で6人の先生方が任命拒否されたのかその結果に対する説明責任が果たされていない。具体性があまりに乏しいと思いましたね。

徳永アナ:もう少し国民に分かりやすくというところはあるかもしれないですね。説明していただきたいですね。

太田氏:あると思います。この程度の説明じゃ正直、納得できないよねというのが多くの方の意見じゃないかなと。学術会もそうだと思うんですけど。200人以上いるわけですよ、学術会議は。多様な意見があって私、当然だと思うんですね。
政府に批判的であってもそれが科学に根差した批判的意見であるならば政策立案がより建設的になる場合もありますし、より広範な民意をくみ取ることにもなるわけなんですよね。実は菅政権は今回政策検証を担当する総理補佐官ポストを新たに設けているんですね。ぜひ、私はそういうポストを設けたからにはしっかり説明責任を果たして当該の6人の先生方。非常に尊敬を集めている方も多いんですよね。ぜひ分かりやすく丁寧に誠実に国民と先生方専門家に向き合って検証していただきたいと思います。

小木アナ:このインタビューの中でいろいろ引っかかるところがあったんですけども、省庁再編の話の時にもその在り方を巡って相当、議論になったと。その向こうにある意味合いは何なのか。いろいろ、まさに丁寧にお話しいただきたいなと思いますね。

太田氏:まだまだ深掘りできる話だと思います。

小木アナ:野党はこの問題を官房長官出席のもと国会で審議するよう与党側に求めていまして与党は明日返答するとしています。

【検証部分】

一つ目に検証したい点は今回6名が任命されなかった理由について、これまで政府に批判的な主張をしていたために任命されなかったと報道している点です。

太田氏も次のように、述べています。
太田氏:「学術会もそうだと思うんですけど。200人以上いるわけですよ、学術会議は。多様な意見があって私、当然だと思うんですね。
政府に批判的であってもそれが科学に根差した批判的意見であるならば政策立案がより建設的になる場合もありますし、より広範な民意をくみ取ることにもなるわけなんですよね。」

政府に対して批判的な意見があってもいいのに、なぜ今回任命しなかったのか、という趣旨の発言です。

もし政府に対して批判的であったことが理由であれば、政府に対して批判的な学者は全員任命されていないはずですが、政府に対して批判的な主張をしていた方も任命されています。

(引用開始)
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菅義偉首相は日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を任命しなかった。政府に批判的な学者が外されたとも言われるが、任命された99人の中にも「安全保障関連法に反対する学者の会」の声明に署名した人が少なくとも10人いる。

《東京新聞2020年10月11日 任命拒否6人 目立った人狙われた? 任命99人の中にも安保法反対声明<学術会議問題>https://www.tokyo-np.co.jp/article/61138》
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(引用終了)

以上のように政府に対して批判的だから、という理由だけで任命拒否された訳ではありません。
しかし、放送では任命拒否の理由について「政府に批判的であったから」ということが強調されており、事実をねじ曲げた放送であった可能性があります。
このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(3)報道は事実をまげないですること
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また任命拒否した理由についてですが、一般的に何かの選考に落選した場合に落選した理由を説明することはほとんどありません。
例えば、アカデミー賞・グラミー賞などにノミネートされたものの受賞に至らなかった場合です。落選理由が説明されることはありません。
他にも中学校・高校・大学などを推薦入試で受験して、不合格だった場合もやはり不合格の理由は説明されないことが一般的です。

このように一般的には落選した理由について詳細に語られることはほとんどないにもかかわらず、今回だけは説明を求められているのです。

なぜ今回は任命拒否した理由が必要なのか、こうした論点設定も必要ではないでしょうか。

他にも学術会議に関する問題について触れられることもありませんでした。

例えば学術会議は大学で軍事に関する研究はしてはならないとし、自衛官の学問の自由も奪ってきました。

(引用開始)
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学術会議は戦争が常在する現実を無視し、願望でしかない「平和」を与件としてスタートした。
「戦争目的の科学研究」(1950年声明)、「軍事目的の科学研究」(1967年声明)、そして「軍事的安全保障研究」(2017年声明)と用語は変わるが、一般に「軍事研究」と言われるものを大学から排除し、また自衛官が国立大学の大学院で学ぶ機会も奪ってきた。

《森 清勇 日本人から「学問の自由」を奪ってきた日本学術会議 国家の存在を脅かす数々の提言、もはや存在意義失う https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62490》より抜粋
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(引用終了)

このような論点には一切触れずに任命拒否による学問の自由の侵害ばかりを取り上げるということは次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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