10月4日放送のサンデーモーニングのレポート前編、日本学術会議の任命拒否問題について報道された部分です。
今回検証するのは以下の点です。
・さまざまな論点を取り上げた放送であったか
まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR要約】
1日、日本の科学者を代表する日本学術会議が推薦した新会員候補105人のうち6人の任命を菅総理が見送ったことが明らかになりました。加藤官房長官は「直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらない。」と述べました。
日本学術会議は1949年、多くの科学者が戦時中、戦争に協力した反省などを踏まえて設立された独立性の高い政府機関です。1983年の国会答弁で、中曽根総理も政府が行うのは形式的任命にすぎないとして会員の任命に介入しないことを明言しています。推薦者が総理大臣から任命されなかったのは今の制度になった2004年以降初めてですが、その理由は明らかにされていません。
今回、任命されなかった6人に共通するのは安保法制やいわゆる共謀罪など世論を二分する政策に反対を表明したということです。東京慈恵会医大学の小澤隆一教授は2015年の国会で「歯止めのない集団的自衛権行使につながりかねず憲法9条に反するものと考えます。」と述べ、立命館大学の松宮孝明教授も2017年の国会で「共謀罪でテロが防止できると考えない方がいいし考えたら危険です。」と述べています。
2人は今回の決定について…
小澤隆一教授「時の政府の顔色を伺うようなメンバーしか学術会議の中に選ばれなくなる。」
松宮孝明教授「学術会議の職責職務の独立性を侵す。とんでもない話だと…」
また東京大学の加藤陽子教授も「前例のないことがなぜ起こったのか、経緯を知りたいです」と話しています。
2日の学術会議総会で梶田会長は、学術会議として菅総理に要望書を提出することを決めました。菅総理は、記者の会見などで説明する考えはないかという問いに対し「法に基づいて適切に対応した結果です。」と述べました。学問の自由は守られるのでしょうか。
スタジオでの杉浦アナの説明
科学を行政や国民に広く根づかせるために設立された日本学術会議。内閣総理大臣が所轄していますが、職務は政府から独立して行うことが定められております。この背景にあるのは戦時中の科学者による軍事協力への反省で、戦後発足の際は科学を平和的復興と人類の福祉増進のために貢献させることが誓われています。こうした決意はかつて軍事目的のための研究を行わないという声明を発表し、2017年に再びそれを継承していることにも表れています。VTRにもあった6人は、法学や日本の近現代史、政治哲学、宗教の研究者です。彼らはいわゆる共謀罪や安保法制など世論を二分した政策に反対してきた研究者でもあったわけですが政府に異を唱えたことで、これまでの研究が認められなかったのだとしたら、学問の自由への侵害であると問題視されています。今回の任命拒否について加藤官房長官は人事に関することへのコメントは控えるとして理由を明らかにしていません。
【コメンテーター発言内容】
安田氏(全文):それから日本学術会議のことですけれども、政権にとって都合の悪い人物を省いたんではないかという動揺が広がっている時点で、すでに学問の自由って揺らいでいると思うんですね。だからこそ、説明責任を果たすのであればやはり首相がみずから会見を開いて正面から説明すべき問題ではないかと思います。
寺島氏(全文):菅さんの内閣がね、安倍継承政権としての性格を明らかにし始めたのかなと。政権の政権による政権のための政治というのかな。振り返ってみると、ある種の独立性が要求させなければいけない機関に対し例えば中央銀行である日銀に政治家もいっぱい影響力を与える。内閣法制局、それから次に忘れてはいけない検察庁長官人事とか行政官僚に対しては人事局を内閣にもってきて忖度官僚というね、今般、いよいよ学術の分野にまで政権が影響を与える。結局政治は権力であると。権力さえ握れば何でもできるんだという政治観があるんだと思うんですね。僕は、本当に日本が今、置かれているところが危うくなっている。どうというと、1億総活躍社会というのはブラックジョークで日本が要するに官邸レベルの国というかそこから一歩も出ないというか、多様な人材だとかが役割を果たすんじゃなくて都合のいい人だけが意思決定に参画するという。国民は携帯を安くしておけば喜ぶだろうという程度のいわゆる民主主義感が今、日本にあるとすればわれわれはそこを突き破っていく知恵を持たないといけないと思います。
松原氏(全文):日本学術会議については、学者たちの中でも例えば権威主義的だという批判も実際あったんですね。しかも、今回の問題が明らかになって以降、ネット上なんかでものすごく補助金がつぎ込まれてるじゃないか、特権階級じゃないかという批判も相当、意図的じゃないかと思われるぐらい流されているんですがこれはこれでもし問題があれば解決すればいいのであって今回の問題とは全く違うレベルの話だと思うんですね。ですから、前の政権から異論を封じ込めるような動きは確かにあったわけですね。しかも、今回の6名の任命拒否によって間違いなく、直接政府を批判するなと言わなくても批判するとこういうことになるんだなという萎縮効果、忖度効果というのはやはり生まれるんだと思うんですよね。そこに映っている向かって右から上の宇野さんですね。政治学者の宇野重規教授なんですが、この方が森友学園の問題のころ、コラムで書いていた物がとても印象的で覚えているんですけれども森友学園の問題のころ、公文書改ざんのあたりですね。日本の政治に忖度という名の妖怪が徘徊している、忖度にとりつかれると、政治の舞台から真剣な議論が消えてしまうと警告を発していた。ですから、妖怪忖度が跋扈する社会がいいはずはないわけですね。だから、政府はなぜなのかというのをまずやっぱり国民に説明すべきであると思いますね。
【検証部分】
日本学術会議の会員の任命見送りの問題については、今回の報道は一面的で偏っているといわざるを得ません。
具体的に問題として挙げられる点が3点あります。
1点目は、6名の任命見送りは政権への批判が理由である、というあくまで可能性に過ぎない内容を、あたかも公然の事実であるかのように報道している点です。VTR、スタジオ解説、コメンテーター3名のすべてが、任命見送りは政府への批判を理由でることを前提としており、それぞれ異論を封じ込めようとしている、忖度政治を生み出そうとしているなどの主張を展開しています。
そもそも、政府への批判として具体的に安保法制、共謀罪などが挙げられていましたが、これらはVTRでも触れられている通り世論を二分する論争とりました。当然、任命された99人の中にも反対した学者がいると考えられています。にもかかわらず今回の6名のみが見送られたことについては全く説明されていません。
また、任命見送りの理由をさまざまな視点から考えると、日本学術会議が日本の防衛研究に参加しない声明を出していることや、その一方で海外と安全保障を含む研究で協力する覚書を結んでいることなども考えられます。これは賛否の分かれる政策的な論争ではなく、国民があまねく必要としている日本の安全を損なうことにもつながりかねない内容です。
いずれにせよ今回の報道は、任命見送りが政権批判を理由としたものであるという十分な確実性のない情報を、あたかも事実であるかのように報道しています。これは視聴者に誤解を与えかねない報道であります。
2点目は、任命見送りを、それと全く関係のない学問の自由と関連付けて報道している点です。VTR中で任命見送りが学問の自由を侵害しているという指摘があり、また安田氏も「政権にとって都合の悪い人物を省いたんではないかという動揺が広がっている時点で、すでに学問の自由って揺らいでいると思うんですね。」と発言しています。この内容について検証します。
この問題点を明らかにするためにまず、そもそも学問の自由とは何であるかを確認します。学問の自由とは、戦前に学問そのものが弾圧の対象になったことを踏まえ、そのような学問の取り締まりや統制をできなくするために存在する基本的人権の1つです。またこの権利は、日本国憲法のもと全ての国民に等しく保障されたています。
この前提を踏まえて、6名の任命見送りが学問の自由を侵しているのかを検証します。6名の任命が見送られたからといって、それは彼らの研究する学問への統制を意味しません。学術会議に任命されなくとも自由に学問は行えるはずです。仮に学術会議が学問の自由を保障しているとすると、学問の自由は学術会議の会員に認められた特権となってしまい、上で述べた全ての国民に等しく保障されるという原則に反してしまいます。
安田氏のコメントについても同様に「政権にとって都合の悪い人物を省いたんではないかという動揺が広がっている」ことは、学問の自由の侵害には全く該当しないことが分かります。
3点目は、日本学術会議が政府機関であるという面を無視している点です。
そもそも日本学術会議は公的機関であり、会員の身分も特別職国家公務員となります。そのため日本学術会議も、その会員も国民に奉仕することが大前提となります。そのような団体が一部の人によって選ばれ、他の人が口出しできないのは極めて不合理です。そもそも政府は、国民の代表である国会議員の中から選ばれた内閣総理大臣を中心として組織されます。そのため総理が国民の信任を背景として、国益に適うように政府の組織や人員を見直していくことは極めてまっとうなことだといえます。一方で彼らが主張するように、一部の人々による推薦が人事に絶対的な力を持つのは、民主主義といえるでしょうか。法的にも内閣総理大臣は会員の任命権者であり、説明責任を負っています。そのため首相に裁量があることに何ら問題はないと考えられます。
このような論点が提示せずに、なされた放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。