2020年11月1日 サンデーモーニング(前編)

2020年11月1日 サンデーモーニング(前編)

11月1日のサンデーモーニングのレポート前編、アメリカ大統領選挙の最新情報と結果の展望について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・政治的に公平な報道であったか
・事実をまげない報道であったか

まずは放送内容を確認していきます。

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【VTR】(要約)
 世論調査ではバイデン氏の優勢が続くアメリカ大統領選。トランプ大統領は10月26日、エイミー・バレット氏を最高裁判事に任命し、保守派の優位をアピールした。
 加えてトランプ大統領が現在力を入れているのが、激戦州での遊説だ。バイデン氏の出身地であり選挙人が全米で5番目に多いペンシルベニア州には、10月だけで4回訪れた。
 26日、同州で警官による黒人男性銃殺事件が起こる。事件をきっかけに抗議活動が発生。一部が暴徒化した。この事件を持ち出し、バイデン氏批判を強めるトランプ大統領。一方のバイデン氏は暴力行為を強く戒めるとともに、抗議活動自体の正当性を訴えた。
 他の州でも、バイデン氏の演説の際にトランプ氏の支持者による妨害活動が行われるなど、対立が深まっている。波乱含みの大統領選。投票日はもう間もなくだ。

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【パネル解説】(一部要約)
橋谷能理子アナウンサー:大統領選の結果を左右する6つの激戦州。ラストベルトと呼ばれる3州はもともと民主党が強かったんですが、前回の大統領選では僅差でトランプ大統領が勝利しました。(RCPによる)世論調査では、この6州はバイデン氏がトランプ大統領に3.1ポイントリードしています。しかし前回の大統領選では2.2ポイントリードしていたクリントン大統領が敗北するという大方の予想を覆す結果になりまして、この裏には隠れトランプ支持者の存在があったとされているんです。また、前回の大統領選では投票先を決めていない有権者が選挙1週間前で11%だったのに対し今回は3%と、多くの人が投票先を決めています。(要約)東洋大学教授 横江公美 氏:今回も隠れトランプがいるかどうかについて解説したいと思います。皆さん、いると思ってる人が多いと思うんですよね。ですからバイデンさんが必ず勝つとは思えない。基本的に今回の選挙がトランプ対反トランプの戦いであって選挙の主役がトランプさんだという事情もあるかと思います。プラス、数字で見ても、やはり隠れトランプいるように見えるんです。まず1つは暮らしぶりです。10月の調査でもまだ56%の人、過半数以上が4年前に比べて、暮らしぶりがよくなったと答えているんですね。この数字は再選を果たしたオバマ大統領とブッシュ大統領の当時の数字よりかなり高いものになっています。2つ目が、これも10月に出てきたんですが、トランプさん、資質は44%、あると思ってる人がいてバイデンさんに対しては49%ですので、ここはトランプさん、負けていますしかし、政策について見ますと、なんとあれだけめちゃめちゃやっているように見えても、49%の人のほうがトランプさんの政策のほうがよいと答えているんです。バイデンさんの政策のほうがよいと答えていてる人は46%です。これを考えますと、5%の隠れトランプがいるのではないかと、数字から推測されるんではないかと思います。では、現職の大統領なのになぜ隠れてしまうのかということになると思います。キャッチフレーズ、メイク・アメリカ・グレート・アゲインここにもうすでに表れているんですね。これは意訳しますと、古きよきアメリカよもう一度というふうになると思います。古きよきアメリカって何なの?といいますと、白人でクリスチャンのアメリカですよね、それが建国のときだと思います。今のように多様化する時代ですと、現在、白人率は60%ぐらいしかありませんのでトランプさんを支持しているというと、人種差別主義者に見えてしまう。それが嫌だというと、隠れるということになるわけですね。でも実際に大統領をやっているので政策には賛成する人も出てくるわけです。例えば言葉使いは嫌だけれども、石油産出量、アメリカを第1位にしてしまうエネルギーの規制緩和に対しては賛成するとかブラック・ライブズ・マターの運動はいいけれども暴徒化が起きるとやはりトランプさんの言う警察重視のほうがいいという方たちのほうが隠れるということになります。では今回、隠れトランプはいくのか隠れトランプに敵はいないのか。隠れトランプに敵はあります。それは、投票率です。投票率が70%を超えてしまうとトランプさんの岩盤基盤というのは、大体、今まで見ると、30~35%ぐらいですので、投票率が70%までいってしまうと勝てないことになります。隠れトランプが消えてしまうことになります。ですから今回は接戦州の投票率も一つの注目ポイントになると思います。

【コメンテーターによる解説】(一部要約)
寺島実郎 氏:今回、この段階でトランプが勝つためには、ペンシルベニア、そしてフロリダで勝たなければならないという状況ですね。この週末、トランプ大統領、やたらにペンシルベニアに集中して入ってるんですね。何かというと、争点がここで見えてきた。ペンシルベニアというのはアメリカで最初の油田が発見され、今日でもシェールガス、シェールオイルの化石原料なんです。そこの人たちにしてみれば、バイデンの言う自然エネルギー重視というのはだめだよなっていう思いがあって、勝てると踏んでるからこの州に突っ込んでるんです。結局、今度の大統領選挙というのは分断と対立をあおるトランプと何とかアメリカを結束してまとめていこうというバイデンという構図になっているんですが、対立と分断をあおるトランプというのが、一つ皮肉なことに中国に大きなインパクトを与えている。それが先週木曜日の日に中国で五中全会というのが行われたのが、ご存じだと思いますが、皮肉にも、結局トランプが中国との対立を際立たせれば際立たせるほど、習近平の独裁化、強権化という流れを逆に中国で作っちゃってですねだからアメリカに対して対抗していくためには、今回決まったことの大きな流れはこの人、3期目もやる気だというのがはっきりしてきたというか習近平が3期目に入るというんですね。しかも、今、中国の1人当たりのGDPって1万ドルぐらいなんですけど、それを2035年までに3万ドルまでもっていくというね、成長戦略を出して、つまりこれだけ世界が苦しんでいるのに今年も中国は約3%ぐらいの成長でいくと思うんだけど、来年からの5年間は5%成長でいくなんてことを掲げて要するにこれは米中対立という枠の中で、この大統領選挙というのを見てるとわれわれ日本は、この選挙によって日本はどうなるのかという質問をよく受けるんだけどどうなるかじゃないと。どうする気があるのかということで、米中対立のリスクに巻き込まれていかない日本を創造していかなきゃいけない、すごく大事なタイミングに来てると思います。

評論家 大宅映子 氏:アメリカは民主主義の先生だと思っていましたが、いまの分断を見ていると、昔々の西部劇の世界が底流にはずっと流れていたんだなという気がします。両方が相手を憎んでいるみたいになってしまって、議論を戦わせる域じゃないということが怖いです。(要約)

ライター 望月優大 氏:投票済みの人が多いのが今回の選挙の特徴で、民主党支持者を中心に、すでに9000万票近くが投票されています。今後支持率に変化が起きたとしても、それは全体を示しているわけではなく、まだ投票していない人たちの動きのよるものだと思います。また現在、下院と上院の選挙も行われていますが、仮に民主党が上院を含めて勝利した場合、トランプ政権の政策が次々とくつがえされることになると思うので、こちらもかなり重要になると見ています。(要約)

BS-TBS『報道1930』メインキャスター 松原耕二 氏:今世紀の大統領選を振り返ると振り子のようになっています。ブッシュがオバマを生み、オバマがトランプを生んだという側面がある。今回、また振り子が振れてバイデン氏になったとしても、彼はトランプ氏を落とすための民主党の無難な候補に過ぎないので、南北戦争のような深い亀裂は生じないと思います。なので、今回の選挙で問われるのは、アメリカが復元力を発揮する一歩を踏み出せるかどうかではないかと思っています。(要約)

【検証部分】
今回取り上げたのは、アメリカ大統領選挙に関する報道です。投票日も間近に控え、相当に踏み込んだ内容の報道であったといえます。

今回は、横江氏、寺島氏の発言を検証します。横江氏からは事実と異なる発言があり、寺島氏からは政治的に公平ではない発言が見られました。順に確認します。

まず、横江氏の発言に関してです。横江氏は統計を用いて隠れトランプが5%いるという推定をし、隠れトランプには投票率という「敵」がいると発言しています。

隠れトランプの算出方法については、横江氏はアメリカの世論調査を用いて、トランプ氏の資質を評価する人の割合が44%であるのに対し、政策を評価する人の割合が49%であり、その差にあたる5%が隠れトランプだとしています。
しかし、これは正しい分析なのでしょうか。トランプ氏の資質は評価しないが政策を評価する、という有権者の意見は隠れた支持者でなくとも十分にあり得ることです。当然のことではありますが、資質に対する評価と政策に対する評価が一致しないことと、隠れ支持者であるということとは全く無関係です。そもそもそのような人々は、トランプ氏の支持者であるかも断定できない層といえます。

加えて、横江氏は隠れトランプに投票率という「敵」が存在するとしています。これには複数の問題がありますが、まず投票率を「敵」と表現していることが問題といえます。横江氏は、投票率が上がるとバイデン氏が優勢になるので、隠れた支持者にとっては不都合だとしています。
しかし、本来選挙には敵も味方も存在しません。あくまで選挙とは各有権者が支持する候補に票を投じることであり、決して「敵」をつくって戦うようなものではありません。
今回の報道の文脈で「敵」という言葉を使用するのは正確ではありません。さらにトランプ氏とバイデン氏の得票数に関連してこの言葉を使用することにより、アメリカの分断と対立を助長しているとも受け取られる可能性のある内容となっています。

また横江氏は得票率が隠れトランプの「敵」である理由として、投票率が70%を超えるとトランプ氏は勝利が不可能であるとしていますが、こちらも不正確な分析であるといわざるを得ません。
横江氏はこの分析に関して十分な説明をしていませんが、前後の発言内容から考えるに、トランプ氏の岩盤基盤を多く見積もって35%として、得票率がその2倍にあたる70%を越えれば、バイデン氏の方が得票数で上回るとしています。
しかし現実的には、トランプ氏の得票がすべて岩盤基盤からのみであるということは考えられません。トランプ氏、バイデン氏ともに一定の安定的な基盤があり、選挙期間を通してそこから上積みしていくのが通常です。トランプ氏に必ず投票する人が有権者の30%から35%いるのであれば、実際の投票日には、どちらに投票するか不明な層からの一定の投票も加えて得票数はさらに増加すると考えられます。
横江氏の分析では、トランプ氏の得票を彼の岩盤基盤のみに固定し、他の人々をまるで全員がバイデン氏の支持者であるような設定をしています。そのために投票率が増加すれば、増加分はすべてバイデン氏の得票となるとしていますが、これはあまりに単純化しすぎた議論であり、正確性に欠ける分析といえます。

次に、寺島氏の発言を検証します。寺島氏は、トランプ氏が石油政策を利用してアメリカの分断を図っているとしています。寺島氏によれば、トランプ氏が石油産業の盛んなペンシルベニアに集中して入っていることから、バイデン氏の脱石油に対する反発を利用してアメリカを分断させているのです。

しかし、これは公平で中立な分析ではありません。トランプ氏がペンシルベニアに重点を置いているのは、ペンシルベニア州が激戦州という、選挙全体の結果を左右する戦略的に重要な州だからです。ここに力を入れるのは当然のことですし、力を入れれば勝てると踏んでいる州に重点を置いて活動しているということも、戦略的に当然のことです。ここに、トランプ氏がアメリカの分断を図っている根拠を見出すことはできません。

またトランプ氏がバイデン氏の新エネルギーの重視を批判することでアメリカの分断を図っている、と寺島氏は発言していますが、ここにも十分な根拠がありません。どのような政策、方針であってもそれによって利益を受ける人と損害を被る人は必ずいます。これを根拠にトランプ氏がアメリカの分断を図っているとするのであれば、政策に関して議論することはもはや不可能になってしまいます。
またトランプ氏が石油産業の盛んな地域を選挙戦略上重視するのも当然のことです。彼が石油産業を守る姿勢を伝えれば、その地域の有権者がトランプ氏に投票するようになる可能性が他の地域に比べ高くなります。ペンシルベニア州は激戦州であることはもちろんのこと、積極的に活動すれば大きな票の上積みが期待できることから、この州を重視しているのであって、アメリカの分断を図っての行動であるとは断定できません。

今回は横江氏と寺島氏の発言を検証しました。横江氏からは、隠れトランプに関する事実と異なる発言が、寺島氏からはトランプ氏に対する公平性を著しく欠いた発言がありました。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(2)政治的に公平であること
(3)報道は事実をまげないですること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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