2020年10月18日 サンデーモーニング(中編)

2020年10月18日 サンデーモーニング(中編)

10月18日放送のサンデーモーニングのレポート中編、フランスで風刺画を紹介した教師が殺害された事件について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた放送であったか

まずは放送内容を確認していきます。


【VTR要約】
16日フランス・パリ郊外、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を授業で使った中学校の男性教師が路上で男に首を切断され殺害されました。男は18歳のロシア国籍で、現場近くで警察に射殺されました。男は殺害後、教師の遺体の写真とともにマクロン大統領に向けた犯行声明をツイッターに投稿していました。地元メディアによると、射殺される前、アラーアクバル=神は偉大なりと叫んでいたといいます。殺害された教師の担当は歴史、風刺画は表現の自由の教材として使用していました。警察は男の家族ら9人を拘束、事情を聞いています。

【コメンテーター発言内容】
松原氏(全文):たしか5年ほど前だったと思いますけど、週刊の雑誌、風刺雑誌「シャルリ・エブド」というあそこはムハンマドの風刺画を出して10人以上がたしか殺害されたと。 私、あのあと現場に行ったことがあるんですけどそこに集まったフランス人の方、花を持ってきた方も表現の自由という意味での迷いは全くなかったですね。ただあのとき世界では宗教的な人物まで風刺画にする、これはいかがなものかと、表現の自由に当たるのかという議論がものすごく巻き起こったのを覚えています。ただ今回は学校の授業で風刺画を使ってこれが表現の自由に当たるかという授業までできなくなるって、こういうことでいいんだろうかという気もする。もちろん殺害を正当化することは決してできないけれども、今回の問題は宗教と風刺という、ある種民主主義の成熟度を測ると風刺はいわれるわけですけれども、それがどうあるべきかという大きな問いを改めて投げかけられていると思います。

【検証部分】
今回検証する点は2点あります。

1点目は、松原氏のシャルリ・エブド襲撃事件に関しての発言です。松原氏は、フランスの人々の間では風刺は表現の自由として保障されるべきと考えていたが、世界はその考えに対して懐疑的であった、という趣旨の発言をしています。
ここで、事実がどうであったかを確認します。シャルリ・エブド襲撃事件の発生後、フランスではテロに反対する人々による大規模なデモが行われました。そして他の国々でも、フランスのデモに同調するような動きが多くありました。実際にパリでのデモでフランス以外の国々の人も多く参加していました。また世界47か国の首脳までもがパリでのデモに参加し、デモへの連帯を示しました。もちろん世界各地では同時に、宗教に対する風刺が認められるべきではないという意見もありました。しかし世界の反応として多かったのは、風刺が認められるのだろうかという議論ではなく、表現の自由を守るべきだという議論であり、デモに対する抗議の声だったといえます。

2点目に検証するのは、松原氏の発言の後半部分です。松原氏は最後に、風刺のあり方、宗教と風刺のあり方がどうあるべきかという問いが投げかけられていると発言しています。つまりここで問題となるのは、表現の自由は、宗教の風刺を許容することができるのかということです。
たしかに表現の自由は、さまざまな制約を受けやすい権利であり、常に認められるものではありません。表現の自由の制約に関してフランスでは、1881年出版自由法に基づいて運用されています。そこでは、以下のように定められています。


出版自由法では名誉毀損や侮辱を禁じており、これは人種・宗教・性的指向などに基づく誹謗中傷が含まれる。
同法はまた、出自や特定の民族・国・人種・宗教への帰属・非帰属を理由とする差別・憎悪・暴力の扇動を、処罰の対象と定めている。
(出典:
https://www.afpbb.com/articles/-/3036605
)

すなわち、宗教上のシンボルや宗教的人物に対しては規制の適用外です。実際にフランスでは宗教に対する表現の自由に関して多く裁判になっていますが、どの宗教かに関わらず一貫して表現の自由が認められるという判例が確立されています。
このように宗教的人物などに対して表現の自由の制約がないのは、宗教が権威とみなされているからです。表現の自由とはそもそも、18世紀のヨーロッパで王政や教会などの絶対的な権力を批判するために確立された権利です。絶対的な権力はあってはならない、人々はいかなる権力からも自由でなければならないという考えに基づき、権力への批判を可能にしたのが表現の自由です。そして現在でも、ときに宗教は絶対的な権力を持ち、人々を縛るものとなります。ですから宗教に対しての表現の自由は、表現の自由の核心であり、なくてはならないものなのです。
もちろん、先に述べたように表現の自由に制約は存在します。しかし、今回問題となった宗教的人物に対する風刺は、先に述べた要件には当たりません。イスラム教を信仰する人々にとっては不快な内容であったと考えられますが、風刺画が直接イスラム教徒を誹謗中傷したものではなく、他社に危害を加えることを目的としたものでもありません。
今回の放送では、このような点に言及することなく、宗教に対する風刺はよくないこと、風刺のあり方を問い直すべきだという主張がなされています。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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