10月25日のサンデーモーニングのレポート後編、核兵器禁止条約の発効について報道された部分です。
今回検証するのは以下の点です。
・さまざまな論点を取り上げた報道であったか
まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR】
被爆者 サーロー節子さん『批准国が50に近づいていると聞いた時、私は立ち上がることができませんでした。椅子に座ったまま腕に頭を沈め、喜びの涙を流しました。』
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【コメンテーターによる解説】
関口宏 氏:核兵器禁止条約を批准した国と地域がこの日、50カ国に達し来年1月22日に、国際条約として発効することになりました。新たに批准した国は中米のホンジュラス。残念ながら世界で唯一の被ばく国である日本は参加していないんですが、田中さんに伺いましょう。
法政大学総長 田中優子 氏:とにかく発効できたというのは、すごくうれしいですよね。でも、アメリカとの関係の中でしか日本の立場を考えられないというのはとても情けない話で、やはり世界に対して被ばく国が何を言うべきかということをこれを機会に改めて考えなきゃならないと思いました。
朝日新聞編集委員 高橋純子 氏:条約の前文には被爆者という言葉が入っているんですよね。広島、長崎の被爆者の方々が世界に訴えてきた成果だと思って非常に感慨深いものがあります。ただ、日本はそれに入ってないと。核保有国と非核国の橋渡しに日本はなるんだと言っているわけですから、それをまず確実に実行してほしい、そして批准してほしいなという風に思います。
【検証部分】
今回取り上げたのは、核兵器禁止条約の発効決定に関する報道です。
そのなかで、田中氏の発言を取り上げます。
田中氏は日本が批准をしていないことに関して「アメリカとの関係の中でしか日本の立場を考えられないというのはとても情けない話」と発言しています。しかし、日本が批准していないことに関して、アメリカとの関係のみに焦点を当てることは正しいのでしょうか。
まず、核兵器の役割について整理します。
日本は核兵器を持っていないので、他国から核攻撃を受けたときに十分に反撃をすることができません。もしも日本が核兵器による攻撃能力を持っていたと仮定すると、他国は日本の反撃による被害を考え先制攻撃はしないでしょう。同様に日本もまた、核兵器を持つ国に対しての戦争は非常に危険であるために避けようとするでしょう。このように核兵器には、持っていること自体に戦争が起こる可能性を低下させ、自国の安全を高める役割があるのです。
これを踏まえて、現在の日本をめぐる安全保障環境を見ていきます。日本の周辺には北朝鮮、中国、ロシアといった安全保障上の脅威となる国家が複数あります。これらの国はいずれも軍事力に物を言わせ周辺国を威圧しています。このような国家に囲まれている現状で、日本はどのように戦争のリスクを減らし、自国の安全を守るべきでしょうか。この問題についてはさまざまな意見がありますが、政府は、日米同盟によりアメリカの軍事力、核兵器を利用する、いわゆる核の傘による安全確保という方針を採っています。
人道的観点などを全く考えずに日本の安全のみを追求したとき、核武装が最善の策であることは明らかです。しかし唯一の被爆国である日本としてそれは認められません。仮に憲法が改正できたとしても核開発は核不拡散条約によって禁止されています。この現状を踏まえての次善の策が、核の傘という、アメリカの力を利用するものです。「もしも日本を攻撃すれば核兵器を持ったアメリカが応戦する」と周辺国が認識することによって、日本は核兵器を持たずとも、持っているのと同様の安全を手に入れられるのです。
ここまでのことをまとめると、日本が核兵器禁止条約を批准しないことには、核の傘の提供という点でアメリカが関わっていることはたしかですが、同時に日本を取り巻く安全保障環境の不安定さが大きく影響していることも考えなければなりません。
しかし、田中氏は核兵器禁止条約を日本が批准しないことに関して、「アメリカとの関係の中でしか日本の立場を考えられない」と発言し、上で述べたアメリカ以外の要因を完全に無視しています。
このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。