11月1日のサンデーモーニングのレポート中編、菅総理による国会の所信表明演説について報道された部分です。
今回検証するのは以下の点です。
・さまざまな論点を取り上げた報道であったか
まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR】(要約)
10月26日、就任後初の所信表明を行った菅総理。演説中は野党から、日本学術会議の任命拒否問題について激しいやじが飛ぶ場面もあった。その後の代表質問で改めて問われた際は「多様性」という言葉を持ち出し、出身や大学で偏りがないよう任命権者として判断したと答弁。立憲民主党の枝野代表は会見で「(出身地などが記載された)名簿を見ていないはずだ」と反論した。
また菅総理は、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにすると宣言。これに対し野党は、福島第一原発の事故の反省を生かしたエネルギー政策になるのかとただした。この背景には自民党の世耕参議院幹事長の「原発新設の検討も」という発言があったと思われる。
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【パネル解説】(要約)
菅総理の所信表明演説のポイントは3つ。1つ目。日本学術会議については一切言及しなかった。2つ目。日韓関係については健全な関係に戻すべく適切な対応を強く求めていくと主張。3つ目は地球温暖化についてで、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにし、脱炭素社会を目指すと宣言した。
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【コメンテーターによる解説】(一部要約)
寺島実郎 氏:所信表明から1週間という流れだったんですけど悲しいまでの低レベル。なぜだというと、例えば今まさに議論されているように2050年にCO2をゼロにするという思い切ったビジョンを出してきたように思うんです。ビジョン計画であって実行計画じゃないですね。30年も先のことをビジョンを掲げてみせるんですね。一方で所信表明の中でアベノミクスの継承といってるわけですね。アベノミクスというのは金融をじゃぶじゃぶにした要するに成長戦略なわけです。ところが今年の日本のGDPがマイナス5.3%ぐらいになるだろうという、IMFのとおりになったら、2013年のGDPに日本は戻るわけですよ。もしビジョン計画を実行するためには日本人は2050年に向けてどういう産業で飯を食っていくのかとか、どういうギリギリの成長戦略を挙げているのか、知恵を出し切ったようなプランが前提になってなきゃいけないはずなんですよ。それなのにビジョン計画とアベノミクス継承という整合性がとれてない。アベノミクスの推進の中で格差と貧困とか、さまざまな問題が出てきているやつをどう国策として立ち向かっていくんだということを議論しなきゃいけないのに何やらぼんやりしてるというかね。われわれは本当に国がどこへ進んでいくんだということについて強い問題意識をもってこの政権と向き合っていかなきゃいけないなと思います。
BS-TBS「報道1930」キャスター 松原耕二 氏:菅総理のこの1週間を見ていると、任命拒否問題について結局説明できておらず、与党内でも総理の答弁能力を不安視する声も出ています。明日からの予算委員会ではさらなる問いが来ると思うので、それに対しきちんと説明できるのか、僕らがチェックしないといけないと思います。(要約)
評論家 大宅映子 氏:安倍さんのことをみんなが、人の書いた文章を読んだだけだという批判があったんですけど(菅総理は)もっとひどくなっているという感じがするんですね。CO2の話にしても、あれは願望を述べただけであって具体的なものは何もないですよね。肝心な先の話は30年先の話は誰も責任が取れない、誰も生きていないわけですから、言うだけなら誰だって言えるのね。何でああいうふうになるのかなというのが不思議です。あれが通っていって、これでいきましょうという話がまとまるならよっぽど変わった人たちが集まってるんだなという気がしますが。
【検証部分】
この報道では、菅総理の所信表明演説を取り上げ、それについて寺島氏、大宅氏がコメントをしています。
今回はこの両氏の発言を検証します。寺島氏、大宅氏は、所信表明演説での温室効果ガスゼロを目指す方針について、具体的な実行計画が伴っていないと批判しています。また寺島氏は加えて、どのようにして脱炭素社会と経済成長を両立させていくべきか言及がないと指摘しています。
この2点のコメンテーターからの指摘について検証します。
まず、両氏が挙げていた、具体的な実行計画がないことに関してです。
所信表明演説は、総理が自らの考えや方針について国会で説明する場をいいます。総理の考え、方針と一言にいっても、外交、安全保障から財政政策、社会保障、今回であれば加えて新型コロナ対策など、話すべき内容は多岐にわたります。そして当然のことですが、話すべき内容が多いからといって、あまりに長く話しすぎてはいけません。実際に今回の所信表明演説では約25分で政府の扱うあらゆる問題について言及されました。そのため、必然的に各テーマについては、詳細な計画などには踏み込まず概観的な話にとどまらざるを得ません。
加えて、そもそも実行計画というのは大きな目標を軸に組み立てられます。所信表明演説で話すような概観的な目標がまず存在し、それを達成するために個別の実行計画が立てられます。つまり、大まかな目標から細かい行動計画という順に作成されていくのが基本的な形となります。そのため、大まかな目標を掲げたときに行動計画が完成していなければならないということはありません。
実際に脱炭素社会の実現に向けた行動計画については議論が交わされています。報道にもあったとおり、自民党や政府では原発の利用なども検討されています。他にも、電気自動車の普及などについても検討が重ねられているのが現状です。
しかし、寺島氏、大宅氏は、このような議論が行われていることを無視し、所信表明演説において具体的な実行計画が発表されなかったことを批判しています。
次に、寺島氏の、どのように成長戦略との整合性をとるのかという指摘についてです。こちらについても、寺島氏の指摘は現在進められている議論を完全に無視したものとなっています。
現在は脱炭素社会の推進と経済成長の両立を図る方法が議論されています。これはデカップリングと呼ばれ、ヨーロッパなどでは実際に成功例が存在します。現在日本では、ヨーロッパでの成功例を研究するとともに、他の方法でもデカップリングが可能かについて研究が進められています。
こちらについても、上で述べたことと同様に、ビジョンを掲げた時点で全ての行動計画がそろっていなければならないわけではありません。今後これらの検討などを積極的に行っていくという意思表示であることに十分に意味があると考えられます。
今回の報道では、寺島氏、大宅氏ともに所信表明演説のみに注目し他の場での議論を無視しています。そして実際に具体的な実行計画が議論されているにもかかわらず、所信表明演説に実行計画が含まれておらず、ビジョンに過ぎないと批判しています。
このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。