11月1日のサンデーモーニングのレポート後編、携帯電話料金の値下げについて報道された部分です。
今回検証するのは以下の点です。
・事実をまげない報道であったか
・さまざまな論点を取り上げた報道であったか
まずは放送内容を確認していきます。
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【コメンテーターによる解説】
関口宏 氏(以下関口氏):菅政権が掲げる携帯電話料金の値下げを進めるため、総務省はこの日、新たな政策をまとめたアクションプランを発表しました。これは携帯電話の利用者が契約する会社を乗り換えやすくするための改革案。電話番号を変えずに携帯電話を乗り換えるときにこれまでかかっていた手数料3000円を来年度から原則無料にすることなどが盛り込まれています。総務省は携帯大手3社が検討する携帯料金の値下げに加えて、このアクションプランで携帯事業者間のさらなる競争を促したい考えだそうですがアクションプランとかいろんな横文字で言われても私なんかよく分からないんですが、松原さん。
BS-TBS『報道1930』キャスター 松原耕二 氏(以下松原氏):もちろん携帯は高いなと思うし、安くなるといいなというのは大歓迎なんですけれどもでも政府が民間会社に値下げを要求して民間会社が一斉に「はい」と言ってそれにならうとこの構図に違和感が拭えないんですよね。
関口氏:何かちょっと不自然な感じがするよね。
松原氏:今、格安にいくと安かろう、悪かろうというイメージがあって、利用者がみずから選んでいるところもあるんだと思うんですよ。しかも今、地震などで携帯が命を守る道具になっていますからつながりにくくなるぐらいなら、ちゃんとしたものを持っておきたいという気持ちも働いているんだと思うんです。ですから、値下げを要請して応じてもらえると、これは国民としては一時的に確かにうけるかもしれない、ポイントになるかもしれないけれども、政権としては。ただ、やっぱり政治が介入しなくても競争がきちんと働く、この市場をどう作るかがまず大事なんだと思いますね。
【検証部分】
今回取り上げるのは、携帯電話料金の値下げに関する報道です。携帯電話料金の値下げに関して政府が携帯電話会社に働きかけを行ったという内容でした。
その中で今回は、松原氏の発言を検証します。
松原氏からの指摘は主に2点あります。利用者は自ら、値段が高く性能のよい携帯電話を買おうとしているのではないかということ、そして政治が介入しなくても競争が働く市場を作るべきだということです。それぞれの発言を順に詳しく見ていきます。
まず、利用者自らが高いものを選んでいるという点についてです。こちらは事実と異なる発言である可能性があります。
国民が携帯電話料金についてどのように考えているかを示す統計を確認します。株式会社野村総合研究所は、携帯電話のユーザーの意見を、料金が「高い」「安い」「どちらでもない」、納得感が「納得している」「納得していない」「どちらでもない」のどれにあたるかを調査しました。この調査によると、料金が「高い」と考えるが自ら「納得している」として利用しているユーザーは全体の6、1%しかいません。(出典:株式会社野村総合研究所
https://www.soumu.go.jp/main_content/000584950.pdf
)さらにこの6、1%人々の間でも、安いものを利用できるがしていない場合と、これ以上安いものがあれば利用したいが、安いものがない場合とがあると考えられます。松原氏の指摘が当てはまるのは前者のみなので、実際に松原氏が指摘するような人々はさらに少ないと考えられます。また、株式会社エアトリの調査では、「携帯料金の値下げについてどう思いますか?」という問いに対し「嬉しい」と回答した人が全体の92、0%を占めました。(出典:株式会社エアトリ
https://www.atpress.ne.jp/releases/175699/att_175699_1.pdf
)この調査から、ほぼすべての利用者が携帯電話料金の値下げを望んでいることが分かります。
2つの資料を見ると、利用者の多くは現在の携帯電話料金に納得しておらず、値下げをしてほしいと考えていることが分かります。そして松原氏の指摘する、利用者自らが高いものを選んで利用している利用者はごく少数であると考えられます。
次に、政治が介入しなくてもいい市場を目指すべきだという発言についてです。
たしかに基本的には、市場はなるべく自由な状態が望ましいといえます。生産者や販売者は、競争相手よりも安く、品質のよい商品を提供し、消費者はそれらの中から安く、品質のよい商品を選んで購入することができます。この競争によって生産者、販売者はより安く、よりよい商品を売ろうとするようになり、消費者はそれによってよい商品を安く手に入れることができます。ここでは政府の介入なしに、生産者から消費者までが合理的に行動することによって効率的な市場が実現できます。
しかし一方で、政府の適切な介入が求められる場合もあります。今回の場合は市場のメカニズムだけでは非効率性が是正されない状況となっています。携帯電話会社間に適切な競争メカニズムが働いていないために、料金が下がることなく利用者が不利益を被っています。これは市場の自由に任せた結果このような状況が生じているので、その状態を放置していても解決されることはありません。
松原氏の、自由な競争が行われる市場はたしかに理想といえます。しかし、競争メカニズムが十分に機能せず非効率が生じた場合には、政府の介入が必要になります。今回の携帯電話料金の値下げは、市場に任せていた結果生じた問題であり、政府による介入が必要なケースであるといえます。しかし、松原氏はそのような論点を考慮せずに、理想的な市場のありかたに言及するにとどまっています。
このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(3)報道は事実をまげないですること
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。