11月5日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは次の点です。
・政治的に公平な放送内容であったか
・さまざまな論点を取り上げた放送だったか
まずは放送内容を見ていきます。
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【放送内容】
富川悠太アナウンサー(以下富川アナ):こちらは今日の国会です。論戦の場は参議院の予算委員会へと移りましたけれども今日も学術会議の人事を巡りまして野党側が厳しく追及しました。6人はなぜ任命されなかったんでしょうか。菅総理は新たに事前の調整に関する問題があったと説明しました。
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【VTR】
立憲民主党蓮舫代表代行:外した経緯を説明できないから、女性だとか若手だとか大学が偏っているだとか、そういうのは後付けだったんじゃないですか?女性バランスって言いますけれどもこの20年間で日本学術会議は女性の割合は1%から38%になっているんです。
菅義偉総理大臣:女性は確かに水準を超えていると思います。しかし、大学は大きく偏っていますから。
ナレーター:菅総理は今日も多様性の問題を指摘しますがそれが任命拒否の理由ではないそうです。
蓮舫代表代行:六人を削った経緯を知る方法が一つあります。8月31日に推薦名簿が出て9月24日の起案までの過程の公文書はありますか?
ナレーター:指摘されたのは、6人が除外されるまでの記録です。8月31日、学術会議は105人の推薦名簿を内閣府に提出します。そして9月24日に内閣府が99人の名簿を起案します。この間、菅総理は杉田官房副長官らに懸念を伝えていたことを明らかにしていますが…。
加藤勝信官房長官:杉田副長官と内閣府でのやりとりを行なった記録について、担当の内閣府において管理をしていると承知をしています。
蓮舫代表代行:提出してください。
加藤官房長官:まさにこれは人事に関する記録でありますから、内容の提出は今回の件に限らず、こうした案件については差し控えさせていただいているとこであります。
ナレーター:任命拒否の経緯について法令に基づいて行ったとする菅総理ですが身内の自民党からの質問に新たに、こう答えました。
菅総理大臣:以前は学術会議から正式の推薦名簿が提出される前に内閣府の事務局などと学術会議会長との間で一定の調整が行われていた。一方今回の任命にあたってはそうした推薦前の調整が働かず、結果として、学術会議から推薦された者の中に任命に至らなかった者が生じたということです。
ナレーター:今回の任命拒否は事前の調整不足のためと説明したのです。推薦名簿を提出した当時の学術会議の会長山極壽一氏は取材に対しメールで…。
山極壽一学術会議前会長:「官邸に来い」と言われたことは一度もなく、「こちらから出向く」と言っても断られ続けていました。このような状態で事前調整ができるはずもなく、私はした覚えがありません。
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【スタジオ解説】
森川夕貴アナウンサー:今度は事前の調査不足と説明していますけれどどういうことなんでしょうか。
梶原みずほ 朝日新聞国際報道部記者:少しずつですけれども経緯が見えてきましたよね。そもそも、何で事前調整が必要なのかという疑問が残ります。今日の説明ですと任命には政府が求める事前調整が必要だとそういう認識を示しているわけです。その結果、今回はそれができなかったから任命を拒否したというようなことになるわけですけれども。でも、依然として何で、この6人なのかという説明は全くされていないと思います。
【検証部分】
今回、取り上げるのは学術会議のメンバー6人を政権が任命しなかった問題についてです。
放送では立憲民主党の主張通りに「任命拒否した理由は何なのか」という点を問う内容となっていました。
まず放送の構成ですが、立憲民主党の主張にそのまま乗っかっている内容といえるものでした。
「人事に関する個別の任命理由には答えられない」、とする政府の答弁をVTRでまとめ、政府側が答えに窮している様子を放送していました。
このような放送は立憲民主党に寄ったものであり、政治的に公平な放送とは言えません。
なぜなら任命拒否の理由がなぜ必要なのかという点については全く触れられていないからです。
これまでの放送では任命問題が学問の自由に関係するだとか、法解釈の変更に繋がるのではないか、など任命拒否の理由がなぜ必要なのかについて多少は触れていました。
しかし、この日の放送は野党が任命拒否の理由を政府に求める様子を放送していただけで、なぜ任命拒否の理由が必要なのか分かりませんでした。
中学・高校・大学の入学試験にも推薦入試というものがありますが、推薦入試で合格を勝ち取れなかった場合、なぜ不合格になったのかという理由が説明されることは公立・私立問わず、まずありません。
就職活動をしている大学生や求職者が企業の選考で落選した時も落選理由が明かされることはまずありません。
または公務員になろうと試験に臨んで不合格であっても、不合格の理由が明かされることはありません。
人事という点で考えてみると、任命責任はありますが、任命しなかったことで責任が問われることは普通ありません。
任命した部下などが不祥事を起こした時に、任命した者が責任を取ることを任命責任といいますが、任命しなかったことで責任が生じるという話はまず聞きません。
このように任命拒否の理由がなぜ必要なのか、という前提を問わずに放送を行なっていること、すなわち立憲民主党など野党の主張にそのまま乗っかっているだけの放送は政治的に公平な放送と言えない可能性があります。
これは次の放送法に抵触する恐れがあります。
(引用開始)
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放送法4条
(2)政治的に公平であること
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(引用終了)
また学術会議のあり方について世論が疑問を持っており、学術会議のあり方についての議論が動き始めているにも関わらず、そのことには触れられていません。
10月に行われたANNの世論調査では学術会議のあり方を見直すべきだと「思う」と答えたのが64%で、「思わない」が13%、「わからない、答えない」が23%でした。
(参照《「よくわからない一方で、見直しを求める声の意外な多さが深刻だ」 学術会議問題、世論とは温度差?
https://news.yahoo.co.jp/articles/ca72dc001a3963b60c1cbf2001a8f761007d559a
》)
また学術会議のあり方について見直す動きも出てきています。
(引用開始)
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「日本学術会議」の会員候補6人が任命されなかったことを受け、自民党は、「会議」の在り方を検討し直す必要があるとして、来週にも作業チームを新たに設けて議論を始めることになりました。
《日本学術会議の在り方 作業チーム設けて検討へ 自民
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201007/k10012652441000.html
》より
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(引用終了)
このような重要な論点に触れない放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。
(引用開始)
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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(引用終了)
視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。