11月15日のサンデーモーニングのレポート後編、生物季節観測の終了について報道された部分です。
今回検証するのは以下の点です。
・さまざまな論点を取り上げた報道であったか
まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR】(要約)
10日火曜日、気象庁は1953年から行っていた鳥の初鳴きや植物の開花などで季節の変化を捉える生物季節観測を、一部の種をのぞき今年いっぱいで終了すると発表した。対象の動物の探索や、植物の標本の確保が難しくなったためだ。
政府は2050年までにCO2排出量をゼロにすると宣言しているが、日本の電源構成の8割は化石燃料に依存しており、具体的な削減策も表明できていない。
かつての日本は、97年には京都議定書の取りまとめを主導し、2007年太陽光発電量の世界シェアでは上位を占めるなど、環境先進国として世界をリードしていた。しかし2011年の福島第一原発事故以降も再生エネルギーに舵を切ることはなく、国のエネルギー基本計画では原発をベースロード電源に位置付け、石油・石炭火力を重視している。11日水曜日には宮城県の女川原発2号機が再稼働の前提となる地元同意を表明。国会でも梶山経産大臣が温暖化対策として原発を活用する姿勢を示した。
一方、アメリカではバイデン氏が温暖化対策の国際的枠組みであるバリ協定への復帰を表明、さらに国連で採択されたSDGs=持続可能な開発目標が重要な課題として注目されるなど、多くの国が温暖化対策に本腰を入れつつある。環境分野で世界各国の後塵を拝する日本。かつての環境先進国の輝きを取り戻せるのだろうか。
【コメンテーターによる解説】(一部要約)
BS-TBS「報道1930」キャスター編集長 松原耕二 氏:97年の京都議定書では日本が理想を掲げてリードしていたのに、なぜこうなったのかというと、私は学術会議の任命拒否とつながっていると思っていて、日本の政治が余裕とか理想を失っている。自民党が2回政権を失ったがゆえに政権維持が目的化し、目の前のことに汲々とし、政治がどんどん小さくなっている、その結果がこういうことなんじゃないかと感じているんです。ですから、今もう一度日本の政治をどうするのか考え直す時期に来ていると思いますね。(要約)
ハフポスト日本版編集長 竹下隆一郎 氏:政治だけでなく経済も大事で、民間企業のコミットが本当に大事だと思います。グローバル企業が本業の一つとして環境資本主義にかじを切ったように、日本の民間企業もきれいごと(お金儲け)から本業へシフトしていくべきだと思います。単なる利益一辺倒ではなくて、地球にいかに配慮するのかということも含めた日本企業の在り方が今後問われていくのではないかと思います。(要約)
一般社団法人「Colabo」代表 仁藤夢乃 氏:生活の中でも気候が変動してきているなという実感がありますよね。10代で声を上げ続けているグレタさんなど若い世代は、大人が見ぬふりをしてきたことに気づいて、自分事として考えて短期的な利益だけを追い続けるのはやめようということを呼びかけていると思います。今週、日本でも女川原発の再稼働に向けた動きがありましたが、私は震災後、1年ほど女川で活動してきた時期があるんですが、リアス式海岸の入り組んだ地域で、3・11のときも津波で道路が冠水して多くの住民が孤立した地域なんですね。もし女川原発で事故が起きれば逃げられないかもしれない、今、福島の方々もまだ原発事故の影響を受けて生活されていますよね。ですが原発というのは、経済格差を利用してリスクの高いものを地方に押しつけてきた現状もあると思うんです。なので、原発のそばに暮らす方々だけでなくて、都市部に住む私たちの責任もあるということを多くの人が考えて、1人1人の行動を変えていく必要があると思います。
「ビジネスインサイダージャパン」統括編集長 浜田敬子 氏:日本が環境後進国であることが知られていないのはメディアの責任も大きいのではないかと私自身は感じていて、イギリスの「ガーディアン」は気候変動という言葉をやめて気候危機と表現し、気候変動が格差や紛争の原因になっていることも報じています。ある意識調査では、人間の行動が気候変動に与える影響を認識しているのが、日本は53%、世界の他の国ではだいたい8割の人に認識がある。その認識を高めていくためにメディアは役割を果たしていくべきだと思っています。(要約)
造園家・東京都市大学教授 涌井雅之 氏:EUではポストコロナの時代に、以前の世界に戻すんでなく、持続的な未来を考えて新しい文明を切り開いていくグリーンリカバリーということを共有しているんです。そういう中で日本も国家戦略を考えていくことがすごく大事で、もう一回、四季の自然をいつも感じるような日本人に戻りたいなと思いますね。(要約)
【検証部分】
今回は、鳥や植物を利用した季節の変化の観測が終了するという報道を取り上げました。今回の報道の中で問題となるのは、仁藤氏の発言の論点が限定的で一面的である点です。2つの点を検証します。
まず、仁藤氏の発言の前半において、原発の危険性に言及した点についてです。
仁藤氏は、明言はしていませんが原発の利用が短期的な利益を追求した結果のことだとしています。というのも、そもそも今回の報道の主題である温室効果ガスと原発の危険性には直接の関係はありません。ですからこの言及は、直前の発言にあるグレタ氏の行動に関連しての言及であると考えられます。仁藤氏はグレタ氏の行動に関して、「大人が見ぬふりをしてきたことに気づいて、自分事として考えて短期的な利益だけを追い続けるのはやめようということを呼びかけていると思います」と発言しています。そして女川原発に関してのコメントが続きます。
このような報道全体の趣旨と仁藤氏の発言を考えると、原発の利用は短期的な利益の追求と仁藤氏が指摘していることは明らかです。
しかし本当に仁藤氏のいうように、原発の利用は短期的な利益を追求した結果なのでしょうか。原発を利用しない場合には、必ず他の手段で発電を行わなければなりません。現在の日本では原子力発電の減少分はほぼすべてが火力発電によって賄われています。また現在の発電技術を考えると原子力を廃止したときその分は火力発電を増やすしかありません。しかし火力発電は、温室効果ガスを大量に排出します。これは報道でも紹介されているように、長期的に見たときに気候変動を引き起こす要因となります。
つまり、原子力発電の廃止は長期的に見たときに必ずしも利益とはならないのです。
次に、仁藤氏の発言の後半、「ですが原発というのは、経済格差を利用してリスクの高いものを地方に押しつけてきた現状もあると思うんです。」という部分について検証します。
仁藤氏は、原発は地方へのリスクの押し付けと発言していますが、一方で原発は設置される地域の利益にもなっています。具体的には、原発の立地する自治体への交付金や、固定資産税などが挙げられます。これらの資金によって地方の自治体は都市計画や地域振興を進めることができます。自治体の財政面だけでなく、原発は立地する地域に雇用をもたらし、経済の活性化や人口の増加をもたらします。
このようなメリットは、過疎化が深刻化する現代において重要視されています。地方では財源も限られ、人口の減少や地域経済の衰退を止められないのが現状です。このような地方にとって、原発がもたらす利益は大きく、仁藤氏のいうような地方への押し付けというのは必ずしも当てはまりません。
このような事実を考慮すると、仁藤氏の、原発は短期的な利益追求の結果である、また地方へのリスクの押し付けだという指摘は、原発に対する一面的な認識に基づいたものだといえます。
このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。