2020年11月29日 サンデーモーニング(後編)

2020年11月29日 サンデーモーニング(後編)

11月29日のサンデーモーニングのレポート後編、イランの科学者が暗殺された事件について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・事実をまげない報道であったか
・さまざまな論点を取り上げた報道であったか

まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR】
 27日金曜日、イラン国防軍需省は研究開発部門のトップの科学者、モフセン・ファクリザデ氏が首都テヘラン郊外で移動中に襲撃を受け、殺害されたと明らかにした。暗殺されたファクリザデ氏は、イランで核開発分野の中心的役割を担ってきたとされている。イランのザリフ外相はツイッターで、イスラエルによる関与が極めて濃厚だと主張。関与を示す重大な痕跡もあるとしている。また、イランのロウハニ大統領は国営テレビの演説で、適切なタイミングで関係当局が犯罪行為の報復を行うだろうと明言した。

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【コメンテーターによる解説】
姜尚中 氏:先ほど松原さんから、イスラエルの首相がサウジアラビアに極秘にとありましたけれどもどこかリンクしていて、多分僕はトランプ政権はイランに対して大変な攻撃的な布陣を自分の在日期間中にしておきたいんじゃないかと。だから核問題ではトランプ氏にとっては、北朝鮮はセーフで、イランはアウトだという。そうすると、バイデン氏は6カ国協議に参加する可能性があるわけですよね。つまり、イランの6カ国協議、非核化に。それを見越してかなりのお荷物で、トランプ政権からすると大変なプレゼントを残しておきたいと。そうするとバイデン政権は最初から大変なお荷物をもらいますから、対北朝鮮との関係は1年から半年ぐらい遅れるんじゃないかと思うんですね。イラク戦争から中東と北朝鮮はいつもトレードオフで、中東はいいときは、北朝鮮はアウト、北朝鮮がセーフのときは中東がアウトという。こういうことを考えると、対北朝鮮との対応はバイデン政権遅れるんじゃないかなという気がします。

【検証部分】
今回はイランでの核開発の中心を担う科学者が暗殺されたことについて、またアメリカの対イラン政策について報道された部分を取り上げました。ここで問題となるのは、姜氏の発言が、事実と異なる可能性がある、そして視点が一面的であるという点です。該当する点を順に確認します。

1点目は、姜氏が暗殺事件をアメリカの対イラン政策と関連付けてコメントしている点です。実際にはこの事件とアメリカの関係は明らかになっていません。姜氏の発言はトランプ政権が暗殺に関与したかのような言い方をしていますが、そのようなことは確認されていない上、可能性が高いとは必ずしもいえない状況です。
つまり明言はしていないものの、この事件にトランプ政権が関与していることを前提としたような姜氏の発言は、事実と異なる可能性があるといえます。

次にアメリカの対イラン政策に関する姜氏の分析を確認します。姜氏によると、トランプ政権はイランはアウトで北朝鮮はセーフとしており、同政権のイランに対する強硬な姿勢はバイデン氏にとってお荷物となるとのことです。

まず、トランプ氏にとってイランはアウト、北朝鮮はセーフであるという内容についてです。アウト、セーフが何を示しているかは明らかではありませんが、前後の発言からイランの核開発は認めないが、北朝鮮の核武装は認めているという意味だと考えられます。しかしトランプ氏が北朝鮮の核保有を許容したというような事実はありません。かつての米朝首脳会談を引き合いに出しているのかもしれませんが、これは北朝鮮の非核化を争点とした交渉であり、結果として非核化を拒否する北朝鮮との間で決裂したことからもわかるように、アメリカは北朝鮮の核保有に関して譲歩はしていません。
つまり、アメリカはイランの核開発は認めるが、北朝鮮の核開発は認めないという姜氏の指摘は、事実と異なる発言といえます。

加えて姜氏は、トランプ政権のイランに強硬な姿勢は、バイデン政権にとってお荷物となるとしています。またその理由として、北朝鮮と中東がトレードオフであるということを挙げています。
しかし、北朝鮮と中東は本当にトレードオフの関係にあるのでしょうか。ここでもアウト、セーフが具体的に何を示しているのかが曖昧にされていますが、少なくとも北朝鮮と中東の非核化に関して、トレードオフの因果関係を根拠づける事実はありません。むしろ、どちらか一方に宥和的な態度を取れば、他方から宥和的な対応を求められることは十分に考えられます。
アメリカや国際社会の基本的な方針としては、イラン、北朝鮮共に核開発を止めさせる、非核化を目指すことを第一目標としています。その点で、仮にトレードオフだったとしても、二者択一のように一方を選んで他方をあきらめるということは現実的ではありません。
ですからイランに対して強硬な姿勢をとるトランプ政権の方針は、イランの核開発を抑止するというアメリカや国際社会の基本方針に一致しています。
このような点で、トランプ政権がバイデン政権にお荷物を残していくという姜氏の指摘は、偏った視点からの分析といわざるを得ません。

今回の報道の中の姜氏の指摘からは、イランでの科学者暗殺にアメリカが関与していることを前提としている点、またトランプ政権がイランはアウト、北朝鮮はセーフとしている点で事実と異なる発言が見られます。またトランプ政権はバイデン政権にお荷物を与えようとしているという指摘も、一面的な見方によるものといえます。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(3)報道は事実をまげないですること
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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