2018年2月15日 テレビ朝日「報道ステーション」の報告です。
今回の放送で一番時間を割いた話題は「平昌オリンピック」についての話題でした。
スピードスケートの小平選手や高木選手、ノルディック複合の渡部暁斗選手のメダル授与式などを放送していましたが、特に印象操作や放送違反法に抵触するような箇所は見当たりませんでした。
日本人選手の活躍が続いていますね。期待してみていきましょう。
さて、今回検証していきたいのは当日の国会審議について報じた部分です。
詳しく見ていきましょう。
【放送内容①】
小川アナ「さあガラッと変わりまして国会です。昨日、安倍総理が答弁を撤回する事態となった、働き方改革法案。政権が目玉とするこの法案を支えるデータにクエスチョンマークがついたためですけれども、今日の国会でも野党の追及は続きましてデータのずさんさが次々と明らかになりました。」
安倍総理が昨日、働き方改革法案関連のデータの使い方について謝罪したことを言ったうえで、当日も野党の追及が続いたことを小川アナが伝えました。
その後、VTRがスタートします。
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希望の党山井和則衆院議員「今までの労働行政史上、始まって以来の大スキャンダルですよ。このデータ、ねつ造された可能性あるんじゃないですか。」
ナレーター「データのねつ造が問われることとなった国会。そもそも安倍総理は今の国会の目玉法案に長時間労働の是正を掲げています。」
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VTRは先月24日の衆議院本会議に切り替わり
安倍総理大臣「高度成長時代のモーレツ社員のように長時間働いたことを自慢するような社会は根本から改めなければなりません。」
ナレーターは、今国会で政府が、一日どれだけ働いても残業代は一定になる、いわゆる「裁量労働制」の拡大の実現を目指していることを紹介します。
ただ、企業にとっては、残業代を一定以上払わずに済むため「長時間労働につながる」と批判があることも併せて伝えました。
そして先日の答弁において、安倍総理が法案の意義を強調するため、あるデータを持ち出したことを伝えます。
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先月29日の衆院予算委員会の映像
安倍総理「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは平均的な方で比べればですね、一般的な労働者よりも短いというデータもあることはご紹介させていただきたい。」
その根拠とした調査結果では、調査に回答した事業者のうち、1日に15時間以上残業している一般労働者(裁量労働者ではない労働者)が最も多いと回答した事業所が9つあったことが紹介されました。
これでは、「1日8時間の法定労働時間を足した場合、23時間を超える勤務となり、1日1時間の睡眠もなく働く人ばかりの人がいる事業所が9つあることになる」という説明も併せてされました。
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先月9日の衆院予算委員会
山井議員「家帰れないじゃないですか、この調査自体ちょっと問題あるのでは。」
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昨日の衆院予算委員会
ナレーター「データの信ぴょう性を問われた総理は昨日、答弁を撤回し謝罪。」
安倍総理「私の答弁は撤回をするとともにおわびを申し上げたい。」
ナレーター「ただ、このデータのみを根拠にこの法案を作ったわけではないことも強調していました。」
安倍総理「そういうデータもあると話をしているわけでこれのみを基盤として法案を作成したものではない。」
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当日の衆院予算委員会
ナレーター「では、他にも法案の根拠となるデータはあるのでしょうか。」
立憲民主党逢坂誠二衆院議員「この平成25年度の総合実態調査結果以外に裁量労働の方が(労働時間が)短いというデータ、他の調査でお持ちですか。」
厚生労働省山越敬一労働基準局長「そういったデータは持ち合わせていないところでございます。」
ナレーターは根拠となるデータが1つである上に、調査の仕方にも問題があると疑われていることも伝え
逢坂議員「条件の違うものを並べてどちらが多いとか少ないとか短いとか長いというのは統計学上絶対にやってはならないことだと言われている。(調査)時期はそれぞれいつやっていて対象事業者は一緒ですか。」
山越基準局長「(平成)25年4月に同じ調査で行っております。事業所も同じところに行っているものでございます。」
ところが大臣が訂正し
加藤勝信厚生労働大臣「一般(労働者)は9000近くの対象者、裁量は専門と企画型それぞれ700~800ぐらい。明らかに数字が違いますから、一般しか言っていないところ、場合によっては裁量しか見ていないところがあるんだろうと思います。」
逢坂議員「これは統計学的に有意な比較とは言えない。このデータをもとにこの3年あまり質疑を続けてきた。質疑の時間を返してもらいたい。」
加藤大臣「私どもとしてはお詫びをさせていただくということだけを申し上げさせていただきたいと思います。」
ナレーター「また、調査の際どのような質問をしたのかと問われ、質問項目を出すよう追及されましたが」
加藤大臣「調査手法を明らかにするということは差し控えさせていただきたいと思いますが、ただこれまでご指摘を頂いておりますから月曜日の早い段階で提出をさせていただくべく作業を進めていきたい。」
ナレーター「厚労省は週明け、精査した結果を示すとしました。」
「労働法制の見直しは第一次安倍政権の時から取り組んできた、いわば総理の肝いりです。ただ、3年前に出した法案は野党から『残業代ゼロ法案』などと批判され廃案になった経緯があります。今回、なぜ総理は信ぴょう性が疑われるデータを使ったのでしょうか。」
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ナレーターが厚労省幹部のコメントを読み上げます。
厚労省幹部「そもそも統計上の処理をしていないデータだから公表していない。比較には使えないものだ。」
別の厚労省幹部「総理の答弁書本体にはこのデータは入れておらず、参考資料としてついていたと聞いている。それを見た総理が野党に反論したくて使ったのではないか。」
【放送内容②】
VTRは当日の予算委員会の映像に切り替わり
山井議員「政府は裁量労働制を拡大したいから、裁量労働制の方が労働時間が短いデータを作れないかということで作らせたのではないかという疑惑すら出ています。このデータが正しくないことがわかったら、当然働き方改革の裁量労働制を拡大する部分を削除するんでしょうね。」
加藤大臣「様々な視点で議論をしていただいた中でおおむね妥当ということでやらせていただいている。」
この加藤大臣の答弁を最後にカメラはスタジオへと戻ります。
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富川アナ「働き方改革の一環としてこの裁量労働制。なんで今導入したがってるんですかね。」
後藤謙次氏「これバランス論ではないかと、そういう見方が有力なんですね。今安倍総理は何が一番やりたいか。この春闘で3%以上の賃上げをやりたい。これによって経済の好循環を、ベアというものですね。これは企業側の協力が必要ですよね。その場合に企業側として何をやりたいのか。それは裁量労働制の対象事業種の拡大をやってもらいたいと、こういう要望があってですね。そのバランスを取るのが安倍総理の今回の労働法制の転換ではないか。これは連合界隈の見方なんですが。」
富川アナ「ということは裁量労働制導入というのは、企業側にとってはおいしいというものなんですか。」
後藤氏「もともとですね、この裁量労働制というのは残業料の代金の抑制のために導入された案なんですね。つまりどんなに働いても、あるいは働かなくても一定額の残業代を払うと、こういう仕組みなんですが、労使の力関係によってはですね、どんなに働いてもその額しかもらえない。連合の幹部によると、これが結局過労死とか過労自殺、そういう温床になりかねない。この懸念が消えないのがこの裁量労働制ですね。どこまで議論が進んでるのか。それがはっきりしないというのがあったんですね。」
「たまたま今回、安倍総理が厚労省のデータについて撤回、お詫びをするという異例の事態になったわけで、裁量労働制というのは何なのか。もう一度原点に返って議論する。そういうチャンスが生まれたと思うんですね。働く労働者にとって、どういう働き方改革がベストなのか、ベターなのか。これを国会で徹底的に議論する。その前にきちっとデータを調査して、調べなおすということが必要だと思いますね。」
富川アナ「今のままだと働く人たちの懸念、不安が尽きないということになりますね。」
後藤氏「そう思いますね。やはり、どちらの立場に立つのか。そこが基本だと思いますね。」
【検証部分】
今回の放送で問題があると思われる点は大きく分けて2点あります。
1点目は、議員による質問の放送時間に偏りがあること。
2点目は、後藤氏の発言が政治的公平性に反している可能性がある上、彼の発言に事実とは確認できないものが含まれていること。
この2点です。
1点目についてですが、この日の放送では、過去の委員会質疑についてもVTRにして放映しており、単純に当日の予算委員会での各党への質問時間の割り当てと比較することはできません。また、現在の働き方改革法案が与野党対決型法案であることや質問に回答する閣僚の答弁を放送することで政府の意見を放送することになる、という事実を踏まえれば、野党議員の質問を多く取り上げることは必然ともいえるかもしれません。
ただ、登場する議員2人(山井和則議員、逢坂誠二議員)は具体的に言えば、希望の党と立憲民主党の議員であり、与党である自民党や公明党、あるいは他の野党である共産党や日本維新の会の質疑を全く放送しなかったという点は問題があるのではないでしょうか。
これは放送法の第4条2項「政治的に公平であること」という文言に抵触しているように感じられます。質問の放映時間については円グラフにまとめましたので、そちらを参照ください。
2点目についてですが、後藤氏はコメントの中で「連合界隈」「連合幹部」の発言を繰り返し出していました。連合とは、日本の労働組合のナショナルセンターともいえる組織であり、現在の民進党を支持しています。そもそも連合は労働組合の代表として、今回の裁量労働制の拡大については当初から反対の立場であり、この問題について現在の民進党のみならず、希望の党や立憲民主党に対しても反対するように要請しています。
このような組織の声を紹介するのならばあらかじめそのような立場であることを視聴者に伝えるよう努めたり、賛成の立場にいる人々の声も紹介したりするべきなのかもしれませんが、今回の放送ではそのような場面は確認できませんでした。
また、後藤氏は今回の裁量労働制の業種拡大をバランス論とする見方が多いとしたうえで、3%の賃上げを企業が受け入れる代わりに労働法制の転換をしたのではないかと主張していました。
しかし、働き方改革法案は過去に廃案となった法案であり(番組内でもその言及はありました。)、その項目の中に裁量労働制の拡大は含まれていました。つまり、後藤氏の言う転換に今回の動きが当たるとは言えず、それを春闘での賃上げの動きと重ねて考えることは適切だとはいいがたいのです。これは重大な印象操作に当たる可能性があります。
また、1点目の問題点としてあげた、質問の放映時間の不公平な配分についてですが、これは13日の放送でも見受けられたものでした。また、他のコーナーなどでも度々そのような事態が発生しています。
報道ステーションが番組の姿勢として、今後もこのような態度を取り続けるようなことは容認されるべきことではありません。
今後も監視を続けていきます。