サンデーモーニング、2018年6月24日放送回の検証報告です。
今回の報告では、
・トランプ米大統領が不法移民取締の方策を転換した件について報道された部分
以上1点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
では、さっそく放送内容を見ていきましょう。
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【VTR】・アメリカでは不法入国取り締まり強化のため、移民の親子を引き離して別々の施設に収容する措置が取られている
・この一か月半で国境警備局の保護施設に収容された幼い子供の数はおよそ2000人
・オバマ政権では不法入国者を拘束しても強制送還が決まるまで一旦釈放していた
・トランプ政権の不法移民への対応に、国内外でデモが行われるなど批判が高まっている
・歴代大統領夫人や、普段政治的発言の少ないトランプ大統領夫人のメラニア氏も反発
・こうした批判を受け、トランプ大統領は20日にこれまでの方針を転換。親子を別々にしないようにする大統領令に署名した
・また、19日には「国連人権理事会にはイスラエルへの恒常的な偏見がありアメリカの国益にそぐわない」として脱退すると表明
・人権理事会ではパレスチナでの抗議デモで多数の死者が出た問題を巡ってイスラエルへの批判が高まり、イスラエルを擁護するトランプ政権が反発したことが理由
・現在までにユネスコやパリ協定、イラン核合意から離脱しているアメリカに対し、世界の懸念が向けられている
【VTR終】
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VTRが終わると、橋谷アナがトランプ大統領の政策を説明し、その後コメンテーターが意見を述べる、という形がとられました。
橋谷アナ「VTRにもありました不法移民ゼロ・トレランス(不寛容)政策なんですが、それ以前もトランプ大統領の政策によって、様々な人権問題が起きています。まず、大統領就任直後、人工中絶支援団体に資金援助を禁止するという政策を打ち出しました。そして、メキシコ国境に壁建設、不法移民に寛容なニューヨークやサンフランシスコなどの実態に補助金を停止する方針を発表しました。さらに、難民の受け入れ人数の上限をオバマ政権時代から大幅に削減し、イスラム圏などからの入国一時禁止を宣言しました。さらに、生まれた時の体と心の性が一致しないトランスジェンダーの人のアメリカ軍への入隊拒否という指示を出すなど、性的少数派の権利擁護も後退してるんですね。ただ、こうした政策も司法や議会が認めなかったり世論の反発を招いたりして方針転換や修正を迫られたものも多く、社会には深刻な分断を招いています」
司会 関口 宏(以下、関口氏):まあね、こういうとこ見ても、トランプ大統領という人は、どっか、人権には関心が薄いね。ディールは得意だと言ってるんですけれども、どうでしょうか皆さん
寺島 実郎(以下、寺島氏):まあ本来アメリカってのは移民の国だったわけですよね。で私自身アメリカ十数年住んでるんですけど、僕は何度か『アメリカってのは偉大な国だな』って思うことがあるわけですよ。それはね、メキシコ国境から流れ込んでる不法移民の子でもですね、子供には罪はないっていって英語教育をしてですね、アメリカで生きていけるようにするプログラムをしっかりやってると。感動したもんですね。でもそれがね、急速に変動で余裕を失うアメリカってなってるわけですよ。ところが僕、先週シリコンバレー言ってきたんですけれども、パラドックスですよね。IoTだとか技術革新だとかで先頭に出ているアメリカ、アメリカを実際に支えてるのはそういう人たちって言っていいんだけども、例えばそのAppleの創業者のスティーブジョブズってのはシリア人だったんですよ。で今ね、有力なシリコンバレーの企業のトップってびっくりするくらいインド人ですよ。今だからびっくりするくらい多国籍軍でアメリカを支えてるわけですよ。で、この現実とですね、これをリーダーとして引っ張ってる人の認識とのギャップですね、これが今のアメリカの悲劇だと思います
関口氏:目加田さん行きましょう
中央大学教授 目加田 説子(以下、目加田氏):いま入り込んでる人達ってどんな人なのかってみてみると、実はメキシコ人ではなくて、ほとんど中米のエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスっていう三か国から逃れてきてる人達で、何故かって言うと経済的に非常に破綻してるって言う状況もありますけれども、ものすごい暴力がはびこっていて、命が危ないと、脅かされてる、だからこそ本当に乳飲み子でも連れて逃げてくるっていう状況があるわけですよね。ですからそういう人、そういう親子を引き離してそれで収監することによって、あの、移民流入を抑止できるかって言うとそういう効果はないっていう風に指摘されてるんですよね。あの、ただ残念なことにこういう意味に対する厳しい政策ってアメリカだけではなくて、たとえばハンガリーなんかでは移民を受け入れないという法律を通して、さらに移民を手助けするような NGO に対して制裁を科すというような法律でも成立させているので、世界的にそう言ったタレントというものが、いま渦巻いてるなということを思います
関口氏:高橋さん
朝日新聞論説 兼 編集委員 高橋 純子(以下、高橋氏):アメリカを大国たらしめてる、アメリカが大国としていられる理由はですね、やはり自由・人権、こういう普遍的な価値を擁護する、先頭に立って擁護してきた国であるということが大きいと思います。これは長年積み上げてきた努力の結果の賜物であるのに、それがやはりこういう政策をとることによって簡単に壊れてしまう、それをまた築き上げることは大変に難しいのだけれども、そこをちゃんと理解しての政策なのだろうかという気持ちがどうしてもします。やっぱり、菅官房長官とか人権理事会の脱退についてですね、他国の対応についてコメントすべきではないという風に言ってますけれども、やはりトランプさんと仲がいいということを常々誇っている政権であるので、あの、ここは一言、あの、助言をしてほしいなという風に思います
関口氏:中西さん
スポーツジャーナリスト 中西 哲生(以下、中西氏):この移民の問題ってのは、たまたまワールドカップが今行われてますけど、前回のワールドカップでドイツが優勝したときにですね、まあトルコ、それからトルコのもともとのところが来ているような方々が中に入っていて、他民族国家として成功してるねという話があったんですけども、逆に今回のワールドカップの前に、トルコに縁のある選手がエルドアン大統領との写真を撮って、それが公開されてしまったことによって逆に分断、チームの中で分断される動きが出てきているので、その、スポーツの中にもそういうことが出てくるのはすごい残念ですし、みんなが包括的に取り組んで行かなきゃいけないかなと思いますね」
関口氏:松原さん
「週刊報道LIFE」キャスター編集長 松原 耕二(以下、松原氏):今回はたまたま動画が上がったり子どもの声があったりしたから方針転換を余儀なくされた、でも根本的に移民の政策が変わるかというと、私はすごく悲観的ですね。あの、実はトランプさんの支持率ってのは春ぐらいからずっと上昇傾向にあるわけですよね。その理由を見てみると経済とかはいいんですけども、そこに有言実行とか、公約を守ってるってのが入っているんですよね。これ、移民政策は公約なわけですよね。しかも、今中間選挙の予備選が行われていて、民主党と共和党が戦うわけですけれども、誰を候補にするかを決めてるわけですけれども、トランプ大統領を支持する人・支持される人が次々と当選してると。トランプ的なるものだ、ということを売りにして、次々戦っている。ですからトランプさん1人が変な人が出てきたんじゃなくてですね、アメリカ社会の底流にやっぱりそのトランプ的なるものが流れてるってこと、これ僕らは覚えといた方がいいと思いますね。ももう一つだけちょっとだけ付け加えると、確かにアメリカの言うとおり問題の多い組織ではあるんですね。地域ごとに選んだりするから、やっぱり偏って人権侵害国が入ってしまう。アメリカが入ってからは睨みが効いてるのかですね、それがちゃんと機能してきたわけですね。ここでアメリカが引いてしまうと、中国・ロシアと言った国、そういう人権国と思えない国がですね、そこをこう、力を伸ばしてしまう。本当にそれでいいのかと、心配ですね
関口氏:そして、まだ日本にはそういう波が来てないから何とも言えませんが、来た時日本はどうするのかなということを考えとかないといけないと思うんですが、コマーシャル入ります
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の3点です。
1、 寺島氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、 この放送全体がひとつの立場、観点に偏っている
それぞれ順を追って解説します。
1、寺島氏の発言に、視聴者に誤った印象を与えかねない内容が含まれている
寺島氏は今回の報道で、以下のように述べています。
寺島氏(抜粋):IoTだとか技術革新だとかで先頭に出ているアメリカ、アメリカを実際に支えてるのはそういう人たちって言っていいんだけども、例えばそのAppleの創業者のスティーブジョブズってのはシリア人だったんですよ。で今ね、有力なシリコンバレーの企業のトップってびっくりするくらいインド人ですよ。今だからびっくりするくらい多国籍軍でアメリカを支えてるわけですよ。で、この現実とですね、これをリーダーとして引っ張ってる人の認識とのギャップですね、これが今のアメリカの悲劇だと思います
要旨をまとめると、
・技術革新など、今のアメリカを支えているのは移民だ。事実、Appleの創業者スティーブジョブズはシリアの移民である
・トランプ大統領がそれを理解していないのが悲劇だ
というものです。
しかしながら、この発言は普通の移民と不法移民とを混同したものです。シリコンバレーなどで技術革新の先頭に立っている移民は、自分の元居た国でもトップレベルの人材である場合などが多く、中米から不法入国した人間とはタイプが違う場合がほとんどです。
つまり、こうした発言は正規の手続きを経てアメリカの永住権や国籍を取得した移民と、正規の手続きを経ずに不法に入国した不法移民とを混同させる、ミスリードを生みかねない発言であるといえます。
また、中南米からの不法移民とは全く関係のないスティーブジョブズを引き合いに出すのも、こうしたミスリードを助長する発言と言えます。
よって、今回の寺島氏の発言は放送法第2章第4条第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「トランプ氏の不法移民対策は過激で、人権侵害である」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「不法移民への対処としては当然ではないか」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで不起訴はおかしい、という論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が今回の報告となります。今回の放送では、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。