2018年7月29日 サンデーモーニング

2018年7月29日 サンデーモーニング

※自民党総裁選期間に限り、報道監視レポートを全ての会員の皆様に公開しております。

サンデーモーニング、2018年7月29日放送回の検証報告です。

今回の報告では、
・オウム事件の死刑囚6人の死刑執行について報道された部分
・ラオスでのダム決壊について報道された部分
以上2点について検証し、その問題点を探りたいと思います。

検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。

最初に検証するのは、オウム事件の死刑囚6人の死刑執行について報道された部分となります。
では、さっそく放送内容を見ていきましょう。

伊藤 友里アナウンサー(以下、伊藤アナ):オウム事件の死刑囚のうち、残る6人の刑も執行。短期間の中での大量の死刑執行が波紋を呼んでいます。

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【VTR】
・木曜日、オウム真理教による一連の事件で今月6日に死刑が執行された松本智津夫元死刑囚ら7人に続き、残る6人の死刑囚の死刑が執行される
・今回死刑が執行された6人のうち、林泰男死刑囚・広瀬健一死刑囚・豊田亨死刑囚・横山正人死刑囚の4人がサリンの散布役、橋本悟死刑囚は8人が亡くなった松本サリン事件などに関与、岡崎一明死刑囚は坂本弁護士一家殺害事件に関与
・今月6日の執行と合わせ、同じ月に13人という異例の死刑執行に海外から批判が相次ぐ
・EUとその加盟各国、さらにアイスランド・ノルウェー・スイスは共同声明を発表。「オウム事件は日本国民にとってとりわけつらく、特殊な事件であることを認識している」とした上でいかなる状況でも死刑に強く反対する」と死刑制度の撤廃を呼びかける。
・松本サリン事件の被害者の一人、河野義行さんは「人の手によって失われるって言うことはやはり反対」と、死刑制度に反対を表明
・これに対し、上川法務大臣は「国民世論の多数が極めて悪質・凶暴な犯罪について死刑もやむをえまいと考えている」と発言。今回の死刑執行を含め、死刑制度そのものにも議論が巻き起こっている。
【VTR終】
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司会 関口 宏(以下、関口氏):前回7人が死刑になって。残りの6人も近いなってのは皆さんも思ってらしたと思うんですけど。これについて、青木さんにボードを使って説明をお願いしたいと思いますジャーナリスト 青木 理(以下、青木氏):まあVTRのなかでかなり世界から批判を浴びてるということがあったんですけど、じゃあ世界の潮流がどうなってるかというと、死刑制度の潮流ですけど、これアムネスティインターナショナルっていう人権NGOの調べなんですけど、死刑制度自体も完全に廃止してる国ってのがまあEUなんかを中心に106か国あるんですね。それからその、事実上の廃止ってのですね。特殊な法律に関しては、あの事件については、軍法などに関してはあるけれども基本的には廃止してたりとか、通常死刑を廃止してたりとか、もう10年ぐらい死刑を執行してなくて、あるいは死刑執行しないよってことを宣言した「事実上の廃止国」ってのは韓国など含めてこれが36ヵ国。つまり142カ国が今申しあげた地域ですね、それが死刑を廃止してるというのが世界の状況。一方存置してる国ってのは、ちょっとイランとかサウジアラビアとか、アジアと中国、北朝鮮など56ヵ国。見ればわかる通り、かなり厳格なイスラム教国とか、あるいは一党独裁でどちらかと言うとに人権的には問題あるようなって言われてる国ばかりなんですね。で、実際にその死刑を執行してる国、去年の場合なんかもっと少なくて23ヵ国。2017年は23ヵ国ですね。だからこれ見ると分かる通り、もう圧倒的に死刑廃止が潮流になっていて、死刑、世界の国や地域の訳7割くらいの国がもう死刑を廃止してるということなんですね。で、そのままこれ見てわかるけど、問題のある国とその、同じような感じにいるのがいわゆる先進民主主義国で死刑制度を維持してるってのがアメリカと日本ってことになるんですね。で、このアメリカっていうのも、半分くらいの州も死刑制度を廃止したりとか、もうやらないよって言っていて、で、死刑制度ってのはかなり国家権力の最高の権力行使なので、かなり情報公開が進んでるって意味で言うとちょっとこっちに寄ってるんですね。死刑廃止の方によっているって事は、日本だけがそのまま中国と北朝鮮といくつかと同じような状況にあるっていうのが世界の状況なんだということだけはこれ知っておくべきですが、世界から見ると今回の6人の死刑執行っていうのはその事件の驚愕さを理解しつつもやっぱり異常・異様なことにうつってるってことですね。ちなみに、この EU がなぜ死刑廃止をそのしてるかも理由って何も死刑廃止が加盟のための条件になってるんですね。どうしてこれは死刑を廃止したかっていうと、一つはさっき河野さんも言ってましたけれども、冤罪のそれ、冤罪の場合に取り返しがつかないというのがひとつ、それからもう一つは生命尊重のルールってものをその基本的に国家がその監視しなきゃいけないんだという、国家の行為も決してその例外ではないと。死刑をしちゃいけないんだってのが一つ。もう一つがその犯罪抑止効果があるって言われてるんだけれども、その犯罪抑止効果もないんだということはデータで証明されてると。むしろ死刑制度を維持してた方が殺人発生率が高いっていうデータもあるんだっていうことでEUはもう死刑廃止をしているっていうことで、こういう世界の状況っていうのは僕らはちょっと考えてみなくちゃいけない、と。日本はどうするのか、こういう中国と北朝鮮って国と同じように死刑を執行し続けていくのかってことをちょっと考えるべき時期に来てるんじゃないかなと僕は思ってます

関口氏:谷口さんどう思われますか。

大阪国際大学准教授 谷口 真由美(以下、谷口氏):法務大臣が「世論の多数が支持している」という風に言っていたんですけど、その世論は正しい知識と背景を元に形成されたものなのだろうかということをやっぱり考えてしまいます。なんか私。1ヶ月に13人も死刑になる国に今住んでるんだってすごく感じて、なんかある種の公開処刑のように私の目には映ったんですね。で、あの世論が死刑賛成多数だったフランスは死刑廃止に踏み切ったんですよね。その時に、あの、いろいろあるけれども、これは国家が持つべきものではないという大統領判断ではあったんですが、そのフランスで2001年にマインドコントロール規制法というのができています。で、今回のオウム事件て、やっぱり優秀な前途ある若者がカルトにハマっていた背景っていうものをやっぱりちゃんと考えなきゃいけなくって、中にはやっぱり加害者であり被害者だった人がいるんじゃないかっていうことを深く私は考えなきゃいけないじゃないかなと思っています

関口氏:秀征さんどう思いますか

評論家 田中 秀征(以下、田中氏):考える時期に来ているということには賛同しますね。これを機会にね。私は今までどちらかというと「やむを得ない」ということを考えていた人間ですけどね、だけどここで相当じっくり考えなきゃいけないなぁということを、今回の13人のことではね、本当に考えてますよね

関口氏:青木さんからも一言もらいましょう

フォトジャーナリスト 安田 菜津紀(以下、安田氏):世界の動きで言うと、例えば昨年の国連人権理事会のなかで、死刑制度の是非そのものではなくて 、LGBTなどを理由にして人を死刑に処することにそれを非難しましょうという決議案を出しているんですね。でそれに対して日本は実は反対、つまり「性的少数者であることなどを理由にして死刑にするということを日本が容認した」とも取れてしまうわけですよね。なので、今回これだけの人数の方々に死刑が執行されたということ自体ももちろんですし、世界の中でこの制度をめぐって日本がどういう意思表示をしてきたのかということもにも、改めて目を向ける必要があるんではないかと思います

以上が放送内容となります。

では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の2点です。

1、安田氏の発言に視聴者にミスリードを生みかねない内容が含まれている
2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている

それぞれ順を追って解説します。

1、安田氏の発言に、視聴者に誤った印象を与えかねない内容が含まれている

安田氏は今回の報道で、以下のように述べています。

安田氏(抜粋):例えば昨年の国連人権理事会のなかで、死刑制度の是非そのものではなくて 、LGBTなどを理由にして人を死刑に処することにそれを非難しましょうという決議案を出しているんですね。でそれに対して日本は実は反対、つまり「性的少数者であることなどを理由にして死刑にするということを日本が容認した」とも取れてしまうわけですよね。

要旨をまとめると、
・昨年の国連人権理事会において「LGBTなどであることを理由とした死刑を非難する決議」という決議案が出された
・日本はそれに反対したので、日本が性的少数者であることなどを理由に死刑を課すことを容認したとされてもおかしくない

というものです。

しかし、日本政府は明確にこの議決に反対した理由を表明しています。実際、外務省のホームページに掲載された声明には、日本がこの「死刑の問題(The question of the death penalty)」という決議に反対した理由として、この決議が「各国に対し死刑制度の廃止及び死刑執行についての一時停止(モラトリアム)を導入することに好意的な方向性を強く示す,偏った内容になってしまったため」と、明確に反対の理由が記載されています。

では、日本政府が主張する「偏った内容」とはどのようなものなのでしょうか。条文の内容を詳しく見てみましょう。
この「死刑の問題」という決議文の第2項には、批准国に対して『市民的及び政治的権利に関する国際規約の第2選択議定書』に署名していない国へ、同議定書への批准を求めるという内容が記載されています。

そして、第2選択議定書のなかには「何人も、この選択議定書の締約国の管轄内にある者は、死刑を執行されない」「各締約国は、その管内において死刑を廃止するためのあらゆる必要な措置をとらなければならない」という、死刑の廃止を締約国に約束させる条文が含まれているのです。

つまり、「死刑の問題」決議に賛成してしまうと、自動的に死刑を廃止する議定書を批准せざるを得なくなるというカラクリが存在するのです。死刑存続の考え方を取る日本政府がこのような死刑の廃止を実質的に迫る内容の決議に賛成できないのは当然といえます。

このような事実がある中で、今回の安田氏の発言はどうでしょうか。確かに「死刑の問題」決議文にLGBTなどの性的マイノリティであることを理由とした死刑を非難する内容が含まれていることは事実です。ですが、上述したようなカラクリがあるにもかかわらず、そうした事実に触れずに「日本政府は性的マイノリティを理由とした死刑を容認したと思われる」などと述べるのは、視聴者に事実と大きく異なった認識を与えかねないものです。

以上より、今回の安田氏の発言は放送法第2章第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。

2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている

今回の放送では、この問題について全体を通して「死刑は廃止すべきである」「今回のオウム事件の死刑囚の死刑一斉執行は異常である」という立場に立った意見のみが出てきました。

ですがこの問題に関しては「日本に死刑は必要である」「命を奪ったのだから極刑は妥当である」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで死刑は廃止すべき、今回の執行はおかしい、という論点のみが放送されていました。

以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。

続いて、ラオスでのダム決壊について報道された部分について検証したいと思います。
それでは、放送された内容を見ていきましょう。

——–
【VTR】
・ラオスでは、豪雨の影響で建設中だったダムが貯水量を超え決壊し、10億トンの水が流れ込んだ
・死者27人以上、行方不明131人
【VTR終】
——-

関口: 安田さんこの辺り詳しい?

フォトジャーナリスト 安田 菜津紀: そうですね、ラオスにいる方々とも今、連絡を取り合っているんですけど、こうして家々だけではなくて、例えば畑であったり、家畜であったり、生活の糧を根こそぎ奪われてしまっているので、長い目での支援が必要ではないかという声がありました。で、このラオスは、東南アジアのバッテリー役を目指そうということで、電力の輸出のための開発を急ごうということが進められていたんですね。ただその、開発の速度と、安全性との間に、何かしら歪みが生じなかったのかということも、これは検証が必要なんではないかというふうに思います。

以上が放送内容となります。

では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の1点です。

・ダム崩壊の経緯で建設会社側の過失の可能性が出てきているにもかかわらず、それを報道しなかった

では、順を追って説明します。

今回の報道で、このラオスのダム決壊について言及された情報は以下の通りです
・豪雨の影響で建設中だったダムが貯水量を超え決壊、10億トンの水が流出した
・死者27人以上、行方不明131人
・ラオスは電力の輸出のために開発を急いでいた

しかしながら、このラオスのダム決壊に関しては、この部分が放送された7月29日以前に次のような事実が分かっています。
・今回のダム建設を実施したのは韓国企業であるSK建設で、工期を5か月前倒しして建設を進めていた
・ラオスのエネルギー・鉱業相であるカンマニー・インティラート大臣が「基準に満たない低水準の建設が事故の原因である」と発表、SK建設の過失であると主張していた

つまり、今回の報道は「ラオスのダム決壊について、韓国企業のSK建設の過失の可能性が浮上している」にも関わらず、あくまで「ラオス政府が開発を急いだから」という主張のみを報道していたのです。こうした報道は一つの論点・立場に偏った恐れがあるだけでなく、視聴者に対し事実と異なる誤った認識を与える恐れがあります。

よって、今回の報道は放送法第2章第4条第3項「報道は事実を曲げないですること」、ならびに同第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。

以上が今回の報告となります。今回の放送では、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。

公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。

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