2019年2月3日 サンデーモーニング(後編)

2019年2月3日 サンデーモーニング(後編)

サンデーモーニング、2019年2月3日分の検証報告(後編)です。

今回の報告では、
アメリカのコーツ長官の「北朝鮮非核化困難」発言とINF全廃条約撤廃について報道された部分
「賃金構造基本統計」の不正と実質賃金の野党試算について報道された部分
以上2点について検証し、その問題点を探りたいと思います。

検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。

今回はレポートを2つに分け、前後編でお送りいたします。

後編で検証するのは、
② 「賃金構造基本統計」の不正と実質賃金の野党試算について報道された部分
となります。

では、さっそく放送内容をみてみましょう。

【VTR要約】
(統計不正に関する部分・要約)
 衆院本会議で安倍首相が謝罪する場面からVTRが始まる。しかし不正調査問題について謝罪した日の夜に新たな問題が発覚したと伝えられる。特別監察委の調査に厚労省幹部らが同席しており、中立性が揺らぐ事態となったと説明。さらに、聞き取り対象者の7割が厚労省職員だったことをアニメーションとともに説明した。
 CM後、賃金構造基本統計でもルール違反があったと説明。続けて元厚労省官僚(田岡春幸氏)のインタビュー映像に切り替わり、田岡氏は「手間を省くためだった」と答える映像が流される。続けてモザイクのかけられたキャバレーを背景に、調査対象のバーやキャバレーを外していたことが伝えられる。厚労省の会見映像に切り替わり、担当室長が報告していなかったことを明らかにしたとアナウンス。更迭された大西政策統括官の姿が映し出され、立憲民政党・福山幹事長が「言語同断であり、またもや官僚まで隠蔽するのか」と批判する映像が流される。さらに大阪府の記者会見映像に切り替わり、幹部らが謝罪する映像とともに小売物価統計でも不正があったことが伝えられる。

(実質賃金に関する部分・全文)
ナレーション:統計データの不正が相次ぐなか、野党が本国会で連日厳しく追及しているのが、賃金の伸び率に関する統計とアベノミクスとの関係です。

国民民主党玉木雄一郎代表:これはまさに、賃金偽造、アベノミクス偽装といった深刻な大問題です。

ナレーション:これに対し、安倍総理がアピールしたのは。

安倍首相:5年連続で今世紀に入って最高水準の賃上げが継続しており・・・

ナレーション:しかし、野党側が独自に行った計算では、物価の上昇分を差し引いた実質賃金の去年1月から11月の伸び率はマイナス0.5%になると主張したのです。

玉城代表:実質賃金の伸び率は、結局マイナスだったのではないですか。

ナレーション:水曜日の野党合同ヒアリングでも、野党独自の試算について厚労省を問いただしました。

国民民主党山井和則衆院議員:これは間違ってるのが正しいのかと。

厚労省屋敷参事官:おそらくあの、同じようなですね、数字が出ることが予想されます。

ナレーション:一方、国会では。

安倍首相:連合の調査においては、5年連続で今世紀に入って最高水準の賃上げが継続して続いています。

ナレーション:安倍総理は、およそ7割が従業員が1000人を超える大企業を中心とした連合の賃金調査を繰り返し例に挙げて、成果を強調したのです。野党は、明日からの衆院予算委員会でも追及する構えを見せています。

【アナウンサーによるパネル説明】
・実質賃金の伸び率は、6月は前年比+2.5%という高い伸び率だった
・これを厚労省が再集計した数値では、少し下がった(6月の伸び率は目視で前年比+2.0%程度)
・野党が試算した数値では、6月は0.5%程度(目視)だが、その他の月では伸び率がマイナスだった
・田岡氏は「前例主義にとらわれる体質役所にあり、その風土の中で今回の問題も生まれた。“消えた年金”の反省がない」と話した

【コメンテーターの発言】
荻上チキ(要約):元々統計を軽視する傾向があり、これは長年の日本政府の課題。過去には働き方改革や外国人技能実習生に対するヒアリングデータなどが改ざんされていたという経緯もある。こうした問題が続いていることが現政権下で正せないことが問題。統計データをしっかり検証し政策に反映させるという社会になっていないので、まずは文章をしっかり捨てずに残すのが大事。景気判断に関する議論も一旦はリセットすることも重要。

岡本行夫氏(要約):消えた年金問題は、労連側に相当問題があったと思う。依然としてこういう問題が起こるのは組織の問題が大きいと思う。省庁再編により厚労省は様々な業務を抱え肥大化している。厚生省と労働省は分割しなければ、問題を抱えきれないと思う。統計職員の人員も削減されているという話も聞くので、統計を疎かにしはじめている気がする。

青木理氏(全文):2つに分けて考えなくちゃいけないと思うんですね。だから、お二方もおっしゃったように、国家の一番基幹である統計というものが、何故こんな状況になったのか。2004年くらいから始まったということになると、省庁再編のせいなのか。人減らしのせいなのか。あるいはその、厚労省がでかすぎるせいなのか。何故起きたのかを追及するっていうのが国会の役目なのが一つと。もう一つは、短期的には去年のケースなんかは、ひょっとすると政権への忖度だったんじゃないかってことになると、財務省の公文書改ざんなんかにも通ずる今の政権の問題もある。それからもう一つは、今回なんでこんなことになってるかっていうと、どんどん底なしの状況になっているのは、これは明らかに政権の都合で、早期収拾を図ろうとしたですね。つまり、消えた年金のようなことになったら困るというんで国会前になんとか終わらしちゃおうっていうふうにやったもんだから、結果的に調査せず、内部調査もね。それから身内でやったんじゃないかとか、あるいは隠蔽なんてことも起きちゃったっていうつまりこの、今の政権の下で起きてる問題と、それから根本的な統計ってものをどう考えるのかとか、役所をどう考えるのかとか、あるいは場合によっては統計を専門にやる一つのね、専門チームっていうのを国で作るべきじゃないのかっていうような話もあるので、その2つを分けて国会できちんと追及をして、両方の答えをきちんと出してもらいたいと思いますね。

以上が放送内容となります。

では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の3点です。

1、実質賃金の説明について、視聴者に誤った認識を与える内容が含まれている
2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている

それぞれ順を追って解説します。

1、「実質賃金」の説明に、視聴者に誤った認識を与える内容が含まれている
今回の報道では、実質賃金について以下のような扱われ方がされています。

【VTR(抜粋)】
ナレーション:統計データの不正が相次ぐなか、野党が本国会で連日厳しく追及しているのが、賃金の伸び率に関する統計とアベノミクスとの関係です。

国民民主党玉木雄一郎代表:これはまさに、賃金偽造、アベノミクス偽装といった深刻な大問題です。

ナレーション:これに対し、安倍総理がアピールしたのは。

安倍首相:5年連続で今世紀に入って最高水準の賃上げが継続しており・・・

ナレーション:しかし、野党側が独自に行った計算では、物価の上昇分を差し引いた実質賃金の去年1月から11月の伸び率はマイナス0.5%になると主張したのです。

玉城代表:実質賃金の伸び率は、結局マイナスだったのではないですか。
【抜粋終了】

要旨をまとめると、
・安倍首相は5年連続で今世紀最高水準の賃金上昇があったとアピールしている
・しかし、野党側の試算では物価の上昇分を差し引いた「実質賃金」は1年で-0.5%となっている
・実質賃金の伸び率は結局マイナスで、安倍首相の述べる主張は誤りで景気は回復していない(断言的ではないものの、萩上氏の発言やVTRの構成を見れば安倍首相の賃金上昇についての発言を打ち消す意図があったことは明白)

というものです。
つまり、この番組では
「実質賃金が上がっていないので景気は回復していない」
という理屈を展開しているのです。

しかしながら、これは大きな誤りと言えます。
なぜなら、実質賃金は景気や雇用の実態を適切に示したものではないからです。
これについて、順を追って説明します。

実質賃金とは「労働者の受け取る賃金のうち、どのくらいを物の購入に使えるか」という値です。
例えば『20万円の賃金が21万円に増えたとして、物価が10%上がって支出が10万円から11万円に上がってしまえば、増えた分の賃金が物価変動で打ち消されてしまう』という状況があったとします。
このとき「賃金の変動幅に物価の変動幅を加味した値を、(実際に物を購入できる)実質的な賃金として出してしまおう」というのが実質賃金です。

つまり、おおざっぱに言えば
実質賃金=「物価変動の影響を排除したときの賃金」
ということになります。

ですがこの「実質賃金」、景気全体を見る指標としては不適切だと言えます。
その理由は単純で、賃金が平均値で算出されているからです。

実質賃金を算出するには、「名目賃金指数÷消費者物価指数」という式が用いられます。名目賃金が賃金の変動、消費者物価指数が物価の変動(影響はそこまで大きくない)のことをおおまかに指しているのですが、この名目賃金の算出が全労働者の賃金平均で行われているのです。

ここ6年(第二次安倍政権になってから)の383万人の雇用者の新規増加や失業率の低下により、今まで就職をあきらめていた人たちが仕事につくことで「今までは統計の母数に入っていなかった、働き始めで賃金の低い労働者」が増加しています。

新規の労働者は賃金0円の状態から賃金がもらえるようになったので当然実際の賃金は上昇していますし、元から就業している人の賃金も上がっているので、実際の労働者全体の賃金は上昇しています。しかし、実質賃金を計算する際にこうした新規の労働者が母数に含まれることで平均値が低く算出され、労働者全体の賃金があたかも低いように見えるのです。これは「平均のワナ」とも呼ばれる典型的なデータの読み取りミスで、数字の持つ意味を見落とした際に陥りがちな誤謬です。

つまり『経済の実態としては「雇用される人間が増え、全体での賃金も上がっている」というのが正しい解釈だが、労働者一人当たりの「平均」賃金で算出する実質賃金という指標では、回復途上における景気を測れないという弱点がある』というのが「実質賃金」の議論の正しい見方であるということが言えます。(「回復途上における」としたのは、アメリカのように失業率が極限まで低くなった状態で人手不足になれば全体の賃金が上がるからです)

以上を踏まえて今回の報道を考えると、景気や雇用の回復を主張する安倍首相の発言を実質賃金のマイナスを持って否定する論調は明らかに事実に基づかないものです。
それだけではなく、実質賃金について何の説明もせずあたかも「実際の賃金」であるかのようなVTRを放映し、さらにそれを認めるようなコメンテーターの発言を放送したことを見ると、視聴者に大きく誤った認識を与えかねない非常に悪質な報道と言わざるを得ません。
それだけでなく、こうした無理筋な主張を通そうとする野党側に立った報道を行う姿勢は政治的公平性を欠く恐れが極めて高いと言えます。

よって、今回の報道での「実質賃金」の扱いは政治的に公平性を欠き、また明らかに事実にそぐわないものであることから、放送法第2章第4条第2項「政治的に公平であること」ならびに同第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。

2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
青木氏は今回の報道で、以下のように述べています。

青木氏(抜粋):短期的には去年のケースなんかは、ひょっとすると政権への忖度だったんじゃないかってことになると、財務省の公文書改ざんなんかにも通ずる今の政権の問題もある。それからもう一つは、(中略)これは明らかに政権の都合で、早期収拾を図ろうとしたですね。つまり、消えた年金のようなことになったら困るというんで国会前になんとか終わらしちゃおうっていうふうにやったもんだから、結果的に調査せず、内部調査もね。それから身内でやったんじゃないかとか、あるいは隠蔽なんてことも起きちゃったっていう(以下略)

要旨をまとめると、
・今回の問題については政権の忖度が疑われているので、財務省の公文書改ざんなどにみられるような今の政権の問題がある
・政権が早期収拾を図ろうとした結果、隠ぺいが起きた
というものです。

しかしながら、
・今回の厚労省の統計不正は2004年から存在しており、今回の政権はむしろそれを暴いた側でしかない。
・また、政権への忖度が存在したという主張は全くの事実無根である
・政権側が早期収拾を図ろうとしたことを示す明確な根拠はない
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。

青木氏はかねてからこの問題の原因を政権においていますが、実際の原因は2004年から行われている厚労省側の体質と、統計の予算が年々削減されているためサンプル調査にせざるを得なかったというところにあります。にもかかわらず繰り返し政権側に問題があるかのように主張することは、視聴者に事実と異なる誤った風説を流布するだけでなく、極めて政治的公平性を欠く行為であると言わざるを得ません。

以上のことから、今回の報道での青木氏の発言は政治的に公平性を欠き、また事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2項「政治的に公平であること」、ならびに同第3項「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。

3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「今回の統計不正は現政権に原因の所在がある」という立場に立った意見のみが出てきました。

ですがこの問題に関しては「従来からの体質を是正する動きを主導しているのは政府だ」「今回の問題の所在は厚生労働省にあって政府にはない」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。

以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。

以上が報告の後編となります。後編では事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。

① アメリカのコーツ長官の「北朝鮮非核化困難」発言とINF全廃条約撤廃について報道された部分
については、前編の報告をご覧ください。

公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。

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