サンデーモーニング、2019年3月31日分の検証報告(後編)です。
今回の報告では、
① 日韓関係の悪化について報道された部分
② 世田谷年金事務所所長の更迭について報道された部分
③ 「風を読む」にてトランプ大統領とイスラエルの関係について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。
後編で検証するのは、
③ 「風を読む」にてトランプ大統領とイスラエルの関係について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
【VTR要約】
①トランプ大統領によるゴラン高原のイスラエル主権承認
イスラエルのネタニヤフ首相とトランプ大統領による共同会見が映し出され、トランプ大統領がゴラン高原の主権をイスラエルに認める宣言に署名したと伝えられる。これに対しシリアのジャファリ国連大使は「犯罪計画だ」と非難し、シリアが猛反発しているとアナウンス。続けて、国連のグテーレス事務総長も記者会見で「(ゴラン高原の主権は)安保理と総会決議で明確に定められている」と述べ、イスラエルの主権を否定したと伝えられる。イスラエルは第3次中東戦争に勝利しゴラン高原を占領し、併合を宣言したが、国際社会はこれを承認してこなかったとアナウンス説明。
一昨年もトランプ大統領はエルサレムを「イスラエルの首都と認定する」と宣言等し、世界から厳しい批判を受けてきたとナレーション。
②ユダヤ人の歴史
・ユダヤの人々がモーセに率いられがエジプトから逃れる(旧約聖書・出エジプト)
・西暦70年、エルサレムに住み着いたが、ローマ帝国に神殿を破壊され離散
・約1900年間ユダヤ人は祖国なき民として生き、差別と迫害を受け続けた
・19世紀末にユダヤ人の国をパレスチナに樹立する動きが高まった
・第一次世界大戦ではイギリスによる二枚舌外交が後世への火種となった
・第二次世界大戦ではナチスドイツによりユダヤ人虐殺が行われた
・終戦後、国連はパレスチナをユダヤ側とアラブ側とに分割する決議を採択し、アラブ側は拒否したがユダヤ側は承認
・1948年ユダヤ側はパレスチナでのイスラエル建国を宣言
・建国宣言の翌日に第一次中東戦争が勃発し、多くのパレスチナ人が難民となった
・第4次中東戦争後も完全な和解には至っていない
③近年の中東情勢
イスラエルのネタニヤフ首相が記者会見で「歴史的瞬間だ」と述べる映像が映し出される。イスラエル国会は公用語をアラビア語から除外し、民族自決権をユダヤ人のみに与えるユダヤ人国家法を可決。アラブ系議員らが厳しく批判し亀裂が深まっていると伝えられる。
「トランプ政権とイスラエルはどこに向かっていくのでしょう?」という言葉を最後にVTRは終了した。
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【コメンテーターの発言】
姜尚中氏(要約):ユダヤ教徒と民族的なユダヤ人はイコールではない。今起きているのは、ある種のユダヤ民族主義。ユダヤ主義を民族主義に矮小化して順化運動が起きてる。いま世界は、順化・同質化のプレッシャーの下に生きている。この問題は、民族的に違っていても共存できるようにするダイバーシティ・多様性の問題。日本国内でのヘイト問題も、本質的にはこの問題とどこか繋がっている。
田中優子氏(要約):この問題は、日本でもアジアでも繰り返されてきた全世界の問題だと思う。アメリカは多民族を受け入れてきたノウハウがあるのに何故?と思う。一つの国土の中に多様な民族が暮らしていく方法を、日本人もこれから模索しなければならない。
浜田敬子氏(要約):アラブ系の方々は平和な環境で子供を育てたいという共通した願いがあるにもかかわらず、日常生活の中で差別を受けている実態がある。しかし、日本では中東の問題はほとんど報道されない。日本人は中東問題に対して関心が非常に薄いと感じる。国際的な無関心は権力者の暴走を許す背景になると思う。まずは何が起きているのか知るということが非常に大事。
竹下降一郎(全文):トランプ大統領のロシア疑惑を見ているとですね、自分の選挙とか自分の利益のために他の国とくっつくっていうのが、これまでの印象なんですね。今回のイスラエルとの接近も、何か理念があるというよりは、自分の利益とか、何か思惑があるんじゃないかと見えてしまいます。どうしても、理念なき外交というか。アメリカはクリントンさんの時代から中東和平に取り組んできたんですが、トランプさんの場合は、何がしたいのか。どんな和平を望んでいるのか。さっき田中さんがおっしゃったように、せっかくアメリカはダイバーシティという理念があるので、その理念をどう今回の中東和平に生かすか全く見えてこないので、そこはすごく心配だなと思いますね。(関口氏の「このままいくと、紛争の火種になるでしょ?」というコメントに対し)かえって火種になる可能性はありますね。本当短期的なことしか考えてないんじゃないかなと思っちゃいますね。
青木理氏(全文):僕あちこちでこれを引用してるんですけど。ウンベルト・エーコっていう、イタリアの作家が。もう亡くなってしまったんですけど、残念ながら、いて。彼がよく言ってたのが、憎悪とか差別だとかね、排他とか不寛容ってのは、これ人間のある種、残念ながら獣的な本性であって。だからこれ教育によってね。常にこういうことはしちゃいけないんだってコントロールしなくちゃいけないんだっていうふうに、ウンベルトはよく言ってるんですね。じゃないとこれ、煽ってしまうと、簡単に理性では消せなくなってしまうと。何故ならこれは、ある種の残念ながら獣的な本性だから。だからメディアとか政治家は絶対に煽っちゃいけないっていうことを言ってたんです。これはその、ウンベルト・エーコは恐らくナチスによるユダヤ人迫害のことを意識して言ったと思うけれどね。しかしこれは今イスラエル、パレスチナ。中東もそうだし。世界中でこれやってるんですよ。で、特にこれ、皆さんからお話が出ましたけれども、日本でも今日竹下さんがやられたヘイトスピーチの問題もそうですし。つまり、ヘイトってものを、一部のネットだけじゃなくて、実際は政治家がある種、煽ったりとか。あるいは、本屋さんに行くと、ヘイト本とかね。あるいは日本自国礼賛本みたいなものが山積みになってるんですよね。だからつまりこれ、煽って大丈夫なのかってことを、僕らはもう一回一度、足元を見つめ直さなくちゃいけない。中東の問題ですけども、我々も見なくちゃいけないと思いますよ。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の2点です。
1、竹下氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
それぞれ順を追って解説します。
1、竹下氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
竹下氏は今回の報道で、以下のように述べています。
竹下氏(抜粋):トランプ大統領のロシア疑惑を見ているとですね、自分の選挙とか自分の利益のために他の国とくっつくっていうのが、これまでの印象なんですね。(中略)さっき田中さんがおっしゃったように、せっかくアメリカはダイバーシティという理念があるので、その理念をどう今回の中東和平に生かすか全く見えてこないので、そこはすごく心配だなと思いますね。
要旨をまとめると、
・ロシア疑惑に見られるように、トランプ米大統領は自分の選挙や利益のために他国を利用するというのが印象である
・アメリカのダイバーシティという概念を中東和平に生かすべき
というものです。
しかしながら、
・トランプ米大統領が大統領選の際にロシアと通じていた疑惑については、特別検察官の捜査により事実ではないことが明らかになり、米司法長官によって「関与はない」と最終判断がなされている。
・にもかかわらずトランプ米大統領がロシアと共謀していたと発言するのは明らかに事実を無視したもので、極めて悪質だと言わざるを得ない。
・アメリカのダイバーシティという概念と中東和平とは何の関係性もない
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での竹下氏の発言は事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、青木氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
青木氏は今回の報道で、以下のように述べています。
青木氏(抜粋):憎悪とか差別だとかね、排他とか不寛容ってのは、これ人間のある種、残念ながら獣的な本性であって。(中略)だからメディアとか政治家は絶対に煽っちゃいけないっていうことを言ってたんです。これはその、ウンベルト・エーコは恐らくナチスによるユダヤ人迫害のことを意識して言ったと思うけれどね。しかしこれは今イスラエル、パレスチナ。中東もそうだし。世界中でこれやってるんですよ。で、特にこれ、皆さんからお話が出ましたけれども、日本でも今日竹下さんがやられたヘイトスピーチの問題もそうですし。つまり、ヘイトってものを、一部のネットだけじゃなくて、実際は政治家がある種、煽ったりとか。あるいは、本屋さんに行くと、ヘイト本とかね。あるいは日本自国礼賛本みたいなものが山積みになってるんですよね。だからつまりこれ、煽って大丈夫なのかってことを、僕らはもう一回一度、足元を見つめ直さなくちゃいけない。中東の問題ですけども、我々も見なくちゃいけないと思いますよ。
要旨をまとめると、
・ウンベルト・エーコの「憎悪、差別、排他、不寛容は人間の本性で、メディアや政治家はこれを煽ってはいけない」という趣旨の発言がある
・これはナチスを意識したものだが、今のイスラエルやパレスチナ、中東など世界中でこうしたことが起きている
・日本でもヘイトスピーチがあり、それを煽る政治家や本屋にあるヘイト本、「日本礼賛本」などがあるため、決して無関係ではない
というものです
しかしながら、
・ナチスのユダヤ人差別と現在のイスラエル問題や中東問題に関係性はない。
・日本におけるヘイト問題とナチスに関係性はない。また、自身と異なる主張を持つ政治家の発言や本をヘイトや日本礼賛と形容するのは事実に基づかず、また政治的に公平とは言えない
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での青木氏の発言は事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平とは言えない」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「イスラエルで起きているアラブ人差別のような問題は世界中にある」「日本も他人事ではない、他の民族との共存を考えるべきだ」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「歴史的経緯も背景も全く違う問題をヘイトとして一緒くたに扱うべきではない」「日本とイスラエルでは状況が全く違う」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4号「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の後編となります。後編では事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
① 日韓関係の悪化について報道された部分
については前編の報告を、
② 世田谷年金事務所所長の更迭について報道された部分
については中編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。