サンデーモーニング、2019年5月19日分の検証報告(後編)です。
今回の報告では、
① 丸山穂高議員の失言について報道された部分
② 景気動向指数の「悪化」について報道された部分
③ 「風を読む」にて米中の対立について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。
後編で検証するのは、
③ 「風を読む」にて米中の対立について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
【VTR要約】
北京オリンピック開催式の映像が流された後、中国・国営テレビのニュース映像に切り替わる。中国は中央テレビを通じて、アメリカとの貿易交渉について「我々との戦い望むなら徹底的に戦う。5000年の歴史がある中華民族が経験していない試練などない(字幕)」と歴史ある国家の誇りにかけて、一歩も引かない対決姿勢を示したと伝えられる。中国版のTwitterでは市民の愛国的な書き込みが目立ち、NYタイムズでも「両国は覇権をめぐり対立している」と報じたとナレーション。両国の争いは次世代機器・安全保障分野に及んでおり、トランプ大統領は中国の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名。中国の無人探査機が世界で初めて月の裏側への着陸に成功するなど宇宙強国を目指す一方、トランプ政権は宇宙軍を設立する計画を発表したと伝えられる。
大国同士の覇権争いの歴史を振り返る映像とともに、20世紀の覇権国であるアメリカは、新たな覇権国を目指す中国に警戒感をあらわにし、ペンス副大統領は、新時代の覇権争いに警鐘を鳴らしたと伝えられる。CM後、ペンス副大統領は、外国企業に対する中国企業への技術移転の強要や、産業補助金を与える政策を行う中国を厳しく批判したとナレーション。国際ジャーナリスト春名幹男氏のインタビュー映像に切り替わり、春名氏が「アメリカは中国共産党の支配を何とか崩そうとしている」と語る映像が流される。
こうした覇権争いについて、「トゥキディデスの罠」という言葉を挙げ、覇権国と新興国との対立が戦争を招いたという古代ギリシャの歴史に基づき、覇権をめぐる対立が戦争にまでエスカレートする危険性を訴えた言葉であるとナレーション解説。
「一歩も引かないアメリカと中国。両者の対立は今後どこへ向かうのでしょうか?」という言葉を最後に、VTRは終了した。
【コメンテーターの発言】
田中秀征氏(要約):アメリカは本来モンロー主義で、覇権主義ではなかった。しかし中国の漢民族は覇権主義で、内陸に向かっていたものが世界に向かうようになった。これはアメリカというより世界との戦いで、世界は許さないと思う。
田中優子氏(全文):私はね、覇権主義というのは、中国は技術先進国であり続けてきた。数千年も。そうだったと思ってるんですね。ですから、欧米が覇権を握ったようにみえるのはせいぜい二,三百年なんですよ。ですから、その前はずっと中国が技術の中心を握ってきて、絹織物から陶磁器から生薬まで。それは人間が必要とするところの、一番高度なところですよね。それを作ることができた。で、私が気になってるのはファーウェイなんですよ。だからファーウェイがこれからどういうふうに動くかで、今、東南アジアもヨーロッパも、それから人口が激増するアフリカも、ファーウェイがこれ握り始めてますから。こういう、5Gの情報社会の中核を握ってると思うんですよ。そういう意味では、今までの工業社会としての、あるいは植民地主義としての覇権ではなくて、そういう情報社会を握るという意味での力を中国が出してくる、発揮してくると。やっぱり中心になっていくんじゃないかなというふうに思ってます。
岡本行夫氏(要約):アメリカはブッシュ大統領の息子のときから16年間、中東が中心でアジアに対して正面から向き合ってきてなかった。その間中国はずっと勢力を伸ばしてきた。これからの中国の最大の懸念は、台湾を武力でとるということ。それを阻止することが、日本の外交の最大の目標になると思う。
原真人(要約):覇権国の条件として、軍事面・技術力も重要だが、自国が抱えるマーケットの大きさも非常に大事だと思う。アメイカは永久に自国のマーケットが世界一だと思っていたと思うが、10年後にはGDPが逆転して、中国が世界一のマーケットになる可能性が出てきた。そこにアメリカが脅威に感じ始めているのでは。
松原耕二氏(全文):外からどう見えるかは別にして、中国としてはですね、先ほど田中優子さんがおっしゃいましたけど、昔、世界一の中国だった中国に、昔に戻ろうとしてるだけなんじゃないかと思うんですね。つまり、強大な国だったのが、1840年のアヘン戦争の頃から100年は弱かったから、先進国に蹂躙された。次の100年をかけて、覇権を取り戻そうという。で、鄧小平さんなんかは爪を隠そうということだったんだけど、習近平さんがいきなり剥き出しの矢を出してたんで、アメリカに火をつけたということだと思うんですね。だから、大事なことは、先ほどトゥキディデスの罠というのがありましたけど、決定的な対立を、アメリカと中国の。それを作らないことだと思うんですね。冷戦時代もデタントという緊張緩和というのがありました。そういう意味での幅をある種作っていく。その知恵を絞って作っていくのが大事なんだろうと思いますね。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の2点です。
1、田中優子氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
田中優子氏は今回の報道で、以下のように述べています。
田中優子氏(抜粋):私はね、覇権主義というのは、中国は技術先進国であり続けてきた。数千年も。そうだったと思ってるんですね。ですから、欧米が覇権を握ったようにみえるのはせいぜい二,三百年なんですよ。ですから、その前はずっと中国が技術の中心を握ってきて、絹織物から陶磁器から生薬まで。それは人間が必要とするところの、一番高度なところですよね。それを作ることができた。で、私が気になってるのはファーウェイなんですよ。だからファーウェイがこれからどういうふうに動くかで、今、東南アジアもヨーロッパも、それから人口が激増するアフリカも、ファーウェイがこれ握り始めてますから。こういう、5Gの情報社会の中核を握ってると思うんですよ。そういう意味では、今までの工業社会としての、あるいは植民地主義としての覇権ではなくて、そういう情報社会を握るという意味での力を中国が出してくる、発揮してくると。やっぱり中心になっていくんじゃないかなというふうに思ってます。
要旨をまとめると、
・覇権主義と言うが、欧米が覇権を握る以前は数千年もの間中国が覇権を握っていた
・なぜなら、中国が人間の生活に欠かせない技術の中心を握っていたからだ
・ファーウェイが5G技術を発展させてきたので、情報社会の時代の中心は中国になっていくはずだ
というものです。
しかしながら、
・今回の米中の対立は自由で開かれた経済が自由貿易の前提にあるとする米国側と、中国共産党の体制を維持しつつ貿易を行いたい中国との対立である
・中国が数千年アジアの中心だったという歴史は、現在の中国の行いを正当化するものではない。また中国側の覇権主義を一方的に容認する立場に立つ主張は政治的に公平とは言えない
・5G技術はファーウェイだけが保有するものではない。また情報の安全性の観点から世界各国がファーウェイの締め出しを始めており、ファーウェイを擁する中国が覇権を取るという主張は事実に基づくとは言えない
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での田中優子氏の発言は事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、松原氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
松原氏は今回の報道で、以下のように述べています。
松原氏(抜粋):中国としてはですね、(中略)世界一の中国だった中国に、昔に戻ろうとしてるだけなんじゃないかと思うんですね。つまり、強大な国だったのが、1840年のアヘン戦争の頃から100年は弱かったから、先進国に蹂躙された。次の100年をかけて、覇権を取り戻そうという。で、鄧小平さんなんかは爪を隠そうということだったんだけど、習近平さんがいきなり剥き出しの矢を出してたんで、アメリカに火をつけたということだと思うんですね。だから、大事なことは、先ほどトゥキディデスの罠というのがありましたけど、決定的な対立を、アメリカと中国の。それを作らないことだと思うんですね。冷戦時代もデタントという緊張緩和というのがありました。そういう意味での幅をある種作っていく。その知恵を絞って作っていくのが大事なんだろうと思いますね。
要旨をまとめると、
・中国はかつて強大な国だった昔に戻ろうとしているだけ。1840年のアヘン戦争から100年間先進国に蹂躙されたので、次の100年で取り戻そうとしているだけだ。アメリカはこれに反発している
・大切なことは、アメリカと中国の決定的な対立を避けることだ
というものです。
しかしながら、
・中国が数千年アジアの中心だったという歴史は、現在の中国の行いを正当化するものではない。また中国側の覇権主義を一方的に容認する立場に立つ主張は政治的に公平とは言えない
・アメリカは自由な市場との取引を志向しているから反発しているのであって、アメリカが自身の覇権を取られまいと反発しているとする主張は事実に基づかず、また政治的に公平とも言えない
・大切なことは覇権主義に走る中国を止めることであって、対立を避けるべきという主張はこうした動きを容認するもので政治的に公平とは言えない
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での松原氏の発言は事実にそぐわないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「中国が覇権を志向するのは歴史的に見て自然なことだ」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「歴史的にアジアの中心だった時代があることが、中国の行動を正当化するわけではない」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の後編となります。後編では事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
① 丸山穂高議員の失言について報道された部分
については前編の報告を、
② 景気動向指数の「悪化」について報道された部分
については中編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。