サンデーモーニング、2019年6月2日分の検証報告(後編)です。
今回の報告では、
① 冒頭にて川崎での事件について報道された部分
② トランプ米大統領の訪日について報道された部分
③ 「風を読む」にて川崎での事件について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。
後編で検証するのは、
③ 「風を読む」にて川崎での事件について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
【VTR要約】
川崎殺傷事件について、街頭インタビュー映像が流される。「どうしたらいいのか本当に分からない」「解決できない憤りを他人にぶつけて自分勝手」と話す女性の姿が映し出される。
「誰でもよかった」という言葉をしばしば耳にする、とナレーション。池袋通り魔事件、土浦連続殺傷事件、秋葉原無差別殺傷事件の犯人はみな「誰でもよかった」と供述していたと伝えられる。
犯罪精神病理学・影山任佐氏のインタビュー映像に切り替わる。「 “誰でもよかった”というのは、大量殺人事件の近年目立つ犯行動機」と話す映像が流される。アメリカの無差別殺傷事件の事件映像に切り替わり、テキサス州での銃乱射事件、コロンバイン高校銃乱射事件、5月31日にも市庁舎での銃乱射事件の事件内容が伝えられる。事件の動機について「拡大自殺」という言葉がある、とナレーション。
CM後、孤独に関する意識調査において、「孤独は自己責任」とする割合が日本は44%(米国23%・英国11%)と高い値になり、周囲と会話する頻度も他国に比べ低かった、とナレーション。
川崎殺傷事件の容疑者も伯父・伯母と同居していたが会話はほとんどなかったと伝えられ、VTRは終了した。
【コメンテーターの発言】
寺島実郎氏(全文):さっきね、社会の歪みという言葉を使っておられましたけれども、戦後日本を振り返ってみてね、戦後的空間なんですよね。つまり、大都市圏にね、産業と人口を集積させてですね、その産業力で豊かな国にしようと走った。で、東京でいうと、東京を取り巻く国道10号線ってのがあるんですけど、そこにベッドタウンってのを作ってですね、団地、ニュータウン、マンション群を作った。で、そこの、住んだ人達が今、ものすごい勢いで高齢化してきてるわけですね。で、その高齢者の子どもたちの世代ね、それが今、40歳から50歳に差し掛かってくる世代ってことなんですけど、そこにですね、ある人間関係において軋みが起こってるっていうかですね、まあ要するに、右肩下がり時代を生きた苛立ちだとか、孤独感だとか焦燥感だとかね。達成されない、世の中に評価されたいと思ってるんだけれども、認めてもらえないっていうですね、苛立ちみたいなものが蠢いてる部分がある。ですから、新しいですね、参画し共有できる価値っていうものね、新しい次のステップでもって我々自身が作っていく、努力していかなきゃいけないと。その参画のプラットフォームをしっかり作っていくっていう努力をしなくちゃいけないって僕は最近つくづく思いますね。
西崎文子氏(全文):先ほど安田さんが、あんまりこう、全部を一つのものとしてっていうんですか、個々の事例をね、ちゃんと見ていかなければいけないとおっしゃったのは、それは共感するんですけれども、今回も誰でもよかったっていう部分と、それから、しかし、アメリカなんかで顕著ですけれども、ヘイトクライムっても多いわけですよ。ですから、あれは完全に憎悪のターゲットがあって、銃乱射事件が起こっていると。ただこれは共通してる部分があって。やっぱり社会が今、寺島さんがおっしゃったような、疎外感とか不信があり、それが、誰でもよかったっていう社会一般に対しての反発になっていく場合と、それと誰か、この中に原因があるはずだと。で、往々にしてそれは異質なもの。外国人とか、ほかの宗教とか、そういうのに転嫁していくと。ですから暴力の形っていうのは、アメリカと日本とかなり違いまして。でも、日本にもその、誰でもよかったっていうのが、ヘイトにつながってくっていう可能性もあるってこともまた、気をつけなければいけないと思います。
藪中三十二氏(要約):一般的な話として、人と人との温もりをもったつながりが全く欠けてきてる。若い人も皆メールやり取りして電話もとらない。日本は安全だと思われてきたが、オリンピックもあるので、予防のために街に警官の数を増やすことも必要だと思う。
安田菜津紀氏(要約):大切な人を失った方や事件の記憶を思い出して苦しむ方に対して、どうやってケアの情報を届けていくのかが課題だと思う。社会から拒絶される痛みとどう向き合うのかという問題は避けて通れない。「死にたいなら一人で死ぬべき」だという言葉が飛び交ったが、「そうだ死んでやろう」と思う引き金になりかねない。生きづらさを増幅する言葉を量産せず、そんなことをしなくても明日を生きていたいと思えるような社会を築くことに力と知恵を注ぐべき。
松原耕二氏(要約):相模原障害者施設殺傷事件の被告は、「自分は価値のない人間だと思っていたが、事件を起こしたことで役に立つ人間になった」と語っていて、ものすごく衝撃を受けた。犯罪に至る動機はさまざまだが。社会的要因を見るだけでなく、個別に(要因を)ちゃんと見ていくべき。異質なものに対する攻撃も気になる。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の3点です。
1、寺島氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、西崎氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
それぞれ順を追って解説します。
1、寺島氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
寺島氏は今回の報道で、以下のように述べています。
寺島氏(抜粋):さっきね、社会の歪みという言葉を使っておられましたけれども、戦後日本を振り返ってみてね、戦後的空間なんですよね。つまり、大都市圏にね、産業と人口を集積させてですね、その産業力で豊かな国にしようと走った。で、東京でいうと、東京を取り巻く国道10号線ってのがあるんですけど、そこにベッドタウンってのを作ってですね、団地、ニュータウン、マンション群を作った。で、そこの、住んだ人達が今、ものすごい勢いで高齢化してきてるわけですね。
で、その高齢者の子どもたちの世代ね、それが今、40歳から50歳に差し掛かってくる世代ってことなんですけど、そこにですね、ある人間関係において軋みが起こってるっていうかですね、まあ要するに、右肩下がり時代を生きた苛立ちだとか、孤独感だとか焦燥感だとかね。達成されない、世の中に評価されたいと思ってるんだけれども、認めてもらえないっていうですね、苛立ちみたいなものが蠢いてる部分がある。
要旨をまとめると、
・戦後日本は大都市圏に産業と人口を集積させ、豊かな国を目指した。その過程で作られたベッドタウンが高齢化してきており、またその子ども世代である40代~50代が世間に評価されず孤独感や焦燥感を抱えている。
というものです。
しかしながら、
・「戦後日本の空間として作られたベッドタウンの高齢化」のせいで今回の凶行が引き起こされたという主張には論理的整合性も因果関係も存在せず、説として破たんしている。
・40代~50代が世間から評価されず孤独感や焦燥感を抱えているという主張には根拠が全くない。また今回の凶行がこれによって起こされたとする主張にも根拠はなく、すべて憶測の域を出ない。
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での寺島氏の発言は事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、西崎氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれているが
西崎氏は今回の報道で、以下のように述べています。
西崎氏(抜粋):今回も誰でもよかったっていう部分と、それから、しかし、アメリカなんかで顕著ですけれども、ヘイトクライムっても多いわけですよ。ですから、あれは完全に憎悪のターゲットがあって、銃乱射事件が起こっていると。
ただこれは共通してる部分があって。やっぱり社会が今、寺島さんがおっしゃったような、疎外感とか不信があり、それが、誰でもよかったっていう社会一般に対しての反発になっていく場合と、それと誰か、この中に原因があるはずだと。で、往々にしてそれは異質なもの。
外国人とか、ほかの宗教とか、そういうのに転嫁していくと。ですから暴力の形っていうのは、アメリカと日本とかなり違いまして。でも、日本にもその、誰でもよかったっていうのが、ヘイトにつながってくっていう可能性もあるってこともまた、気をつけなければいけないと思います。
要旨をまとめると、
・「誰でも良かった」と考える今回の凶行のような無差別殺人は、特定の対象への憎悪が引き金となるヘイトクライムとは別物だが、社会からの疎外感や反発は外国人や宗教といった異質なものに向くので、日本でもヘイトにつながる可能性がある。
というものです。
しかしながら、
・特定への対象への憎悪が発生する原因は社会からの疎外感や反発だけではないため、この主張には論理的整合性も因果関係も存在せず、憶測の域を出ない。
・したがって、無差別殺傷事件とヘイトクライムとの間には何ら共通点は存在せず、ヘイトクライムへと発展するという主張が事実に基づいているとは言えない。
など、発言の趣旨とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での西崎氏の発言は事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「今回の凶行の背景には日本社会の構造がある」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「明確な原因が明らかにされていない以上憶測の域を出ない」「同様のケースが起きていない以上日本社会の構造に原因を求めるのは誤りではないか」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の後編となります。後編では事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
① 冒頭にて川崎での事件について報道された部分
については前編の報告を、
② トランプ米大統領の訪日について報道された部分
については中編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。